TENET テネット
映画『TENET テネット』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Tenet
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年9月18日
監督:クリストファー・ノーラン

TENET テネット

あらすじ

ウクライナのオペラハウスでテロ事件が勃発。罪もない人々の大量虐殺を阻止するべく、特殊部隊が館内に突入する。部隊に参加していた名もなき男は、必死に任務を遂行するものの捕えられ、毒薬を飲んで息絶えた。しかし、その薬には細工がしてあった。昏睡状態から目覚めた名もなき男は、あるミッションを命じられる。それは驚くべき「時間の逆行」を駆使したもので…。

『TENET テネット』感想(ネタバレなし)

ノーランが映画館を救うべく立ち上がる

世界の映画館を襲った未曽有の危機である新型コロナウイルスのパンデミック。2020年も後半に突入しましたが、依然として世界の累計感染者数はぐんぐんと上昇を続け、その勢いが鈍化する気配はありません。私も夏を過ぎれば収まり始めるのかなと当初は楽観視していたのですが、全くの思い違いでした。感染症を軽視してはいけなかった…。期待のワクチン開発も効果は未知数であり、年を越えて本当の勝負の時は来年の2021年に持ち越されそうです。

問題はそれまで映画館は耐えることができるのかということ。客を呼べる大作映画が軒並み2021年に公開を延期されてしまったり、配信スルーになってしまうと、もはや劇場になすすべはありません。空調が整ってるから大丈夫!…くらいしか言えない劇場側の必死な現実を目にすると、あらためて映画館文化の脆弱性を見せつけられた感じです。

そんな中でまだ感染症が収束していないものの、それでも映画館を支援するべく強力な大作が名乗りを上げてくれました。それが本作『TENET テネット』です。

本作ほど映画館の復活の狼煙をあげるのにピッタリな映画もないでしょう。なんて言ったって監督はあの映画ファンに熱狂的に愛されている“クリストファー・ノーラン”ですから。

“クリストファー・ノーラン”監督と言えば『ダークナイト』シリーズ『インターステラー』、『ダンケルク』でおなじみのクリエイターであり、エンタメとの親和性もさることながら非常にシネフィル的で、映画愛を大事にする人でもあります。当然、映画は映画館で観てこそ!という意識も強く、最新作『TENET テネット』の公開も映画館以外はありえませんでした。

その想いが映画ファンにも伝わっているからこそのアツい歓迎があります。まあ、映画オタクではない大半の一般人にとっては「ノーラン? 誰それ?」みたいな反応なので、盛り上がっているのは本当に一部界隈だけなのですが…。

今作の『TENET テネット』も全世界一斉公開は断念し、一部の国で順々に公開する形式になりましたが、各地で好調な記録を達成しています。ただ、これも他にライバルになる作品がない中での、ある意味の独壇場だからこそ記録できた興収なので、過去の他作品とフェアに評価はしづらいですけどね。最近のノーラン作は『ダークナイト』をピークに興収が下がり始めていたので、ここでまた大きな注目を集められたのは良かったと言えるのかも。

その肝心の『TENET テネット』ですが、公開されるかどうかばかりが関心事になってしまい、作品の内容があまり伝わってきません。ただ、それもしょうがない話で本作はこれも前評判によく聞かれることですが、とにかくストーリーが難解なんですね。どう難解なのかを説明するとネタバレになるので書けないという、これまた困った状況。「頭をからっぽにして何も考えずに観れます!」と言えたらいいのですけど、それとは真逆の知恵熱が出かねない映画を送り込んでくるなんて、ノーラン、どうかしているよ…。

なんというか「考察してください!」と言わんばかりの映画です。きっと考察記事とかいっぱい出るんでしょう。先に言っておきますけど、私の感想にはそんな秀才な考察はないので、徹底的な考察に関心がある人は他を漁ってください。ここはとりあえず映画を観て「面白かったね~」ってボヤいているだけの場所です。

とりあえずスパイ映画&SF映画だと思ってもらえれば鑑賞前は良しです。

俳優陣ですが、“クリストファー・ノーラン”監督はあまり有名すぎるスターは使いたくないらしく、今作でも意外なところからピックアップしてきています。

まず主演はデンゼル・ワシントンの長男で『ブラック・クランズマン』でも印象的だった“ジョン・デヴィッド・ワシントン”。『ブラック・クランズマン』の時はアフロヘアだったので雰囲気が全然変わってます。そして、2021年公開予定の次期バットマン役に決定済みの“ロバート・パティンソン”。さらに『ロスト・マネー 偽りの報酬』の“エリザベス・デビッキ”、『オリエント急行殺人事件』や『アルテミスと妖精の身代金』で監督もしている“ケネス・ブラナー”、『ダークナイト』3部作ではアルフレッドを演じていた“マイケル・ケイン”、『ハリー・ポッター』シリーズでフラー・デラクールを演じた“クレマンス・ポエジー”、『キック・アス』で話題になった“アーロン・テイラー=ジョンソン”などなど。

映像クオリティも凄まじく、一級品の映画であることは間違いない『TENET テネット』。中身の難しさはひとまず置いておいていいんです。久しぶりにこの言葉を言わせてください。

映画館での鑑賞が絶対にオススメです。

『TENET テネット』が映画館の復活の起爆剤になるほど現状は甘くはないですが、それでも破滅の運命を刻む秒針を巻き戻す力は私たちひとりひとりにはあるのです、きっと。

オススメ度のチェック
ひとり◎(映画館に飛び出そう)
友人◎(議論が盛り上がるエンタメ)
恋人◎(一緒に考察を語り合おう)
キッズ◯(やや難解すぎるけど)

『TENET テネット』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『TENET テネット』感想(ネタバレあり)

時間を駆使した前代未聞の任務

ウクライナの首都キエフにあるオペラハウス。今まさにオーケストラ演奏が始まろうとしており、会場は大勢の観客で満員です。そこに突然、武装したテロリスト集団が乱入し、会場を占拠してしまいました。

当然、テロ鎮圧部隊がすぐさま派遣され、何人もの隊員が会場に突入していき、テロリスト集団を制圧しようとします。その突入した鎮圧部隊の中に何人か明らかに正規の隊員ではない人間が混じっていました。そのひとりの男。彼はCIAエージェントであり、別の目標がありました。VIPルームにいる救助対象の男と“荷物”を連れ出し、会場へ。会場の観客は催眠ガスで眠らせており、その状況で銃撃戦が勃発します。しかし、自分が正規の隊員ではないとバレてしまい、逃走することに。マズいと思った瞬間、どこからともなく撃ちこまれた弾丸で救われます。それはまるで発射されたというよりは、撃ち込まれた銃弾が元に戻るような弾道を見せて…。

会場が大爆発し、男はロシアの傭兵に捕らえられ、線路上で拷問を受けます。このまま痛みに耐えるわけにもいきません。隙を見て自殺用のピルを口にくわえ、任務に忠実に死を選びます。

しかし、目を覚まします。目の前には男がおり、「テストだ」と言います。公式上では死亡したことになった男は、ある極秘のミッションを任せられます。「テネット」という言葉とともに告げられたその任務。それは第3次世界大戦を防ぐこと。なんでもそれは核戦争よりも恐ろしいことらしく…。

男は科学者を紹介され、そこに向かいます。その研究所で見せられたのは不思議な現象。弾倉に銃弾のない銃を撃つとなぜか発砲できた感触があります。まるで弾が戻ってきたように。マガジンには弾があります。科学者の女性は説明します。時間を逆行する武器だ、と。見方の問題であり、ある見方では弾を落としたように見えても、ある見方では弾がこちらの手に引き寄せられたように見える。この技術は未来で生まれたそうで、他にもいくつもあるとか。この逆行する品々がどこから来て、誰が関わっているのか、それを特定するのが与えられた仕事でした。

仲間が必要なのでムンバイでニールという男と合流します。おそらく情報を知ると思われるサンジェイという男に接触するべく、2人でビルに夜間に侵入。しかし、本当に事情を理解しているのはサンジェイではなく、その妻プリヤでした。プリヤいわく手がかりとなる仲介人らしい人物はロシアのオリガルヒ(新興財閥のことです。詳しくは『市民K』を見てね)であるアンドレイ・セイター


続いて、マイケル・クロズビー卿からセイター周辺の情報を得ます。彼はストルスク12というソ連にある地域でプルトニウムに出会ったとのこと。また、彼の妻キャサリン(キャット)との仲は悪いらしく、その妻からさらに攻めていくことにします。

キャサリンは学校で息子に会っていましたが、ずっと一緒にいることができずにいます。アレポの贋作の絵を持っていき、キャサリンに接触。彼女も夫の支配的な態度に不満なようで、ただ自力ではどうにもできないようでした。そのとき、食事中にセイターの送り込んだ強面の奴らに強襲されます。

再びキャサリンに出会い、オスロ空港の特別な場所(フリーポート)に彼女の弱みである贋作の図版が保管されていることを教えてもらいます。それさえ処分すればキャサリンは自由です。

下見を実施してニールと綿密な作戦を考え、オスロ空港に大胆に攻め込んでいく2人。ところがそこには予期せぬ先客がいました。謎の機械から出現した2人の襲撃者のうちひとりは逆行する銃を使ってきます。ニールはひとりを始末したと言い、もうひとりを殺しかけるのを止めます。情報を聞きだせる、と。しかし、そのもうひとりの襲撃者はどこかへ吸い込まれるように消えてしまいました。

自分たちの作戦はどこかに漏れているのか。不安は消えぬまま、イタリアのアマルフィ海岸でキャサリンとセイターのいる船に向かいます。空港の作戦で処分したと思った図版はまだセイターが持っており、キャサリンは事実上囚われの身のまま。

セイターの信頼を獲得し、プルトニウム241を盗みだす大掛かりな作戦を実行します。しかし、事態は思わぬ方向へ。

過去から未来へ。未来から過去へ。2つの時間の流れに挟まれた男は自分の運命を知ることに…。

TENET テネット

「理屈は考えないで」

『TENET テネット』は観ればこれだけはおわかりのとおり、「時間の逆行」がキーワードになっています。これは“クリストファー・ノーラン”監督の得意技であり、監督デビュー作『フォロウィング』(1998年)や2作目の『メメント』(2000年)の時からずっと十八番にしてきました。たぶん好きなんでしょうね。

今作ではオリジナル映画としては史上最大級の予算を投入しており、『インセプション』並みの超スケールで時間の逆行を駆使した複雑なストーリーがド派手に展開されます。

しかも、ややこしいです。普通、世界大戦を防ぐために時間を戻して…と聞くと、それこそ『アンブレラ・アカデミー』みたいな原因が起きた時間軸までタイムスリップして問題を解決する展開が定番です。でも『TENET テネット』はそうじゃないんですね。


『TENET テネット』は時間を逆行する発明によって、一部のモノや人だけが逆の時間進行を動くことができます。つまり、通常どおり現在から未来へと進むモノや人がいる中で、未来から現在・過去へと逆に進むモノや人も同時に存在しており、まずそこを理解しないと本作はちんぷんかんぷんになります。

このアイディア自体は珍しくなく、それこそインディーズ系のSF映画でありがちなネタですが、そこを“クリストファー・ノーラン”監督はとんでもないスケールにやっちゃったのが本作です。

もちろん背景には一応のリアルさを担保するべく科学的な要素が散りばめられており、「エントロピー」とかあれこれ用語も飛び出します。そこを考察してもいいです。ただ、割と矛盾点や科学的に無理がある設定も多いのも事実。

つまり、本作が巧みなのはその無理やりな部分も含めて「映画の魔法」で押し切っているところですよね。なので本作を観て難解に感じなかった人もいるかもしれませんが、それはそのとおりで作り手が観客に難解さを抱かせにくいように配慮してくれているからです。まあ、序盤に科学者が「理屈は考えないで」といかにもノーランの本音っぽいセリフを言うのには心の中で笑ってしまいましたけど。

時間の逆行をとにかくクールに描く

『TENET テネット』は科学的理屈はさておき、エンタメとして演出的にその「時間の逆行」を取り入れるのが随所で上手いなと感じました。

例えば、序盤に主人公が拷問を受ける線路のシーン。両脇に列車がそれぞれ互い違いで逆方向に走っており、主人公が死亡して「TENET」とタイトルが出ます。まさに正反対の時間の流れがあって、その狭間に主人公がいることを示す根幹構造を表現していました。

ちなみにタイトルの「TENET」は「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」というラテン語の有名な回文に由来しているそうです。セイターとか、アレポ、ロータス社もこの回文からとってきた名前なのでしょう。

どれが正常の時間の流れで、どれが逆行している時間の流れなのか、観客が混乱しないように視覚的な配慮もあります。正常時は赤い光で、逆行時は青い光で、演出されるようになっています(ドップラー効果が元ネタらしい)。これは、終盤の大作戦時にも「レッドチーム」「ブルーチーム」という、そのまんまなネーミングで使われています。

基本的に時間の逆行をカッコよく見せるのが本作の売りであり、それがいきなり際立つのが中盤のカーチェイス・シーン。そこから時間逆行を切り替える大型の回転機械がいよいよ登場し(「ターンスタイル」という名前らしい)、観客は「さあ、ついてこい!」と時間逆行の本場に誘われます。

それからはもう入り組んできます。常に「こっち側は正常な時間で、あっち側は時間が逆行しているから…」と頭で考えておかないと、途端にわからなくなりますよね。劇場でトイレとかに途中行くともう意味不明になりますよ…。

終盤の大作戦とか、誰が指揮しているか知りませんけど、絶対にコントロールできないだろうに…。この乱戦は10分後にリミットを設定するチームと、10分前にリミットを設定するチームに別れますが、それぞれが「10(Ten)」であり、まさに「TENET」(TenとTenの逆さまをくっつけた)なんですね。

スタントパーソンを褒めたい

こんなふうに時間の逆行のビジュアル的な演出や、飛行機突っ込ませ(正直、あれいる?とは思ったけど)や挟み撃ちカーチェイスなど派手さばかりが話題になりがちですが、『TENET テネット』の一番の功労者はスタントパーソンの方々だと思います。

本作はノーラン監督作の大作の中でもVFXシーンがびっくりするくらい少なくて、つまりほとんどがCGとか無しの本物のアクションです。要するに、あの時間逆行状態のカーチェイス逆走や、逆行しながらの揉み合い格闘シーンなんかも、ちゃんと実際に(逆行しているふうに)やっているんですね。大変だったろうな…。

本作は視覚効果賞よりもスタントパーソン賞をとるべきです(だから早くアカデミー賞はスタントパーソンの部門を創設するんだ)。

時間の逆行を除けば、お話としてはかなり凡庸です。またロシアが敵なのか…と飽き飽きする面もありましたし(“ケネス・ブラナー”のロシア語はどれほど正確なのだろうか)、キャサリンの描かれ方も平凡なリベンジもので、ノーランはそんなにジェンダーは得意ではないんだなとは思いましたけどね。でもキャサリンを演じた“エリザベス・デビッキ”は高身長で(190cmもある)、それを活かした車内脱出シーンとか、終盤に繋がっていく船からの飛び込みシーンがあったり、かつてないほどに“エリザベス・デビッキ”にぴったりな役柄でした(なんでも彼女を前提に脚本を書いたらしいです)。

ともあれ『TENET テネット』みたいな個人的趣味を全開にした映画を作れるなんて、“クリストファー・ノーラン”監督、ほんと恵まれてるなぁ…。コロナ後に作る映画はどうなるのかな…。

『TENET テネット』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 74% Audience 77%
IMDb
7.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

関連作品紹介

クリストファー・ノーラン監督作品の感想記事の一覧です。

・『ダンケルク』


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以上、『TENET テネット』の感想でした。