究極の内輪ネタ・マルチバース…映画『デッドプール&ウルヴァリン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年7月24日
監督:ショーン・レヴィ
セクハラ描写 ゴア描写 恋愛描写
でっどぷーるあんどうるばりん
『デッドプール&ウルヴァリン』物語 簡単紹介
『デッドプール&ウルヴァリン』感想(ネタバレなし)
ライアン・レイノルズは疲れを知らない
映画の主演俳優がプロデューサーを務める映画の中には、わりとその人物が…「私物化」といったら語弊がありますけど、事実上「やりたい放題」できてしまっているタイプの作品が出現したりします。近年であれば、“トム・クルーズ”の『ミッション:インポッシブル』シリーズがまさにそれ。気心の知れた監督とタッグを組むことで、自分の理想を詰め込んだ映画が作れる…。
”ライアン・レイノルズ”もそんなスタイルでデカいことを成し遂げたようです。
それが本作『デッドプール&ウルヴァリン』。
本作はマーベルのアメコミ映画『デッドプール』シリーズの第3作目。『デッドプール』の1作目は2016年にお披露目となり、そのデッドプールという主人公の下品で不真面目、そしてメタなネタたっぷりなユーモアが大ウケし、絶好調の大ヒット。続く2作目となる『デッドプール2』(2018年)もノリノリでした。
しかし、3作目は異変に直面します。それまでの『デッドプール』シリーズは、マーベルの原作ですが、「X-MEN」の流れをくむので「20世紀フォックス」で製作・配給されていました。しかし、2019年にディズニーが買収したことで、『デッドプール』シリーズはどうなるのかとまずシリーズの存続自体があやふやに。
結局、杞憂でした。3作目はディズニー体制下で作られることになり、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の世界線と合流。となると今度は作風はどうなるんだと次の心配に移行。それまでの『デッドプール』シリーズは「R」指定も気にしない大人向けのノリで作られており(そうは言っても「R18+」とかではない)、それが維持されるのかと不安になるのも無理ありません。
けれどもそれも杞憂でした。いつもの『デッドプール』が第3弾でも帰ってきます。
しかし、こういう企業レベルで激動があると製作は何かとゴタつきやすいものですし、クオリティは…とやっぱり心配は残ります。
でも主演の”ライアン・レイノルズ”はやってくれました。『ようこそレクサムへ』でも証明していましたけど、”ライアン・レイノルズ”って地味にもの凄くプロデュース力がありますよね。どんどん磨かれている気がする。
そして今作のとっておきの目玉として用意してきたのが、”ヒュー・ジャックマン”演じるウルヴァリンとの共演。タイトルにも並んでいるとおり、本作は完全にバディ映画です。
MCUの指揮者である”ケヴィン・ファイギ”もまさか実現するとは思わなかったこのカムバックを叶えることができたのは、まあ、ぶっちゃけて言えば、”ライアン・レイノルズ”が”ヒュー・ジャックマン”と大の親友だから。そう、本作は完全に「ライアン・レイノルズの好きにやっている」作品。何よりも”ライアン・レイノルズ”が楽しんでます。
”ライアン・レイノルズ”が”ヒュー・ジャックマン”のほかに「マルチバース」という最高のオモチャを手に入れてしまったのですからね。カオスなことが起きるのは想像つきます。たぶん”ケヴィン・ファイギ”も「ヒュー・ジャックマンがでるなら、もう他も何でもやっていいよ」と丸投げだったんじゃないかな…。
『デッドプール&ウルヴァリン』を監督するのは、『フリー・ガイ』(2021年)と『アダム&アダム』(2022年)で”ライアン・レイノルズ”とすっかり仲良くなった“ショーン・レヴィ”。
『デッドプール&ウルヴァリン』についてこれ以上の前情報はいりません。あとはカオスの中に飛び込む準備だけしていればいいのです。スーパーヒーロー疲れならぬデッドプール疲れが、あなたの脳を満たし、間髪入れずにアダマンチウムの爪で刺激します。
『デッドプール&ウルヴァリン』を観る前のQ&A
A:最低限で『デッドプール』と『デッドプール2』の鑑賞をオススメします。時間があれば映画『LOGAN ローガン』とドラマ『ロキ』を観るのも良いです。他にも関連作はいくらでもあるのですが、キリがないので…。
オススメ度のチェック
ひとり | :MCU初心者はややハードル高め |
友人 | :作風が好きなら |
恋人 | :シリーズ好き同士で |
キッズ | :残酷・性的ネタが多め |
『デッドプール&ウルヴァリン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
元傭兵のウェイド・ウィルソンは不治の病の治療のためにやむを得ずに人体実験に巻き込まれてしまい、偶然なのか不死身の肉体を手に入れて、「デッドプール」というふざけたヒーローとして暴れていました。ケーブルという未来からやってきたサイボーグ男を倒し、タイムマシンをゲットしたデッドプールは、安易な気持ちで過去に戻って現実を改変。恋人のヴァネッサを死の運命から救い、他にもたくさんの友人を助けました。
それから6年後。今のウェイドは…車のセールスの仕事をしていました。同僚のピーターはもうヒーロー活動はしないのかと聞いてきますが、ウェイドはヒーロースーツもロッカーに封印していました。
実は6年前は違いました。タイムマシンでノリノリだったデッドプールは、別の時間軸のある時代に飛び、そこでスーパーヒーローのチームである「アベンジャーズ」の新メンバーに加えてもらおうと面接に押しかけました。面接相手はアイアンマンを傍で支えてきたハッピー・ホーガンです。
デッドプールは「X-MEN」にも加われず、自分で「X-フォース」というチームを結成するも失敗し、この「アベンジャーズ」に全てを捧げるつもりでした。しかし、ホーガンの答えは厳しいもので、もっと身の丈にあった仕事を探せと追い出されてしまいます。
さらにヒーロー意欲が失せてやさぐれていると、恋人だったヴァネッサにも愛想をつかされてしまい、今に至ります。
この日は自身の誕生日。居候相手にしているブラインド・アルの住む家に帰ると、昔の仲間が集って、誕生日のパーティーを開いてくれていました。ピーターもいれば、タクシー運転手のドーピンダー、「X-MEN」の若きメンバーで恋人同士のネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッドとユキオもいて、そしてヴァネッサもいます。
ぎこちなくヴァネッサに挨拶すると、今の彼女はボーイフレンドもいて元気にやっているようです。
どこか落ち込む気持ちを抑えながら、チャイムの鳴った玄関の扉をウェイドがひとり開けると、そこには見慣れない格好の集団が…。警察風のセックスワーカー…ではないようです。
その集団はあっという間にウェイドを取り押さえ、謎の異空間ゲートで誘拐してしまいます。気が付くと取調室のような場所におり、目の前にはパラドックスと名乗る退屈そうなスーツの男がいました。
このパラドックスいわくここは「TVA(時間変異取締局)」という場所で、神聖時間軸を守るために秩序を脅かした存在を消去しているらしいです。今回はこのウェイドを神聖時間軸のアベンジャーズに加えるためだとか。何でもソーとの深い絆の未来が待っているらしい…。
心躍るデッドプールでしたが、予想していなかったことも聞かされます。その代わり、ウェイドがいた時間軸は消滅し、あのウェイドの仲間たちも世界から消える…と。
その時間軸の消滅の原因は「アンカー」であるローガン(ウルヴァリン)の死にあるようで…。
内輪ネタについてこれるか?
ここから『デッドプール&ウルヴァリン』のネタバレありの感想本文です。
『デッドプール&ウルヴァリン』を簡単に説明するなら、「マルチバースを使った究極の内輪ネタ」って感じでした。『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』よりもはるかにマッドネスです。
正直、あまりに内輪ネタすぎるので「これ、アメコミ映画を全然見ていない人はネタの大半がわからなくてチンプンカンプンなのでは?」と心配したくもなる…。MCU屈指の関連作の多さだと思いますし、MCU初心者には相当なハードルの高さでしょう。
しかも、厄介なのは過去のMCUを観ていればいいわけではなく、もっと別、つまり「20世紀フォックス」のマーベル映画のネタがてんこ盛りだということ。実質、「20世紀フォックス」のマーベル映画の同窓会であり、それへのラブレターです。
『X-メン』(2000年)、『X-MEN2』(2003年)、『X-MEN:ファイナル ディシジョン』(2006年)、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009年)、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年)、『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年)、『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年)、『X-MEN:アポカリプス』(2016年)、『LOGAN ローガン』(2017年)、『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年)…。さらに『デアデビル』(2003年)、『エレクトラ』(2005年)、『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』(2005年)、『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』(2007年)…。
これを全部観て覚えている人はそもそもマニアックなファンですよ。
まず冒頭で『LOGAN ローガン』のあのラストの余韻を台無しにした後、まさかの“ヘンリー・カヴィル”版のウルヴァリンを披露するジャブをうちます。
導入の舞台がドラマ『ロキ』のTVAだというのもあの難解な設定を含めてドラマ未見には結構わかりにくいところです。パラドックスを演じた“マシュー・マクファディン”はドラマ『メディア王 華麗なる一族』に続いて相変わらず子憎たらしいキャリア”おべっか”役が合いますけどね。
そして剪定された変異体が捨てられるヴォイド空間で、キャプテン・アメリカ…じゃなくてジョニー・ストーム(ヒューマン・トーチ)のほうの“クリス・エヴァンス”がダサく登場。また観れて(しかもオッサン版で)嬉しいよ…。
間髪入れずなぜか20世紀フォックスとすら関係のない『マッドマックス』パロディが怒涛の勢いで始まる中、セイバートゥース(演じるのは”タイラー・メイン”)、パイロ(演じるのは”アーロン・スタンフォード”)と、20世紀フォックス勢がぞろぞろ出現。もうキャラ説明もないから、わかる人にしかわからない…。
今作のヴィランであるチャールズ・エグゼビアの双子の妹のカサンドラ・ノヴァ(演じるのはノンバイナリー俳優の”エマ・コリン”)から逃げおおせて、辿り着いた対抗勢力のアジトにいたのは、エレクトラ(”ジェニファー・ガーナー”)、ブレイド(”ウェズリー・スナイプス”)、ローラ/X-23(”ダフネ・キーン”)とこちらも新旧の懐かしの面々。
でもやっぱり笑っちゃうのが、”チャニング・テイタム”のガンビット。企画があったものの立ち消えになった配役がここで実現。良かったね、”チャニング・テイタム”。ミニオンいじりの訛りだったけど、戦闘はカッコよかったし…。
ラストはレディ・デッドプール(顔を見せずに演じるのは”ライアン・レイノルズ”の妻の”ブレイク・ライヴリー。”テイラー・スウィフト”ではない!)を含めたデップー軍団の大挙。デッドプール作品としては出し尽くしたんじゃないでしょうか。
これだけの内輪ネタは一回限りの切り札ですけど、最後のミッドクレジットの20世紀フォックス作品のメイキング映像なんか見せられると、バカ単純に感動はしてしまうものでね…。ズルい構成だった…。
まずは自分と身近な人を救おう
3作目もふざけまりですが、シリーズとして一貫してメインストーリーは真面目で、『デッドプール&ウルヴァリン』もそこはしっかりしています。今回は中年男性のアイデンティティ・クライシスですね。
『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』は別の世界線の自分と対話することでアイデンティティを取り戻す物語がありましたが、デッドプールは別の世界線の自分(綺麗な“ライアン・レイノルズ”のナイスプール)を盾にするだけ。対話相手はやはり最高の爪を突き刺してくれるローガン(ウルヴァリン)です。
というか、“ライアン・レイノルズ”は“ヒュー・ジャックマン”とイチャイチャしたいんです。
序盤でベラベラ口にしていた「マーベルを救う」だとか「マーベルの神」だとか、そういう方向には至らず、自惚れた救世主主義(メサイア・コンプレックス)に陥らず、身近な人たちの日常の温かさと自己肯定に落ち着く。
最近の“ライアン・レイノルズ”は本当にこういうタイプの物語を得意としています。ブロマンスでアプローチするのも得意技。
まあ、今作は宣伝のしかたといい、ちょっとクィア・ベイティングな部分があったとも言えなくもないけど…(PinkNews)。デッドプールはパンセクシュアルのアイコンとして支持され、今作でもデッドプール自身が男性へ性的魅力を感じていることを示唆するシーンはあちこちにあったり、セクシーな半裸ローガンが男女から恍惚な目で見られていたり、Bi+な匂いはあったはあったですが…。ラストの締めの楽曲も、フェミニズムの永遠のテーマでありLGBTQアイコンの”マドンナ”だし…。
ともかくアニメ『X-MEN ’97』でも見知っているはずだったけど、やはり黄色スーツを実写で観るのは良いもので、“ヒュー・ジャックマン”は最高のウルヴァリンだという再確認ができました。これだけ最高のウルヴァリンを更新し続けられると、次世代のウルヴァリンを演じる俳優にはプレッシャーだな…。
MCUはここずっとマルチバースの危機を救う展開ばかりが連発していますが、基本はアイデンティティと向き合う流れになり、さすがに飽きてくるのはあります。でも次の『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』はポリティカル・サスペンスでガラっと空気が変わるでしょうし、おふざけはこれが一回ピークになるのかな?
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
?(匂わせ)
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以上、『デッドプール&ウルヴァリン』の感想でした。
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