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ドラマ『インパーフェクト』感想(ネタバレ)…アセクシュアルの表象に着目する

アセクシュアルの表象に着目する…ドラマシリーズ『インパーフェクト』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Imperfects
製作国:カナダ・アメリカ(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
原案:シェリー・エリクセン、デニス・ヒートン ほか
ゴア描写 恋愛描写

インパーフェクト

いんぱーふぇくと
インパーフェクト

『インパーフェクト』あらすじ

ある遺伝子疾患の治療のための被検者となっていたアビ、ティルダ、フアンの3人。ところが最近になって異常な能力が発現するようになり、自分たちが知らぬ間に大掛かりなプロジェクトに巻き込まれていたことを知る。自分の不可思議なパワーに翻弄されつつも、実験を独断で行った科学者の居場所と治療法を突き止めようと場当たり的に手を組むことになるが、はたして普通の人間に戻ることができるのか…。

『インパーフェクト』感想(ネタバレなし)

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アセクシュアルを描く作品、海外でも続々

ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーなど、いろいろなセクシュアル・マイノリティのキャラクターが登場する映画やドラマが続々と公開・配信されていますが、なかなか「アセクシュアル(アセクシャル)」を描いたものは一向に増えません。

他者に性的に惹かれないという性的指向が「アセクシュアル」ですが、ラベルの認知が進んでいなかったこともあり、レプリゼンテーションの歴史が浅い状態でした。この状況に私のような当事者は歯痒い思いをしてきたものです。いつまでも可視化されなければ、現実にも存在していないかのように扱われるばかりですから。

しかし、2022年には日本で『恋せぬふたり』というアセクシュアル・アロマンティックを主題にしたドラマが放送されるなど、若干ながら脚光を浴びる機会が目立ち、表象に対する明るい希望も見えてきました。油断はできませんが、無いよりはマシです。

では日本以外の海外ではどうなのかというと、これは偶然のシンクロなのだとは思いますが、実は海外でもアセクシュアルのキャラクターが登場する映像作品が2022年に立て続けに生まれており、アセクシュアルの表象を求めていた界隈はにわかに活気づいています。

今回紹介するドラマはそんなアセクシュアルのキャラクターがメインで登場する2022年の作品です。

それが本作『インパーフェクト』

本作はカナダとアメリカの合作のドラマシリーズで、ドラマ『ヴァン・ヘルシング』でおなじみのカナダのスタジオである「Nomadic Pictures」が制作。ドラマ『ザ・オーダー 暗黒の世界』を手がけた“シェリー・エリクセン”“デニス・ヒートン”が企画原案に関わっています。

オリジナルの作品なのですが、世界観設定自体は既視感があります。主人公は3人の若者でとある実験によって特殊な能力に目覚めています。要するに「X-Men」と同類で、スーパーパワーを開眼してしまって社会から浮いてしまった若者たちを描く物語です。描かれる能力自体はとくに異色というわけでもなく、どこかで見たようなものばかりなのですが、『インパーフェクト』の特徴としてはわりとグロく、バイオレンス描写としては比較的容赦なくやっています。かといって重々しいわけでもなく、「サクっと人が残酷に死んでいく異能者モノ」ですね。

で、そんな主人公のひとりがアセクシュアルという設定になっています。ちゃんと作中内で「自分はアセクシュアルである」ということを明白に言及しており、第1話でもうその明言があるので、話は早いです。「アセクシュアルかもしれない」ではなく「アセクシュアルだ」と作品内で言い切っているのはいいですね。

アセクシュアル自体を主題にしているわけではありませんし、差別が描かれるわけでもないのですが、アセクシュアルであることを意識したドラマ展開があり、作り手がこのキャラクターのアセクシュアル設定をしっかり理解して活かしているのがわかります。

何よりこのようなコテコテのジャンルの作品にアセクシュアルのキャラクターが普通に登場しているのが嬉しいですね。わざわざ重苦しいテーマとして配置することもなく、この世界に当たり前にいる存在として当然のように描いてくれるというのは、多くの当事者が求めていた表象でしょう。

なお、アセクシュアルに対する差別的な言葉や態度が描かれることはないです。他の主人公もわりとあっさりそのカミングアウトを受け入れてくれます。

アセクシュアルのメインキャラクターを演じるのは、“リアナ・ジャグパル”という俳優です。カナダのバンクーバー出身ですが、家族はインド系のようです。

他の共演者は、実写ドラマシリーズ『ONE PIECE』で主役のモンキー・D・ルフィに大抜擢されているメキシコ人の“イニャキ・ゴドイ”、『Spooksville』『ゾーイの超イケてるプレイリスト』の“モーガン・テイラー・キャンベル”、ドラマ『マイ・ライフ 私をステキに生きた方法』の“イタリア・リッチ”、ドラマ『HELIX -黒い遺伝子-』の“キーラ・ザゴースキー”、『ル・ポールのドラァグ・レース』の“リース・ニコルソン”(ノンバイナリーです)、『レベル16 服従の少女たち』の“セリーナ・マーティン”など。

ドラマ『インパーフェクト』はNetflixで独占配信中。シーズン1は全10話で、1話あたり約45分です。

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『インパーフェクト』を観る前のQ&A

✔『インパーフェクト』の見どころ
★バイオレンスで勢いのある異能者モノ。
★アセクシュアルのキャラクターが登場。
✔『インパーフェクト』の欠点
☆物語は急展開が多く、やや散漫。
☆シーズン1だけでは世界観はほぼ謎だらけ。

オススメ度のチェック

ひとり3.5:どこかの要素に興味あれば
友人3.5:暇つぶしにでも
恋人3.5:ロマンス要素あり
キッズ3.0:残酷描写が多いです
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『インパーフェクト』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『インパーフェクト』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):もう人間じゃないの?

手術室で立ち尽くす3人。手術台には解剖されている真最中の人間がひとり横たわっています。興味津々なのはひとりだけで、他の2人は立ち尽くしているばかり。そのメスを入れられている人間の体内構造は他とは変わっているらしく、「私たちって人間なの?」と他の2人は困惑の顔で呟きます。

こうなってしまったのにはわけがある。その始まりは少し遡ります。

ティルダはバンドのボーカルであり、ツアーで熱唱していました。しかし、歌っている最中に頭痛がしたかと思うと、急に周囲の音が自分の頭に響くようになり、苦痛でその場を飛び出してしまいます。バンド仲間はそんなティルダに違和感を感じ、陰で心配しながら今後を語ります。その遠くの声もティルダの耳には聞こえていました。

アビ・シンは遺伝学を学んでおり、研究ができる進路を希望していました。ところが面接中に相手が急に陽気になり始め、自分に近づいた人が妙に馴れ馴れしく接してきます。まるで自分に夢中になっているようです。たまらずアビはその場を逃げ出します。これでは人に近づくこともできません。

フアン・ルイスはアメリカや日本のコミックに触発されて自分の漫画を描いていました。それは平凡なことですが、ひとつだけ気がかりなことがありました。急に知らない野原で目覚めていることがあるのです。しかも、なぜか自分の服や手は血のようなもので汚れている…。これは明らかにおかしいです。

この3人には共通点があり、3人ともピルを飲んでいました。それは自分たちが前から通っている専門家に処方されたもの。薬が足りなくなってしまったので、取りに行きます。

診察室の待合席で3人が揃います。仲がいいというほどではないですが、顔は知っています。アレックス・サルコフ先生に薬が欲しいと3人で押しかけると、サルコフは「急性遺伝子崩壊症候群(AGDS)は環境要因とヒトゲノムの相互作用が原因である」と得意げに語りだし、あまり深刻に考えていないようです。

ティルダはアビの体から発せられるフェロモンで急に夢中になり始め、すかさずアビは持っていた消臭スプレーでそのフェロモンを打ち消します。ティルダは聴覚過敏で、ヘッドホンをつけていないと音がうるさすぎて苦痛です。フアンは意識を失うことをたどたどしく説明しますが、「一番たいしたことないな」とサルコフは言います。

しかし、3人の症状はその後も悪化しました。ティルダはガラスを声で割ることができるようになり、アビは周囲の人間を無意識に夢中にさせてしまって集団に追われるハメになり、フアンは血塗れで目覚めて傍に犬の死体があったことに絶句します。

3人はもう一度集まり、互いの近況を報告。とりあえずサルコフを探しに行こうということで目的は一致します。

けれども例の診療所にはサルコフはおらず、シドニー・バークがいました。彼女もサルコフを探していたようですが、今はいないとのこと。「薬を飲んでも無駄よ」とバークは語り、これはウェルネス・プログラムと呼ばれるサルコフと2人で進めていた研究が土台にあり、今はサルコフが独断で何かをしていることを説明します。

人工幹細胞を用いた能力を持つ人間の開発という、予期していなかった研究に巻き込まれたことを知り、困惑する3人。

しかし、そこに別の男が乱入し、急に襲ってきます。そして獣化したフアンがその男を八つ裂きにして返りうちにしてしまいました。さらにこの男は即死間違いなしの状態でも生きており、再生能力を持っていることがわかり、同じように得体のしれない存在になってしまったのではと3人は事の深刻さを痛感し…。

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アセクシュアル的な「X-Men」設定

ドラマ『インパーフェクト』ですが、作品全体の感想の前に、本作のアセクシュアルのキャラクターに関するレプリゼンテーションの側面で私の感想をだらだらと書いていこうと思います。

本作の主人公のひとりであるアビは遺伝学に情熱を注ぐ科学系の若者ですが、自分はアセクシュアルであると語っています。作中では「ace(エース)」とセリフで言っているのですが、これはアセクシュアル(asexual)の通称のこと。つまり、アビは他者に性的に惹かれない性的指向だとオープンにしている人間です。

ところがサルコフの研究のせいで、ある能力に開花。それは無意識のうちに体からフェロモンを発し、それを嗅いでしまった周囲の人間はアビに夢中になってしまうというもの。要は惚れさせてしまいます(作中では「サキュバス」と揶揄われますが、相手が強引に性的関係を求めてくるとか、そういう暴力性にならないような描写の配慮がちゃんと効いているので比較的安心して観られる)。

こういう相手をセクシーな魅力で釘付けにするスーパーパワーというのはそれこそセクシーであることにポジティブなキャラクターが使いこなしていることが同ジャンルでは定番なのですが、『インパーフェクト』ではアビをアセクシュアルであるという設定にすることで、その定番をあえて外しています。

これは作中でアビも言っていますが、相手を魅了できるなんてメリットに思えますし、ティルダやフアンも最初はそう考えますが、そこでアビは「私はアセクシュアルだから」と答える。つまり、アセクシュアルにとって「相手を魅了する」というのは嬉しくないし、むしろデメリットだという、この当事者だからこその能力の嫌悪感を表明しているわけです。

そしてこれはアセクシュアルであるアビにとって恐怖の具現化でもあって、作中で「同級生のポールが自分に気があるのかもしれない。フェロモンのせいで、友達のままでいられなくなったらどうしよう」という不安の打ち明けでも表されています。どうしてもアセクシュアルの当事者はどうしたら他者と性的関係にならずに穏便に過ごせるかを考えてしまうものですからね。

マーベルの「X-Men」はセクシュアル・マイノリティを重ねた作品だと言われてきましたが、この『インパーフェクト』はその流れでアセクシュアル的な設定のキャラクターを拡張開発しており、しっかり当事者の悩みや不安を汲み取ったキャラクター構造にしていて感心しました。

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愛されるチュピもいいけど

アビはその後、相手を魅了するフェロモン(黄色)だけでなく、不安を生じさせるフェロモン(青色)だったり、攻撃性を刺激するフェロモン(赤色)だったりと、どんどん能力のバリエーションが増えていきます。敵相手でどうしようもない状況であれば、この魅了フェロモンも駆使するようになります。その成長はアセクシュアル当事者が自身の「他人から惹かれたらどうしよう?」という不安とどう向き合うかを模索しているようでもあります。

消臭スプレーで効果は消えるのですが、こうやっていちいち消臭スプレーを吹っかける姿は、世間のそういう性的魅力が当然という空気にうんざりしているアセクシュアル当事者の抵抗を示しているようでもありますし、ささやかな反撃の描写としてもスカっとしました。私も世の中に消臭スプレーをぶっかけてやりたいですからね。

念のために補足解説を付け加えておきますが、現実には「相手を性的に魅了させるフェロモン」は存在しません。一部の昆虫などで確認されている性フェロモンは発情期を知らせる役割として機能するものです。あくまでSFドラマとしてのフィクションなので勘違いしないでくださいね。

そんなアビと関係を深めるのがハンナ・ムーアです。ハンナはどうやらアビに魅力を感じ始めたようで、わざわざハンナ自らが消臭スプレーを使ってこのドキドキがフェロモンのせいではないことを確認します。アビはどう思っているのかはわかりませんが、ハンナのことはかなり思いやっている様子が窺えます。

アビはアセクシュアルではあるでしょうが、アロマンティック(他者に恋愛的に惹かれない)なのかはシーズン1のエピソードだけだとわかりません。「ace」と表明しているだけでしたし、この「ace」はアセクシュアル・アロマンティックの総称という意味でも使われるので、アビがアロマンティックでもある可能性はあります。一方で、アロマンティックではなくハンナとサフィックに恋愛的関係になってもいいでしょうし、恋愛とは違う親密な関係を築いてもいいでしょう。そのへんもこのドラマなら丁寧に描いてくれそうです。

アビの話はこれくらいにして、他の主役2人も面白かったですね。とくにフアンはチュパカブラ化するうえで、恋人のダーシーが「美女と野獣」好きでこの獣姿を「チュピ」を愛称をつけてなんか惚れ込んでいるような気がするというくだりは笑ってしまいます。踏んだり蹴ったりなフアンの性格がまた可愛いし…。

マッドサイエンティスト感が満載のアレックス・サルコフと、さらに真意が読めないシェイプシフターのシドニー・バーク&イザベル・フィンチ、そして最終話で顔見せしたサルコフの父と思われる組織「フラックス」の黒幕…。展開としてはまだまだ謎だらけです。

フアンとアビは治療をしましたが、なんか治っていないようで、最終話ではフアンの腕はまた怪物化し、アビにいたってはみたいなのに覆われていましたからね。ティルダは能力で困っている異能者を救うバンシー・ガールになっていましたが、街でモンスターウイルスが広がっているというニュースを耳にし、どう行動にでるのか…。個人的にはメカ鼻男となったエージェント・スポンソンもわりと好きです(あの鼻のせいでフェロモンは効かないとか、強引だけどよく考えたな…)。

このままパワーアップして続編が作られてほしいですが、どうなるかな…。

『インパーフェクト』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer –% Audience 78%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『インパーフェクト』の感想でした。

The Imperfects (2022) [Japanese Review] 『インパーフェクト』考察・評価レビュー