アンチ青春は次世代の青春のかたち…アニメシリーズ『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2023年)
シーズン1:2023年に各サービスで放送・配信
監督:柿本広大
BanG Dream! It’s MyGO!!!!!
ばんどり いっつまいごー
『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』あらすじ
『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』感想(ネタバレなし)
キラキラドキドキしないバンド
エンタメにおける「ガールズバンド」ものは今や日本では群雄割拠で溢れかえっており、盛況なジャンルの筆頭です。2023年現在、VTuberが動画サイトを中心にエンターテインメントの主流化を果たしていますが、その源流には、コンテンツ過多なくらいにメディアミックスで押し通す「ガールズバンド」の多彩さと、そこに「初音ミク」に始まるボーカロイド文化によるデジタル慣れが、ガチっと組み合わさって土壌ができていたからなんじゃないかと個人的には思っているくらいです。
「ガールズバンド」ものは、2006年の『涼宮ハルヒの憂鬱』のエピソードでバズリ、2009年の『けいおん!』でジャンルとして火がついた感じですが、こうしたガールズバンドは事実上のアイドル的なファンダムを形成するので、それは「アイドル」ジャンルとそんなに大差なくなってきます。アイドル的ガールズバンド、もしくはガールズバンド的アイドル、さらにはガールズバンド的な他の音楽スタイルなど、そのアプローチはよりどりみどり。
そんな「ガールズバンド≒アイドル」なコンテンツとしては、『THE IDOLM@STER』『ラブライブ!』『SHOW BY ROCK!!』などが続々と出現・活性化していきました。
その流行の中で、後発的に登場したのが2015年から始まった『BanG Dream!(バンドリ!)』です。
こちらは高校生ガールズバンドを主題にしていてそれだけなら他と大きな違いはないのですが、後発ゆえか、最初からメディアミックスを前提にプロジェクトが企画されているという徹底したスタイルがありました。
コンセプトとして作品と現実がリンクし、キャラクターがガールズバンドを組んでいるだけでなく、その声優の人もリアルでライブをしたりすることになります。「次世代のガールズバンド・プロジェクト」と謳っていますが、メディアミックス重視というビジネス面がやはり特徴です。
「Poppin’Party(ポッピン パーティ)」「Roselia(ロゼリア)」「RAISE A SUILEN(レイズ ア スイレン)」「Morfonica(モルフォニカ)」など、登場バンドも多く、初心者には何が何やら把握もちょっと大変…。
アニメは『BanG Dream!』が2017年に始まり、1期・2期・3期と基幹シリーズとして位置しており、そこに『BanG Dream! Morfonication』や『BanG Dream! Episode of Roselia』などが劇場版も含めてスピンオフ展開しています。
今回はそんな『BanG Dream!』シリーズの新しいスピンオフ・アニメシリーズである『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の感想です。
ちなみに私は『BanG Dream!』シリーズは全然知らなかったのですが、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の感想を書くにあたって他の作品も観ました。『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』は新バンドを描く物語なので、既存シリーズを一切知らない人が観ても話はわかります。
それにしてもこの作品の世界、「大ガールズバンド時代」と言い切っているだけあって、現実が舞台ながら学生の多くがバンドをやっているくらいにバンドが日常化しているという設定になっていて凄いですね。殺し屋が当たり前にわらわらいる『ジョン・ウィック』と同じノリだ…。まあ、これくらい振り切れるのは嫌いじゃないです。
『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』は作品に明確な方向性があって、それは「キラキラドキドキしない」です。もともと
基幹シリーズのアニメ『BanG Dream!』は「Poppin’Party(通称ポピパ)」という「キラキラドキドキしたバンド」が全面にでており、ある意味、正統派です。
この『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』はその反転になっていて、企画時から「シリアスなドラマにする」というオーダーがあったことが、本作のシリーズ構成の“綾奈ゆにこ”からも語られています(Febri)。
そのためか、本作は非常に新しい「ガールズバンド」表象を提示できていて、メディアミックスみたいなビジネスのしかた云々が次世代的なんじゃなくて、青春への向き合い方やストーリーの意味で「次世代のガールズバンド」らしくなってきているなというのが私の総括的な感想です。
後半の感想ではそこはもう少し掘り下げて書いています。
なお、本作は未成年の女子を扱った作品ですが、とくにセクシュアライゼーションはありません。
『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :感情に浸って |
友人 | :初心者にも紹介して |
恋人 | :趣味が合うなら |
キッズ | :ややシリアスだけど |
セクシュアライゼーション:なし |
『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):一生、バンドしてくれる?
雨がしとしとと降る街。そのビルの一角の窓から外を見つめて溜息をつくのは、中学生の長崎そよ。高松燈、椎名立希、若葉睦も部屋にいて、バンドの練習を始める予定でしたが、もうひとりのメンバーを待っていました。
そこにドアが開き、豊川祥子が入ってきます。「さきちゃん、良かった、来てくれて!」と駆け寄る長崎そよ。
しかし、「今日は言うことがあってきましたの」と豊川祥子は厳しい表情で言葉を続けます。「“CRYCHIC”をやめさせていただきますわ」
長崎そよはなるべく優しくなだめ、話し合おうとしますが、「わたくしひとりの問題ですから」と豊川祥子は目を背けます。
「この前のライブ、楽しかったじゃない。またやりたいって…」「言ってませんわ」
「“CRYCHIC”を始めたのはさきちゃんだよ」「わたくしがいなくてもできたでしょ」
椎名立希は高松燈を責めるような言葉を口にした豊川祥子に詰め寄り、怒りをぶつけます。
そんな張りつめた空気にとどめを刺すように若葉睦が呟きます。
「私はバンド、楽しいって思ったこと一度もない」
こうしてバンド「CRYCHIC」は解散しました。
月日は変わり、高校1年生の千早愛音は羽丘女子学園にひとつき遅れで入学を希望することになり、面接を済まして、今日のところは帰宅します。中学の頃は生徒会長を務め、成績も優秀なので問題なさそうです。「ここでやり直そう」と心の内で決心して…。
その校庭を歩いていたとき、茂みでしゃがんで小石を拾っている女子生徒を発見。でも慌てて去っていってしまいました。
別の日、千早愛音は教室で挨拶し、席につきます。前に座っていたのは、あの石の子です。その子は「高松燈です」とたどたどしく自己紹介してきます。
千早愛音は話しやすそうな女子グループを見定め、笑顔を作って言葉をかけます。その子たちいわくあの高松燈は「羽丘の不思議ちゃん」といった評価をされているようです。
授業が終わり帰ろうとすると、バンドをやっている子が多いことに気づきます。3年に「Afterglow」という有名なバンドがいて、他にも名の知れたバンドのメンバーの子が上級生にはいる影響だそうで、少し圧倒される千早愛音。
ギターを持っている千早愛音はクラスに溶け込むために、家に帰って考えてみます。やるならギター&ボーカルで中心に立ちたい。そう狙って自分でメンバーを集めてみることにします。
そのとき、またあの高松燈と話す機会があり、天文部にいた彼女が詞のようなものをノートに書き留めていることに気づき…。
女子表象の最前線
ここから『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』のネタバレありの感想本文です。
『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』は冒頭から最悪な空気で始まり、宣言どおりキラキラドキドキしません(嫌な緊張感という意味でのドキドキはあるけど)。
バンド「CRYCHIC」の解散というプロローグから一転、物語の視点は千早愛音に移り、彼女がバンドを作りだすことから何事も無かったかのように始まります。
一見すると普通の「ガールズバンド」ものっぽいいかにもな導入ですが、しかし、このアニメ主人公的なベタなピンク髪の千早愛音の内に秘めた動機もまたやや不純であり、王道から逸れていることがわかります。そして何も知らず、あの冒頭の凄惨な解散事件をトラウマに抱える当事者の子たちの不協和音に、この千早愛音は突っ込んでいくことに…。
千早愛音は表面上は優等生で愛嬌のある女子ですが、内心では打算的に動き、他人を値踏みし、世間の目を気にします。海外にて英語力の低さゆえに自分が日本でのような立ち位置ではいられないと思い知らされ、逃げるように帰国してから、また以前のポジションを確保しようと動いていました。
その千早愛音が最初に出会う高松燈。「天然」と世間的な見方をされていますが、言動は非定型発達っぽいです(『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公のような社交不安ってほどではない)。作詞力に優れ、普通の会話では伝えられない感情を歌にぶつけることで、大きなポテンシャルを発揮していきます。
その高松燈を誰よりも過保護に見守っている椎名立希。音楽に対するこだわりは強く、プロ意識が高いですが、一匹狼で協調性に欠ける…というこれはこれで定番のキャラクターです。ただ、基本的に高松燈ありきで思考するので、なんだかんだでコントロールしやすい人な気がします。
そして「CRYCHIC」時代から高松燈と椎名立希と旧知の長崎そよ。穏やかな雰囲気で人の間柄を取りまとめる癖がありますが、新バンドがまとまりだした瞬間に「春日影」の一件で本性を露呈。“良い子”でいることに飽き、辛辣な性格を隠さなくなっていきます。
そんな4人に接点なく乱入するのが要楽奈。中学3年生なのですが、行動は自由気まま。オッドアイでエキセントリックな言動で…と、本作の中では最もストックキャラクターなのですけど、あれだけ他の4人が生々しい性格を露出するので、この要楽奈の存在はむしろ良い清涼剤かもしれません。
最終的に紆余曲折ありつつこの5人は「MyGO!!!!!」というバンドとして地に足をつけるのですが、それでもわりとギスギスした空気を温存したままなのが、本作の斬新なところだと思います。「女の子はイチャイチャ和気あいあいしている」みたいなアニメにありがちな女子表象の真逆をいきつつ、「女子ってどうせ険悪なんだろ」みたいな男子目線の冷笑にも決して当てはまらない。上手い具合に絶妙なバランスで成立しているような5人ですね。
『響け!ユーフォニアム』とかも同じ傾向だと思うのですが、最近のアニメにおける女子表象はこういうリアルさを掴んだものがぼちぼちと現れているように思います。
アンチ青春の行方
『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』はアンチ青春的な作品です。これは青春を全否定するものではなく、ある種の形式的に理想化されてもてはやされてきた青春に対するアンチテーゼということです。それだけ「友達をいっぱい作る!」「恋人を作ってステキな恋を!」「みんなで部活を楽しむ!」みたいなフィクションの題材について、現代の若い世代が「それは自分に当てはまらないな」と感じることが増えているのだと思います。
別の言い方をすれば、そうやって青春にアンチテーゼ的な感情を抱くこと自体が、一種の新しい青春の在り方にすらなってきている面もあるでしょう。
興味深いのは、こうしたアプローチをとる対象の多様化です。これまでは青春にアンチテーゼ的な感情を抱くのって、いわゆる青春の楽しさから爪弾きにされて劣等感溜めまくりな男子とかが対象でした。
しかし、今やアニメでも、インセル的なモテない一部の男子の専売特許だった時代はもう過ぎ去り、極端に戯画化された「腐女子・オタク女子」でもなくて、ごくそこらへんにいそうな女子たちが青春に毒を吐くようになりました。
しかも、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』では、リア充的な印象を持たれる(実際はそうじゃなくてもフィクショナルな象徴としてそうなりがちな)「バンド」がその毒を吐く主体になっているわけです。これは『ぼっち・ざ・ろっく!』なんかと同質で、世間へのカウンターになっています。『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』は日常系すらにも傾かず、そのカウンターをさらに先鋭化させてます。
こういう図式は、理想化されてきたバービーがその理想の現実に異を唱えるみたいな実写映画『バービー』とほぼ同様だと私は思いますし、たぶん世界的潮流なんでしょう。
懸念があるとすれば、そのアンチ青春が単にトラウマありきのセンセーショナルな手触りで終わってしまうは少々問題だということ。『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』は生徒同士の仲たがいなので全然いいのですが、最終話でチラっと見せた「Ave Mujica」は「子と親」とか「未成年を扱うビジネス」が関わるので、それはアンチ青春では収まらないですからね。
「ガールズバンド」ものが次にどこへ行くのか、迷子の行動は読めません。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
シネマンドレイクの個人的評価
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日本のアニメシリーズの感想記事です。
・『わたしの幸せな結婚』
・『アンデッドガール・マーダーファルス』
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作品ポスター・画像 (C)BanG Dream! Project バンドリ イッツ・マイゴー
以上、『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』の感想でした。
BanG Dream! It’s MyGO!!!!! (2022) [Japanese Review] 『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』考察・評価レビュー