アジア系でも恋がしたい!の第3弾…Netflix映画『好きだった君へ: これからもずっと大好き』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:マイケル・フィモナリ
恋愛描写
好きだった君へ: これからもずっと大好き
すきだったきみへ これからもずっとだいすき
『好きだった君へ: これからもずっと大好き』あらすじ
最初は嘘から生まれた関係だった。でもそれは本物の恋になった。途中で寄り道をしたり、他の道に目移りしたが、それでもこの恋は揺るがなかった。そして高校最後の年。家族との韓国旅行から戻り、進路を考え始めたララ・ジーンは難しい決断を迫られる。ピーターのそばにいられる大学に行くべきか、それとも自分の新たなときめきを信じるか…。
『好きだった君へ: これからもずっと大好き』感想(ネタバレなし)
アジア系でも3部作を達成!
2月14日はバレンタイン・デー。チョコをあげるのもいいですが、恋愛映画を観るのはどうですか?
ロマンス映画というのは今でも人気のジャンルです。ひと昔前よりもその数は減ったとは言え、現在でも低予算で作れて手堅くヒットできる可能性を秘めたコンテンツですし、観る側にとっても(恋愛映画が嫌いでなければ)時間つぶしにチョイスできる気軽さが良かったりします。
しかし、そんな量産されがちなロマンス映画と言えども、さすがに続編が作られるものは特別に人気を獲得できた“選ばれし映画”だけ。競争相手も多い中でその名誉を得られるのは並大抵ではありません。さらに続編がひとつだけでなく、3部作でシリーズ化するなんて滅多にありません。3作も作られたら、それはもうロマンス映画界隈では勝者の貫禄です。
その3部作のステージに到達できた最近のロマンス映画と言えば、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズや、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』シリーズがパッと頭に思い浮かびます。確かにこれらはチャンピオンな佇まいがありますよね。人気も桁違いだし…。
そんなロマンス映画のレジェンドに肩を並べる若々しいシリーズが近年颯爽と登場しました。それも恋愛の世界では邪険に扱われてきたアジア系を主人公にして…。それが『好きだった君へ』シリーズです。
1作目となる『好きだった君へのラブレター』は2018年にNetflixで配信され、本国アメリカでは予想を超える大ヒット。作中で登場するヤクルト飲料までが話題を集めるほどの過熱ぶり。
これによって映画業界は気づかされたと思います。アジア系を主人公にしてもアメリカでも恋愛映画はウケるのだと。今振り返ればこれは欧米でのK-POPブームなどが道を切り開いたことで、アジアというコンテンツ自体が人種問わず若者に受け入れやすくなっていた変化があったからというのも大きいのだと思います。もうアメリカでもアジアだからと違和感を持つような空気ではないのでしょう。
もちろん映画のクオリティも良く、批評家も称賛したのも後押しになったのは言うまでもありません。原作小説を執筆したアジア系アメリカ人の作家ジェニー・ハンの「アメリカではアジア系だって普通に恋をしているんだ!」という素直な感情が物語に表れていました。
これだけのヒットをすれば当然続編が企画されます。そこで続いたのが2020年の『好きだった君へ: P.S.まだ大好きです』。
そして原作に準拠するかたちで2作目から連発して3作目が配信。それが『好きだった君へ: これからもずっと大好き』です。
これによってアジア系アメリカ人を主役にした恋愛映画3部作という記念碑的な快挙が達成されたのです。このビッグ・イベントを見逃すわけにはいきません。
第3弾にしてたぶん完結作となった本作『好きだった君へ: これからもずっと大好き』の主演はずっと正面で頑張ってきた“ラナ・コンドル”。もう完全に堂々の代表作ですね。主人公の妹を演じた“アンナ・カスカート”も美味しい役どころでこのシリーズを引っ張り、今後の躍進が期待されます。ちなみに主人公の幼少時を演じている(出番はちょっとだけど)のは、ドラマ『ベビー・シッターズ・クラブ』で魅力全開だった“モモナ・タマダ”です。
3作目はそこまで新キャラクターが登場する感じもなく、綺麗に風呂敷が畳まれます。
監督は2作目から抜擢されている“マイケル・フィモナリ”。1作目の監督であったスーザン・ジョンソンがいないのは寂しいという人もいるかもですけど、彼女は1作目の成功で注目を集め、現在はAmazonやディズニーとの仕事の最中らしいので…。脚本は3作目から新しい人になり、“ケイティ・ラヴジョイ”という変わった名前の方に。なんかキャリア的にはまだ浅い人っぽいですね。
過去作をまだ観ていない人は、ぜひ1作目からじっくり鑑賞してください。
『好きだった君へ: これからもずっと大好き』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2021年2月12日から配信中です。
A:1作目『好きだった君へのラブレター』と2作目『好きだった君へ: P.S.まだ大好きです』をしっかり鑑賞しておきましょう。どちらもNetflix配信です。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(アジア系映画の転換点です) |
友人 | ◯(映画ファン同士で楽しむ) |
恋人 | ◎(恋愛を応援してくれます) |
キッズ | ◯(自分に自信を持てる) |
『好きだった君へ: これからもずっと大好き』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):恋はどこまで続く?
「ピーターへ、ソウルからこんにちは」
ララ・ジーン(LJ)は自身の亡き母のルーツである韓国に家族旅行に来ていました。ずっと来たかった初めて見る世界。食べて遊んで買い物して騒いで、最高の時間。異文化だけど私の文化でもある、この不思議な感覚。
心が弾んでいるのはララ・ジーンだけではありません。父はご近所で最近グッと仲良くなったトリーナにプロポーズしようと思うと娘たちに語ります。
3姉妹での一緒の時間も開放的です。姉のマーゴットが大学に行ってしまい、離れ離れになり、ララ・ジーンも来年は大学に進学する予定。もうこうやって3人で集まる機会はなくなるかもしれません。
妹のキティはララ・ジーンの手紙に文句ばかり。ララ・ジーンは恋人のピーターにラブラブな手紙を書くのに夢中です。一緒にスタンフォード大学に行くつもりでした。もうピーターはスポーツ推薦で大学は決まっており、あとはララ・ジーンの合格を待つのみ。
部屋でボーイフレンドと動画通話をします。「知らない女の子が韓国語で話しかけてきた。私は話せると思ったのかな」「明後日にはあなたにタックルして窒息するまでキスするからね」
絶対に合格しないと…ララ・ジーンは理想的な未来が頭に浮かんでいました。必ずピーターと幸せな人生を送れる…。
ソウルタワーに到着。父が母とデートに来た時に取り付けた南京錠がどこかにあるはずです。無数の南京錠の中をひとつひとつ手探りで調べます。見つけました。そこには「生涯を一緒に」と書かれており、母の想いを確認します。
近くにいた男の子に家族写真を撮ってもらいます。撮ってくれた少年・デイとキティは会話が弾み、妹にも恋の予感かと他の家族が盛り上がります。
アメリカの家に帰ってきました。ピーターが待ってくれています。南京錠のお土産を渡し、いつか2人で行こうと約束。恋愛映画マニアのララは今夜は『セイ・エニシング』(キャメロン・クロウ監督)を見るからと張り切ります。キティはピーターに「過去最高のラブレターはどんなだった?」と聞き、デイに初めて連絡することに少しソワソワしている様子。
いつものようにソファで一緒に寝っ転がりながら映画を鑑賞。映画みたいな運命の恋かはわからないけど、今は幸せ。名残惜しくも別れる2人。でも向こうの家では父がトリーナにプロポーズしているのが見えます。
学校へ。プロムを誘うパフォーマンスをしている人で人だかりができており、校内は恋模様で浮足立っていました。いつもの友人である、クリス、トレヴァー、ルーカス、そしてちょっと嫌な奴だけど仲が回復してきたジェン。楽しい学校生活も卒業まであとわずか。
トリーナとの共同生活を決めた父の結婚式プランを考えていると、スタンフォード大学からメッセージが来ます。おそるおそるサイトをチェック。
「残念ながら…不合格です」
理想の未来は遠のきました。意気消沈。まだUCバークレーとニューヨーク大学にも受験しており、進路は絶たれたわけではないのですが、大事なのはピーターと一緒のキャンパスライフを過ごすことだったのに…。
高校時代のカップルって大学で遠距離恋愛になったら続かないのでは…。脳内パニックになったララ・ジーンはうっかりピーターに“スタンフォード大学に合格した”と嘘のメッセージを送ってしまいます。
さあ、またしても嘘なレターでトラブルが勃発。恋の行方はどうなるのか…。
アジア系の古さを打ち破る
『好きだった君へ: これからもずっと大好き』は3部作(トリロジー)の最終章。そうはいっても大事件も大冒険もない、他愛もない青春時代の1ページ。それでクライマックスに何を持ってくるのか。なにせ1作目でめでたくカップルは成立していますからね。
2作目は新しい恋の相手(男子)の登場で、気持ちが揺れ動くというベタな三角関係でした。これはド定番。でもアジア系でこの普通をやる意義があります。
では3作目は? 本作ではまたも新しい恋の相手が登場します。しかし、その相手は意外な存在。人間ではなく、進路。ララ・ジーンはニューヨーク大学に恋をします。
もちろんピーターの進学が決まっているスタンフォード大学と、ララ・ジーンが夢中になり始めたニューヨーク大学は正反対の位置です。アメリカの東西の端。5000キロ。こうやって考えるとアメリカってバカみたいに広いなぁ…。
今ならインターネットがあるし、昔よりは距離感を感じないかもしれません。でも一緒にいられない空白はツライものです。
ただ、私は本作のテーマがある種の恋愛至上主義からちょっと逸脱する問いかけをしている点を評価したいです。とくに女子にとって愛する男子の隣にいるためなら、自分のやりたいことをすべて投げ捨てることが正しいのか…という視点ですね。これまでの「アメリカではアジア系だって普通に恋をしているんだ!」という浮かれモードな空気から一転、3作目は意外にも現実的な問題を提示していました。
それは深読みすれば、アジア系が抱える「女は男に従うべき」という家父長制からの脱出でもあると解釈できるわけで…。
最終的なララ・ジーンの決断(ニューヨーク大学への進学を決める)は、言ってみれば、私はアジア系をルーツに持つけど、アジア系の保守的な家庭観にまでは従属しません!という高らかな宣言にも見えます。
ララ・ジーンはただでさえ恋愛映画に依存するクセがあって(それも結構なマニア)、古典的な恋愛を好みます。そんなララ・ジーンがステレオタイプな恋愛ストーリーから抜け出して、自分のストーリーを作るために一歩を踏み出すという本作のラストはとてもこのシリーズにふさわしいのではないでしょうか。
恋愛映画好きという趣味が、大学での学問への探求心にもなっている描写もいいですね(「女の子って恋愛作品で夢見がちだよね」という舐めた目線から「いやいや、それも突き詰めれば学問になるよ」というキャリアへの発展の意味でも)。
良い男子像のお手本
『好きだった君へ: これからもずっと大好き』は3部作と言えどもドラマシリーズではないので、脇役までのサイドストーリーはそんなに充実していません。
でもピーターの物語はかなりしっかり掘り下げられたと思います。そもそもこのピーターのキャラクターはよくできていて、お手本になるような男子像です。ララ・ジーンをトロフィーのように扱いませんし、あのセックスシーンにおいてもとても同意を大切にしてくれます。加えてララ・ジーンの進路の決断です。あそこで一転して嫌な男になってしまうというのがベタな恋愛映画にはありがちで、「よし、あんな男はほっといて、次の男を作ろう!」というオチで終わることもできます。
しかし、本作はそうしません。ピーターは父親という自分にとって最大に身近な男性像と向き合い、己でも在り方というものを見つめ直します。あそこで彼は一段とかっこよくなれましたね。
ラクロスをやっているスポーツ系ですけど、あそこまでホモ・ソーシャル化せずに男子を描くというのも普通になってきた感じもあり、嬉しい青春映画の変化ですね。
妹のキティに関しては相変わらずの「計画どおり」で事を仕組むのが好きな子です。今回はデイという韓国の男子との遠距離恋愛(?)に望みますが、超不満タラタラでそこも面白いです(「ハリー・ポッター」を咎めちゃいけないんだ…)。個人的にはこのキティのスピンオフ映画を作ってほしいのですけど…。
ララ・ジーンのベストフレンドであるクリスの恋愛に対するサバサバした付き合い方も、本作の世界観が恋愛一色にならないバランスをとっているとも思いますし…(本音を言えば、アセクシュアル/アロマンティックなキャラクターを出してほしいですけどね)。
アジア系の多様性を描けるか
シリーズ全体を通して大きな革新をもたらしたと思う『好きだった君へ: これからもずっと大好き』ですが、あえて今のハリウッドのアジア系映画の問題点を本作絡みで挙げるなら、まずキャスティングです。
本作は主人公は韓国系をルーツに持つアジア系アメリカ人なのですが、演じているのは“ラナ・コンドル”はベトナム系(出身がベトナム)、幼少期を演じた“モモナ・タマダ”ですらも日系です。韓国ルーツではありません。
無論、まずはホワイトウォッシングにならないことが大事なので、それは百も承知なのですが、完璧を求めるならそこも考えてほしいところです。まだまだ「アジア系」という雑なくくりでしか評価されていない現実が本作からもハッキリと出ています。ドイツ人を描くのにフランス人を起用しないでしょうし、スウェーデン人を描くのにルーマニア人を採用はしません。同じヨーロッパでしょう?なんて言ったら失笑されるか呆れられます。でもアジア系ではそれが起きている。これはやはり非アジア系の人たちの認識の問題ですよね。
これが何が問題って、中国のような少数民族などを認めない姿勢(当然それは日本の植民地支配にも通じる)に親和的なところです。巨大なアジアの塊として考えるのは思っている以上に危険でしょう。
まあ、このへんに関しては『ミナリ』のような映画も登場していますし、もっとアジア系という大枠ではない、それぞれの国や地域にフォーカスしたものが今後は生まれるんじゃないかなと期待するしかないですが…。
あと、今作はすごくニューヨーク大学の宣伝効果が高い一作であり、それは「ニューヨーク大学に恋をしている」のですからキラキラした描写になるのも必然なのですが…。しかし、一方で大学の進学という要素を出すならもっと描けることはいっぱいあったのかなとも思います。例えば、本作はアジア系差別は基本的に描かないのですけど、それはそれで理想の提示という意味では大事ですが、同時に大学という新しいステージに挑むアジア系が直面するものとしてはいくらなんでも理想主義的すぎる気もします。
ただでさえこのコロナ禍をきっかけに欧米社会に巣食うアジア系蔑視というものが浮き彫りになったわけです。アジア系は差別されている。これは揺るぎない事実。やっぱり無視はできないなと個人的にも思います。
作中でララ・ジーンとピーターが共同でその差別を乗り越える過程がちょっとでも描かれているとなお良かったですよね。
「映画のような恋を望んでいた。現実はここで物語は終わらない」「5000キロはちょうどいい距離だ。ラブレターを書くには」
このシリーズの挑戦は次の作品にバトンタッチ。まだまだアジア系は勢いをあげていきます。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 74% Audience 80%
IMDb
6.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Overbrook Entertainment, Netflix 好きだった君へ3
以上、『好きだった君へ: これからもずっと大好き』の感想でした。
To All the Boys: Always and Forever (2021) [Japanese Review] 『好きだった君へ: これからもずっと大好き』考察・評価レビュー