令和最初のスクリームをどうぞ!…映画『スクリーム』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年に配信スルー
監督:マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット
ゴア描写 恋愛描写
スクリーム(2022)
すくりーむ
『スクリーム』あらすじ
『スクリーム』感想(ネタバレなし)
あなたのお気に入りのホラー映画は?
「あなたのお気に入りのホラー映画は何ですか?」
…そんな質問をされたら真面目に考えこんでしまう人もいるでしょうし、全然ホラー映画を見たことがなくて答えがでてこない人もいるでしょう。
しかしホラー映画マニアならこう思うはず。これは『スクリーム』のネタだと。
ホラー映画、とくに「スラッシャー・ホラー」(マンハントともいう)と呼ばれるジャンルは昔から人気です。これは要するに恐怖の殺人鬼がでてきて人がいっぱい殺される映画のことです。
1970年代から1980年代にかけてはスラッシャー・ホラーの黄金期と言われ、『悪魔のいけにえ』(1974年)、『ハロウィン』(1978年)、『13日の金曜日』(1980年)など多くの代表作が生まれました。
そんな伝説が誕生したジャンル全盛期がひと段落ついた1990年代の後半。突如として出没したのが1996年に公開された『スクリーム』でした。同じくスラッシャー・ホラーである『エルム街の悪夢』(1984年)の監督だった“ウェス・クレイヴン”が手がけた本作『スクリーム』はこれまでの同ジャンル作品とひと味違いました。
殺人鬼が登場するのは同様です。『スクリーム』の場合はゴーストフェイスのマスクをかぶった奴が人を殺しまくります。ただこの『スクリーム』という映画は1970年代から1980年代にかけてのスラッシャー・ホラー作品群を盛大にパロディにしているのです。その当時に築かれたジャンルのお約束をあえておちょくるような展開を用意したり(例えば「スラッシャー映画の物語ではキャラがセックスをすると死ぬ」など)、登場人物がホラー映画に言及してみせたり(例えば殺人鬼が「What’s your favorite scary movie?」と聞いてくるという恒例場面がある)、とにかくメタな視点がてんこ盛りです。やはり観客は70年代~80年代のスラッシャー映画を飽きるほどに見尽くしているので、そんな目の肥えた観客の理解を踏まえたうえでのオタク的な発想で作られている…それがこの『スクリーム』でした。
1996年の『スクリーム』はカルト的な人気を獲得し、翌年の1997年には続編の『スクリーム2』が公開されます。すると今度は作品内で1作目に起きた事件を題材にした映画(「Stab(スタブ)」というタイトル)が作られたという世界観設定になっており、『スクリーム』自体をパロディにするという、自虐ネタで突き進むという潔さを発揮。2000年には『スクリーム3』という3作目も作られます。
しかし、あまりに煽りまくるようなネタ度が強すぎたせいか、「若者の犯罪を助長している」という批判の声があがり、実際に影響を受けたかに見える殺人事件も起きてしまったりもしました。
けれどもこの『スクリーム』シリーズはそこで止まらない。2011年の4作目『スクリーム4: ネクスト・ジェネレーション』では『スクリーム』(作中では「スタブ」)の影響を受けて殺人を起こそうとする若者を登場させ、そのリアルな社会の反応さえもパロディにしてみせ、徹する姿勢を貫いてきました。
そんな『スクリーム』ですが監督の“ウェス・クレイヴン”が2015年に亡くなってしまい、シリーズはどうなるのだろうと思っていたら、2022年に5作目となる新作映画が公開されました。
それが本作『スクリーム』です。
あれ、タイトルは「スクリーム5」ではないの?という感じですが、原題も「Scream」。でもリメイクでもリブートでもなく、しっかり物語は4作目から繋がっています。じゃあなぜこんなタイトルにしたのか。それは昨今のホラー映画の「原点回帰を重視し、過去の俳優を再演させて新規俳優と織り交ぜる」という流行り(「Legacyquel」とスラングで呼んだりする)を踏襲してそのトレンドをパロディにしているからで…。さすが『スクリーム』。どんな時代でもパロディ精神を失わない。
ということで2022年の5作目の『スクリーム』は過去の俳優陣と新たな若手の俳優陣が混ざり合いながら、相も変わらずオマージュやメタな展開が炸裂する、とてもオタク向けな映画に仕上がっています。
監督は、強烈な悪趣味全開で観客を楽しませた『レディ・オア・ノット』の“マット・ベティネッリ=オルピン”と“タイラー・ジレット”のコンビであり、『スクリーム』も見事に遊び尽くしてくれました。この監督はやっぱりこういうノリの映画が上手いですね。
そんな5作目『スクリーム』なんですが、日本では劇場未公開でビデオスルーになってしまうという悲しい事態が…。ホラー映画好きのオタクが盛り上がれる内容なのに、それを映画館で公開しない日本なんて…。
排外されて傷心気味ですが、それにめげずにスラッシャー・ホラー映画オタクの人は5作目『スクリーム』を忘れずに楽しんでくださいね。
『スクリーム』を観る前のQ&A
A:シリーズ過去作の映画を全部を観ておくと隅々までネタがわかって楽しいですが、時間がない場合は最低限としてシリーズ第1弾の『スクリーム(1996)』を観ておけばいいです。別に過去作を1度も鑑賞していなくても構いませんが…(作中で過去のことの説明はわりとあります)。
オススメ度のチェック
ひとり | :スラッシャー映画好きの注目作 |
友人 | :ジャンル好き同士で盛り上がる |
恋人 | :残酷描写が平気なら一緒に |
キッズ | :かなり暴力的ですが… |
『スクリーム』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):またこの事件なのか!
夜、家でひとり過ごしていたウッズボロー高校に通う高校生のタラ・カーペンターは居間の固定電話が鳴るのを見ます。でも非通知なので無視して、友達のアンバーとテキストし合うのに夢中。しかし、また固定電話が鳴り、しょうがないので電話にでます。
声の主は「ホラー映画好きだろう? 君の好きなホラー映画は?」と聞いてきます。タラは『ババドック』と答えますが、電話の相手は『スタブ』は観たかと続けて質問。「冒頭のシーンを覚えているか」と言いながら、「ゲームをしないか?タラ…」と不気味に持ちかけます。
これはヤバイと警戒したタラは電話を切り、すぐにスマホで家を施錠。アンバーに状況をテキストで知らせます。ところがこのアンバーは電話が鳴ったことを知っているようで急にテキストが乱暴になり、アンバーは死ぬぞと脅してきます。
またまた電話が鳴り、スマホにはアンバーの盗撮と思われる動画も送られてきて、「言ったろ、ゲームがしたい」と声の主は告げます。タラは「『スタブ』は知らない。『イット・フォローズ』とか『ウィッチ』にして」と言いますが、相手は気にもとめず、『スタブ』に関する質問を投げかけます。
「主人公の名前は?」…「シドニー・プレスコット」
「スタブの原作者の名前は?」…「ゲイル・ウェザーズ!」となんとか答えます。
「スタブ1で冒頭で殺された女の役者の名前は?」…「ヘザー・グレアム!」ネットで調べて回答。
「スタブ1の殺人者の名前は?」…「ビリー」
しかしこの問題は不正解だと声の主は言います。「正解はビリーとスチューの2人だ。死んでもらう」
パニックになったタラはドアを開けて逃げようとしますが、そのドアの前にゴーストフェイスの殺人鬼が立っており、腹を切りつけられます。そして足を折られ、手を突き刺され、床を這うもめった刺しにされて…。
その翌日、タラの姉で今は別居中のサムは恋人のリッチーと一緒にいました。するとタラの友人のウェスから電話があり、タラが襲われて重傷で犯人はゴーストフェイスのマスクだったと知らされます。
ウッズボロー高校でもタラの同級生のアンバー、ミンディ、そのミンディの兄であるチャド、そのチャドの恋人であるリヴが、タラの心配をしていました。みんな誰が犯人なのかと疑心暗鬼です。
サムはタラに隠していた過去を話します。サムは18歳の時に家を出て、それ以来はタラとも疎遠になっていたのですが、その理由は自分が父親の子じゃないと知ったからだと。
サムの本当の父親はビリー・ルーミス。かつてのゴーストフェイス事件の犯人のひとりで…。
犯人は誰でしょうか?
基本的にスラッシャー映画のお約束らしく同じパターンを懲りずに繰り返し続ける『スクリーム』。そして主軸は「whodunit」…犯人は誰か?という謎解きです。5作目も同様なのですが、ちゃんと過去作を踏まえつつ、今らしい要素でデコレーションしています。
まず冒頭の恒例の第1犠牲者のシーン…なのですが、このタラはなんと生き残ります。結果、観客にとって一番疑わしい犯人候補はこのタラになります(演じるのはドラマ『YOU ー君がすべてー』の“ジェナ・オルテガ”)。4作目では犯人が自作自演で襲われたふりをしようとするも失敗するというオチがありましたから、この5作目はそれが成功してしまった展開なのか?と過去シリーズを知っている人ほど疑ってしまう、なんとも小ズルい出だしです。
それにしてもイマドキ使わない固定電話をあえて登場させるとか、そこにスマホを混ざて怖さを増量したりとか、冒頭から露悪性全開だし、あとタラが『スタブ』をよく知らないのも笑ってしまう(旧作なんて若者は知らないし、ネットで調べる程度だろうという自虐)。
そしてみんなで集まって犯人は誰なんだ議論をするのですが、若者たちに指南するのがシリーズおなじみの元保安官デューイ・ライリー(演じるのは“デヴィッド・アークエット”)。ここで彼が言い放つ3つの生き残るためのルール「恋人を信用するな」「動機は常に過去と関わりがある」「犯人は最初の被害者の友人の中にいる」ですけど、人生経験のせいもあってやたら説得力があるのが申し訳ないけどシュールで…。
そんな中、若者らしく、必ず第1作目に回帰するものだから今回もそうなんだろうと分析し出すという、これぞ『スクリーム』にしかできないセルフツッコミもあったり。
殺害はシリーズ定番の勢いです。ドアを開くたびに後ろにいるかもと思わせるあのわざとらしさもあそこまでやるとギャグですよ。他のホラー映画のパロディもいくつかありました。ジュディ・ヒックスの息子であるウェスの殺害シーンでは『サイコ』そっくりのシャワー場面を用意したり(でも男女逆転しているのがミソ)、それにチャドはセックスを断ったのに殺されたり(結局どっちにしろ殺されるじゃないか!という…)。
しかし、本作は過去一番にゴア描写も強烈でしたね。ボイスチェンジャーも使いこなし、今回のゴーストフェイスさんもノリノリでした。
殺人犯と寝るなよ!
5作目『スクリーム』も佳境に入ると登場人物がどんどん死んで、犯人候補も絞られてきます。
はい、ネタバレ。今作の犯人は、アンバーとリッチーの2人でした。正直、もうこの2人しかないなという組み合わせではありましたよ。リッチーとか演じている“ジャック・クエイド”がどんなに「ぼく、ホラー詳しくないんです」みたいな顔をしても嘘っぽいし、アンバー演じる“マイキー・マディソン”も見事にホラー映えしそうな顔つきの俳優ですもんね(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でマンソン・ファミリーの一員を演じた人です)。
今作の犯人は「オタクだった」というパターンであり、要するにこじらせたオタクの有害性を全面に浮き彫りにさせています。「コアなファンは有害なのか! ハリウッドはネタ切れだ! 今度はファンの意見を通せ!」とか、まあ、最近もいろいろな映画界隈でこういう古参オタクの面倒な空気はありましたし、日本でもよく見られる「ポリコレを押し付けるな」とキレだすオタク層に通じるあれですね…。
でも本作はオタク的なノリでありながら、悪い意味でのオタクの自己陶酔に陥ることなく、オタク界隈の自己批判をしっかりしているというスタンスが本当に偉いなと感心します。うん、オタク的なノリありきでニヤけながら自惚れてしまっているだけの作品もあるからね(何とは言わないけど…)。オタクの有害性は自省しないと…。
『スクリーム』って全体としてはふざけている作品ですけど、こういうところは真面目ですよね。
何よりも殺人鬼の血筋を背負ってしまって苦しんでいたサム(演じるのは『イン・ザ・ハイツ』の“メリッサ・バレラ”)を救う物語でもある本作。これまでのシリーズでは殺人鬼の家系はみんな悪い奴でしたけど、そういう宿命に縛られる必要は何もないんだという血統主義からの解放のストーリーとしても『スクリーム』は現代に作るべき一作だったと思います。
悪意を生み出すのは“血”ではなく、“自己批判もできない歪んだ思考”であるということ。
それにしてもシドニー・プレスコット(演じるのは“ネーヴ・キャンべル”)とゲイル・ウェザーズ(演じるのは“コートニー・コックス”)の2人が揃ったときの安心感ですよ。アンバーの演技を一瞬で見抜くあたりが歴戦の勇者って感じでした。
5作目の『スクリーム』は一応の閉幕ですが、もうすでに6作目が2023年に公開されることが決定済み。今度は何をするんだかわかりませんが、きっとこのシリーズならやってくれますよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 76% Audience 81%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
スラッシャー映画の感想記事です。
・『悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ』
・『キャンディマン』
・『ハロウィン』
作品ポスター・画像 (C)2021, 2022 Paramount Pictures.
以上、『スクリーム』の感想でした。
Scream (2022) [Japanese Review] 『スクリーム』考察・評価レビュー