だから熊を見習おう…映画『パディントン3 消えた黄金郷の秘密』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:イギリス(2024年)
日本公開日:2025年5月9日
監督:ドゥーガル・ウィルソン
ぱでぃんとん きえたおうごんきょうのひみつ
『パディントン 消えた黄金郷の秘密』物語 簡単紹介
『パディントン 消えた黄金郷の秘密』感想(ネタバレなし)
パディントンがまたまた来てくれた
“ドナルド・トランプ”政権を始め、欧米や日本では移民や難民への迫害が深刻化する一方です。例えば、アメリカでは、もともと音楽フェスティバルの施設運営をしていた企業が移民税関捜査局(ICE)の元高官を採用して、大量の移民を強制送還してキャンプに閉じ込める自事業で莫大に稼いでいます(ProPublica)。
そんな血も涙もない人間を見ていると悲しくなるだけなので、たまには血と涙とモフモフがある動物を眺めていきましょう。この熊は一部の人が「不法移民」とレッテルを貼るような境遇にある非正規の移民ですけど、それでも温かく迎え入れられ、元気に過ごしています。
その熊が出てくる映画シリーズの最新作が本作『パディントン 消えた黄金郷の秘密』です。
イギリスの著名な児童文学作品『くまのパディントン』を実写化したこの映画は、2014年に1作目『パディントン』が、2017年に2作目『パディントン2』が公開されました。
小さな熊(パディントン)がイギリスのロンドンにやってきて暮らしていく…その姿をユーモラスかつ愛嬌たっぷりに描いた本作は、観る人をニッコリさせてくれます。日本では公開時の盛り上がりに欠けていましたが、確実にファンを増やし、夢中にさせてもきました。
基本はファミリー映画の土台がありながら、この熊のパディントンは、その出自から「移民」そのもののメタファーになっており(実質的にはいわゆる不法移民)、そんな異質な存在を広い心で受け入れる寛容さの素晴らしさをこのシリーズは真正面から描いているのが大きな魅力でした。
まさにパディントンは現代の私たちの良きお手本です。
その映画シリーズが2024年に久々に帰ってきたのがこの『パディントン 消えた黄金郷の秘密』。3作目ですが、相変わらずいつものパディントンです。でも少し変わったこともあります。
まず今作ではパディントンの故郷であるペルーのジャングルを旅するアドベンチャーになっています。前2作はロンドンの地にいかに馴染むかが一貫したテーマだったので、だいぶ違った印象になるかもしれません。本作は「故郷のアイデンティティを辿る」というルーツ探しがテーマですね。
前2作で監督だった“ポール・キング”は降り、3作目の『パディントン 消えた黄金郷の秘密』を監督するのは、CMやMVで仕事していた“ドゥーガル・ウィルソン”で、これが長編映画デビュー作です。
俳優陣ですが、“ヒュー・ボネヴィル”、“マデリン・ハリス”、“サミュエル・ジョスリン”、“ジュリー・ウォルターズ”ら、パディントンを迎え受け入れている家族の面々はほぼ同じですが、ひとりだけ、“サリー・ホーキンス”が“エミリー・モーティマー”に変更となっています。
新キャストには、“オリヴィア・コールマン”と“アントニオ・バンデラス”のベテランが加わり、安定感の上で楽しい演技を披露してくれます。若手だと、『スルー・マイ・ウィンドウ2 海の彼方へ』の“カルラ・トウス”も参加。
もちろんパディントンの声は“ベン・ウィショー”です。
SNSなんて観ていても疲れるだけですから、『パディントン 消えた黄金郷の秘密』を観賞して元気をもらってください。
『パディントン 消えた黄金郷の秘密』を観る前のQ&A
A:時間があれば前2作を観ておくと、登場人物の関係性や成長などがよくわかります。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも楽しめます。 |
『パディントン 消えた黄金郷の秘密』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
昔、パディントンが子熊だった頃、オレンジを求めてうっかり川に流されてしまい、危うく巨大な滝に落ちかけました。しかし、ルーシーおばさんが助けてくれました。こうして2人は助け合いながら一緒に暮らすことになりました。知的なルーシーおばさんに刺激を受け、好奇心を育みながら…。
現在、パディントンは移り住んだイギリスのロンドンにすっかり馴染んでいました。証明写真を撮り終え、イギリスのパスポートが送られてきます。
パディントンを受け入れているブラウン一家と近所の人たちに祝ってもらいます。ブラウン一家はいつもどおりの温かい人たちです。芸術の道を突き進むメアリー・ブラウン、そのメアリーの夫で、リスク管理に手間取っているヘンリー・ブラウン、その長女で音声メディアに可能性を見いだしているジュディ、発明力に磨きがかかっているジョナサン、そしてまだまだ元気なバード夫人。
パディントンは故郷にいるルーシーおばさんに近況を知らせるための手紙は欠かしません。ここでの体験は共有したいのです。
そんなある日、ペルーから一通の手紙が来ます。ペルーの老グマホームからで、入居しているルーシーおばさんが寂しさのせいなのか様子がおかしいそうです。
心配になったパディントンはどうすればいいかとブラウン一家に相談します。そこでペルーに会いに行こうという話になります。パスポートもあるのでちょうどいいタイミングです。
知り合いの骨董品屋のグルーバーからペルーのガイドブックをもらい、各自で荷造り。
飛行機での空の旅を無事に終え、到着です。大自然に囲まれたペルーの人々に温かく迎えられ、パディントンとブラウン一家は車で老グマホームに向かいます。パディントンにとっては懐かしのジャングルの匂いで、感情が沸き上がります。
さっそく駆け足で施設を回ってルーシーおばさんを探しますが、なぜかいません。その老グマホームを管理する修道女から、ルーシーおばさんがジャングルで眼鏡とブレスレットだけを残して行方不明になったと知らされます。
何かあったのでしょうか。ルーシーおばさんがいた小屋で手がかりを探します。すると「ルミ・ロック」という場所を示した地図を見つけます。どうやらこれがルーシーおばさんの行方と関係しているようです。
バード夫人は老グマホームに残り、パディントンとブラウン一家は出発します。地図のとおりに目指せば、きっと出会えると信じて…。
ジャングルは歩くよりも川下りをするほうがいいので、小型の船を借りようと、川船の船長ハンター・キャボットと娘のジーナに助けてもらいます。
キャボットはこのジャングルには、失われた都市エルドラドがどこかで眠っていて、そこには大金が隠されているという伝説を語ります。エルドラドを探す旅人は生きては帰ってこないとも…。
3作目はパディントンらしさは手慣れたもの

ここから『パディントン 消えた黄金郷の秘密』のネタバレありの感想本文です。
3作目ともなれば、パディントンらしさというのを確立しきっており、『パディントン 消えた黄金郷の秘密』ではそれを安定のエンターテインメントとして送り届ける技をみせてくれます。舞台が変わろうと全くの問題なし。
前半は『ジャングル・クルーズ』風の川下りアドベンチャーです。
船が操舵者を失い、激流の中で豪快に難破していくシーンが見どころとなりますが、そこでもおなじみのパディントンによるスラップスティックなドタバタ劇が満載。ああやって舵をコントロールする姿勢になるの(それでいて可愛い)、パディントンだけですからね。
続いての後半は『インディ・ジョーンズ』ばりの遺跡攻略。
とは言っても、私たちはこのシリーズなら死人はでないとわかっていますから、どんなに大岩が転がってこようとも、毒蜘蛛が顔に飛びかかろうとも、そこまで絶体絶命の緊迫感を味わうことはありません。
それでも楽しいのはこれがコメディを前提に眺められるからであり、何よりも「この事態にパディントンはどんな反応をしてくれるのだろう?」というワクワクを満たしてくれるからです。
ラマに乗ってここぞというときにマーマレードサンドを活用したり、パディントンの一挙手一投足が愉快で、満面の笑みにさせてくれます。冒頭の証明写真のコイン投入が、ペルーの奥地でネタとして再利用されるとは思わないじゃないですか。
ブラウン一家の面々も、その各自のスキルが終盤で活かされていくという怒涛の伏線回収でしっかり役目を果たし、このシリーズのお約束に応えてくれます。
ちなみにパディントンが傘でふわりと空をゆっくり落下するシーンは、“エミリー・モーティマー”が出演した『メリー・ポピンズ リターンズ』からの引用なんでしょうね。この『パディントン』シリーズ、出演俳優のフィルモグラフィーからネタを引っ張ってくるのが恒例だし。
そして今作の悪役ですね。“アントニオ・バンデラス”演じるハンター・キャボットが、前作の悪役を継承するようにあっちこっちと顔を変えて楽しませてくれるのでも十分なのに、今作はまさかのナンスプロイテーションの需要にまでリーチするサービス精神豊富さ。いや、序盤のあのハイテンションすぎる『サウンド・オブ・ミュージック』からして変でしたけど、この“オリヴィア・コールマン”、最後までハジけてたなぁ…。
さらにラストは、みんな大好き“ヒュー・グラント”演じるアイツの再登場。やっぱりパディントンの次に愛されてるぞ、このキャラ…。
ルーツのさらにその先へ
笑いのエンターテインメントはさておき、『パディントン 消えた黄金郷の秘密』は「移民」のテーマも忘れていません。
冒頭で描かれるとおり、パディントンは晴れて正式(法的)に「イギリス人」となりました。1作目と2作目の努力を観てきた身としては、ほんと、「良かったね!」と拍手してあげたい…。そう、これは祝うもの。嫌悪するものじゃありません。移民は新しい隣人…仲間です。
今作はイギリスにてある種のひとつのゴールに到達したパディントンにとっての、再確認的なもうひとつの寄り道です。ペルーにて、故郷というアイデンティティに想いを馳せるだけかと思ったら、まさか自身のルーツにまで辿り着くとは…。
パディントンはエルドラド・ベアだったのでした。マーマレード好きは遺伝子だったのか…。
これはこれですごく大切なことなのでどこかで描かれるべきだし、3作目がそれを主軸にするのも納得ではあるのですが、全体的にシリーズとして大きな飛躍をみせるわけでもなく、スピンオフ的な位置づけにとどまったかなという感じでもありました。
とくにこれは今作がペルーを本格的な舞台にしたばかり目立ってしまった欠点なのですけど、肝心のペルーの人々の存在はおざなりになったかな、と。
パディントンとブラウン一家が到着した最初のパートで少しペルーの現地の人々は映りますが、基本は背景のモブです。その後の主要人物はペルー人ではありません。
この映画シリーズは1作目の頃からペルーの地を移民のメタファーの際に部分的に借用したも同然だったわけですから、もうちょっとペルーに貢献する映画作りがあったんじゃないかなと思わなくもないです。
『エミリア・ペレス』の感想でも書きましたけど、ある国(たいていは非欧米)を舞台にするなら、その現地の人を最低限は起用すべきです。それがクリエイティブにおける敬意ですし、消費することへの責任のとりかたです。
『パディントン 消えた黄金郷の秘密』は、ハンター・キャボットのエピソードを通して、スペインの金鉱採掘者の末裔の過去から、植民地時代の遺産に対する一定の批判を薄っすらと描いていますが、さすがにあまりに表面的です。ましてやその批評にペルーの当事者が関与しないのはアンフェアです。
今作ではパディントンをペルー人と解釈することで上手く逃げ切ってみせているつもりかもですが、もうその小手先のメタファーは通用しないでしょう。
個人的にはそろそろパディントンはメタファーを卒業して、現実の移民や難民に直接手を差し伸べていく世界観内の波及が必要になってくる時期なんじゃないかなと思います。わざとらしくなく説教臭くもなく、それでもしっかりその姿勢を現実社会に恥じないように深めていけるか…。『パディントン』シリーズの腕の見せ所はここからです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2024 STUDIOCANAL FILMS LTD. – KINOSHITA GROUP CO., LTD. All Rights Reserved.
以上、『パディントン 消えた黄金郷の秘密』の感想でした。
Paddington in Peru (2024) [Japanese Review] 『パディントン 消えた黄金郷の秘密』考察・評価レビュー
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