だってトム・クルーズ映画なのだから…映画『トップガン マーヴェリック』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年5月27日
監督:ジョセフ・コシンスキー
恋愛描写
トップガン マーヴェリック
とっぷがん まーべりっく
『トップガン マーヴェリック』あらすじ
『トップガン マーヴェリック』感想(ネタバレなし)
トム・クルーズ映画になってカムバック!
映画を語るうえで、興行収入が高かったとか、批評家のレビューが良かったとか、ファンダムを築いたとか、いろいろな評価のしかたがあると思いますが、「時代を象徴している」という見方もできる映画もあるのではないでしょうか。この時代の社会や世間の空気をそのまま反映しているような映画…この映画を観れば当時の雰囲気が感覚的にわかる…そんな作品です。
例えば、1980年代後半を象徴するようなハリウッド映画と言えば、やはり『トップガン』が挙げられます。
『トップガン』は1986年に公開されました。“トム・クルーズ”主演であり、彼がトップスターとなった記念作でもあります。物語は、アメリカ海軍の戦闘機パイロットを主人公に、自信過剰な主人公が友情・恋愛を経ながら仲間との絆を育み、パイロットとして成長していく王道のもの。映画自体は大ヒットし、アメリカはもちろん日本でもその年の洋画ナンバーワンのヒット作となりました。テーマ曲の「Danger Zone」も多くの人の印象に残り、俳優・映像・音楽…全てで話題を独占した感じです。まさしく『トップガン』の年です。
この『トップガン』は表向きは戦争映画ですが、重々しさは皆無に等しく、1980年代後半らしい緩さのある映画だったという特徴があります。マチズモ的な男社会の賛美であり、マッチョな男たちが互いに競争し合い戯れたりもしつつ、美女を横において、人生を謳歌する…みたいなスタイル。この時代以降は「アバクロ」などファッションもステレオタイプがもてはやされていく流れがありましたから、その先駆けとも言えるかもしれません。若者たちのムーブメントの主流の土台となった映画でもありました。
戦争映画としても時代が表れています。冷戦の緊張感はすっかり薄れ、ソ連も崩壊に向けて進んでおり、アメリカの明確な敵となる大国は消えつつありました。だから『トップガン』はあんなに緩くてもいられる。それに公開同年は1月にスペースシャトルのチャレンジャー号爆発事故がありましたから、犠牲のうえでもそれをバネに成長する男たちの物語という『トップガン』は、アメリカ国民にとって格好の理想的な希望に見えたはず。
そんなこんなでひとつの時代を映した鏡となった『トップガン』ですが、なんと2022年に36年ぶりの続編が登場しました(厳密にはコロナ禍で延期していて当初の公開予定日は2020年だったのですが)。
それが本作『トップガン マーヴェリック』です。
あんな80年代後半の時代を切り抜いた『トップガン』、その続編としてこの時代感覚も社会情勢も全然違う2022年に何を見せるのか。私も半信半疑で製作発表を見ていましたけど、いざ公開されるとどうですか。批評家絶賛の嵐。これぞ続編、いわゆる「レガシークウェル」として理想の形ではないか。そんな高評価が最高速で駆け抜けていきました。
確かにノスタルジーを喚起させる要素が濃いです。でもそれだけだったらこんな高評価にはなりません。この『トップガン マーヴェリック』はそんな往年のハリウッド映画らしさを引き継ぎつつ、過去に甘えたりもしないという誠実な姿勢も見せていて…。私なりの言葉で表現すると「潔い」続編だと思います。
そして何よりも今の“トム・クルーズ”映画だった…。本作は戦争映画でも、下手したら戦闘機映画でもない…間違いなく“トム・クルーズ”映画の最新版でしたよ。『トップガン』公開年のすぐ後に続編を作っていたら駄作になったと思いますし、今だからこの成熟を見せられた。今回は社会や国家ではなく“トム・クルーズ”の時代性を切り取った映画なのです。
この『トップガン マーヴェリック』を大成功に導いたのは、『オブリビオン』で“トム・クルーズ”とタッグを組み、最近は『オンリー・ザ・ブレイブ』でも好評を得た“ジョセフ・コシンスキー”。そして脚本&製作は、今や“トム・クルーズ”の扱いが最も上手いであろう、『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』からの“トム・クルーズ”新時代を共に築いた“クリストファー・マッカリー”。この布陣だったら完璧ですよ。
共演は、新規勢として『セッション』の“マイルズ・テラー”、『ドリーム』の“グレン・パウエル”、ドラマ『シカゴ・ジャスティス』の“モニカ・バルバロ”が参戦。旧キャストからは“ヴァル・キルマー”が出演し、ファンの涙腺を刺激します。
なお、前作でヒロインだった“ケリー・マクギリス”は登場せず(ほぼ俳優業を引退している)、今回はドラマ『スノーピアサー』の“ジェニファー・コネリー”が新たなロマンス相手となっています。
『トップガン マーヴェリック』の見どころはやはり大迫力の映像。グリーンバックのスタジオ撮影ではなく俳優たちが実際に戦闘機に乗って飛行して撮った映像のクオリティがもう…。若い俳優は大半が吐きながら頑張ったらしいですけど、でも「映画はこうでなくちゃ!」という興奮がそこにあります。
“トム・クルーズ”からの全ての映画好きへの最高のプレゼントです。
『トップガン マーヴェリック』を観る前のQ&A
A:1作目の『トップガン』は必見。思い入れのある人ほどこみ上げるものがあります。
オススメ度のチェック
ひとり | :2022年最高のエンタメを! |
友人 | :映像に大熱狂! |
恋人 | :異性愛ロマンスもあり |
キッズ | :飛行機好きの子に |
『トップガン マーヴェリック』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):トップガンを育てる側に
格納庫で男がひとり、軽飛行機の整備をしています。彼の名は、ピート・ミッチェル。海軍で戦闘機パイロットをしていた人物であり、そのときのコールサインは「マーヴェリック」。無鉄砲で型破りな操縦を行うパイロットとして、若い頃は空を駆け、敵の戦闘機を撃墜した実績もありました。
しかし、今はそんな華々しい戦闘の最前線からは離れ、昇進を断ってテストパイロットとして空を飛び続ける人生を歩んでいました。壁には昔の思い出が詰まった写真が飾られています。
マーヴェリックはバイクで颯爽と出発し、軍の基地へ。そこの格納庫にあったのは黒い機体で、極超音速テスト機「ダークスター」でした。この機体を操縦し、マッハ10を記録する…それが彼に課せられた目標。
入念な体力トレーニングの後、装備を身に着け、いざ搭乗。そこに黒い車が1台やってきます。乗っているのはチェスター・“ハンマー”・ケイン海軍少将です。
離陸許可がでて、滑走路でエンジンをふかせて、マーヴェリックは意気揚々と離陸。ハンマーの上空を凄まじい速度で通過します。
管制室にハンマーがやってきて、本当は「ダークスター」計画の凍結を言い渡すつもりでしたが、もう飛んでしまったならどうしようもありません。
マーヴェリックは速度をあげます。9.0…9.2…9.4…9.5…9.6…9.7…9.8…9.9…10.0。ついにマッハ10を達成し、みんなが大歓喜。しかし、マーヴェリックはまだやれると考え、さらに記録を伸ばそうと加速を続けます。10.1…10.2…10.3…突如警告音が鳴り、管制室のモニターが切れてしまいました。管制室では状況がわからなくなり、困惑…。
でもマーヴェリックは帰還してきました。機体を空中分解させてしまいましたが、本人はいたって呑気。
ハンマーはそんなマーヴェリックにサンディエゴにあるノースアイランド海軍航空基地への教官としての赴任を命令します。トム・“アイスマン”・カザンスキー海軍大将の推薦があったようです。
マーヴェリックはさっそくその場に向かうと、会議室で説明を受けます。敵対国家の核兵器開発プラントの破壊が任務らしく、そこは地対空ミサイル(SAM)とSu-57第5世代戦闘機を備えた空軍基地によって強固に守られており、凄腕のパイロットを育てなくてはいけない…と。
候補になっているパイロットたちの中に、マーヴェリックは気になる人物がいました。それがかつての友人で事故で亡くなったニック・“グース”・ブラッドショウ海軍中尉の息子であるブラッドリー・“ルースター”・ブラッドショウ。マーヴェリックは複雑な心境です。あの時の自分の甘さで親友を亡くしてしまったからです。
それでも「トップガン」の若いパイロットたちを見ていると昔を思い出してしまい…。
トム・クルーズを乗り回す映画
『トップガン マーヴェリック』はぶっちゃけて言うと前作以上に任務の内容は荒唐無稽です。ツッコミどころとしては今作の方がハチャメチャですよ。
映画の設定上、意地でも戦闘機を駆使するミッションにしないといけないのですが、なんかわざとあえて難易度をウルトラ級ハードモードに引き上げるような、面倒極まりないシチュエーションを用意してきています。なんだあの渓谷潜り抜けは…ゲームの「エースコンバット」みたい…。敵国も地対空ミサイルではなくて山脈にネットでも張ればよかったのにね…。しかも終盤はこの荒唐無稽さにさらに上乗せするびっくりな展開も起きるし…。
しかし、そんなリアリティ度外視の作品の立ち位置も気になりません。なぜならこれは“トム・クルーズ”映画だから。1作目のときとは違う。もうジャンルは「トム・クルーズ」なのです。
今作は“トム・クルーズ”の自虐のような始まりです。極超音速テスト機を大破させても何事もなかったかのように生還してバーにふらっとパイロットスーツのまま現れるマーヴェリック。なんだこいつ…と唖然とする。もうマーヴェリックは前作の青臭い若者じゃない、常人を超えた化け物になっている。
そして教官としてやってきてからもその自虐は炸裂。へらへらしながら「教官ってガラじゃないです」と謙遜している風な発言をしていますけど、実際にこれは謙遜でも何でもなく、マジで人間離れしすぎていてついていけないという意味で…。
そんな超人パイロットのマーヴェリックが訓練生パイロットたちと子どもの追いかけっこでもするかのような模擬空中戦をするシーンの、なんというかこっちも言葉を失うような異次元さとか、本作はイチイチこんなお遊びが挟まれます。“トム・クルーズ”という格好のネタをみんなでいじって遊びまわそうというノリ。
『トップガン マーヴェリック』はノスタルジーでかっこつけすぎずに、適度に自虐を挿入している、このバランスも良くて…。“トム・クルーズ”を乗り回す映画としてベスト級に楽しいですね。
男らしさのセルフケアの成功例
そうやってふざけた空気もあるのですが、『トップガン マーヴェリック』は前作と違ってマチズモの称賛は無く、素直に良きコミュニティを描こうとしています。無論、ハラスメントなんて旧態依然の描写はしません。
それは女性パイロットが加わっているからとか(ちなみに海軍には女性パイロットは1970年代頃からいましたが、2010年代前半時のパイロットの女性率は約4%くらいだそうです)、もちろんそういうのも寄与していますけど、根本的にはもうそういうホモ・ソーシャルなんてなくてもこの“トム・クルーズ”はいくらでも魅力的に輝けてしまうんですよね。これぞスター性です。
それでも男らしさに囚われているキャラクターとして描かれるのがルースターであり、彼は自分のキャリアを邪魔してきたとマーヴェリックにあたってくる。嫉妬や劣等感の入り混ざった心情を抱えています。
そんなルースターに対して、“トム・クルーズ”はメンターになる。そして同時に“トム・クルーズ”のメンターとしてアイスマンが最期の言葉を残す。この継承もアツいじゃないですか。
『トップガン マーヴェリック』は“トム・クルーズ”の人生ドキュメンタリーのようでもあります。思えば2015年の『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』に代表されるように2010年代前半ぐらいに“トム・クルーズ”は何かが吹っ切れて自分の立ち位置を確立できた感じがありました。それ以前はスター俳優ではありましたけど、マチズモ的な中でもてはやされる男性像だったり、サイエントロジーにハマったりして「大丈夫?」と若干の怪訝な顔で見られてしまう状況にあったのも事実。そんな経験を引きずらず、“トム・クルーズ”は「トム・クルーズ」という役に徹してこの老いも何もかもをキャラクター性として昇華してしまえばいいんだ!と開き直った。こういうキャリアの捉え方をできた時点で、“トム・クルーズ”は男らしさのセルフケアの成功例みたいなもんですよ。
そして肉体ひとつで体を張って危険なスタントをするというスタイルも半ば開き直っている。『ミッション:インポッシブル フォールアウト』でもあった「なぜこんなことをするのか」「なぜこだわるのか」という存在意義の問いかけに対して映画自体で答えています。『トップガン マーヴェリック』はそれにドローンに置き換わって廃れゆく有人戦闘機の宿命とも重ねていて…。
『トップガン マーヴェリック』の終盤はまさかまさかの敵の戦闘機を強奪してのドッグファイト。映画なんだからこれくらい荒唐無稽にいこうぜ!というアホ全開で突っ走る。敵の謎のパイロットも“トム・クルーズ”なんじゃないかってくらい強いし…。あれをやられてしまうとアメリカ至上主義すらもどうでもいい感じになりますからね。こんな愛国心を背負っていない戦闘機乗り見たことない。メンターと言えどもやっぱり幼稚な部分が残っていてヤバい奴だというあたりをルースターにツッコまれる場面も可笑しくて…。
映画愛を正しく通すというお手本みたいな映画であり、こういう続編を作ってくれて良かったと心から思いました。
“トム・クルーズ”にしかできない本作、この映画はリメイクできませんね。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 99%
IMDb
8.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved. トップ・ガン マーベリック
以上、『トップガン マーヴェリック』の感想でした。
Top Gun: Maverick (2022) [Japanese Review] 『トップガン マーヴェリック』考察・評価レビュー