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映画『フォールガイ』感想(ネタバレ)…男はフロントガラスをぶち破る

フォールガイ

そして女はガラスの天井をぶち破る…映画『フォールガイ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Fall Guy
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年8月16日
監督:デヴィッド・リーチ
恋愛描写
フォールガイ

ふぉーるがい
『フォールガイ』のポスター。大爆発を背景に主人公がポーズをとるデザイン。

『フォールガイ』物語 簡単紹介

実力はじゅうぶんのスタント・パフォーマーのコルトは、仕事も恋愛も順調であったが、自分でも予想外の大怪我をスタントの失敗で負ってしまい、自信喪失。映画の仕事から一線から退いていた。しかし、プロデューサーの誘いで復帰を決意。勝負どころのハリウッド映画の撮影現場で、監督を務める元恋人ジョディと再会する。そんな中、主演俳優のトム・ライダーが失踪する事件が起きる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『フォールガイ』の感想です。

『フォールガイ』感想(ネタバレなし)

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スタントの仕事は最高だ!

映画のアクションの撮影で、俳優に代わって危険なアクションをやってみせる職業…それがスタント・パフォーマー。今のハリウッドには欠かせない存在です。

そんなスタントパーソンの仕事がアカデミー賞で評価されることはありませんでした。対象の部門が何もないからです。なのでずっと「アカデミー賞にスタント部門を作って!」という呼びかけが業界関係者を中心に行われていました。

2024年、微かな希望が見えてきました。アカデミー賞を統括する映画芸術科学アカデミーの幹部数名が、アカデミー賞にスタント部門が設立される可能性を否定しなかったのですIGN。実はすでに2026年にキャスティング部門が新設されることが決定しており、どうやらスタント部門についても話し合いがあった様子。

もちろんまだ具体的なことはわかりませんが、前進があるのは良いことです。いつかスタントパーソンがオスカーを手にする瞬間を私も楽しみにしています。

そうした中、ある映画の主演俳優が自身のその映画を「オスカーにスタント部門を設立するための一大キャンペーン」と言い切るほどに熱量たっぷりの作品が2024年に出現しました。まさに絶好のタイミング。今こそスタント・パフォーマーの仕事を見てくれ!と言わんばかりです。

それが本作『フォールガイ』

『Fall Guys』というほぼ同名の人気ゲームがありますが、全然無関係です。元はこちら。1980年代に放送されたドラマ『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』のほうです。

『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』はスタントマンを本業とする男が副業で賞金稼ぎの仕事をしており、さまざまな出来事に突っ込んでいく痛快アクションでした。スタントマンらしく身体能力とスタント・テクニックの知識でトラブルを乗り越えていくのが見どころ。好評でシーズン5まで継続しました。

その『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』を映画としてリブートしたのが本作『フォールガイ』です。完全に新規の作品としてリスタートしており、ドラマを知らなくても何ひとつ問題ありません。

当然、主人公がスタント・パフォーマーで、スタントのノウハウを駆使していくという作品の売りは変わりません。大作映画になったことでド派手なスタントが次々と披露され、贅沢に満喫できるエンターテインメントに仕上がりました。

この『フォールガイ』を監督するのは、『ジョン・ウィック』シリーズの生みの親にして、今やハリウッドのアクションを先頭で引っ張っている”デヴィッド・リーチ”(デビッド・リーチ)。『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』『ブレット・トレイン』と、どれもアクションに関しては常に最高にぶっ飛んだものを見せてくれてきましたが、今回も信頼性抜群。

いや、『フォールガイ』については”デヴィッド・リーチ”監督は思い入れが一層強いかもしれません。なにせ”デヴィッド・リーチ”監督は誰よりも「アカデミー賞にスタント部門を作る」という夢に向かって精力的に活動していましたから。なので熱が入ってます。「俺たちの仕事はこれだ!」という誇りが全開です。

『フォールガイ』で主演するのは、昨年は『バービー』で歌って踊ったばかりの“ライアン・ゴズリング”。共演するのは、『オッペンハイマー』“エミリー・ブラント”。2023年の話題をかっさらった二大映画の俳優がここで揃いました。

他には、『キングスマン ファースト・エージェント』“アーロン・テイラー=ジョンソン”、ドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』“ハンナ・ワディンガム”『ブラックパンサー』“ウィンストン・デューク”『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』“ステファニー・スー”など。あと意外なサプライズもいますが、それは見てのお楽しみ。

『フォールガイ』はアクションたっぷりなのは折り紙つきですけども、全体のストーリーラインはラブコメになっています。最近のハリウッドはロマコメをピックアップする傾向が増えている気がする。しかも、ちょっと数十年前のロマコメのノリを意識したやつを…。そういうリバイバルの流れがあるのかな。

大スクリーンで観ると最高に楽しいエンタメ作をひとりでもみんなでも自由にエンジョイしてください。映画館の座席にはシートベルトはありません!

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『フォールガイ』を観る前のQ&A

✔『フォールガイ』の見どころ
★派手なアクションをたっぷり堪能。
★スタント・パフォーマーの仕事の魅力が伝わる。
✔『フォールガイ』の欠点
☆ノリは軽いのでついてきてください。

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:気分爽快なアクション
友人 4.0:一緒にストレス発散
恋人 4.0:デート向けにも
キッズ 3.5:残酷描写は抑えめ
↓ここからネタバレが含まれます↓

『フォールガイ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

コルト・シーバースはスタント・パフォーマーとして仕事をしていました。主にハリウッドのアクションスターのトム・ライダーのスタントを担当しており、スクリーンに映る顔はトム・ライダーですが、そのアクションの多くはコルトによるものです。

裏方の仕事でも誇りを持っており、「アクション!」の合図のもと、クールなアクションを披露することに躊躇いはありません。崖から落ち、車の窓を突き破り、バイクから飛び降り、爆発で吹き飛び…何でもします。

そんなコルトにとっての生きがいは、恋人のカメラマンのジョディ・モレノがいつも自分のカッコよさを最前で撮ってくれること。2人は同じ職場で互いを尊敬し、愛し合っていました。

ある日、撮影現場。トムは落ち着きがなく、顔なじみのプロデューサーのゲイルの傍にいます。対するコルトはリラックスしながら今日の撮影に臨みます。ジョディとの甘い会話を無線で楽しみ、いよいよスタント開始。高所に吊るされての落下。慣れています。そのはずでした…。

気が付けば悲鳴。担架で運ばれている自分…。

18か月後。コルトは小さなメキシコ料理レストランで働いていました。もうスタントはしていません。背骨を負傷し、スタントは引退したのです。自信を失ったコルトはジョディとも疎遠になりました。合わせる顔もないです。

そのとき、ゲイルから電話がかかってきます。ジョディがトム主演のスペースオペラ映画『メタルストーム』を監督するというのです。オーストラリアのシドニーまで来て、スタントで参加してほしいと頼まれます。

今さら戻るというのも躊躇がありましたが、でも「落っこちた男」として一生を過ごすのは嫌です。何よりもジョディが監督するというのだから、これは自分との復縁を求めているのではと感じます。

自分の腕は鈍ってなんかいない…意を決して向かうことにします。

意気揚々と久しぶりの撮影現場。スタントコーディネーターのダン・タッカーはいつものように準備してくれていました。さっそく砂浜でのレース&爆発&横転の難易度の高いシーンを撮影。今回は無事にやり遂げました。

ヘルメットを脱ぎ、ジョディの前に顔を晒します。きっと歓喜してくれるに違いない…。

しかし、期待どおりの展開は待っていませんでした。ジョディも別れに怒っており、険悪な空気になります。

ひとりでやや凹んでいると、ゲイルがやってきます。何でもトムがトラブルを起こした後に姿を消したというのです。どうやらトムを探してほしいというのが狙いなようです。警察に相談はしたくないそうで、予算超過の映画が中止になる前にコルトに彼を見つけてほしいとのこと。

面倒極まりないですが、せっかくのジョディの初監督作を潰すわけにはいかない…。

コルトは行方不明のトムを探すことにしますが…。

この『フォールガイ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/08/17に更新されています。
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業界はダメダメだけど、でも仕事は好きだ!

ここから『フォールガイ』のネタバレありの感想本文です。

『フォールガイ』は映画愛が詰まったオンリー・ワンな一作としては2024年の筆頭ですね。映画愛というか、映画”業界”愛かな。

でも本作の良いところはユーモアというドレッシングでじゃばじゃばと味付けしながらも、ちゃんと映画”業界”批判もしているところ。単に映画産業をべた褒めしているわけではありません。クリエイティブという名のナルシシズムに浸っているような自己中心的な構成ではないです。

例えば、突出して高額のギャラを貰うスター俳優や自分勝手なプロデューサーに振り回されがちな現場とか。まあ、あるよね…って光景ですよ。

今作では本来はスター俳優である“ライアン・ゴズリング”がその「苦労させられる側」の裏方の役になっているので、自虐的な”わからせ”になっています。はい、そのとおり、おっしゃるとおりです…みたいに“ライアン・ゴズリング”も今まで以上に現場に気遣ったんじゃないかな。

元のドラマシリーズは80年代に作られたので、皮肉っている対象の俳優が“クリント・イーストウッド”とかなんですけど、この2024年の『フォールガイ』は誰かな…。まあ、同じ「トム」でも“トム・クルーズ”はしっかり自分でアクションやって、スタントパーソンに誰よりもリスペクトありますけどね。

苦労するのは、スタントだけでなく、新人監督も、アシスタントも、その他のあらゆるマイナーな映画現場職人たちも、本当にたくさんいます。

そうやってすったもんだで作り上げられていくあの無駄にスケールのデカい大作映画『Metalstorm』。スペース・オペラらしいけど、実は1983年に『メタルストーム』(原題は「Metalstorm: The Destruction of Jared-Syn」)というSF映画が本当にあって、それのパロディになっています。本作でのラストの完成版予告を観ると完全に『REBEL MOON』にしか見えないな…。

ちゃっかりゲスト出演してくれた“ジェイソン・モモア”、ありがとう…。

他にも、ディープフェイクの技術でスタント・パフォーマーの顔を俳優の顔にすり替えるという手段が、良からぬ陰謀(不祥事の隠蔽)に悪用されるくだりとか。昨今のAI問題の業界危機感もがっつり掴んでいます。だからストライキをするのです。

そんなクソみたいなダメなところだらけの映画業界を見せられてなお、私たちはなぜ映画の仕事をするのか…。その答えが終盤に詰まっています。

作中で何度もアクション・シーンが挟まりますが、ラストは映画撮影現場での一大ドッキリのような仕掛けで犯人を罠にハメます。このみんなが一丸となってスタント・テクニックなどの技術を結集してギャフンと言わせるのが最高にいいですね。

「映画っていうのはこうやって作るんだよ!」という誇りが大団円を作る、ベスト・アクションをみせてくれました。

そしてエンドクレジットは撮影舞台裏の本物のスタント・パフォーマーたちの仕事っぷりを見せてくれる。完璧ですよ。ありがとうが止まらない…。

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撮って撮られてのラブコメ

『フォールガイ』は作中の事件の陰謀はさておき、物語の大筋は定番のラブコメで、職業危機をともなう中年男性のアイデンティティ・クライシスのパターンです。

ちょっと下手すると、ヒロイン側が男性に都合のいいトロフィー化してしまうのですが、本作はそこにズボっと陥らず、比較的ほどよくジョディの物語も用意できた気がします。

何でも当初の企画の作りだした頃はジョディの役回りはメイクアップの人だったらしく、それを監督に変えたのは非常に良い改変でした。ラストのオタクの祭典であるサンディエゴ・コミコンでジョディが監督として喝采を浴びるシーンもね…現実のオタク界隈における女性監督へのバッシングをみているから、すごく理想的でなかなかない風景だとは思うんだけど、こうあってほしいよねっていう…。

コルトもジョディにそこまで依存せずに自力で再起し始めるので、2人の対等さが際立ちますし、終盤の大仕掛け現場アクションでは、ジョディの監督としての瞬発的な実力(それもずっとカメラ撮影で鍛えられたであろう技能も輝く)、それをやはりここでも裏で支えたいコルトの実直さ…この2つがガシっと噛み合っていくという、綺麗なラブコメのコンビネーションに着地していました

あの撮影現場でジョディのトレーラーにコルトがエイリアン姿で潜入して、やけにアグレッシブなジョディにボコボコにされまくるくだりは、“デヴィッド・リーチ”監督の趣味というか、何度でもアクションにしてしまうというノリでシュールで笑えたし。“デヴィッド・リーチ”監督、絶対にキス・シーンなんかより男女に殴り合いしてほしいタイプだな…。

本作『フォールガイ』では男性多めのスタント現場でしたけども、ドキュメンタリー『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』でも映し出されるとおり、女性のスタントパーソンも活躍していますから、デビュー作で手慣れたジョディは今度は女性もたっぷり雇ってスタントしやすい現場にしてくれるでしょう。

アカデミー賞にスタント部門を設置するのを躊躇する理由のひとつとして「危険なスタントが増えるかもしれない」という危惧を挙げる声もあるのですが、それはやっぱり変で、だって映画業界の問題点なんて他にいくらでもありますからね。スタントだけが突出して危険なわけじゃないです。ビジュアルのインパクトがすごく危険っぽさをだしちゃうけど。

作中のキャラの言葉である「I love my job」をみんなで言えるようになるには、労働環境を改善して、給料も平等に増やして、差別も無くして…やらないといけないことがいっぱいありますよね。

『フォールガイ』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)2023 UNIVERSAL STUDIOS. ALL Rights Reserved. ザ・フォール・ガイ

以上、『フォールガイ』の感想でした。

The Fall Guy (2024) [Japanese Review] 『フォールガイ』考察・評価レビュー
#ライアンゴズリング #エミリーブラント #映画業界