感想は2100作品以上! 検索はメニューからどうぞ。

『クロース Klaus』感想(ネタバレ)…Netflix;予想外の良作サンタ映画

クロース

予想外の良作サンタ映・ムービー…Netflix映画『クロース』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Klaus
製作国:スペイン(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:セルジオ・パブロス

クロース

くろーす
クロース

『クロース』あらすじ

寒くて暗いスミレンズブルクの町にやって来た落ちこぼれ郵便配達員のジェスパーは、なんとか手紙を届けて実績を作ろうとするが、この町には手紙を渡すという文化もなかった。そこで、無愛想ななおもちゃ職人・クロースと友達になり、町の住民におもちゃを配り始める。その行為は、やがて長年争っていた住民たちのわだかまりが解けるきっかけになっていく。

『クロース』感想(ネタバレなし)

スポンサーリンク

サンタの誕生譚をアニメに

もうすぐクリスマス。サンタクロースを信じる子どもの純真な心は大事にしたいものですが、そんな大人たちも困り果てる、子どもからの素直な質問をぶつけられることも多々あります。

「サンタはどうやってたくさんのプレゼントを配るの?」

「サンタに連絡する方法は何?」

「返品できる?」

こういう業務関連の問い合わせはよくありがちですが、中にはなぜそんな質問をするんだ?というものも。とくにプライベート関連ですよね。

「サンタの好きな食べ物は?(プレゼントでもしたいのかな?)」

「サンタ、太り過ぎじゃない?(健康のご心配ありがとう)」

「サンタと結婚できる?(玉の輿を狙っているのかな?)」

無限に果てしなく連発されるクエスチョンにうんざりしてきた大人の皆さん、そこは手っ取り早くサンタクロース映画でも見せてお茶を濁しておきましょう。いくつかの疑問に対する答えにはなるかもしれません。

例えば、今回紹介する映画『クロース』「サンタはサンタになる前は何をしていたの?」「どうしてサンタになったの?」という問いかけの答えになります。

本作はアニメーション映画で、製作はスペインです。なぜスペインなのか?と不思議に思うところですが、監督が“セルジオ・パブロス”というスペイン人で、彼の「Sergio Pablos Animation Studios」が制作しているからです。

“セルジオ・パブロス”という人の名はあまり一般では聞きなれないと思いますが、うるさい黄色い奴ら「ミニオン」のデビューとなった『怪盗グルーの月泥棒』の原案者であり、ワーナーアニメーションの『スモールフット』の原案も手がけています。実は『ヘラクレス』『ターザン』『トレジャープラネット』といったディズニー作品のアニメーターとしても深く関わってきたキャリアの持ち主で、ディズニー出身の名クリエイターのひとり。

そんな長らくアニメ業界を支えてきた人物がついに監督として作品を作るというのは結構大きなトピックになることです。しかも、従来型の2D手描きアニメーションをベースに、新しい質感の表現に挑戦しているという、かなりの意欲作。確かにどこか懐かしいようで、でも新しくもある、何とも言えない既視感と新鮮さが一緒にやってきたような味わいがあります。

声の出演は、『ウォルト・ディズニーの約束』や『グランド・ブダペスト・ホテル』の“ジェイソン・シュワルツマン”。『セッション』での怒れる熱血指導者から、『ズートピア』などのアニメもお手の物な“J・K・シモンズ”。他にも“ラシダ・ジョーンズ”“ジョーン・キューザック”が声で出ています。

ちなみに日本語の吹替は、内山昂輝、玄田哲章、中村千絵、塩田朋子、斉藤次郎らが参加。

Netflix配信なので自宅でゆっくり見れます。まだ映画館は少し暗くて怖いし、集中力が続かないから無理…というお子さんにも安心。ここから少しずつ慣らして、いずれは映画館デビューさせて、MCUでもハマらせて、やがて将来は映画感想ブログを書くような小うるさい映画オタクに育ててあげてください(良い人生かどうかはともかく)。

クリスマス時期は家族で家でのんびりサンタ映画三昧というのも良いと思います。この感想記事のラストでは、サンタを題材にしたアニメーション映画を紹介しているので、そちらも参考に。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(子ども向けと侮らないで)
友人 ◯(大人も満足できる出来)
恋人 ◎(クリスマス気分を演出)
キッズ ◎(ワクワク楽しい)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『クロース』感想(ネタバレあり)

スポンサーリンク

サンタではなく手紙についての物語

「これは手紙についての物語」「始まりはこの一通から…」そんなナレーションで始まる『クロース』。
舞台の出発点はロイヤル郵便アカデミー。配達員のプロフェッショナルになるべく、日々トレーニングに励むところであり、基礎体力訓練、手紙仕分け、荷物運びとあらゆる科目があります。なんか軍隊みたいです。

そんな場所で、荷物箱に青い手紙がありました。その手紙は特別扱いされ、別室のずいぶんと贅沢な場所でのんびりしている訓練生のジェスパーのもとに運ばれます。軍曹が「なぜ訓練に参加していない?」と注文を付けるも、一切気にせずマイペースを崩さないジェスパー。実は彼はロイヤル郵便サービスの局長である父のコネで入学しただけの存在であり、授業はろくに受けず、悠々自適に過ごしていたのでした。

その青い手紙は郵便局長である父からの招集。やっとこんな退屈なところからおさらばできると余裕しゃくしゃくのジェスパー。常に授業をサボって、やる気のないアピールをしたかいがあったと、いざ父の元を訪れてみると、父の反応は違いました。わざとらしい息子の行為はとっくのとうにお見通しであり、さらなるお灸をすえるために最後の手段を使います。

「おめでとう、お前は今日から配達員だ」

そう言って、スミレンズブルクという辺境の島に任期は1年で派遣することに決定。しかも、1年間で6千通というノルマをクリアしなければ恵まれた家を追い出し、路上生活させると宣言。

拒否権はありません。一転して窮地に追い込まれたジェスパーは自らの足で赴任作のスミレンズブルクに向かうしかなく…。「ありがとう!」「最高に感謝している!」と皮肉をぼやきながら雪をかきわけてたどり着いた船着き場。そこの船乗りモーゲンスいわく「これでも暖かい方」らしいですが、すでに凍えるような寒さ。船で渡った先にあったのは…なんとも陰気な町でした。

全体的にどんよりとしており、住民もまばらで、いたとしてもなんか殺気を放っているような殺伐さ。完全にホラーです。

「みんなが歓迎してくれるぞ」とモーゲンスに誘導されるように鐘を鳴らしてみると、攻撃性全開の住人が大挙して襲ってきます。町の広場は一瞬で大乱闘会場に。もう一度鐘が鳴ると、二人が出てきます。口論が始まり、そっちが鳴らしたのかと言い合いは終わらず。そこでジェスパーに気づき、「見ろ、また配達員を送り込んできた」と大笑いする一同。また鐘が鳴ると、乱闘再開。
たまらず近くの学校へ逃げ込むと、なぜかそこは大量の魚が吊るされています。その学校には見えない建物内にいた魚をさばく女、アルバは説明します。あれは戦いの鐘で、町を代々支配するクラム族エリングボー族は昔から争ってきた関係性。宿敵の子どもと一緒は嫌だと、この町の子どもは学校に通わないので、自分は魚屋をやって金を稼いでこの町から出ていきたいのだ、と。

いろいろな意味でショックなジェスパー。郵便局へ案内されると、そこは鶏小屋化しており、自然光が入り込む素敵な屋根がありました。

翌朝、極寒の寝床で目覚めるジェスパーはとにかく手紙ノルマを達成して、こんな地獄から脱出しようとしますが、どのポストにも手紙がありません。それも当然。住民同士が憎みあっているので手紙を送る慣習がないのでした。

そんなとき、子どもが描いた絵が風に飛ばされてきます。近くの家の窓(鉄格子)から子どもが見ており、手紙扱いなら届けてあげられるけど、悪知恵を働かすもその子の父に見つかり、逃げかえるジェスパー。

郵便局で絶望していると、壁に貼られている島の地図の右端に「木こりの家」がある事を発見。とりあえず行ってみると、家の中にはなぜか大量のおもちゃが並んでしました。ドアがツララで塞がれたので、窓から出ようとしますが、家主らしい斧を持った人影に驚き。大男にびびって急いで逃げます。

その逃走中に例の子どもの絵を忘れてしまい、逃げ帰ろうとするジェスパーの前に大男が出現して、その絵の家に案内させられます。そして荷物を渡され、有無を言わさず届けさせられることに。荷物の中のカエルのゼンマイ仕掛けのおもちゃを見つけた子どもは大喜び。それをじっと見つめる大男。

別の日、郵便局に子どもたちが来ます。なんでも手紙を送りたいらしく、クロースさんに手紙を渡すとおもちゃをくれるという噂を聞きつけたようです。これは手紙配達数を稼げるチャンスと光明を見出したジェスパーは「おもちゃが欲しいか?」と手当たり次第に子どもを勧誘。

大男クロースに子どもにおもちゃを配ろうと提案するのでした。こうして密かなプロジェクトがスタートします。それがサンタクロースの物語に繋がるとはまだ誰も知らず…。

スポンサーリンク

欲のない行いは人の心を動かす

正直、私は『クロース』鑑賞前は「きっと子ども向けの軽めの作品だろう」と舐めていたのですが、ところがどっこい予想以上に練られた良質な物語で、これまでのサンタクロース映画(実写含む)の中でも指折りの一作なんじゃないかと評価を覆すことに。いや~、何が起こるかわからないものですね。

本作が素晴らしいのはサンタクロースという誰もが知っている存在の誕生譚を描くという題材に対して、とてもバランスの良い解答を提示していることです。

確かにストーリーはこれ以上ないほどストレートで直球。クロースがサンタクロースになっていくのも見え見えで、そのとおりのオチです。ただ、なんというか、痒い所に手が届く妥協のない丁寧さが物語全体にあって、子どもだけに伝わるレベルでいいやという雑さがないのがお見事です。

例えば、「なぜ煙突から家に入るのか」「なぜクッキーを食べるのか」「なぜトナカイがそりをひくのか」「なぜ空を飛ぶのか」「悪い子におもちゃをあげないのは何がきっかけか」「どうやって大量のおもちゃを作るのか」「なぜサンタの服は赤いのか」…そんな子どもが疑問に思うような数多くの謎への、ときにくだらなく、ときに真摯な答えを用意してくれています。

これだけだと子どもウケありきのファンタジー物語で終わるのですが、それでおしまいにならないのが『クロース』の良さで、ちゃんと大人の目も満足させるような、ちょっと現代社会を彷彿とさせる視点もあるのがまた良くて。

憎しみの歴史を「伝統」とまで表現してきたクラム族とエリングボー族という対立に支配されたスミレンズブルク。その町でジェスパーとクロースが子どもにおもちゃを届けることで、町の雰囲気が一変する。思いやりの心が町を照らし、心を変え、それが新しい「伝統」になる

その物語は、やはり憎悪と排外主義が渦巻く現代社会と重なるものがあります。宿敵であり続けるために手を組もうと休戦した両族が偽の手紙でジェスパーの手紙ノルマをわざと達成させ、追い出すくだりは、昨今のフェイクニュースやバックラッシュのような陰湿さを連想させます。

クロースのキャラクターもサンタ特有の画一的な善人像そのままではなく、かなり大人に共感を与える存在です。妻のリディアに先立たれた哀しみの過去。その裏には不妊や孤独など現代社会問題が存在し、クロースが新しい家族を得る姿は大人も感動させるものになっています。

また、アルバのキャラも物語にオリジナリティな深みを与える存在です。自己実現できずにお金を貯めて町を出ていくことしか考えていなかった彼女が、もう一度教育者として目覚め、その教育が「手紙を書く」という行為にもつながっていく。サーミ族を登場させ、文字を書けない識字率の低い子どもたちにも目配せする。これまで意外にスルーされてきた「手紙」という文化をサンタに絡めて突き詰めたスマートな脚本は上手いなと舌を巻かされます。

ジェスパーの成長も、サンタの文化は欲とは真逆のものですよという、クリスマスを商戦としか考えていない今の大人の社会経済には心にグサグサ刺さる話だったのではないでしょうか。

最後も抜け目ない『クロース』。サンタクロースに変な実在感を与えず、最終的にはみんなの心の中にあるサンタクロース像を尊重する。どこまでも気が利いているんだ、この映画は…。

スポンサーリンク

ギャグと真面目の配分が絶妙

『クロース』のアニメーション表現も忘れてはならない特筆ポイント。

本作は“セルジオ・パブロス”監督の言うところによれば、3DCGが主流になった昨今、もし2Dの手描きが進化していたらどうなっていたのかを考えた結果だそうで。

実際、生まれた作品の中身は、見慣れた手描きのベタっとしたアニメーションに、ライティングを加えて、少し立体感のある陰影の強めな映像を描きだしていました。

この絵の特性が本作の物語にジャストフィットしています。全体的に光と影が重要になるストーリーのシーンが多く、例えば、最初の町並みのあの暗さを黒で塗りつぶすことなく表現できていますし、そこでジェスパーとクロースが初めてプレゼントを届けたカエルおもちゃっ子が持っていたランタンがパッと明るさを出す場面。あそこが作中でも初めての明るみのある展開であり、希望の灯りが出現した瞬間そのものを視覚的に絵でも表していました。

そして最終的にクリスマスの飾りつけでライトアップされていく町並みの温かさ。まさにライティングで町の変化を映し出し、それは住人の心も変わっていることを示す。手描きだからこその温もりのある演出だったと思います。

ときおりクロースが感じる「雪の風」の表現も要所で上手く効いていましたね。あそこだけファンタジー色が表出するのがまたいいです。

温もり重視な映像表現である中、さすが『怪盗グルー』シリーズの原案者“セルジオ・パブロス”監督ならではというか、各キャラクターはエッジの効いたスラップスティックなドタバタ感があるという、バランスもほどよく。

住民同士の対立、プレゼント配り、これらをアホくさいギャグ全開で描くので、基本は笑いながら楽しめます。肝心の両族の融和が、あのパンプキンというキャラの無償の愛で成就するという、ウルトラ級のゴリ押し技も嫌みなく楽しめますし。

ふざけるところはふざける、真面目に語るところは真面目に…この配合が完璧だった『クロース』。子どもたちに語り継ぎたいクリスマス映画が新しく生まれて良かったです。

『クロース』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 97%
IMDb
8.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
スポンサーリンク

関連作品紹介

サンタクロースを題材にしたアニメーション映画のオススメです。

・『グリンチ』(2018年)
…実写にもなったドクター・スースの児童文学「いじわるグリンチのクリスマス」をイルミネーションがCGアニメ化。

・『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』(2012年)
…サンタがバトルキャラとして活躍するというかなり異色のアドベンチャー。
・『アーサー・クリスマスの大冒険』(2011年)
…「サンタはどうやってプレゼントを世界中で配るのか」という疑問に斬新に答えてくれます。
・『ポーラー・エクスプレス』(2004年)
…ロバート・ゼメキス監督作。サンタを信じない子どものための一作。
・『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)
…クリスマス映画なのかハロウィン映画なのか謎ですけど、楽しければOK。

作品ポスター・画像 (C)Sergio Pablos Animation Studios, Netflix

以上、『クロース』の感想でした。

Klaus (2019) [Japanese Review] 『クロース』考察・評価レビュー