アダム・ドライバーは恐竜にも大人気…映画『65 シックスティ・ファイブ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本公開日:2023年5月26日
監督:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ
65 シックスティ・ファイブ
しっくすてぃふぁいぶ
『65 シックスティ・ファイブ』あらすじ
『65 シックスティ・ファイブ』感想(ネタバレなし)
「65」って何?
恐竜は「隕石の衝突」によって絶滅した…これは一般にも広く知れ渡った学説です。みんな「そんなの知ってるよ? 当たり前でしょ?」みたいな反応だと思います。
でもこの学説はいつからあったのか。それはあまり知られていません。
その発見は1980年でした。物理学者の“ルイス・ウォルター・アルバレス”とその息子の“ウォルター・アルバレス”が、「K-Pg境界」(かつては白亜紀と第三紀の境と見なされ、K-T境界とも呼ばれた)の地質年代区分の地層で、通常の数百倍の濃度のイリジウムを観察しました。イリジウムは小惑星に多く含まれる成分で、普通の地球上の地殻地層では多量に見つかりません。
つまり、これは「この時期に小惑星の衝突があった」という証拠になります。以前から地球に小惑星がぶつかった過去があるのではという指摘がありましたが、ついに確証が得られました。
こうして「恐竜はこの小惑星の衝突によって滅んだ」という学説が確立し、発見者の名に因んで「アルバレス仮説」と呼称されるようになりました(Natural History Museum)。
1980年代からこの学説が世間に知れ渡るようになり始めたので、これ以前と以降では恐竜を描く作品の描写も変わっています。例えば、ディズニーの『ダイナソー』(2000年)は隕石のインパクトが恐竜たちに甚大な被害を与える様子を生々しく描いていますが、同じくディズニーの『ファンタジア』(1940年)では恐竜は干ばつによって滅んだような描写になっています。
実際は小惑星の衝突が全てということでもなく、それによって起きた環境変化など、ある程度の中・長期的なカタストロフィが恐竜などの多くの生命を滅ぼし、一部の鳥類や哺乳類、虫などは生き残った…というのが大まかな現在の推測だそうです。
ともあれ、今は恐竜は隕石の衝突によって絶滅した…という認識は定着しましたよね。
では、その隕石の衝突時に“アダム・ドライバー”もいたってご存じですか? ええ、あの“アダム・ドライバー”です。最近の『スター・ウォーズ』シリーズではカイロ・レンを演じて人気となり、『ブラック・クランズマン』『マリッジ・ストーリー』『最後の決闘裁判』『ハウス・オブ・グッチ』『ホワイト・ノイズ』と立て続けに話題作に出演している、引っ張りだこな俳優。
“アダム・ドライバー”は恐竜と一緒にあの歴史的現場にいたんですよ…。
何を言っているんだと言われそうですが、はい、映画の話です。
今回紹介する映画、『65 シックスティ・ファイブ』のこと。
本作は、“アダム・ドライバー”演じる主人公がある星に不時着するところから始まります。で、これはもう宣伝でも何も隠していないですし、ポスターにめちゃくちゃデカデカと「辿り着いたのは6500万年前の地球」って書いてるのでもういいと思うのですけど、そこは地球。恐竜さんたちが「やっほ~い」って駆け回っていた時代でした。
“アダム・ドライバー”演じる主人公は地球外の存在なので、恐竜を見て「うわ、なんだこの化け物!?」とびっくり仰天。しかも、隕石も降ってくる。そんなシチュエーションでのサバイバル・スリラーです。
最初聞いたときは「なんだ、そのB級映画みたいな設定は!?」「しかもアダム・ドライバー主演かよ!?」と驚いたのですが、製作が“サム・ライミ”のスタジオだと聞いてなんか納得。“サム・ライミ”なら作るよね、こういう荒唐無稽なやつ…。
タイトルの「65」って何?…と思うかもですが、これは6500万年前の地球が舞台だからです。ほんと、ただそれだけです。年金が受給できる年齢も原則65歳からだけど、本作とは関係ありません(当たり前)。
それにしても邦題の『65 シックスティ・ファイブ』…カタカナで数字の英語読みを表すとなんだか英語の初心授業に戻った気分…。
『65 シックスティ・ファイブ』の監督&脚本は、『クワイエット・プレイス』の脚本を手がけた“スコット・ベック”と“ブライアン・ウッズ”です。2019年には『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』も監督しています。
ほぼ“アダム・ドライバー”がでずっぱりで恐竜とたわむれている物語なのですが(そういう映画じゃない)、その“アダム・ドライバー”と共演する数少ない本作の出演者のひとりが“アリアナ・グリーンブラット”という子役。『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』で幼いガモーラを演じていたほか、『AWAKE/アウェイク』(2021年)などに出演していました。
“アダム・ドライバー”は絶滅してしまうのか…ぜひその目で確かめてください。
『65 シックスティ・ファイブ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :俳優ありきだけど |
友人 | :俳優好き同士で |
恋人 | :家族愛要素あり |
キッズ | :恐竜好きなら |
『65 シックスティ・ファイブ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):この星の名は…
無限に広がる宇宙。その銀河に漂うひとつの星。惑星ソマリスは高度に発達した文明を持つ世界。
その浜辺で、ミルズは妻のアリアに体を密着させつつ、娘のことを案じていました。今、娘は波打ち際で風を受けて立っています。しかし、娘の体は病気に蝕まれており、その治療のためにはお金が必要でした。そしてそれを稼ぐ手段として選択できるのは、2年間の宇宙遠征に出かけることだけ。
ミルズは妻を説得します。娘は咳き込んでおり、背中をさすってあげるミルズ。2年間だけ。それできっと娘は救われるのだ、と。
両手を包み込むようなかたちにして息を吹きかけて音をだす方法を娘に教えるミルズは、この娘との時間をもっと味わうためにも、意を決して出発することにしました。
宇宙船。このゾイック探査船はミルズがパイロットを務めており、他の乗客はスリープ状態です。
宇宙を進んでいたある日、その宇宙船が小惑星の群れに突っ込みます。激しい揺れと共に警報が鳴り響き、すぐにパイロットのミルズは操舵しますが、エンジンを吹かして脱出を試みるも船体は急降下。船体表面が激しく燃えながらある星に凄まじい勢いで不時着してしまいます。
目を覚ますと、激痛。自分の体に刺さった破片を取り除き、よろめきながら救急医療セットで処置します。
宇宙服を身に着けて船内を調べると、激しく損傷しており、中にいたスリープ状態の人たちは全滅。もうミルズだけです。
外へ出ると、そこは夜の森のようで、慎重に進みます。外にも人が投げ出されており、無惨な遺体が沼地に半分沈んでいました。
船内に戻り、なんとか電源を回復。所在位置は不明だとコンピュータは告げています。音声記録を残し、船は半分に壊れ、修復は厳しいと状況を整理。つまり、ここにいる生存者は自分だけ。脱出の術も無し。
これはもう自分も死ぬしかない。娘のことを思い浮かべながらそう考えるも、娘のアーカイブ映像を見つつ、この無念を噛みしめます。
そのとき、操縦席のモニターがある乗客の位置データを表示します。もしかして生存者がいるのか…。
見に行ってみることにし、外のその地点につくと、コアという名前の少女がスリープ状態で無事でした。装置をこじ開けて救出。
連れて行こうと抱えて戻ることにします。そこで、巨大な足跡のようなものを発見。足跡がこの大きさなら体長はどれほど巨大なのか…。今はとにかく宇宙船に帰ることを優先です。
船に戻り、翌朝。少女は目覚めていないようだと確認し、部屋を出ます。その直前に少女はゆっくり目を開けているのですが、ミルズは気づきません。
外を今回も探索。間欠泉の噴き出る開けた場で巨大な骨を発見し、それには鋭い牙もずらりと並んでおり、その生物が凶暴さを備えていることを窺わせます。
そんな中、外で少女を見つけ、追いかけます。どうやら外に出てしまったようです。咆哮が背後から聞こえ、2人は急いで帰ることにします。
コアは言語が違うようで、絵でなんとかコミュニケーションをとります。納得させるために、山の頂上に家族がいるとテキトーに嘘をつき、本当はもう半分の宇宙船を探すだけだということを伏せておきます。生存者は他にはいないのは確実です。
2人は知りません。この地球という惑星には、あと少しで小惑星が衝突し、多くの生物が滅ぶということを…。
英語、ペラペラじゃないか…
ここから『65 シックスティ・ファイブ』のネタバレありの感想本文です。
あらためて考えるとものすごく強引な出だしで始まる『65 シックスティ・ファイブ』。
まず主人公のミルズがいる惑星ソマリス。なんか“アンドレイ・タルコフスキー”監督の『惑星ソラリス』みたいなネーミングですが、この本作の惑星ソマリスがどういう星で、どういう文明があるのかは、ほぼ説明されません。宇宙船の雰囲気から技術力はそれなりのようですけど、病気などの医療技術はそれほど高度に発達しているわけでもないようで、宇宙船自体の設備もわりとダメになるときはダメになる…そんなレベル。今の地球に少し上乗せした程度のテクノロジーなのか。
そして別の惑星に不時着して、大型生物の足跡を発見してから、やっと「65」とタイトル。「6500年前、地球」の文字。
なんだろう、急に説明しだしたけど、観客を納得させる方法としてすごいゴリ押しだ…。
こういう「○○年前」という説明文を作中で表示させるときって、そのタイムスケールを観客も作中登場人物も共有しているときに使うものじゃないのかなと思うのですが、ミルズにしてみれば「6500万年前とか何のこと?」って話ですよね。
このやりかただとまるでミルズのいた母星が「未来の地球」でミルズが何かの拍子に6500年前にタイムスリップしちゃったみたいに錯覚しますけど、そういう物語ではないわけで…。
にもかかわらず、ミルズは普通に地球人(人間)の姿だし、人類とは異なる生命の特徴を描くこともありません。しかも、英語をペラペラ喋ります。作中では英語が通じないコアのために、「water」「move」「sleep」「home」など、やたら英単語勉強講座が唐突に始まるので、余計に英語というものが際立ちます。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』みたいなSF映画だって全編は基本英語でも、一応は翻訳機などを登場させて、言語面でのリアリティラインを補強しているのですが、この『65 シックスティ・ファイブ』はそういう考慮は一切無いです。というか、翻訳機はなんでないんだ…。
こうなってくるといろいろSFとして穴が多すぎるというか、納得いかないまま物語だけが淡々と進行していくことになりますよね。
そして「6500万年前の地球だった!」という序盤で普通に明かされる情報以外のサプライズは何も無し…。
これだったらまだ「実はミルズの母星は6500万年後の地球の第65個目のコピー惑星だった!」みたいなオチでもあったほうが、辻褄という意味でも多少の納得はいくんじゃないかな…。
タイトルが間違っていた
結局、『65 シックスティ・ファイブ』は“アダム・ドライバー”が恐竜に襲われる展開を見せ場にしたいのです。そこに見知らぬ少女との家族愛的な絆の要素も加えておけばよい、と。
この“アダム・ドライバー”演じるミルズと、コアという少女の、よくわからない交流もシュールな空気で、微笑ましいと言えばそれはそう表現できるかもですが、冷静になれば「一体何を見せられているんだ」って感じでもあります。
デカい虫を手でつぶしてしまって笑われるミルズとか、花を頭につけられるミルズとか、樹から盛大に落ちるミルズとか、底なし沼に沈むミルズとか…。大丈夫かな、こいつ…。死んでいないのが不思議。
そしてサスペンスの演出要素としてのみ登場する恐竜たち。ほんと、それだけです。恐竜が息づく雄大な自然を見せるとか、そんな『ジュラシック・パーク』にだってあった風情は1ミリもありません。
この恐竜たち含むモンスターとしての現住生物については、科学的な考証はかなりいい加減です。やけに凶悪そうな見た目のティラノサウルス・レックスもなぜかは知りませんが執拗にミルズたちをストーカーして強襲してきます。
ミルズは恐竜を引き寄せるフェロモンでもでてるのかな…。それか恐竜の世界では“アダム・ドライバー”はファンダムも盛況で大人気なのか…。あれか、フォースのせいなのか?
小隕石が落ち始める中でも恐竜が宇宙船を襲ってくるのはさすがにサスペンス通り越してギャグになっちゃわないか?と心配になってきていましたよ。あの恐竜も空を見上げてごらんよ、滅多にない光景だよ…。
あとこの映画の科学考証でこれは言っておかないといけないのは、実は2012年あたりから科学界では恐竜の大絶滅が起きたのは6500万年前ではなく6600万年前であると修正が入ったんですね。なので最新の知見に基づけば、この映画の物語みたいに6500万年前の地球に行っても、もう小惑星の衝突が起きた後で恐竜はいません。“アダム・ドライバー”、たぶん鳥とかとたわむれることになるな…。
なので「65」っていうタイトル自体が間違っています。正しくは「66」にしておかないと…。
SF映画として小惑星ではなくてツッコミが降ってくる数は、他より群を抜いている作品でした。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 35% Audience 65%
IMDb
5.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
アダム・ドライバー主演の映画の感想記事です。
・『ホワイト・ノイズ』
・『ハウス・オブ・グッチ』
・『アネット』
作品ポスター・画像 (C)2023 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved. シックスティファイブ
以上、『65 シックスティ・ファイブ』の感想でした。
65 (2023) [Japanese Review] 『65 シックスティ・ファイブ』考察・評価レビュー