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『マリッジ・ストーリー』感想(ネタバレ)…Netflix;結婚も離婚も物語だから

マリッジ・ストーリー

結婚も離婚も物語だから…Netflix映画『マリッジ・ストーリー』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Marriage Story
製作国:アメリカ(2019年)
日本:2019年にNetflixで配信
監督:ノア・バームバック
恋愛描写

マリッジ・ストーリー

まりっじすとーりー
マリッジ・ストーリー

『マリッジ・ストーリー』あらすじ

舞台監督の夫と俳優の妻は、いろいろな生活や考えなどのすれ違いから離婚の準備をしていた。2人は円満な協議離婚を望んだが、これまでのお互いに対する不満が噴出し、こじれてしまった結果、離婚弁護士を雇った裁判になってしまう。激しくなっていく二人の応酬は、想定以上に終わりが見えないものになっていき…。

『マリッジ・ストーリー』感想(ネタバレなし)

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さあ、結婚を語ろう

評論家でなくともついついあれこれ語りだすと止まらなくなる人類不変のテーマ、「結婚」

私は結婚についてはそれほど固執した思考もなく自由なスタンスなのですが、人によっては「結婚は幸せに欠かせない」という意見もあれば、「結婚は人生の墓場」という意見もあって、やたらと両極端な思想すらも乱立します。

それもそのはず、結婚なんてその人がどう生きるかという問題ですから。固定的な「結婚」という概念なんてありません(社会に根付く保守的な考えはあれど)。しかも、昨今はますます結婚をめぐる考え方も多様化する一方であり、今後さらにその多様性は拡大すると予想されます。もしかしたら数十年後の未来では「結婚」という言葉自体が死語になっている可能性だってあるかもしれません。

時代によって少しつずつ変化している「結婚」。だから結婚を描く映画もその時代の“今”を反映したものになっており、時代を映す鏡としても興味深いものだったります。

ここ最近の私の気に入っている結婚映画といえば、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』や、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』、ジェフ・ニコルズ監督の『ラビング 愛という名前のふたり』、バリー・ジェンキンス監督の『ビール・ストリートの恋人たち』、ジョン・M・チュウ監督の『クレイジー・リッチ!』と、挙げだすとキリがなく、こうやって見ると私は結婚映画が好きになりやすいのかもしれない…。

そんな中、またひとつ、大切にしたい大事な一作と出会うことができました。それが本作『マリッジ・ストーリー』です。

物語はいたって平凡で、とある夫婦が離婚協議中に裁判となっていくという話。類似した題材の映画と言うと『クレイマー、クレイマー』(1979年)を思い出しますが、『マリッジ・ストーリー』は夫婦がそれぞれ夫は舞台監督で妻は女優という家庭なので、家族の漂わす空気感は多少違ってきます。それにこちらは親権だけをトピックにはしていないのも違う部分です。まあ、このへんは時代とか、住んでいる州の違いとかもあるのでしょうけど。

監督は『イカとクジラ』や『ヤング・アダルト・ニューヨーク』でおなじみの“ノア・バームバック”。最近の監督作『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』(2017年)でも家族モノ(父と子の対立)でしたし、この監督の十八番ですね。今度は夫と妻の対立です。

対立はしているけど、どことなくコミカルだったりするのもいつもの監督の手際。要するに“ノア・バームバック”監督らしい映画ですよということ。

主役となる夫婦を演じるのは、“スカーレット・ヨハンソン”“アダム・ドライバー”

“スカーレット・ヨハンソン”はもう誰しもが認める大女優であり、最近はすっかりアクション映画専門みたいな感じでしたけど、もともとは全然違うフィルモグラフィーの経歴を通ってきましたからね。やっとMCUから卒業したのかなと思ったら『ブラック・ウィドウ』も待ってますけど、でもアクション系ではないドラマ作品で彼女が見られるのは嬉しいものです。女優役をやる女優としてぴったりですよね。

“アダム・ドライバー”は今やベテラン若手みたいなポジションとして引っ張りだこで、良作にはいつも彼がいるくらいの存在感。『ブラック・クランズマン』や『ザ・レポート』のような社会派ドラマから、『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』のような娯楽作まで何でもござれ。結婚映画だと『パターソン』でも印象的な演技でした。“ノア・バームバック”監督作には頻繁に出演しており、縁を大事にしている人なんだなと思います。

他にも『ジェニーの記憶』でも名演を見せた“ローラ・ダーン”がインパクトのある弁護士役で登場していますし、ドラマシリーズ『アンビリーバブル たった1つの真実』での力強い存在感が印象的だった“メリット・ウェヴァー”がユーモアたっぷりなキャラで笑いをとってくれます。

結婚をこれから考えている人、今まさに結婚生活真っ最中で幸せな人、結婚生活が破綻しそうで不安な人、離婚して今はひとりで生きている人、結婚なんて興味ないと遠ざかっている人…全ての人間に観てほしい映画です。離婚がテーマでも決してどんよりした気分にはならないと思います。

Netflixオリジナル作品として2019年12月6日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(結婚観がどうであれ必見)
友人 ◎(語り合いが捗る)
恋人 ◎(結婚を考えるきっかけに)
キッズ ◯(大人のドラマではあるが)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『マリッジ・ストーリー』感想(ネタバレあり)

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負けず嫌いが共通点

ニコールの長所は、気まずい場面で相手を気遣えるところ。人の話をよく聞く。そして、話が長引く。家族の話に関しては妻が一枚上手だ。家族の髪を切る。飲まないのに紅茶を入れる。ロサンゼルス育ちで映画人に囲まれて育った。母親のサンドラや姉のキャシーと仲良しだ。息子とはとことん遊ぶ。負けず嫌いで、凄い力で瓶を開ける。映画で成功したのに僕の舞台に出るためにニューヨークへ来てくれた。知ったかぶりをしないし、僕の無理難題にも応えてくれる。僕が一番好きな女優だ。

チャーリーの好きなところは、意志の強さ。他人に何を言われようと自分がしたいことをする。やたらとよく食べる。几帳面で、節約家。映画ですぐ泣く。家事が得意。めったに自分を曲げない。私が怒っても聞き流してくれるから気が楽。男性では珍しいくらいに、服のセンスも良い。負けず嫌い。子煩悩で、没頭する性格。インディアナ州から出てきて、酒や暴力が絶えない家庭だったらしい。自分の望みがハッキリしていて、徹底的な主義の人。

夫は妻の、妻は夫の、それぞれの良い部分を挙げていく。なんとも仲睦まじい物語の導入。これなんて結婚式のプログラムのひとつで披露されそうな雰囲気です。

しかし、幸せムードはここでおしまい。実はこれは離婚調停人に言われてチャーリーとニコールが半ば嫌々書いたであろう、互いの良い部分メモでした。現状のこの夫婦の仲は冷めきっており、今も離婚調停人の前で火花が散っています。「なぜ2人が結婚したのか思いだしてほしい」と言う離婚調停人の言葉も虚しく、メモすらも読みたがらないニコールは「二人でしゃぶってろ」と言い放って帰ってしまいます。

チャーリーは「エグジット・ゴースト」という劇団の監督であり、ニコールはその看板主演女優。劇団仲間はあの二人の亀裂に複雑な気持ちのようですが、ニコールはカリフォルニア、チャーリー含む劇団はブロードウェイへ…と別々の道を歩むことはすでに決定事項。

帰りの電車でも無言のまま、二人は帰宅。8歳の息子ヘンリーを見てくれたシッターにお礼を澄まし、おもむろに会話する夫婦。「他の調停員を探そうか」「財産分与だけでいいし」…個人的には穏便に済ませたいのは双方ともに本音でしたが、二人の溝は深いこともザックリと痛感。

場面は変わって、ニコールの母サンドラの実家。息子と一緒に寝ていたニコールは、母の小言に付き合わされるのも覚悟で、ロサンゼルスにやってきていました。なお、母と姉キャシーはチャーリーのことはそんなに嫌いではないようで、それもニコールには若干不満。TV番組の仕事も現状は決して面白くはありません。

職場でノラというやり手の弁護士を紹介され、なんとなく相談してみると、親身になって話を聞いてくれます。そして、口から出るのは二人の馴れ初めの話。SF映画の監督に会うためにニューヨークに行って、そのときプロデューサーと劇を観に行ったら、デカイ毛むくじゃらのクマがいて、それが舞台監督でもあったあの人。私が入ったことで彼の劇団は有名になり、私はついに無名になった。小さくなった。私は夫の活力の餌になっただけ。私は誰かの所有物。私を独立した人間として見ていない。それに舞台主任のマリー・アンと浮気した…。いっぺんに苦しみを吐露するニコール。

ニコールが弁護士に任せたことを知らないチャーリーは、離婚書類の封筒を受け取ったことで「夢のようだ」「お互い弁護士は立てないと思っていた」と事態が自分の思わぬ方向に加速していることを知ります。

訴状に回答がないなら欠席裁判を行って、無抵抗に負ければ、養育費も最高に引き上げ、親権も100%もらうと言われ焦るチャーリー。自分の弁護士を探すも、弁護料の高さにびっくりするし、息子がロサンゼルスにいる時点で妻側が有利だということにも予想外だし、勝手に扶養料をとるかとか私立探偵を雇おうとかで盛り上がる弁護士組にも困惑だしで、オロオロするばかり。

バート・スピッツという弁護士を何とか見つけて、やっと協議の場に立てるようになります。裁判になるのは避けられない状況。

負けず嫌いが共通点な二人の対立の行方はどこへ向かうのか…。

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監督や俳優の実人生が重なる

『マリッジ・ストーリー』の面白さのひとつが、実在の人物の実体験とのオーバーラップをともなう、メタ的な現実とのシンクロ性です。それこそ是枝裕和監督の『真実』に近いテイスト。

どういうことかと言うと、作中のチャーリーとニコールは舞台監督と女優という職業ですが、これはもちろん“ノア・バームバック”監督自身と重なります。彼も女優のジェニファー・ジェイソン・リーと結婚し、子どもがいて、離婚しています。ジェニファー・ジェイソン・リーはハリウッド生まれで、両親ともに映画業界どっぷりな人だったので、まさしく作中のニコールと一致。おそらく『マリッジ・ストーリー』もこのジェニファー・ジェイソン・リーとの離婚経験が多分に反映されたストーリーなのでしょう。

また、“ノア・バームバック”監督の今のパートナーは『フランシス・ハ』で主演し、今では『レディ・バード』などでメガホンをとってアメリカ映画界の先頭を走る女性監督であるグレタ・ガーウィグです。ジェニファー・ジェイソン・リーも監督として成功をおさめています。作中でニコールは最終的に監督として自分の望んでいたとおり花が開くわけですが、そこも同じですね。それにしても“ノア・バームバック”監督は結婚したパートナーの女優が二人とも監督として名を上げているのは地味に凄いなぁ…。

なので『マリッジ・ストーリー』を観ていると、「え、これ、どこまで本当なの…」と内心こっちまで焦る瞬間がありますよね。あのチャーリーの浮気発覚とか、「“ノア・バームバック”…お前…!」って勝手ながら思ってしまいました。

ちなみに妻組のジェニファー・ジェイソン・リーとグレタ・ガーウィグは『マリッジ・ストーリー』を鑑賞してとても気に入ってくれたそうです。ほっ…(なんで私が安心しているんだろう)。

シンクロが見られるのは監督だけではありません。ニコールを演じた“スカーレット・ヨハンソン”はたぶん2回くらい離婚しているのかな。“ローラ・ダーン”も離婚経験あり。あの“ローラ・ダーン”演じるノラ・ファンショーというなかなかに存在感のある弁護士は、“スカーレット・ヨハンソン”と“ローラ・ダーン”が離婚時にお世話になった実在のロサンゼルスの弁護士がモデルだそうです。さすがハリウッド、弁護士までキャラが濃いんだなぁ。

“アダム・ドライバー”は離婚歴はないですけど(結婚はしている)、両親は離婚していたようで、作中のヘンリーみたいな子ども時代だったのでしょうか。

要するに離婚なんて珍しくないわけです。こんなふうに作り手の実人生すらも物語の素材にしていく。なかなか邦画では見られない、ハリウッドらしいクリエイティブ精神ですよね。日本は俳優の離婚をさもバッド・ニュースのように報じるし、その時点でいろいろ難ありなんですけど…。

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靴ひもを結んで新しい物語へ

『マリッジ・ストーリー』の魅力は役者陣はガンガンと引き出してくれています。全体的にずっと演技合戦のようなものです。

“スカーレット・ヨハンソン”は普段は女優としての堂々とした振る舞いを我々は観ているぶん、ああいう内面の感情を曝け出している姿を見ると、リアルとフィクションがごちゃごちゃになるようで、こちらの気持ちも乱されます。

ニコールの葛藤は、劇団の成功が自分に還元されていくことのない苦しみも、最初はポルノ的な肌見せ役しか与えられない出発点の不公平さも、キャリアを真っすぐ生きようとする女性らしい普遍的な悩み。それに気づいてあげられない夫(男性)という構図は、何も夫婦に限った話ではないはずです。

“アダム・ドライバー”は…まず私の個人的な感想ですけど、やっぱり私は“アダム・ドライバー”という俳優、好きだなぁ~。序盤から終わりまで笑いをとりすぎでしょう。瓶を開けられないアダドラ、ハロウィンに包帯巻き巻きの仮装で息子待機するアダドラ、調査員を前でうっかり腕をナイフでざっくり切っちゃって誤魔化しになってない誤魔化しをするアダドラ(扉から出るのにモタモタする調査員がまたいい)。確かに夫としてはどうかと思うけど、観察対象としては最高です。あの顔と図体の長身さだと、何をしても面白いんだもん、ズルい。

そんなチャーリーの葛藤は、言ってしまえば彼は他の大多数の夫と同じく「仕事」と「子ども」しか誇れるものはなく、それが離婚を機に、仕事である劇団は助成金の大半を失いかねないし、息子も同じく行ってしまいそうで、その事態に直面して初めてパニくっている…という感じです。後半で不注意の腕ザックリ事件で失血して倒れますが、まさに彼の生きるのに必要な血であった「仕事」と「子ども」が流れていってしまったわけで。しかも、あのナイフと同じように自業自得で。

この夫婦は最初から争う気はありませんでした。しかし、ついには互いに死ねばいいと言い合うまでの感情剥き出しの醜悪な怒鳴り合いにまで発展。なお、このシーンはアドリブではなく、ちゃんと台本があって、何度も撮っているとか(役者の見事な仕事)。

確かに共同体であった夫婦の成果物を「どれが誰のものか」と分けるのは無理かもしれないけど、認め合うことはできたのではないか、いや最初からそれはできていたんじゃないか。そんなことを、ヘンリーが例の良いところリストアップ・メモを読んでいるラストの場面で集約してくれる本作。

本作のタイトルに「ストーリー」とあるようにこれは「物語」。結婚は物語なのですから、登場人物である自分たちの行動でどうにも展開は変えられる。妻は監督として作る側に、夫は講師として教える側に、また新しい「物語」の関わり方が広がっていくラストを観ていると、当たり障りのない言い方になってしまいますけど、結婚は考え方しだいだなとつくづく思います。

離婚は「結婚の失敗の行き着く先」と思われがちだけど、そうじゃないかもしれない。

「訴訟後の人生においてはどちらが勝っても夫婦が一緒に何とかしていくんだ」そんな弁護士の言葉もあったように、あの二人にはまだまだ物語は続きます。できる限り“良い物語”の脚本を作るくらいしかないですよね。

『マリッジ・ストーリー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 97% Audience 83%
IMDb
8.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
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関連作品紹介

結婚や夫婦を題材にした映画の感想記事の一覧です。

・『ファントム・スレッド』

・『パターソン』

・『ラビング 愛という名前のふたり』

・『クレイジー・リッチ!』

作品ポスター・画像 (C)Heyday Films, Netflix マリッジストーリー

以上、『マリッジ・ストーリー』の感想でした。

Marriage Story (2019) [Japanese Review] 『マリッジ・ストーリー』考察・評価レビュー