まるであの映画の続編?…Netflix映画『タルーラ 彼女たちの事情』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:シアン・ヘダー
たるーら かのじょたちのじじょう
『タルーラ 彼女たちの事情』物語 簡単紹介
『タルーラ 彼女たちの事情』感想(ネタバレなし)
エリオット・ペイジ、また母になる
誘拐されて7年間監禁されていた女性と、誘拐犯とその女性との間に生まれて外の世界も全く知らない子。この二人の物語を描いた『ルーム』は、「母」となることの不安と葛藤を巧みに描いた素晴らしい作品でした。
そんな『ルーム』を気に入った人なら、本作『タルーラ 彼女たちの事情』もおすすめです。
『ルーム』は主人公が誘拐される側でしたが、本作は主人公が誘拐する側です。倫理的にいろいろとアウトなのですが、それは物語を見ていくと事情がわかります。決して子どもを凄惨に殺すシリアルキラーサイコパスを描く映画ではないので、安心してください。
主人公を演じたのは“エリオット・ペイジ”。この俳優を一躍有名にしたのは『JUNO/ジュノ』(2007年)です。突然の妊娠に慌てふためきながら出産することを決意し母になっていく少女を熱演したエリオット・ペイジは、これでアカデミー主演女優賞にノミネート。一気にトップスターを上り詰めました。その後は、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010年)、ウディ・アレン監督の『ローマでアモーレ』(2012年)、ブライアン・シンガー監督の『X-MEN: フューチャー&パスト』(2014年)と名監督のもとキャリアを重ねます。そして、本作『タルーラ 彼女たちの事情』でキャリアにおいて俳優人気を支えた原点ともいえる「母」をテーマにした作品に帰ってきた感じです。
妊娠・出産をめぐる『JUNO/ジュノ』から、子育てをめぐる『タルーラ 彼女たちの事情』へのつながりは、偶然なのか、それともエリオット・ペイジの魅力を一番に引き出すのはこのテーマしかないのか、どちらにせよ役者が輝いているなら良しでしょう。『JUNO/ジュノ』が好きなら続編気分で楽しめるし、エリオット・ペイジという俳優が好きなら観ないわけにはいかないと思います。
嬉しいのはこういう映画がNetflixですぐに観れることです。この手のヒューマンドラマ系の作品は下手をすると公開すらされずに(『JUNO/ジュノ』みたいな賞を取れれば別ですけど)、誰の目にもとどかず、ひっそりと日本では知られない…ということが多々あります。そうなればこうやって感想を書く人すらもいません。本当に存在が無きものにされます。
でもNetflixはそういうひとりぼっちな作品を拾ってくれる。まさに『タルーラ 彼女たちの事情』みたいな、赤ん坊を拾ってくるように。
Netflixという新しいメディアの存在は映画界でさまざまな賛否を呼んでいますけど、少なくとも映画ファンは結構助かっているのも事実。コネがない、資金力がない人でも、マイナー作品にありつけるチャンスが生まれているのは、素直に喜んでいいのではないでしょうか。
『タルーラ 彼女たちの事情』はNetflixオリジナルで配信中。時間があるときにぜひどうぞ。
『タルーラ 彼女たちの事情』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2016年7月29日から配信中です。
『タルーラ 彼女たちの事情』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):それぞれの欲しいもの
カネもないのに賭け事をして負けたらトンズラする日常を送っているタルーラ。バンで男のニコと質素に暮らす日々です。
「インドに行きたい。ヒマラヤ山脈に登ってみたい」
資金なんて何もないのに本人はいたってマイペースで呑気。計画性はゼロで、そのときの感情のおもむくまま。
しかし、ニコはついていけないと感じていたようです。現実を見て、結婚して、仕事して、子どもを作る…そんな生活を望んでいました。でもタルーラは拒絶。「これが私の生き方だ」と言い放ち、「文句があるなら出ていって」と言葉を浴びせます。男は「愛しているんだ」と訴えますが、タルーラの心には響かないようです。
翌朝、タルーラが目を覚めるとニコは消えていました。別れの言葉も無しに…。
しょうがないのでタルーラは自分で車を運転。それでも手持ちの食料さえも尽きて困り果てます。そこであのニコの母親であるマーガレット・ムーニーの住むアパートの部屋に行き、「ニコにおカネを盗まれた」と主張します。でも当然追い返されてしまいました。
タルーラは今度はホテルで部屋の前に置かれた食事をつまんで漁ることに。ところがハウスキーパーと勘違いされ、ある女性の部屋に通されてしまいます。「ルー」と偽名を名乗ると、「ルーシー」がいいとその女性は自由気ままに流します。さらに幼い娘のマディソンを紹介してきます。「子守は得意? 見ててくれない? おカネを払うから」
どうやらこの女性は夫に内緒でここにいるようで、夫に喋ることのない自分だけのシッターを求めていたらしく、タルーラは都合が良かったみたいです。娘といるのは疲れたとも…。
その女性は子育てにまるで興味もないようで、裸でヨタヨタと歩く子どもを放置。バルコニーに行きそうになっても無視で、「落ちたら訴えてやる」とまで言い切ります。さすがのタルーラも危なっかしくて見ていられません。
「子どもなんて産んじゃダメよ。体のラインも悪くなってしまうし…。昔は私もイケてた」
女性はこれから男性に会うらしく、男が欲しがるような女になれているかをしきりにタルーラに聞いてきます。
断るタイミングも見失い、タルーラは押されてしまいます。メイクしてほしいと言われ、100ドルのチップまでもらい、化粧なんてしたこともないのにやってみるタルーラ。
そのとき、あの子が床でおしっこをしてしまいます。すると女性はパニックになりながら床を拭きます。
「育児書どおりにやらないと。みんな平気でこなしているなんて信じられない。でも私にはできない。やり方を知らないの…」
そう言って取り乱す女性。
こうしてタルーラとその子だけが取り残され…。
誰かは誰かの枝になれる
『ルーム』もそうでしたが、『タルーラ 彼女たちの事情』でも「誘拐」というクライムサスペンスな要素は意外と全面には出てきません。なので警察の捜査描写が甘すぎる気もするし、最終的な着地も優しすぎる気もしなくない。でも、本作はそれが本筋じゃないのでこれでいいでしょう。
本作は、誰かが罰を受けるカタルシスを期待するのはお門違いです。
劇中で登場する3人の母はいずれも何かしらの欠落を抱えています。とくに物語の発端となるタルーラの誘拐は決して許されることのない行為です。ただ、これを理由にタルーラに不快感を持つのは気持ち的にはわかりますが、そう安直に考えると映画なんて何も楽しめないもの。重要なのは、なぜ彼女は子どもを誘拐したのか?を考えることにあります。
そもそも冒頭で、結婚して子どもを持とうと提案する恋人に対してタルーラは断固拒絶しています。この時点で彼女は放浪生活の方がいいと考える堕落した楽観的なお調子者のように見えますが、ちゃんと冒頭部分で実は違うということがわかります。その描写が、タルーラが浮き上がって天に吸い寄せられるファンタジックなシーンです。ここでは、彼女が居場所のなさに不安を抱いていることが見て取れます。だからこそ、このあと恋人がいなくなってパニックを起こしているわけです。
そんな彼女が子どもをさらったのは、ひとつには過去に母に捨てられたという実体験も影響しているでしょうが、やはり居場所のなさを埋めるためだったのではないでしょうか。
そして、残り二人の母であるキャロラインとマーゴもまた居場所のなさに苦しんでいました。キャロラインは夫という居場所が嫌で逃げ出し、マーゴは夫という居場所から逃げ出せずにいる。
そんな3人の母が、たまたま偶然に互いが互いを埋め合うようにピッタリはまった…そういう物語でした。だから、彼女たちは誘拐が一件落着しても互いをののしり合うようなこともせず、どこか満足気なのでしょう。
互いが互いを埋め合う…それこそ家族。
最後に挿入されるマーゴが宙に浮かび上がるファンタジックなシーンは、恐怖を感じていたタルーラと対比的にどこか開放的なのも印象的でした。
個人的にはもうちょっと男性陣の活躍、とくに元カレのニコに見せ場が欲しかったところです。でも、今作の場合は、あくまで女性陣のドラマとしてフィックスしているのでこれで良かったのかなとも思います。ある種の、女男が共同で子育てをするという安易な理想には易々と着地したくなかったのかもしれません。
それにしても“エリオット・ペイジ”はやっぱりこういう役をやらせると異常にバッチリとハマりますね。少しキャリア的にも成長しているせいか、幼い危うさはなくなっているぶん、それでも完全な大人になりきれなさを抱えており、不安定さを常に醸し出しているのがいいです。見ていて良い意味でハラハラしてきます。
そんな“エリオット・ペイジ”が頑張って自分なりの努力で親になろうとする姿は、発端となった行動の倫理観とかは置いておいて、親になった経験のある人なら身に染みてよくわかるのではないでしょうか。親はひとりの命を左右するという責任重大のミッションを与えられるわりには、基本、ぶっつけ本番。そりゃあ四苦八苦して、ときには大失敗し、凹むこともあります。作中の主人公の姿はいろいろ重なるところが多いはず。
監督の“シアン・ヘダー”は、テレビドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の脚本を手がけており、自身で2006年に制作した短編「Mother」を長編にリニューアルしたのが本作『タルーラ 彼女たちの事情』。確かに『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』的な、リアルな境遇にさらされる女性たちの奮闘人生サバイバルみたいなところが『タルーラ 彼女たちの事情』にも通じている気がします。
批評家からも称賛されている本作の成功により、シアン・ヘダーの華々しい映画キャリアはスタートしました。今後も期待の監督です。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 85% Audience 69%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 ©Netflix
以上、『タルーラ 彼女たちの事情』の感想でした。
Tallulah (2016) [Japanese Review] 『タルーラ 彼女たちの事情』考察・評価レビュー