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『スピリテッド Spirited』感想(ネタバレ)…2022年版のクリスマス・キャロルはなんか凄いぞ!

スピリテッド

ライアン・レイノルズ&ウィル・フェレル共演…「Apple TV+」映画『スピリテッド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Spirited
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にApple TV+で配信
監督:ショーン・アンダース
恋愛描写

スピリテッド

すぴりてっど
スピリテッド

『スピリテッド』あらすじ

クリスマスの亡霊たちは、性根の腐った悪い人間に憑りついて改心させることに尽力を捧げてきた。全ては幸せのために…。しかし、そんな熟練の亡霊であったスクルージの前に救済不可能とみなされた最悪な男が現れる。この男を改心させることを最後の仕事にしようと張り切るが、対立を煽ることを生きがいにしているこの男は一筋縄ではいかなかった。果たして無事に優しさに包まれたクリスマスは到来するのだろうか…。

『スピリテッド』感想(ネタバレなし)

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2022年のクリスマス映画はコレで!

はい、2022年もクリスマスの季節がやってきました。私はクリスマスには大人になった今、全然興味ないんですが、でも無視できないものもある。それがクリスマス映画です。そうです、この時期になるとそれはクリスマス映画のシーズンなのです。

クリスマス映画なんて今はあるの?…そう思っている人もいるかもしれません。確かに映画館ではあまり見かけなくなりましたが、現在は動画配信サービスがクリスマス映画の主な舞台です

基本的に1社の動画配信サービスに1~2作は毎年新作のクリスマス映画が新たに配信されるのが定番なので、今では動画配信サービスの数は何社も展開していますから、要するに1年のこのホリデーシーズンだけで10作以上は新作クリスマス作品が一気に配信開始となるのが恒例の風景となってきました。

多すぎるよ…。

クリスマスって本来は1日しかないんだよ。わかってる?

そんなクリスマス映画の過剰供給の時代において、やや印象が薄かった動画配信サービスである「Apple TV+」もいよいよ本格的に独自のクリスマス映画をお届けしてくるようになりました。

「Apple TV+」でしか見れない2022年のクリスマス映画、それが本作『スピリテッド』です。

この『スピリテッド』、タイトルからでは全くわからないのですけど、実はあの“チャールズ・ディケンズ”の「クリスマス・キャロル」を基にしている映画です。

守銭奴で自己中で愛とか全く信じていない初老の商人エベネーザ・スクルージのもとに、かつての友人だったジェイコブ・マーレイの幽霊が現れ、金銭欲や物欲に支配されていては悲惨な運命が待つだけだとスクルージを諭し、「第一の幽霊」(過去)、「第二の幽霊」(現在)、「第三の幽霊」(未来)という3人の亡霊を遣わして、スクルージを改心させる…という物語。奉仕と慈愛の精神を学ぶクリスマスにおける定番のストーリーであり、今なお愛されています。

これまでも何度も映画化されてきましたが、この『スピリテッド』はひと味どころか相当に斬新です。ほぼ「クリスマス・キャロル」のパロディと言っていいレベルです。

舞台は現代となっており、相変わらず亡霊たちが性根の腐った悪い人間に憑りついて改心させているのですが、今やあのスクルージさえも亡霊として働いています。そしてある男を改心させるべく取り組むのですが、こいつが手強い奴で…。

『スピリテッド』は「クリスマス・キャロル」をメタに弄りまくったお遊び満載。そしてミュージカルになっており、とにかく賑やかです。

さらに主演するのは、“ライアン・レイノルズ”“ウィル・フェレル”なんですよ。ついにこの2人が手を組んでしまったか…。ひとりだけでもじゅうぶんにおバカなワールドを構築できるのに、それが2人も揃ったらおバカなパワーは何倍にも化学反応で膨れ上がりますよ。

もう徹頭徹尾アホ全開な映画なのですが、でもクリスマス映画だし、これでいいよね!というノリ。私は嫌いになれない…。というかこんなアホな内容でもきちんとおカネをかける、そういうハリウッドは好きです。今作はクリスマス映画としてもなかなかに制作費がかかっているであろうスケールになっていますからね。

“ライアン・レイノルズ”は初のミュージカルですが、「俺はこれもできるぜ!」と言わんばかりのドヤ顔でノリノリですし、“ウィル・フェレル”も負けじと熱唱しますし、どっちがアホできるか合戦みたい…。

共演は、『サンダーフォース 正義のスーパーヒロインズ』の”オクタヴィア・スペンサー”、『イーブルアイ』の”スニータ・マニ”、演劇でも実績のある“パトリック・ペイジ”、『スランバーランド』の“マーロウ・バークリー”など。さらにスペシャルゲストもいるので瞬きしないように。

『スピリテッド』の監督は、『パパVS新しいパパ』シリーズや『インスタント・ファミリー 〜本当の家族見つけました〜』を手がけてきた“ショーン・アンダース”です。

ちなみに『スピリテッド』について言及した英語サイトなどを自動翻訳するとこの映画のタイトルが「千と千尋の神隠し」と翻訳されることが多々あるんですね。これは『千と千尋の神隠し』の英題が「Spirited Away」なので、『スピリテッド(Spirited)』と混同してしまっているからなのだと思います。結果、「ライアン・レイノルズが出演する千と千尋の神隠し…」みたいな意味不明な文章に仕上がっています。自動翻訳はだからあてにできないこともあるんですよね…。

ともかくこの『スピリテッド』、2022年のクリスマス映画の中では群を抜いて華やかなので、家でクリスマス映画を鑑賞するならぜひ本作をどうぞ。悪い子どもも悪い大人もまとめて改心しましょう。

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『スピリテッド』を観る前のQ&A

✔『スピリテッド』の見どころ
★アホ全開で楽しませてくれる。
★単純明快なミュージカルなので気楽。
✔『スピリテッド』の欠点
☆「クリスマス・キャロル」の物語は知っておきたい。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:俳優ファンも注目
友人 4.0:賑やかなエンタメ
恋人 4.0:異性愛ロマンスあり
キッズ 3.5:子どもも楽しめる
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『スピリテッド』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『スピリテッド』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):改心しよう!

カレン・ブランスキーという自分の名が刻まれた墓標で泣いているひとりの女性。後ろに黒ローブの幽霊が出現し、「もう悪いことはしないから」と喚きながらその女性は地面に飲み込まれていきます。

その後に、亡霊の横に2人の人間が現れ、「改心したかな」と心配そうな顔。そのうちの緑のおっさんは「マーレイに伝えてくれ」と無線で指示します。

亡霊のスタッフたちは本部で忙しく働いていました。いよいよ仕事も大詰め。カレンの前に大勢が登場し、改心できたことを祝います。こうやって誰かに憑りつき、改心させ、歌う…。これがこのクリスマスの亡霊の長年の仕事なのです。

そうやってずっと働いてきたスクルージは救われた者たちが飾られている部屋で感慨にふけっていました。背後から人事部のマーゴに勤務状況の確認を去れ、もう退職できる時期からかなり過ぎていることを指摘されます。スクルージはそろそろ地上の生活に戻って人間として生きようかと考えます。でもまた道を踏み外してしまわないだろうかと心配します。スクルージも昔はダメな人間で改心したのでした。今も現世はダメな奴ばかりだし、この仕事はやめられない…。

現世の下見に行くと、次のターゲットとして狙いを付けているホテル支配人のウォルターという自己中心的な男を観察します。しかし、そこにたまたま居合わせた別の男にスクルージは釘付けとなります。

クリント・ブリッグスという名のこのビジネスマンは、広間で「クリスマスツリーの奥はフェイクのプラスチックです。本物の木は人気が落ち続けている」と解説し、「本物の木でクリスマスの喜びを取り戻そう!」と対立を煽り、大衆を見事にコントロールしていました。なんでもこういう炎上商法マーケティングを得意としている奴らしいです。

これはいいぞと目を輝かせるスクルージ。次に改心させるならこの男しかいない…。

でも亡霊本部のボスであるジェイコブ・マーレイは許可してくれません。あのクリントは救済不能とされていたのです。やらせてくれないなら退職するとスクルージは意地を張り、許可がでて任務開始です。

こうして準備は始まり、1年がかりでクリントを精査。今度の悪人は世界中に影響を及ぼすレベルであり、改心の成功は世界にきっとすごいプラスの影響があるに違いありません。

そして12月。クリントは相変わらず糞野郎で、ビリー・アイリッシュとエド・シーランを対立させていました。自分の姪っ子であるレンが学校でジョシュという子と対峙することになるらしく、その印象操作の裏工作を手伝ってもあげています。

クリントのアシスタントであるキンバリーはそんな行為に関わることに後ろめたさを抱えていました。

しかし、このキンバリーはなぜかスクルージが見えるらしく、彼女に惚れ込んでしまったスクルージは「社長に憑りつく予定で…」と口走ってしまいます。とりあえずロベルトだと名乗り、握手する2人。

ついにあのクリントに亡霊たちが段取りどおりに改心させるために着手していきます。果たしてこの改心は上手くいくのか…。

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人は誰でも改心できるのか?

『スピリテッド』はものすごくアホさ満載なのですが、案外と主軸にしているテーマは真面目です。それは「人は誰でも改心できるのか?」ということ。

“チャールズ・ディケンズ”の「クリスマス・キャロル」はどんな腐りきった人間でも善人になれることを信じさせてくれる物語です。でも本当にそんな都合よく上手くいくの?とこの『スピリテッド』は意地悪に疑ってきます。だって世の中には最低最悪のクソ人間はいっぱいいるし…(各自思い浮かべてください)。

そこで『スピリテッド』にて難敵として立ちはだかるのがクリント・ブリッグスという男。最初のビジネス講演会風のトークからしてもう爆笑モノなのですが、「クリスマスツリーは本物の木か、プラスチックのフェイクか」という本当にどうでもいいレベルの対立を煽り、それで儲けようとしているクソったれです。

演じている“ライアン・レイノルズ”がカナダ人ということで本物の木にこだわるというあたりが妙に説得力あるのですが、言っていることは「取り戻そう、クリスマス!」と完全にドナルド・トランプの語り口と同じ。誇りを掲げてヘイトを焚きつけて大衆を扇動する。まあ、日本にもこうやって炎上マーケティングで商売している奴らがうじゃうじゃいますよね…。

このクリントはトランプ以外にもマーク・ザッカーバーグとか、要は昨今のダメな奴らの集合体みたいに描かれているのですが、“ライアン・レイノルズ”はそれを実に軽やかに体現してみせるのでさすがです。

ちなみに冒頭で登場する改心するあの女性。名前は「カレン」なので、元ネタは嫌な白人女性の象徴名称になっているあの「カレン」ですね。

話を戻してそのクリントですが、やはり糞は糞でもズル賢いクソ野郎ですから手強いです。亡霊戦術に対して軽口で抵抗し、さらには「改心なんてそもそもできないんじゃないの?」とこちらの意思すらも挫こうとしておきます。どこぞの論破で威張っているあの男みたいだな…。

そうやってスクルージの自信も砕かれ、自分の過去の時代に戻り、「本当に自分は改心できていたのだろうか」と悩みだします。ここでスクルージの2度目の改心への問いかけが始まる。展開としては「そう来るのか」という意外性があって面白いです。

ここでクリントの悪い囁きにまんまと乗せられてしまってスクルージは開き直っていくのですが(「Good afternoon!」)、“ライアン・レイノルズ”と“ウィル・フェレル”のイチャイチャを拝めるという点では最高の映画ですね。

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「クリスマス・キャロル」を現代に届けるために

『スピリテッド』はなんだかんだで最終的には「人は改心できるんだよ!」とやっぱり信じさせるオチに辿り着きます。

あのクリントがどうやって改心に傾いていくかと言えば、子どもたちが理由でした。レンとジョシュの対立煽りが予想外に陰惨な結末に繋がることを未来で見せられて、さすがに焦ったクリントは善行をしようと必死になります。ここで子どもが軸になるあたりは最近の“ライアン・レイノルズ”の定番ですね。

それにしても、未来の亡霊の墓石の指差しギャグみたいな、しょうもないやつ、私は好きだな…。ここでクリントは長生きするかのようにミスリードさせ、ラストのあっけない即死オチに持っていくあたりも鮮やかなギャグセンスですよ。

結構な急展開で風呂敷を閉じだすので、まとめ方としては大慌てでしたが…。

人間は変われます。たとえ嫌な奴でも変わろうという信念さえあれば、それは行動として実を結びます。そんな風に語り終えるこの『スピリテッド』は「クリスマス・キャロル」の焼き直しではあるのですが、よりひねくれてしまった私たち現代社会に訴えやすいアプローチへとアレンジされたわけで、そこは良かったのではないでしょうか。

エンディングでは亡霊として事業拡大を率いているクリントの清々しい姿が…。“ライアン・レイノルズ”にとっての「良きビジネスマン」の在り方はこうでしょというプレゼンテーションでした。

“ウィル・フェレル”と”オクタヴィア・スペンサー”のロマンスもベタと言えばそうなのですが、この中年の2人がここまで幸せそうな恋愛関係を築いていく姿を揶揄い無しですんなり描いているのもいいなと思います。

“チャールズ・ディケンズ”の「クリスマス・キャロル」がなぜ時代を超えて世界で愛されるのかと考えると、それは当然ながら道徳的に正しいからなのですが、世の中は全てが道徳で動いているわけじゃない。この『スピリテッド』も亡霊たちをビジネス風の組織として描いてみせることで、ときに慈善的な行いであっても、その資本主義的であったり、商業主義的であったりする構造からは逃げられないことを示しています(クリスマスという文化がもはやそうですしね)。だったらその商業主義的側面をただ嫌悪するのではなく、それ自体をどうやって“良いもの”にするのか考えようじゃないかと模索する。

人を変えるというのは、組織を変えるというのは、性質の根本を捻じ曲げるのではなく、ほんの些細な働きかけで良い作用を生む方向に導くことなんだ…ということ。

『スピリテッド』を観ながらそんなことを考えつつ、クリスマスを迎えようと思います。

『スピリテッド』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 68% Audience 82%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Apple

以上、『スピリテッド』の感想でした。

Spirited (2022) [Japanese Review] 『スピリテッド』考察・評価レビュー