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『氷がすべてを隔てても』感想(ネタバレ)…Netflix;犬好きには苦痛すぎる映画だけど

氷がすべてを隔てても

犬好きには苦痛すぎるけど…Netflix映画『氷がすべてを隔てても』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Against the Ice
製作国:デンマーク・アイスランド(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にNetflixで配信
監督:ペーテル・フリント
動物虐待描写(ペット) 恋愛描写

氷がすべてを隔てても

こおりがすべてをへだてても
氷がすべてを隔てても

『氷がすべてを隔てても』あらすじ

不毛な極寒の大地は人間の住む環境ではない。しかし、遠征隊が残した地図を回収するため、このグリーンランドを探検しなければいけない。隊長と一緒に同行することを名乗り出る者はまずいなかったが、ひとりだけこの無謀な旅に参加する人間が現れた。その同行者は探検の経験もろくにない未熟者であり、隊長には不安しかもたらさない。それでも出発するしかないので2人は命賭けの挑戦へと身を投じる。

『氷がすべてを隔てても』感想(ネタバレなし)

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グリーンランドは誰のもの?

子どもだった私は世界地図を広げて眺めていたとき、「グリーンランド」という地名があるのに気づきました。当時、まだ素直で純真だったので「グリーンかぁ…緑いっぱいの場所なんだろうなぁ(わくわく)」という楽園のような世界を想像していました。まさか雪と氷の大地だとは思わないじゃないですか。北極圏なんて概念は子どもの私は知らないし、地図が真っ白なのも本当に氷床と万年雪に覆われているからだとは…。名称詐欺ですよ…。

このグリーンランド、名前の由来は諸説あるのですが、ヴァイキングの「赤毛のエイリーク」が入植者が増えるようにと願いを込めて名付けたという説もあります。

グリーンランドはもうひとつ誤解を招く要素があって、それは面積。日本でよく使われている世界地図ではグリーンランドは巨大な土地として描かれていますが、これは正確ではなく、実際の面積比率より拡大表示されています。実際のグリーンランドは日本列島がすっぽり入る程度の広さです。といっても、北海道なら約26個分の面積なので、じゅうぶんに広いですけどね(しかも大半が不毛の地)。

そのグリーンランドは国名ではありません。今はデンマークの一部(自治領)となっています。しかし、歴史的には色々な紆余曲折がありました。

今回紹介する映画はそんなグリーンランドの歴史の一端が覗ける作品です。それが本作『氷がすべてを隔てても』

本作は1910年代にグリーンランドを探検した実在のデンマークの探検家たちを描くものです。その目的は領土問題です。当時はアメリカは「グリーンランドの北部はピアリー海峡で完全に分断されている」と主張し、グリーンランドは島であれば発見したものが領土にできると考えました。つまり、アメリカの土地であるということです。一方でデンマークは1536年からグリーンランドをデンマーク領としており(その前はノルウェーだった)、真っ向から対立することになってしまいます。アメリカ側の主張はアメリカ人探検家“ロバート・ピアリー”の発見が根拠にあるのですが、デンマークはこの発見を覆す必要に迫られたのです。そこで遠征隊を送ることに…というのが経緯です。

ちなみにこの「デンマークvsアメリカのグリーンランドは誰のもの!?」論争は1917年にアメリカ合衆国がデンマーク領ヴァージン諸島を買収することである程度の妥協点ができたのですが、その後に世界大戦が勃発。デンマーク本国がナチス・ドイツに占領されたこともあって、一時的にアメリカの保護下にグリーンランドが置かれたりもしました。現在もたまに「グリーンランドはアメリカのものだ!」と主張する輩は現れます(ドナルド・トランプとか)。

『氷がすべてを隔てても』に話を戻すと、本作は極地探検モノであり、ジャンルは実話サバイバルですね。もちろん歴史がベースにあるとは言え、それなりに脚色はされていますが…。サバイバルのシチュエーションとしては『残された者 北の極地』なんかと同じと思ってもらえれば。

監督はデンマーク人の“ペーテル・フリント”。1997年に『Eye of the Eagle』という作品で長編映画監督デビューし、多数の賞に輝きました。

俳優陣は基本的に2人で探検するのでとても少ないのですが、ひとりはデンマーク人の“ニコライ・コスター=ワルドー”、もうひとりはイギリス人の“ジョー・コール”です。なお、“チャールズ・ダンス”も出演しており、『ゲーム・オブ・スローンズ』のジェイミー・ラニスター役で知られる“ニコライ・コスター=ワルドー”は父子役で縁があり、またも共演ということになります(本作ではそんな関わらないけど)。

『氷がすべてを隔てても』は探検モノ好きにはオススメの一作なのですが、ひとつ重大な注意事項が…。

全国の愛犬家の皆さんにはとても残念なお知らせをしないといけない…。

この映画、犬には過酷な運命が待っています…。それもワンシーンだけじゃないのです。もう何度も何度も…。犬好きの心を串刺しにして拷問にかけるような、苦痛の内容になっていますので、鑑賞の際は覚悟してくださいね。私もこれほど犬が酷い目に遭いまくる映画はここ数年で初めてかも…。まあ、これが現実なのだろうし、しょうがないのかもしれませんが、犬たちよ、どうか安らかに…。

『氷がすべてを隔てても』は日本ではNetflixで配信されています。

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『氷がすべてを隔てても』を観る前のQ&A

Q:『氷がすべてを隔てても』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2022年3月2日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:探検モノが好きなら
友人 3.5:関心ある者同士で
恋人 3.0:ロマンスはややあり
キッズ 3.0:犬好きの子には見せづらい
↓ここからネタバレが含まれます↓

『氷がすべてを隔てても』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):雪に眠る記録を捜すために

1905年のグリーンランド(ピアリーランド)。この地を探検しに来たアラバマ号の隊員たちは、船を離れて出発した隊長の帰りを待っていました。そして、雪と氷の大地を犬ぞりで駆け抜けて戻ってきたアイナー・ミケルセン隊長を出迎えます。そのそりにはヨルゲンセンという別の隊員もいて、重傷でした。すぐさま船の中に運び、手当をしますが、足の先が凍傷で真っ黒です。これはもう壊死しており、切断するしかありません。ヨルゲンセンは酒を飲み、これから迫る激痛を覚悟します。そして仲間が足の指をペンチで折り…。

1909年。クリスマスイブになり、みんなで祝いとして温かい食事を囲んでいたとき、隊長のアイナー・ミケルセンがおもむろに語ります。デンマークの遠征に参加してくれたみんなに乾杯を捧げるも、話題は単なる祝いの言葉だけではありませんでした。

実は以前、このグリーンランドを調査遠征したチームがいましたが、そのミリアス・エリクセンたちの先発隊は全滅してしまっていました。ミケルセン隊長はその先発隊のひとりの遺体を発見した人物であり、その遺体が握っていた隊員の日記と地図を持っていました。そこにはケルンの場所が記されており、おそらくミリアス・エリクセンの記録が保存されているはずだと考えていました。

ケルンとは人間が積み上げた石の構造物のことで、探検時はそれを目印にしたり、その積み石の中に食料や品物を保存しておいたりします。

ミケルセン隊長はそのケルンにある記録を回収すべく、もう一度捜索に行くつもりだと宣言します。そうしないとアメリカにグリーンランドを奪われるかもしれないのです。

「君たちの中からひとり同行者を募る」と告げますが、同席者は一様に暗い顔で目をそらします。この探検の過酷さは誰もが知っていたのです。限りなく死に近い行為だということも…。

けれどもその中にひとりだけそうじゃない人間が…。アイバーソンはあまり待ち受ける過酷な試練を気にしていないようでした。そして「同行したいです」と名乗り出てきます。

しかし、アイバーソンは犬の扱いもできておらず、今さら仲間から教わる状態です。役に立たなくなった犬は撃って他の犬の餌にするから仲良くするなと指示されるも、すっかり犬と仲良くなります。

隊長はアイバーソンが有能だとは思っていません。そもそも整備士です。探検の経験がありません。でも他にいないのでやむを得ない…。

1910年3月。2人で記念撮影し、「8月に会おう」と船の仲間に別れを告げ、出発。1日目の始まりです。

アイバーソンは何もわかっていないのか陽気。目の前に雪の山が広がり、滑落すれば死という環境。犬が斜面を登り、後ろから重いそりを押します。氷の壁を乗り越えることに成功。あたりを見渡し、月みたいだと楽し気なアイバーソン。

キャンプをすると、アイバーソンは隊長のファンでその功績に惚れ込んでいるようでした。隊長にしてみれば苦い経験ばかりが蘇ります。

26日目。吹雪を乗り越え、またもキャンプ。アイバーソンはエリクセンの話を持ち掛け、隊長はおもむろに語ります。後悔が滲みます。

少し仲良くなった2人は道なき雪の大地を犬ぞりで滑走。しかし、速度を出しすぎて、アイバーソンは置いていかれ、そりと犬だけが溝に落下。先頭の犬ビョーンが1匹だけ深い崖に落ちそうになります。足場は悪く、このままではそりごと落ちかねない状況。「犬は忘れろ」と隊長は言いますが、アイバーソンは助けようと必死。それでも紐が切れて犬は落下し…。

食料を含む多くの品を失い、この探検の残酷さを思い知らされます。隊長はアイバーソンの軽率な行動を叱りますが、これは序の口でした…。

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犬と仲良くなってはいけない

『氷がすべてを隔てても』は大きく分けて前半と後半でトーンが違います。

前半はわかりやすく探検パートです。記録が残されているはずのケルンを目指して地図を頼りにグリーンランドの危険な氷と雪の大地を進みます。もちろんGPSなんてありませんし、そもそも周囲が同じような光景ばかりなので目印もろくにありません。太陽の位置などの方角を頼りに、測量をしつつ、地図のポイントをおおよそで特定しながらの前進になります。とても高度なスキルが要求されるわけです。

ただ、絵面としては地味です。ただ雪上を走っているだけですから。しかし、この探検が一歩間違えれば何をもたらすのか、その怖さを映画冒頭の足指切断シーンで提示してくれるので、知識のない観客にも最低限の説明はされます。

けれどもやはり観客の経験によってもこの映画のサバイバルで感じる怖さは違うでしょうね。冬場の恐怖を知っていると身に染みて映像からリアルな危険性が体感できるのですが…。私は雪国出身なので寒さというものがじわじわと人間の体力と精神を蝕んでいく感覚がよくわかります。本当に極寒というのは心を麻痺させる効果がありますからね…。

加えて、犬ですよ。今作の犬は旅の癒しの仲間ではないのです。道具であり、非常食にすぎない。この残酷さを受け入れないといけないというのがまた追い打ちで…。どんどん人間性というものが喪失していく…。

しかし、ぼーっともしていられない。ホッキョクグマの登場です。今作におけるホッキョクグマとの遭遇シーンはかなり演出的に怖く、まさについにやってきた死の象徴であり、死神(パワータイプ)みたいなものです。熊に襲われるミケルセン隊長を助けようと発砲するアイバーソン。その熊が息絶えてそのまま隊長の上に倒れて氷までぶち破り、水中に落下してしまうという展開も緊迫感がありました。

ケルンは見つけたものの、帰りに犬もそりも失い、もはや2人だけの旅路となったラストに待ち受けるのは…最悪のオチ。仲間に置いていかれる。164日目にしてこのゴールの絶望。これは心が壊れるのも無理はないです。

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こういう人間の方が向いている

『氷がすべてを隔てても』の後半は、仲間に置いていかれ、粗末な小屋での、救助が来るのかも確信がない環境でのエンドレスな耐久戦となります。自然環境での旅路よりは安全かもしれないですが、この後半戦は心を消耗する、恐怖の地獄と化します。

とくにそれでやられてしまうのが隊長です。女性の幻覚が見え、ずっと語り合ってしまうような段階にまで追い詰められます(まあ、その原因を作ったのはアイバーソンの見せた写真のせいではあるのですけど)。頼れるはずの隊長が完全に廃人になりつつある中、このサバイバルは死の瀬戸際で実在すらも怪しくなってきます。

この男2人での極限環境での対立の発生。『ライトハウス』(こちらは灯台ですが)と同じ構図があり、さまざまな男らしさの吐露がなされ、刃になって相手にぶつかったり、男という存在の醜態が現れるシチュエーションです。本質的に男というのは社会の下駄をとってしまうとこんなにも弱い生き物であることを示すかのように…。

一方で際立つのはアイバーソン。彼は序盤は本当に何もわかっていない無邪気さ。あの無垢そうな顔がそれを物語っていました。仲間からもバカにされてしまっていましたが、そうなるよねという感じ。

でもアイバーソンは意外にもサバイバルしていきます。隊長の心が折れてしまっても、アイバーソンはわりと平気。猟をしながら地道に食料品を調達していき、生活を維持しています。865日目の全日程で後半を生きられたのは間違いなくアイバーソンのおかげです。

本作を観ていると、アイバーソンみたいに精神面で図太い、鈍感、空気の読めない人…こういう人柄の方がサバイバルに適しているんだなとわかりますね。『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』でも過酷で孤独な水中洞窟をダイビングするダイバーの男たちの多くが、協調性が無くて孤立しがちな人物であるということが示されていましたが、やはり極限環境サバイバルにはそういう人がフィットするのでしょうか。

結果的にアイバーソンという人選は大正解なのでした。私も人を選ぶ際は参考にしよう(そんな機会があるかな)。

『氷がすべてを隔てても』のエンディングは随分とロマンチックな結末になっており、それまでの雰囲気と比べると甘々な気もしますが(政治的な駆け引きに利用されているという面での批判も乏しい)、個人的には犬に敬意をもっと捧げても良かったかな…。

でもあのナヤ・ホルムという女性の背後にたくさんの犬の霊とか映っていたらギャグだもんな…。

とりあえず私は心に犬の慰霊碑を立てておきます。

『氷がすべてを隔てても』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 52% Audience 42%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix 氷が全てを隔てても

以上、『氷がすべてを隔てても』の感想でした。

Against the Ice (2021) [Japanese Review] 『氷がすべてを隔てても』考察・評価レビュー