この夫婦に別れるという選択肢はない…ドラマシリーズ『Mr & Mrs スミス』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にAmazonで配信
原案:フランチェスカ・スローン、ドナルド・グローヴァー
動物虐待描写(ペット) 人種差別描写 性描写 恋愛描写
みすたーあんどみせすすみす
『Mr. & Mrs. スミス』物語 簡単紹介
『Mr. & Mrs. スミス』感想(ネタバレなし)
今度の夫婦は上手くいく?
今だに日本は夫婦が必ず同姓でなければいけないという状況にあります。夫婦が名字を同じにするか別々にするかを自由に選べるようにする「選択的夫婦別姓」の法改正は議論されていますが進展していません。2024年の最新の世論調査では選択的夫婦別姓に73%が「賛成」としているにもかかわらず…(朝日新聞)。
その少数の反対勢力の中心にいるのは保守&右派です。夫婦別姓だと家庭が壊れる…などという言い訳を持ち出して、保守的な家庭観に固執しています。
真面目な話、「夫婦の絆を繋げるのは名字だ」なんて主張は荒唐無稽もいいところなのは明白ですし、そんなことを言い出したらカップル・セラピストも「ちょっとその考え方から問い直してみようか」と提案するレベルですよ。
たぶん「私たち夫婦が円満なのは名字が一緒のおかげです」と言っている夫婦がいたとしたら、「大丈夫かな…」って周囲には心配されそうです。
さっさと選択的夫婦別姓を制度化しなさいというのは大前提とするとして、じゃあ話を変えて、「夫婦の仲はどうやって上手く築くの?」という問いにはなかなか明快な答えは用意できませんよね。これは人類の難問。未解明の領域です。
だからこそ多くの作品ではこの夫婦関係を主題にして、そのメカニズムを探ってみようという試みがずっと行われてきました。夫婦モノのジャンルは大人気です。
今回紹介するドラマシリーズはそんな数多くの良作を生み出してきた夫婦モノ・ジャンルに加わる活きのいい新顔です。
それが本作『Mr. & Mrs. スミス』。
聞いたことがあるタイトルかもしれませんが、2005年に同名の映画がありました。これは”サイモン・キンバーグ”が脚本を書いたもので、ジョンとジェーンのスミス夫妻を主人公としており、実はこの2人はスパイ・エージェントで…という、ユーモラスなサスペンス・ロマンスでした。
”ブラッド・ピット”と“アンジェリーナ・ジョリー”が主演していたことでも大きな話題となり、なにせこの2人はこの共演がきっけけで本当に結婚しましたからね。しかも、今は絶縁に近い状況で離婚となっているという…。映画自体が夫婦批評みたいなテーマでしたが、そんな実の演者でオチをつけなくてもね…って感じで…。
その良くも悪くも注目を集めた映画が2024年にドラマシリーズ化したのが本作『Mr. & Mrs. スミス』です。
もちろん今回もスパイ・エージェント。映画版を土台にアイディアを練り直しており、面白さがより現代に通じるようにパワーアップしています。
ショーランナーとなったのが、ドラマ『アトランタ』を手がけた“フランチェスカ・スローン”。そして、そのドラマ『アトランタ』でも付き合いがあり、近年はドラマ『キラー・ビー』など際立った作品を続々と製作している“ドナルド・グローヴァー”も企画に参加。今作ではエピソード監督に加えて、主演も務めて、作品を引っ張っています。
その“ドナルド・グローヴァー”と夫婦役で共演するのは、アニメ『BLUE EYE SAMURAI ブルーアイ・サムライ』でも主人公の声を務めた“マヤ・アースキン”です。
“ドナルド・グローヴァー”と“マヤ・アースキン”、意外な組み合わせに思えますが、実際に観ると相性抜群ですよ。この2人を知らない人も好きになるはず。
他にも有名俳優がちょこちょことでているのですが、とりあえず秘密にしておきます。
元の映画を知らなくても大丈夫(物語の接続はありません)。ドラマ『Mr. & Mrs. スミス』はこれぞ家でダラダラと観られる痛快夫婦モノ!というスタイルをストレートに楽しませてくれます。
ドラマ『Mr. & Mrs. スミス』は「Amazonプライムビデオ」独占配信で、シーズン1は全8話(1話あたり約40~60分)です。
『Mr. & Mrs. スミス』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽に見やすい |
友人 | :親しい人と |
恋人 | :関係性を見つめ直す? |
キッズ | :大人のドラマです |
『Mr. & Mrs. スミス』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
ある一組の男女が家でゆったりと最後の一本となったワインを感慨深く味わっています。その2人は見つめ合い、森に囲まれた住み慣れた家からの風景を楽しんでいましたが、車が近づいてくる気配を察知し、急いで荷造り。
緊迫感の中、女性のほうが「もうこれ以上続けられない」と本音を告げます。男女はキスをし、男は「逃げるのはやめよう」とショットガンを手にします。女もライフルを構え、臨戦態勢。しかし、ジョンと呼ばれた男はあっけなく狙撃されてしまい、間髪入れずに家も蜂の巣にされます。女は男の死体を茫然と見つめ、家の前に武装者に毅然と連射して迫っていきます。けれども女も撃ち殺されてしまうのでした。
ところかわってある場所、ある部屋。ひとりのアジア系と白人のハーフの女は無人の部屋でテキストで指示してくる端末の前に座ります。プロフィールを質問してくるので、女性は淡々と説明しながら、CIAに入れそうだったが無理だったという過去も語ります。
一方、同じプロセスで黒人の男も、性格、預金残高、好きな食べ物などを答えていきます。
ニューヨークのとある一室。2人は同じエレベーターに乗り合わせました。ジェーンとジョンと紹介し合い、2人は同じ部屋に。夫婦になったのです。でも普通の夫婦ではありません。
部屋には銃の隠し場所もあり、ノートパソコンを開くと、ミッションの指示がでています。「女を追え」と写真つきで説明されていました。傍には結婚証明書と指輪があり、2人は義務的に自分の指にはめます。「これで夫婦だ」と2人は違和感たっぷりに確認し合い、家には猫もいました。「これからよろしく」と言って、別々の寝室に引っ込みます。
ジョンはジェーンの顔写真で密かにネット検索。やはりすぐに信用できません。それはジェーンも同じでした。
翌日、レストランでターゲットの中年女性を発見。怪しい素振りはないです。ひとり旅しているだけか。2人は普通の夫婦を装いながら、「なぜ”ハイリスク”の仕事を?」と雑談します。偽装結婚は賢い手法だとジェーンは評価していました。
それでもジョンが「ジェーンの前の名前は?」と質問すると、はぐらかします。今度はジェーンは「人を殺したことは?」とジョンに聞きますが、ジョンは「ないよ」と軽く返事するだけ。
公園まで追跡すると、ターゲットは若い黒人と出会い、キスしていました。ベンチでも互いに探り探りとジョンとジェーン。「失敗したらどうなると思う?」「失敗しない」
電車移動するターゲットを追跡中、電話番号を交換しながら、ジェーンは「恋愛する気はない」と牽制します。
ふとターゲットがいつの間にか手にしていた小段ボールに気づき、2人は隙をみてすり替え、電車の中で成功を祝います。少し打ち解けつつ、配達先へ。中身はケーキでした。そんなものかと思って家を出るといきなり爆発。2人は走って逃げます。
帰宅後、2人はベッドで隣同士で横になり、今日の出来事を振り返ります。そして少し前よりも互いを信用できるような気になりますが…。
シーズン1:夫婦はそんなもの
ここからドラマ『Mr. & Mrs. スミス』のネタバレありの感想本文です。
ドラマ『Mr. & Mrs. スミス』の第1話の冒頭では、メインではないジェーンとジョンのスミス夫妻が登場し、これがまた典型的な美男美女の儚いラブロマンスを一瞬だけ醸し出して散っていきます(演じるのは”エイザ・ゴンザレス”と”アレクサンダー・スカルスガルド”)。
こういう出だしで始まるということは、メインのスミス夫妻はこんなベタにはなりませんよという宣誓です。
まずメインのジェーンとジョン。その始まりとなるリクルートは謎の端末にプロフィールを答えていくというちょっとマッチングサービスを思わせる感じがあり、現代的。バカみたいに正直に答えてしまうのもマッチング”あるある”でしょうか。
2人の置かれている状況は確かに特殊で、一般的な夫婦とは全然違います。それがシュールに浮かび上がる第6話がいいですね。映画版でもおなじみのカップルセラピーで「夫婦でいることが強制されている」という縛りを口に出せず、全然噛み合わない問答。でもそこだけ伏せていれば本当に夫婦の悩みそのものです。
イチャイチャしたと思ったら、相手の言動に嫌悪感が生じたり…。一挙手一投足がどう転ぶかわかりません。
互いにちょっとした嘘をついて、相手の反応を引き出して探って距離を詰めていくところとか、妙に生々しい。これは恋愛とか夫婦とか関係なく、他人付き合いでよくやるテクニックでしょうから…。
第3話のスキー場での他人の険悪な夫婦を間に挟みつつのギクシャクは、完全に『フレンチアルプスで起きたこと』のパロディですね。フィクションのせいでこんなロケーションのイメージしか私にはないので、スキー場をデートスポットにする気持ちが全然わからない…。
本作はドラマシリーズなので、エピソードごとに夫婦の関係が前進後退を繰り返し、皮肉なユーモアたっぷりながら、とても丁寧な批評性がありました。
シーズン1:男女に加えて人種の違いも
夫婦批評が抜きんでているドラマ『Mr. & Mrs. スミス』ですが、単純に男女のジェンダーの差異だけでなく、ここに人種の要素も交えて、批評を捻っているのがさすが“ドナルド・グローヴァー”製作なところでした。
メインのジェーン(本名はアラナ)はアジア系、ジョン(本名はマイケル)はアフリカ系です。特徴的なのは、各自が人種的ステレオタイプから外れており、その規範に苦しんできた人生を抱えている点。
ジェーンは、どうやら性暴力被害の過去を匂わせ、父とは疎遠で、孤立して生きてきました。そのせいかとても一匹狼な生き方に適応しており、自立心が強いです。ジョンが潜入先の黒人同士で「アジアの女は従順でいいよな」というアジア女性差別の話題に同調するシーンがありますが、世間にはそういう偏見があります。CIAの心理テストでソシオパスな傾向があるとされて不合格だったというのも、そんなアジア人らしくない特性を唯我独尊とみなされたからなのか。
一方のジョンは、海兵隊で戦争従軍経験があるも喘息で除隊となり、黒人男性特有の「マッチョであらなければならない」という男らしさから転げ落ちていることに劣等感を抱いています。母のデニース(“ドナルド・グローヴァー”の実の母である“ビバリーー・グローヴァー”が特別出演)と1日何度も電話し、傍で暮らさせるほどに、母親依存ですが、それも世間は男らしくなさとして見下すでしょう。
こうして人種的な承認が得られなかった2人が、パートナーから認められていくまでの話でもありました。男女の差異だけでなく、人種の差異まで埋めていくのは大変。これはマイノリティ同士のインターレイシャル・カップルの経験がある人にこそよくわかる体験なのかな。
最後は自白剤を打ち合っての強引な和解というのもこの作品のユーモアらしい禁じ手。
他のスミス夫妻を殺すスーパーハイリスクの任務につく先輩スミス夫妻を倒せたのかは次回のシーズン2に持ち越しですね。
しっかり世界観の謎も広げてます。「人間関係を清算できますか?」と言ってきたと思ったら、全てを把握しているらしい不気味な「Hihi」の正体は? ベヴ(演じるのは”ミカエラ・コール”)のようにライバル社のスパイ・エージェントの動向も気になります。
それにしても”ポール・ダノ”演じる隣人ハリスの「お前、本当にそれだけなのかよ!」と思わずツッコみを入れたくなる役回り。いや、”ポール・ダノ”はいるだけで面白い。ズルい俳優だよ…。
掛け合わせの無限大の面白さを引き出すドラマ『Mr. & Mrs. スミス』。現状は異性カップルに限定されているのがやや惜しいところ。同性でスパイものだとドラマ『キリング・イヴ』が同スタイルのことをやっていましたが、まあ、あれは最終回が黒歴史になっているし…。ドラマ『Mr. & Mrs. スミス』ならポテンシャルがあるので、頑張ってほしいですね。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Amazon ミスター・アンド・ミセス・スミス Mr&Mrsスミス
以上、『Mr. & Mrs. スミス』の感想でした。
Mr. & Mrs. Smith (2024) [Japanese Review] 『Mr. & Mrs. スミス』考察・評価レビュー
#スパイエージェント #夫婦