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『ハンターキラー 潜航せよ』感想(ネタバレ)…この男と一緒なら潜水艦も安心

ハンターキラー 潜航せよ

この男と一緒なら潜水艦も安心…映画『ハンターキラー 潜航せよ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Hunter Killer
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年4月12日
監督:ドノヴァン・マーシュ

ハンターキラー 潜航せよ

はんたーきらー せんこうせよ
ハンターキラー 潜航せよ

『ハンターキラー 潜航せよ』あらすじ

ロシア近海で1隻の米海軍原子力潜水艦が消息を絶ち、捜索に向かったジョー・グラス艦長率いる攻撃型原潜「ハンターキラー」は、現場付近に沈んでいたロシア原潜の生存者を捕虜にする。同じ頃、ロシア国内で世界を揺るがす陰謀が企てられていた…。

『ハンターキラー 潜航せよ』感想(ネタバレなし)

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潜水艦恐怖症

いきなりで申し訳ないのですが、私、「潜水艦」が嫌いです。

だいたい『U・ボート』のせいなんです。1981年のウォルフガング・ペーターゼン監督によるドイツ映画『U・ボート』。潜水艦に乗船して海上の戦場に赴く兵士たちの極限状態を生々しく描いたことで批評家からも高く評価された名作ですが、あれを観たらすっかり潜水艦が怖くなってしまい…。私の中ではどんな幽霊や怪物が出てくる映画よりもあの『U・ボート』の方が恐怖を感じる…私の最恐映画なのです。自分の嫌な要素が全部詰まっているのですよね。絶対に出られない密室、逆らうこともできない水圧、閉鎖空間での人間不信、海上に浮上すれば敵のマトになる…ただの巨大な鉄の棺桶じゃないですか。

たぶん、潜水艦に1か月乗ったら1億円あげるよと言われても私は乗らないし、もしこの地球で航空輸送が発達せずに潜水艦で海を行くしかない状態になったら、私はこの日本から一生出ずに過ごすと心に決めますよ。

まあ、リアルでは潜水艦には乗らないと言っているだけで(おそらくそんな機会も幸いなことにない)、潜水艦を舞台にした映画は普通に見るのですけどね。

そんな潜水艦フォビアな私でもこの潜水艦映画『ハンターキラー 潜航せよ』なら全然問題ありません。

なぜか? それは“ジェラルド・バトラー”が乗船しているから。この男が出ている映画ではたいていの危機もなんとかなります。たとえ神レベルの戦争が起こっても、天変地異で地球が滅びそうになっても、最後には丸くおさめるのがいつものお約束。

『ハンターキラー 潜航せよ』では艦長として主人公を熱演。アクションは披露していませんが、持ち前の“存在感だけでなんとかしてくれる”頼りがいのある役どころ。“ジェラルド・バトラー”がいれば魚雷も機雷も水圧も怖くない…はず。

本作は潜水艦映画ですが立ち位置としては多くの潜水艦映画にあるようなワンシチュエーション系ではなく、もっとスケールの広いワールドクラスな戦場モノとなっています。このあたり「そこは音だけが見える戦場」という宣伝文句などで若干のミスリードを招く感じになっているのですが、確かに潜水艦らしくソナーを頼りに戦うシーンはありますが、それは全編の中でもほんの一部で、実際は潜水艦以外の舞台(ネイビーシールズが陸上任務にあたる場面など)もふんだんに登場します。

もっと言うなら、本作は典型的な「アメリカ海軍、凄いんだぜ」映画です。なにせ米国防総省&米海軍全面協力という製作体制ですから。リアリティというだけでなく、場面のいたるところに「我々はどんな状況でも任務を全うするプロフェッショナルです」というアピール(またの名を宣伝)が散りばめられています。

公式サイトでは潜水艦映画が少なくなった理由を「潜水艦テクノロジーの急激な発展という現実に、フィクションが追いつくことができなくなった結果」と書いていますが、やっぱり潜水艦自体が時代遅れになっているのも大きな理由じゃないかなとも思います。今は対テロ(そして対ヘイトクライム)の時代です。空でさえ戦闘機も爆撃機も全てドローン化しつつあるこのご時世、海はまだ鉄の箱に人を大勢押し込めている…そのギャップ。海で大国同士が潜水艦で牽制し合うのは冷戦のときが絶頂期。もちろん今もミサイル危機はありますけど、それはスイッチひとつでどうにかなるので映画向きではないです。どうしても潜水艦が活躍する映画は現在では作りづらいですよね。

そういう意味では米海軍も自分の存在感を誇れる機会が減っているのかもしれません。イラク戦争時は「ネイビーシールズ」を題材にした映画が流行のように作られましたが、その戦争さえも大儀を失い、その裏事情を風刺される始末。

そんなとき、“米海軍は頑張ってます”と声高に誇るチャンスが、『ハンターキラー 潜航せよ』によってもたらされたと。渡りに船…ならぬ渡りに潜水艦。そういう感じでしょうかね。

中国軍全面協力の中国映画『オペレーション:レッド・シー』と肩を並べる現代ミリタリーエンタメ映画です。

戦争の重さを訴える要素は限りなく皆無に等しいので、ポップコーンを頬張りながら鑑賞しましょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(ポップコーン食べながら気軽に)
友人 ◯(暇つぶしにはじゅうぶん)
恋人 △(色恋沙汰のない男しかでてきません)
キッズ ◯(潜水艦が好きなら)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ハンターキラー 潜航せよ』感想(ネタバレあり)

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現場を知る人のリアルさ

『ハンターキラー 潜航せよ』は公式でも盛んに宣伝されているとおり、米国防総省&米海軍全面協力というだけあって、リアリティに非常にこだわっているようです。まあ、私は潜水艦になんて乗ったことはないので(一生乗らない)、どこまで宣伝文句どおりに受け取っていいのかも判断つきませんが、たぶんきっとリアルなのでしょう。

そもそも本作には原作があって、それが米海軍原子力潜水艦ヒューストンの元艦長という経歴を持つジョージ・ウォーレスと、ジャーナリスト兼ベストセラー小説家でもあるドン・キースが共同執筆した小説(原題:Firing Point)となっています。つまり、現場を誰よりも知っている人。考証はお手の物です。当事者が作者だからといって、その映画化がリアル重視になるとは限りませんが(「007」が良い例)、本作の場合は製作陣もかなりリアルを意識しているのできっと問題ないはず。

製作陣も実際に原子力潜水艦に乗船して海に出たうえで、その経験を活かして、精巧な潜水艦のセットを巨大なジンバルの上に設置して傾きを再現できるようにしたあたりとか、なんかクリストファー・ノーランっぽい本物撮影思考です。そのかいあって、作中でも傾きを意識して乗員が立つシーンもありました(さすがにこれ見よがしすぎてちょっと笑いそうになりましたけど)。

本物の潜水艦も撮影に使わせてくれたそうで、さすが宣伝になるなら米海軍も破格の待遇で協力してくれますね。

本作の監督は“ドノヴァン・マーシュ”という人で、『裏切りの獣たち』という映画がデビュー作で、本作が長編2作目となる南アフリカ共和国出身の新鋭。私はこの人の作品はこれが初めての鑑賞でしたが、作家性は見えてこないでも(本作の場合は職人監督的な役目だったのかもしれないですが)、きっちり与えられた素材で映画を組み上げる真面目さは伝わってきました。

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米海軍には忖度するけれど

ただ、『ハンターキラー 潜航せよ』のリアルさにはひとつ注釈をつける必要があるかなとも思います。

それはあくまで美化された“見せられる範囲”でのリアルだということ。要するに『U・ボート』のように戦場のおぞましいほどの惨さみたいなものは基本クリーンアップされています。だから米海軍が見せたい“カッコいい姿”が本作の主軸にあります。

当然、某映画のように黒幕はCIAだった!みたいなアメリカ政府に悪が潜む展開はなし。軍隊の組織内で法令違反や倫理違反にあたるような蛮行が横行しているみたいなこともなし。

“ジェラルド・バトラー”演じるジョー・グラス艦長は、米海軍が理想とする(そして世間にイメージとして持ってもらいたい)お手本のような軍人です。なので映画の物語自体が、海軍の新人養成のための講習ビデオ的な教育メッセージを多分に含む構成になっています。必ず命令には忠実に従え、上司は常に尊重しろ、敵だとしてもジュネーブ条約は守りなさい、軍人としての誇りを忘れるな…そんなありがたい教訓の数々。

これらをもって本作をプロパガンダ的と非難もできますし、それで評価を下げるのも当然な理由ではあると思いますが、まあ、ここまで軍協力体制の映画だと、だいたいこんな感じですからね。 逆に同じ政府機関であるNASA協力の映画は普通に政府批判になりかねない要素もぶっこむので、NASAって凄い寛容なんだなとあらためて思ったりもしますが。

その政治的な部分は置いといても、その軍に忖度した本作のストーリーはサスペンスの面白さを少し減退させているのは残念ではあります。基本は『レッド・オクトーバーを追え!』など潜水艦モノにありがちな、アメリカとロシアの大国同士がにらみ合い、閉鎖空間で協力関係が芽生えたりする、典型的なミリタリーサスペンスです。敵がロシアでクーデターを起こした奴らというのも、両大国にとって非常に都合がいいあたり。そのぶん、結果は見え見えなので、予定調和すぎる部分もあります。

加えてしつこいですけど“ジェラルド・バトラー”ですから。絶対に安心じゃないですか。

潜水艦パート以外に、“トビー・スティーブンス”演じるビル・ビーマン率いるネイビーシールズのパートと、“ゲイリー・オールドマン”演じるチャールズ・ドネガン統合参謀本部議長らが織りなす政府パートもありますが、それらが巧みに絡み合うシナリオだったかというと、う~ん。

正直、ここまで王道に徹するなら、“ジェラルド・バトラー”と互角で渡り合えるもうひとつの“軍隊的正しさ”を象徴する存在を登場させて対立させるでもしないと、観客はハラハラしてこないと思うのですけど。

ロシアのアンドロポフ艦長を演じた“ミカエル・ニクヴィスト”とか大物俳優もいるのに、あまり輝いている感じではなかったかな…。

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魚雷はそうやって避けるのか

あと、リアルの観点でいえば、潜水艦の戦闘シーンになると急にエンタメ度が増すのがびっくりでした。

精巧な撮影セットを用意したといっても、本作は戦闘では潜水艦を外から映したCG映像に切り替わるのですが、なかなかにアクロバティックな戦術を駆使していましたね。魚雷を避けるためのあの動きとか、実際は船内はどれだけ傾くのだろうか。このへん、精巧な撮影セットを作った努力が、肝心の戦闘シーンでは全く活かされていないので、ミスマッチになっていてマイナスな印象。まあ、でもそこが潜水艦映画の難しいところですよね。

『ファースト・マン』みたいなセットだけで臨場感を再現できるのが理想ですが、潜水艦はスケールが大きすぎてコントロールも難しいですから。

また、エンタメの視点で見ると、これは“ドノヴァン・マーシュ”監督の律儀さのか、いちいち細かいところでも見せ場を用意しているのが、妙に記憶に残ります。

ネイビーシールズがロシアの高度上空からHALO降下するシーンとか、小さい場面だと機雷海域を抜ける際にレンチを落としそうになるシーンとか。要所要所でハラハラさせようというサービス精神が読み取れます。あのレンチを落とすだけで音響センサーは反応するものなのか、気になりますけど、とりあえず絵的は面白いからよし。ポリャールヌイ海軍基地でトレチャクの部隊を隠れてやりすごすネイビーシールズのいる場所を敵を偶然に掃射して隊員の足を撃ち抜き、痛みにこらえるシーンとかも、強引すぎるベタさでしたね(ちゃんとクリアリングしろよっていう)。ドローンもすっごく良い場面をちゃっかり目撃しているし…。

こういう映像の見せ場を適度な間隔で用意してくれているので、そこまで観飽きることのない映画でもありました。ロシア周りの人間模様はオチがわかっているぶん、退屈さはなかったとは言い切れませんが、エンタメとしてのクオリティは一定水準を満たしています。

個人的にはもっとアクション方向でフィクション度合いを強めても良かったし、そっちの方が開き直って見られるので好みでしたけどね。

とにかく言えることはひとつ。“ジェラルド・バトラー”には付いていけ。それだけです。

『ハンターキラー 潜航せよ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 36% Audience 72%
IMDb
6.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 Hunter Killer Productions, Inc.

以上、『ハンターキラー 潜航せよ』の感想でした。

Hunter Killer (2018) [Japanese Review] 『ハンターキラー 潜航せよ』考察・評価レビュー