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実写映画『ピノキオ』感想(ネタバレ)…変えたことより変えなかったことの方が問題だった

ピノキオ

変えたことより変えなかったことの方が問題だった…映画『ピノキオ(2022)』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Pinocchio
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:ロバート・ゼメキス

ピノキオ

ぴのきお
ピノキオ

『ピノキオ』あらすじ

風変りな老人のゼペットは、ひとり孤独に暮らしていた。ある晩、ゼペットが作った木彫りの人形ピノキオに、妖精ブルー・フェアリーが魔法をかけたことで命が宿る。期待されている本物の人間の子どもになりたいと願うピノキオは、コオロギのジミニー・クリケットに導かれながら成長していくが、純真無垢であるがゆえに、さまざまな誘惑や試練に直面する。困難が待ち受ける冒険の旅の先に待っているのは…。

『ピノキオ』感想(ネタバレなし)

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星に願わなくてもDisney+は好調ですが…

ついに火蓋が切られて数年たった動画配信サービス競争時代。その戦いにひとつの節目のときが訪れました。2022年8月、ディズニーが展開する3つの動画配信サービス(Disney+、ESPN+、Hulu)の総契約者数が2億2110万人に到達し、Netflixの2億2067万人を超えたこと明らかになりました。HBO Maxなどのライバルが苦戦する中、ディズニーは動画配信サービスの覇権だったNetflixさえも揺るがしています(ただ、この契約者はディズニーの場合は複数のサービスの合算なので人数的にはNetflixの方がまだ多いんじゃないかとも思うけど)。

ディズニーが動画配信サービスで優位に立つのは正直予想できていました。なにせ圧倒的なブランドとファンダムを持ち合わせているのです。それでオリジナル・コンテンツをどんどん送り込めば、利用者が増えるのは当然です。しかも、ディズニーは家族をメインターゲットにしているので、複数の利用者が比較的長い期間にわたって利用し続けてくれやすいという利点もあります。良くも悪くも有象無象のNetflixと比べても、Disney+(ディズニープラス)はかなり特化しているのがわかりやすいです。今後の動画配信サービス競争は価格などを含めた持久戦に突入すると思われ、広告つきプランの導入などあの手この手でユーザーを引き留める戦術を使ってくると思われます。

とは言え、まだまだオリジナルなラインナップも充実し続けるでしょう。Disney+はなおもネタの宝庫。手を付けていない企画はたくさんあります。

最近のディズニーは従来のクラシック化しているアニメーション映画を実写化するという企画にノリノリで、『シンデレラ』(2015年)、『ジャングル・ブック』(2016年)、『美女と野獣』(2017年)、『プーと大人になった僕』(2018年)、『ダンボ』(2019年)、『アラジン』(2019年)、『ライオン・キング』(2019年)、『わんわん物語』(2019年)、『ムーラン』(2020年)…と連発してきました。直近はコロナ禍でやや停滞したのですが、2022年も半ばを過ぎ、実写映画がまたも登場です。

それが本作『ピノキオ』

言わずと知れたディズニー・アニメーション映画としては3作目であった1940年の『ピノキオ』を実に80年以上の時を超えて実写化しました。この『ピノキオ』のディズニーによる実写映画化企画は前からあって、2015年には発表されていたのですが、製作が難航。監督候補もころころ変わり、一時は『パディントン』を成功させた“ポール・キング”に監督してもらう線で進んでもいましたが、監督の事情で降板。

結局、実写映画『ピノキオ』の監督は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などでおなじみ、最近は『魔女がいっぱい』を手がけた“ロバート・ゼメキス”に任されました。ベテランの安全牌ということなのかもだけど、“ロバート・ゼメキス”監督って過去の前歴を考えるとアニメーション寄りの作品を任せると失敗するフラグにならないのかな…。

俳優陣ですが、ゼペットじいさんを演じるのは名俳優の“トム・ハンクス”、ブルー・フェアリーを演じるのは『ハリエット』の“シンシア・エリヴォ”、馬車屋のコーチマンを演じるのは『美女と野獣』の”ルーク・エヴァンズ”、人形一座の親方にして悪役ストロンボリを演じるのは『ベニスで恋して』の“ジュゼッペ・バッティストン”など。さらにジミニー・クリケットの声を担当するのは“ジョセフ・ゴードン=レヴィット”となっています。肝心のピノキオの声は『フローラとユリシーズ』にもでていた“ベンジャミン・エヴァン・エインズワース”が抜擢。

基本的なストーリーはもちろんアニメーション版どおりなのですが、ところどころ違っている部分も見られ、そのへんも注目するといいと思います。

実写映画『ピノキオ』は『わんわん物語』に続いてDisney+の独占配信作品となりました(劇場公開は無し)。これ目当てでDisney+に入るほどではないですけど、ラインナップがまたひとつ充実し、ディズニーの野望は星に願わなくても叶いそうですね。

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『ピノキオ』を観る前のQ&A

Q:『ピノキオ』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2022年9月8日から配信中です。
✔『ピノキオ』の見どころ
★実写化されて生き生きとしているあのキャラクターたち。
★おなじみの名曲が多数流れる。
✔『ピノキオ』の欠点
☆実写化したことによる独自の面白さは薄い。

オススメ度のチェック

ひとり 3.0:アニメと見比べながら
友人 3.0:ディズニー好き同士で
恋人 3.0:暇つぶしに見るのも良し
キッズ 4.0:子どもに見せやすい
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ピノキオ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ほぼ本物の子どもの冒険

コオロギのジミニー・クリケットは夜の街をトボトボ歩いていました。みすぼらしい格好で寒さに震えています。すると明かりのある家を発見。看板には「マエストロ・ゼペット」とあります。

扉の下から入って暖をとるジミニー。ゼペットという老人は机に独り向かって製作中の人形に語りかけていました。いや、呟いていただけかもしれません。隣にはフィガロという猫がおり、近くにはクレオという金魚もいます。

「完成したぞ」

そのとき、リッツィが訪ねてきて、「例の時計を売ってくれ」と懇願してきます。でも孤独になったしまったゼペットにとっては大切な思い出の品が家にはあり、それを渡すなんでできません。

この人形は孤独を埋めるだろうかと思いつつ、「名前をつけてやらんとな」とゼペットは思案。松の木でできていたので「ピノキオ」という名前を思いつき、糸で操って首を動かし、オルゴールの音楽と共に躍らせます。

壁にズラっとかけられた時計が一斉に鳴り、そろそろ就寝しないといけません。眠りにつく準備をするゼペット。ジミニーも寝ることにします。ピノキオは窓のところに置いておきます。

その寝る前にゼペットは澄み切った夜空を見上げ、星に願い事をします。「明るく輝く一番星よ…どうか…」その願いを口には出さず、電気を消すゼペット。「この願いが叶ったら、どんなにいいか…」

しばらく後、不思議な光がピノキオにあたります。すると動き出すピノキオ。起きてその光景を目にしたジミニーもびっくりです。ジミニーの言葉をまねるピノキオは本物の子どものようでした。

そこへ現れたのはブルーフェアリー。ゼペットの願いに応えたそうで、「子どもが欲しくて人形を?」とゼペットの事情を察します。「本当の本物にはなれる?」と聞いてきたピノキオに「勇敢で正直で思いやりのある子だと証明しなさい。まずは善と悪を知ること」と語り、良心になってみないかとジミニーに提案し、誘惑に屈しないように導くことを頼みます。妖精の力で衣装も綺麗になったジミニーはそれを快諾しました。

妖精が消えてから飛び起きるゼペット。ピノキオが話して動いていることに驚愕して腰を抜かします。

「僕だよ。ピノキオ」「ほぼ本物の子どもだよ」

願いが叶ったのかと大喜びのゼペット。一緒に踊り、その夜から人生は変わりました。ピノキオと楽しく暮らす日々です。

ある日、「そろそろ学校に行かないとな」と考えたゼペットは教科書とリンゴを持たせて、ピノキオを送りだします。「帰ってきたら夕食だ。待ってるよ」と心配そうに…。

一方のピノキオはワクワクを抑えられず、街中へ歩いていきます。道中、詐欺師の狐のJ・ワシントン・ファウルフェローと、その子分で猫のギデオンに目をつけられ、「名声を手にしてみないか」と誘惑されます。「でもお父さんは学校に行けって…」「君は生まれつきのスターだ、インフルエンサーだ」

そう言われてしまい、ピノキオはあっさりついていくことに。そこへ寝過ごしたジミニーがカモメのソフィアに運んでもらって追いついてきます。「学校に行くんだ。正直ジョンは嘘つきだ」

またも言われるがままに学校へ向かうピノキオ。しかし、トラブルはまだ続き…。

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改変は良かった。でも変えていない部分が問題で…

実写映画『ピノキオ』、公開前は予告動画の段階で「ブルーフェアリーを黒人にするなんてポリコレの押し付けだ」と騒ぐ一部の人が発生していました。それは紛れもない人種差別で、擁護する価値もありません。

そんな作品を肌の色でしか見ない人は気づいていないのかもしれませんが、この実写映画『ピノキオ』はアニメと違っている点が当然のようにたくさんあります。そもそもアニメから実写に変える、しかも1940年から2022年の作品になるのですから、それに合わせて表現を変えるのは至極当たり前です。

実写映画『ピノキオ』の変更点で良かった点はありました。例えば、それこそブルーフェアリーを演じたシンシア・エリヴォ”はさすがの圧倒的歌唱力ですし(ただちょっとパフォーマンスを最大に活かしきるにはもっと役どころが要る気もする)、個人的にはファビアナと操り人形サビーナの追加は良い改変だったと思います。もともとアニメでも物語自体がかなり急展開で落ち着きがなかったので、ファビアナ&サビーナは程よい繋ぎとして機能してくれていますし、根本的な問題として人形劇を悪く描きすぎているという欠点がアニメの時点からありました。今回の実写映画版はファビアナ&サビーナのおかげで人形劇にも芸術としての良さがあるというフォローにもなっているので安心です。

一方で、私はこの実写映画『ピノキオ』は“変えたこと”よりも“変えなかったこと”の方が作品のクオリティに支障をきたしていると感じ、かなり不満も多い映画として印象に残りました。実写映画としては『ダンボ』並みに、それかそれ以上に上手くいっていない失敗なのではないか…と。

最大の問題点はピノキオのデザインです。本作のピノキオは基本的にアニメ版のデザインをそのまま実写にしたような見た目になっています。忠実でいいじゃないかと思うかもしれませんが、なぜこのデザインなのかという違和感が生じます。アニメはあくまであのデフォルメされたデザインが人間キャラクターにも当てはまっていたので違和感はないのですが、今回の実写版は人間は当然リアルですから、ピノキオだけが妙に浮いたデザインになってしまっています。

こうなってくるとゼペットはなぜこういうデザインにしているのだろうという疑問が生まれますし、下手したら「ディズニーのピノキオ商品を作っているおもちゃ職人なんですか?」という嫌味なツッコミさえもしたくなるほど(よりによって壁の時計がディズニーものになっちゃっているし…)。

ディズニーって『ライオン・キング』ではフォトリアルを徹底したかと思えば、今回の『ピノキオ』ではアニメ寄りになりすぎるし、実写映画のスタンスがバラバラすぎるんじゃないのかな…。そのへんをずばり『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』でネタにされていたわけですが…。

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もっと挑戦的に改変するべきだった

100歩譲って、あのゼペットは“ウォルト・ディズニー”そのものを示しているんだ、あの壁の時計は彼の手がけた作品の思い出そのものなんだ…と好意的に解釈するとしても、クリエイター賛美の映画に位置づけを変えるのはそれこそ綺麗すぎる内容だとは思います。

この『ピノキオ』の原点にある“カルロ・コッローディ”原作の児童文学は社会風刺を軸にしており、かなり暗いです。ディズニーはアニメーションにする際にだいぶマイルドにしてしまったのですが、この実写映画ではさらにノスタルジーありきの表現しか残らず、風刺要素は限りなく脱色してしまいました。

今回の実写映画のピノキオは最初からあんまり悪ガキっぽくないのも、風刺がわりとどうでもよくなっている証拠で、あくまでアニメーションの名シーンの再現をすることにとどまってしまっている。これではクリエイティブな面白さを見つける方が難しく…。

細かいシーンでも詰めが甘いです。なぜ金魚鉢を持ってピノキオを探すんだよと口出ししたくなるようなゼペットのあのピノキオ探しの行動ももう少しアレンジできるだろうと思うし、触手のあるモンストロだって映画的な改変でもっと印象的なシーンにできるはず。そういう部分の改変努力は見られないのが残念です。それでいて急に現代っぽい用語を使ってイマドキっぽさを醸し出してくるのは鼻につくし…。

このデザインだとピノキオがラストで人間に戻ったときどうするのだろうと思ったら、一応、最後はジミニーのナレーションはぼやかしてはいますが、ピノキオは人間の体になったかのように見えるエンディングになっています。後ろ姿だけですが…。でもなぜ人間の体になるのか、納得が余計にいかない物語になってしまったのではないでしょうか。

『ピノキオ』の物語は結構改変する余地のある作品だと思いますし、その改変しだいでいくらでも新しい面白さを引き出せると私は思います。2019年のイタリア映画『ほんとうのピノッキオ』は個人的に素晴らしい内容だと思いましたし、これこそクリエイティブへの賛歌が詰まっていました。

ディズニーが風刺とクリエイティブの掛け算で成り立つこの題材を活かしきれずに終わったのは大いに反省すべき点です。

なお、「ピノキオ」の映画化は2022年はまだあります。あの“ギレルモ・デル・トロ”がストップモーションアニメで「ピノキオ」の物語を独自に創作中。またもクオリティの差を見せつけられそうですね。

『ピノキオ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 30% Audience 45%
IMDb
5.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
3.0
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関連作品紹介

ディズニーのアニメーションを実写映画化した作品の感想記事です。

・『ムーラン』

・『わんわん物語』

作品ポスター・画像 (C)2022 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved

以上、『ピノキオ』の感想でした。

Pinocchio (2022) [Japanese Review] 『ピノキオ』考察・評価レビュー