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『フランクおじさん Uncle Frank』感想(ネタバレ)…中年男性がゲイを告白する道のり

フランクおじさん

中年男性がゲイを告白する道のりを描く…映画『フランクおじさん』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Uncle Frank
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2021年にAmazonビデオで配信
監督:アラン・ボール

フランクおじさん

ふらんくおじさん
フランクおじさん

『フランクおじさん』あらすじ

1973年、フランク・ブレッドソーと18歳の姪ベスは、マンハッタンからサウスカロライナのクリークビルへ車の旅に出る。父親の葬儀に出席するためだったが、フランクにとってはそれは気が進まないものでもあった。なぜなら自分は同性愛者であり、それを家族には告げていなかったからである。しかも、図らずもフランクの恋人ワリードも旅に加わることになってしまい…。

『フランクおじさん』感想(ネタバレなし)

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ポール・ベタニーが素顔で主演

話題作に出ているのに顔を覚えてもらえない俳優というのもたまにはいます。

“ポール・ベタニー”という俳優をご存知でしょうか。

彼の出演した人気作と言えば『アイアンマン』シリーズでした。世界的大ヒットとなるMCUの出発点です。しかし、たいていの人は“ポール・ベタニー”の顔を認識していないでしょう。なぜなら『アイアンマン』のときは「J.A.R.V.I.S.」というAI音声を担当しているだけでしたから。

そして『アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン』でついに俳優として声ではなく体で出演!…と思ったら「ヴィジョン」という役で思いっきり全身メイクで素顔がわからない状態の登場。またしても“ポール・ベタニー”の顔は不明です。なんか変な赤い人…みたいな印象しか…。

やっと素顔が出せたのは『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年)、ドラマ『ワンダヴィジョン』になってから。この作品群で「あ、こんな顔の人だったんだ…!」と認識した人も多いのでは?

しかし、“ポール・ベタニー”はもっとその前から活躍している俳優でした。2001年の『ビューティフル・マインド』、2003年の『マスター・アンド・コマンダー』、2006年の『ダ・ヴィンチ・コード』など話題の映画にも顔を見せています。なんでも演劇一筋の家系に生まれたそうで、どっぷり俳優業に浸っていたようですね。今ではヴィジョンの人というイメージが強いですが、キャリアはじゅうぶんの実力派なのです(逆にマーベルはそういうタイプの人をエンタメ作に引っ張ってくるのが上手いですよね)。

その“ポール・ベタニー”の主演作が最近になって登場しました。それが本作『フランクおじさん』です。

なんとも呑気そうなタイトルですが、その名のとおりフランク叔父さんと呼ばれる男が主人公。彼が姪の女子学生を引き連れて久しぶりに故郷の家族のもとへ行くという物語で、一部はロードムービーっぽい感じにもなっています。

『フランクおじさん』を語るうえでやはり監督も大事だと思います。その人とは“アラン・ボール”です。世間的にはアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞を総なめにして受賞した『アメリカン・ビューティー』(1999年)の脚本家として有名です。他にも『シックス・フィート・アンダー』(2001年~)というドラマシリーズで監督もつとめており、こちらも高評価。

『アメリカン・ビューティー』を観た人ならわかると思いますが、とても表面的に眺めるだけでは理解しきれない、多層的で啓示的なストーリーを構築させており、なんとなく一筋縄ではいかぬシナリオを生み出す人という印象も私はありました。

でも今回の最新作『フランクおじさん』は『アメリカン・ビューティー』と比べるとかなりわかりやすい部類の物語になっていると思います。

本作の主人公がゲイであり、それが大きな主軸になっていきます。実は“アラン・ボール”もオープンリーなゲイとして公表しており、『フランクおじさん』は監督だけでなく製作・脚本にも関わっていますし、おそらく実人生を強く反映させているのではないでしょうか。

中年男性を主人公にしたゲイ映画もまだまだ珍しいですし(どうしても若い人が主役になりがち)、加えてこの『フランクおじさん』はロマンスというよりは家族との向き合い方がテーマになっており、アメリカのゲイ映画は一歩進んで多様になってきましたね。日本は依然として俳優にBL的なカップリングをさせることに焦点が置かれがちだし…。

“ポール・ベタニー”以外の俳優陣は、『IT/イット』2部作で話題となり、主演作のドラマ『ノット・オーケー』(2020年)でも魅力を振りまく“ソフィア・リリス”がこちらも主演級に抜擢。2002年生まれでまだティーンなので、今後も活躍の幅は広がっていくでしょう。

日本では劇場未公開で、Amazonオリジナル映画として「Amazon Prime Video」配信となりました。ご自宅でゆっくり鑑賞するのにちょうどいいと思います。支え合うことの大切さを実感することは今の時代には大事ですから。

オススメ度のチェック

ひとり ◎(隠れた名作を見逃さずに)
友人 ◯(俳優ファン同士でも)
恋人 ◎(同性愛ロマンスをどうぞ)
キッズ ◯(やや性的な話題が飛び交う)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『フランクおじさん』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):僕はゲイだ

サウスカロライナ州のクリークビル。1969年の夏。この田舎のとある家。大家族が集まっていました。

14歳のベティだけが浮いています。姉たちは大人っぽい本に夢中で、ベティも「肉棒のくだりがいいよね」とちょっと背伸びして知ったかぶりしますが、相手にしてくれません。

幼い子どもたちは走り回り、男たちはテレビで罵声を飛ばしています。母などの女性たちは家事で忙しそうです。とにかくブレットソー家の中は賑やかでした。

しかし、ベティ以外にも浮いている人がもうひとりいます。フランク叔父さんです。彼はニューヨーク在住の大学教授で、たまに家族の集まりに顔を出しますが、雰囲気は全然違いました。ベティの話でもきちんと聞いてくれ、親身で頼りになりました。

今日はベティの祖父・マックの誕生日。それぞれがプレゼントを渡していきます。フランクも自分の父へ贈り物を用意していました。電動靴磨き機です。しかし、当のマックは「老いぼれたと思っているのか」と反応はイマイチ。一方でベティの両親であるマイクとキティからのプレゼント(眼鏡修理用のドライバー)には絶賛。あきらかにフランクを嫌っているのは見え見えでした。

ベティにはそれが理解できません。フランク叔父さんは教養とユーモアに溢れている理想の大人なのになぜ…。

ベティはフランクに訊ねます。「ニューヨークの街で暮らすのってどんな感じ?」「最高だよ。世界がどんなに広いのかわかる」「今度、遊びに行っていい?」「いいとも、パパが許可すればね」

成績が良ければ奨学金で好きな大学に行けるとフランク叔父さんは語り、地元の大学に行くつもりだというベティに自分で道を決めろと教えます。ベティは「ベティ」という名前が嫌いで「ベスにしようかな」と呟きますが、それもいいと肯定してくれました。そして「避妊薬が必要になったら自分が父親役をする、必ず連絡をしなさい」と念押しもしてくれます。

4年後。ベティは「ベス・ブレットソー」と名を改め、ニューヨーク大学のキャンパスツアーに参加していました。

そしてフランクの家にも両親と寄りました。そこにはフランクと付き合い始めて5年だという恋人の女性・シャーロットもいて、みんなでベティのニューヨーク大学の入学を「おめでとう」と祝います。

こうしてベティあらためベスのキャンパスライフが始まり、さっそくブルースという男が話しかけてきます。「好きな作家は?」という話題で盛り上がり、「19世紀の女流作家」という学科をとろうかとブルースは口にします。その担当教授はフランク・ブレットソー。ベスは自分の叔父さんだと教え、「今度紹介してくれない?」とブルースは言います。

その夜、ブルースとの初めてのセックスを目前に緊張するベス。自分はバージンだと告げると、急ぎすぎることもないとブルースはキスだけにしてくれました。

さっそくブルースを紹介するべくフランクのもとへ。ブルースをボーイフレンドとして紹介するも、今は忙しいようで後で出直すことに。しかし、今夜パーティーがあるらしいことを小耳にはさみ、2人で行ってみることにしました。

玄関を叩くとウォーリーという男がドアから出てきます。「びっくりだよ、君が来るってフランクは言わなかったから」とベスの名を聞いて興奮気味のウォーリー。「フランク叔父さんとはどういう知り合い? シャーロットと同棲していると思った」と質問しますが、「ルームメイトだ」とウォーリーは答えるのみ。

大人っぽい空気の部屋を落ち着かずにウロウロするベス。一方、ブルースは外の非常階段にいたフランクを発見。「ベスは僕をボーイフレンドだと思っているけどね、これからもセックスはしない」と告げ、彼の意味ありげな目つきを前にして、把握するフランク。「出ていけ」と追い出します。

その頃、ベスはトイレで吐いており、フランクが介抱します。そこにちょうどウォーリーも駆け付け、状況を説明します。そしてベスにいつものように優しくこう語ります。

「ゲイってどういうことかわかるかい?」

「つまり…僕はゲイだ、ウォーリーもね。僕たちは10年も一緒に暮らしている」

そしてブルースに誘われたこと、彼もおそらくゲイでフランク目当てだったことを告げます。放心するベス。想定外のカミングアウトとなりました。

そんなひと波乱あった夜が過ぎた翌朝。「家族に言わないでいてくれるとありがたい」と語るフランクでしたが、そうも言ってられない事態が起こってしまい…。

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今に伝えたい過去のこと

『フランクおじさん』はゲイ映画と言っても、前述したようにロマンスがメインにあるわけではありません。すでにフランクは40代の中年で、ウォーリー(ワリード)という同性の恋人もおり、一緒に暮らしています。

といっても結婚できるほどの制度は1970年代には存在しないので、あからさまにオープンに幸せを享受できません。1960年代後半のニューヨークでのゲイたちを描く『ボーイズ・イン・ザ・バンド』という作品がありましたが、あちらの時期ではまだまだゲイへの風当たりも冷たく、こそこそ集まるしかありませんでした。この『フランクおじさん』における1970年代前半はもう少しは生きやすい空気にはなっていると思いますが、それでも平等なんて夢のまた夢。序盤のフランクが開いているパーティもきっとゲイであることを自認する人たちが多く参加する(もしくはジェンダーやセクシュアリティの多様性を受け入れている人が参加する)、フラットな空間なのでしょう。

そのフランクのような中年男性のゲイがが直面する問題。それは家族との向き合い方です。

この時代に中年の人が青春時代を過ごしたのは20~30年前。それはつまり露骨で陰惨なゲイ差別が蔓延っていた時代です。しかも、フランクは南部出身。キリスト教の影響が色濃い世界なので、ますます立場はありません。
そして実際、フランクは16歳のときの初恋の男子(サミュエル)との間に取り返しのつかない悲劇を抱えており、余計に封印した思い出になっていました。ベスにさえもその話題を積極的にしたがらず、すぐに話を打ち切ってしまいます。あの温厚なフランクでも感情を爆発させるくらいに辛い出来事だったことは、終盤の姿で痛々しいほどに伝わってきます。

このあたりも中年の同性愛者ならではの葛藤でしょう。中年って言ってますけど、2021年時点で考えるとフランクのような生年月日の人の年齢は高齢者ですからね。そのたどってきた苦悩と比べると、今の若いゲイの世代は窮屈さは減ったものです。LGBTQ運動が活発化し、当たり前になりつつあるのですから。もちろんまだまだ酷い差別はあるし、日本みたいに遅れている地域もありますけどね。

それでも『フランクおじさん』のように「LGBT」という言葉すら一般化していない時代における過去の実情を伝える映画は大切だなと思います。

おそらく今63歳の“アラン・ボール”も、ゲイ当事者としてそういう時代があったことを若い世代に伝えたくてこのような映画を作ったのでしょうし。
ただ、“アラン・ボール”が脚本を手がけた『アメリカン・ビューティー』もセクシュアリティをテーマにしていたと分析されていますが、それでもかなり何重にもオブラートにくるみながらのアプローチだったわけで、それと比べるとこの『フランクおじさん』は直球です。それはつまりこんなふうに直球でゲイを描ける時代になったからこそだと言えますし、この『アメリカン・ビューティー』から『フランクおじさん』に至る約20年の時代の変化は絶大だったんだなと痛感しますね。

ちなみにフランクを演じた“ポール・ベタニー”の父親もゲイだったそうで、もしかしたらその境遇も演技に反映されているのかもしれません。

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ウォーリーとベスが未来を示す

『フランクおじさん』ではフランクが父親から受けた酷い罵詈雑言によって心の傷を抱え、その父亡き後にホッとしたのもつかの間、遺言書という最悪の爆弾が爆発して、強制的にアウンティングされることになります。正直、あれは当事者には最も想像したくない最低のシチュエーションですよ。

恥辱の念とラベルされてしまった自分のアイデンティティを他の家族がどう受け止めるのか。それは人それぞれでした。温かく受け入れてくれる人もいれば、無自覚に言葉をかける人もいるし、全然受け入れられない人もいる。このあたりは現実的な着地です。

カミングアウトは当事者にとってどんなカタストロフをもたらすか、ある意味でそれをリアルに描いているとも言えます。今までどおりとはいかなくなる。以前と以後では違った世界になってしまう。これは本当に恐ろしいこと…。

それでも母の「お前は一番の宝物、それはこの先も変わらない」という言葉に肯定感をもらい、フランクは前に進みます。ここでウォーリーがちゃっかりお土産を用意しており、絶妙にアシストしているのがいいですね。

今作ではこのフランクのパートナーであるウォーリーの存在がいい味になっています。彼はサウジアラビア系で、むしろ彼の方がもっと過酷な境遇です。故郷の国に帰れば同性愛者は処刑ですから。家族が受け入れるはずもないです。だからフランクを愛することに一極集中しており、その親身な純愛がまた素敵な感じで。演じた“ピーター・マクディッシ”も人柄の良さそうな空気を全身で醸し出していたし…。まだまだアラブ系の人種に対するネガティブなイメージが根強いのもあり、こうやって映画でポジティブに描かれるのはいいなと思います。

一方、ベスについてですが、彼女は割と出番がありません。言ってしまえばこのフランク世代の苦悩を目撃する若い世代の代表であり、この映画を視聴する若い世代にそのまま重なるように作ってあるのでしょう。

興味深いのは、ベスのセクシュアリティを特定していないことです。彼女はなおもセックス未経験で、恋人もいませんし、「キスの練習というかたちで女子とキスしたことならある」と語るくらいのフワっとしたポジション。こうしてクィアな立ち位置にとどめておくのは、現代的に共感性を与えやすいからなのでしょう。今のZ世代は本当にクィアな立場がデフォルトになってきていますからね。私もそれがいいと思っています。

あのエンディングの庭での、うららかな午後のひととき。そんな世界を現代に作りたいものです。

『フランクおじさん』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 77% Audience 84%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios

以上、『フランクおじさん』の感想でした。

Uncle Frank (2020) [Japanese Review] 『フランクおじさん』考察・評価レビュー