ディズニーの異世界カエル物語へようこそ!…「Disney+」アニメシリーズ『ふしぎの国 アンフィビア』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2019年~2022年)
シーズン1:2019年にディズニー・チャンネルで放送 / 2021年にDisney+で配信(日本)
シーズン2:2020年にディズニー・チャンネルで放送 / 2022年にDisney+で配信(日本)
原案:マット・ブラーリー
恋愛描写
ふしぎの国 アンフィビア
ふしぎのくに あんふぃびあ
『ふしぎの国 アンフィビア』あらすじ
『ふしぎの国 アンフィビア』感想(ネタバレなし)
ディズニーで「カエル」と言えば?
皆さん、ディズニーの作品で「カエル」と言えば何を思い浮かべますか?
やはり定番は2009年のアニメーション映画『プリンセスと魔法のキス』です。なにせ原題は「The Princess and the Frog」ですからね。カエルに呪いで変身させられた王子の巻き添えを食うかたちでそのカエル王子とキスしてしまったら、呪いが解けるどころか自分までカエルになってしまった女性の物語。お約束をいじった変化球なストーリーが見どころです。
もうひとつの有名どころは、『ザ・マペッツ』のカーミットでしょうか。「マペッツ」は今はディズニーの権利下で作品が作られているので一応これもディズニーのキャラということにしておきましょう。代表曲「Rainbow Connection」もあるし、歌で一番稼いだカエルなんじゃないだろうか。
ディズニーのマニアなら、『イカボードとトード氏』(1949年)の「たのしい川べ」のエピソードに登場する主人公を挙げるかもしれません。
しかしです。若い世代によるイマドキなファンダムが最も盛り上がっている作品として語るのであれば、このアニメシリーズを無視することはできないと思います。
それが本作『ふしぎの国 アンフィビア』です。
『ふしぎの国 アンフィビア』は「ディズニー・チャンネル」のオリジナルなアニメシリーズで、2019年より放送されていました。「ディズニー・チャンネル」は開局以来こういうオリジナルなアニメシリーズをずっと生み出し続けており、2010年代になってからも『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』(2012年~)、『悪魔バスター★スター・バタフライ』(2015年~)など魅力的な作品が登場していました。「ディズニー・チャンネル」を物心ついたときから観ている子どもはもちろん、大人のファンも案外と根強いです。最近は「ディズニー・チャンネル」作品は「Disney+(ディズニープラス)」でも遅れてではありますが配信されるようになったので、視聴しやすさも上がって身近になったと思います。
『ふしぎの国 アンフィビア』は「アンフィビア」という世界に迷い込んだひとりの人間の少女が主人公であり、要は異世界モノです。この「アンフィビア」。両生類の分類学の用語である「Amphibia」に由来しており、その名のとおり、両生類たちの世界となっています。両生類…つまり、カエル、イモリ、サンショウウオとかですね。ここでは両生類は二足歩行し、喋り、文明を築いています。基本は『ロード・オブ・ザリング』的なファンタジーの世界観です。
この不思議な世界「アンフィビア」に迷い込んだ主人公が新たな出会いを経験しながらドタバタと珍道中を繰り広げる、簡単に言うとそういう物語です。
もちろんキッズアニメなので、対象となる子どもには楽しい作品です。カエル好きの子は幸せでしょうし、カエルが苦手でもこの『ふしぎの国 アンフィビア』では可愛くデフォルメされているので大丈夫。魅力的なキャラクターたちもたくさんでてきて、ギャグのテンポもかなり良いので、気楽に笑いながら満喫できます。
また、子どもだけでなく大人のファンも目立ち、二次創作も盛り上がっています。実は結構ストーリーも子ども向けながら深みがあって、キャラの関係性もいいので、ファンダムなヘッドカノンを刺激されるんでしょうね。最近の海外アニメはファンダムを成立させたらもう作品として成功って感じがする…。
『ふしぎの国 アンフィビア』の原案は、『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』で仕事をしていた若手のアニメーターである“マット・ブラーリー”。彼自身はタイ系アメリカ人であり、そんな人種的アイデンティティを持った主人公が世の中の作品には全然いないと日々感じていたので今作『ふしぎの国 アンフィビア』ではタイ系アメリカ人の女の子を主人公にしたと語っています。さっそく良いレプリゼンテーションです。他にもレプリゼンテーションの観点での価値はあれこれあるのでお楽しみに。
『ふしぎの国 アンフィビア』を日本で鑑賞したいときは、一番手っ取り早いのは「Disney+」です。2022年6月時点ではシーズン2まで一挙配信されています。シーズン1とシーズン2、共に全20話(1話あたり約25分)。シーズン3で作品は完結です。
カエルの世界へいってらっしゃい!
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽に癒される |
友人 | :キッズアニメ好き同士で |
恋人 | :ロマンスはメインではない |
キッズ | :動物好きなら楽しい |
『ふしぎの国 アンフィビア』予告動画
『ふしぎの国 アンフィビア』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):カエルは友達
両生類の生き物たちが暮らす世界「アンフィビア」。町はずれに農家をしているカエルのプランター家族は年配のホップポップ、ドジなカエル少年のスプリグ、オタマジャクシのポリーの3匹でいつも一緒。家族はワートウッドの町へ出かけた時、そこに森でモンスターを目撃したと騒ぐカエルが駆け込んできます。随分と恐ろしい容姿をした怪物らしく、町長のトードストゥールは安全を守ってみせるとこの騒ぎに便乗。
そんな中、スプリグは自分がモンスターを捕まえると張り切って出かけてしまいます。そして謎の生物と遭遇。それは「助けてほしかっただけ」と喋ってきます。その怪物、名前はアン・ブーンチョイ。アンは人間という生き物だそうで、この世界に迷い込んできたそうです。帰り方はわからないとも…。
お腹がすいているようで、虫は食べられないというので、キノコを見つけてあげます。
このアンを見つけたカエルたちは集まってきて捕獲しようとしますが、スプリグは「面倒をみるべきだ」とかばってくれます。
すぐにでも帰る方法を見つけたいところですが、ここを囲んでいる山々は2ヶ月くらいたたないと山越えできないので、今は待機するしかできません。そこでプランター家族の家の地下に住まわせてもらいます。
アンは人間の世界で2人の友達がいたそうですが、今は離れ離れ。家族にも会えない…。そんな寂しそうな顔をしているアンを見かねて、スプリグは「おいらが君の友達になってやるよ」と言ってくれます。
こうしてアンはこのワートウッドでしばらく暮らすことになりました。
スプリグはいつも元気で駆け回っているカエルの少年。ポリーはまだオタマジャクシですが、スプリグに負けないくらいに活発です。ホップポップは老体ながらそんな孫2人を過保護すぎるくらいに面倒見つつ、農業に情熱を捧げています。家には移動手段として利用する馬車ならぬ「カタツムリ車」があり、そのカタツムリのベッシーは人懐っこく優しいです。
アンは人間の世界からリュックとスマホだけ持ってきていたので、その中身が唯一の思い出深い品です。そしてリュックにはカエルの紋様があるオルゴール箱がひとつ。実はこれが全ての発端でした。このオルゴールを手に入れてしまい、蓋を開けると眩い光に包まれて…気が付くとこのアンフィビアだったのです。オルゴールはもう何も反応しません。
アンがオルゴールを開けたとき、そばには友達のサーシャとマーシーもいました。今頃、あの2人はどうしているのか…。
その頃、サーシャはグライム隊長が支配するトードタワーという要塞で捕まっていました。
そんなことも知らないアンはホームシックを乗り越えて、スプリグたちと本当の家族のような親密な関係を深めていきますが…。
シーズン1:友情とは対等に受け入れてくれること
『ふしぎの国 アンフィビア』のシーズン1は、まさしくロールプレイング・ゲームに例えるなら始まりの町でずっとのんびり過ごしているようなお気楽さです。
このアンフィビアのワートウッドは平和です。実際は大型昆虫が不意に現れたり、鷺の群れが自然災害級の壊滅的被害を与えたりするなど、弱肉強食の恐ろしさを思い知らされる一面もあるのですが、ここのカエルたちはそれでもなんか知らないですけど平然と過ごしています。
人間のアンはこの町で暮らすようになり、プランター家族や町民に受け入れられるようになっていきます。ある種の移民の物語とも重なりますね。
プランター家族も町民からやや厄介払いされているような立場でもあるようで、農民ゆえの蔑視なのでしょうか。そもそもカエルって肉食なので、農家で植物を育てているという時点でちょっと変なんですけどね。
シーズン1で起きる個々のエピソードも、取るに足らないまったりした日常の出来事ばかり。スマホでドラマを観たり、ドリンクを売って儲けたり、変な芋虫を飼育して大変なことになったり…。カチカチ・デーでカエルたちが凍り付いてしまう話での「わたし、血が温かいの!」と口にするアンへのカエルたちの変な生き物を見るかのような反応がシュールだったり…。
アンもアンでなかなかに適応力があります。最初は不安気でしたが、前向きに生活に馴染んでいき、周囲もそれを受け入れる。このあたりは『パディントン』っぽいなとも思います。
一方で、サーシャ・ウェイブライトの物語がクロスオーバーしてくるとちょっぴりシリアスな展開に。サーシャとは幼馴染でしたが、仕切りたがるサーシャに命令されてオルゴールを万引きしたアンは、友情の意味をスプリグたちとの関係を経験したことで更新します。友情内の権力勾配を問いかける、ちょっとグサっとくる物語です。
「あんたにはうんざりだ」と突きつけて、サーシャと剣を交えたアン(剣の稽古で列車強盗させられたエピソードが伏線になっている)。サーシャはヒキガエルたち側についてしまい、友情の厳しさを味わうことになりましたが…。
シーズン2:そういうジャンルになるの!?
『ふしぎの国 アンフィビア』のシーズン2は、いよいよ始まりの町であったワートウッドを出発します。目指すはアンフィビアで一番の都市である「ニュートピア」(イモリを意味する「newt」と理想郷を意味する「utopia」を組み合わせた造語)。
ニュートピアはそれはもう目移りするほどに発展した城壁都市でした。キング・アンドリアスがこの地を治め、レディ・オリビアが補佐をしています。
そこで出会ったのがもうひとりの友達であるマーシー・ウー。中国系アメリカ人のこの少女は、根っからのゲームオタクであり、RPG気分で異世界を謳歌し、攻略するつもりであれこれやってみせて、マーシーなりにこのニュートピアで信頼を獲得していました。なんか日本の異世界モノのアニメの主人公みたいだ…。
アンとマーシーはサーシャのときは違う関係性で、こちらはこちらでまた目が離せない間柄です。マーシーも良いキャラしてます。
そのマーシーのゲーム攻略的な考察脳のおかげで、アンフィビアに迷い込んだ原因であるオルゴールの宝石にパワーを与えればまた使えるようになると推測。ワートウッドに戻った後はマーシーが今度はこちらにやってきて、いつもの日常を過ごしつつ、オルゴールを復活させます。
その間にサーシャも合流。なんだかんだでこの3人が揃うと楽しそうです。ファンダムでもこの3人の二次創作が本当に人気ですね。
ところがいざニュートピアの城でオルゴールを使おうとした瞬間、事態は急転。サーシャのまたしても裏切り。さらにはマーシーがそもそもこのアンフィビアに来る前、オルゴールに秘密があると知ったうえで2人に手に入れさせていたと知り、ここでも友情のヒビが入り…。
しかし、そうも落ち込んでられない。キング・アンドリアスが本性を現し、『天空の城ラピュタ』状態になっちゃいましたからね。ところが、アンがまさかのオルゴールの宝石のパワーで覚醒。え? このアニメ、能力者バトルものになっていくの!?…とびっくりするジャンル転換。
やたらと展開が早すぎる最終話。情報整理が追いつかないまま、マーシーは胸を串刺しにされてしまうし、アンとプランター家族だけが人間の世界にやってきてしまって…。
『ふしぎの国 アンフィビア』、物語の引きが上手いな…。
クィアなキャラクターたち
そんな『ふしぎの国 アンフィビア』、実はクィアなキャラクターがいくつか登場しています。ディズニー・チャンネルのオリジナルなアニメシリーズは、比較的若手がプロジェクトのリーダーに立てるので、おそらくクィアなキャラクターが登場させやすいのでしょうね(それでも闘いはあるでしょうけど)。
ひとりはサーシャ。設定上はバイセクシュアルということになっており、英語の声を務める“アンナ・アカナ”もバイセクシュアル当事者です。
また、ニュートピアで軍隊を率いるユナン将軍はレズビアンです。
シーズン3ではもっとクィアなキャラクターやストーリーが登場するのでそこも期待するといいでしょう。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer –% Audience 92%
S2: Tomatometer –% Audience 91%
IMDb
8.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
ディズニー・チャンネルのオリジナルなアニメシリーズの感想記事です。
・『アウルハウス』
・『悪魔バスター★スター・バタフライ』
作品ポスター・画像 (C)Disney 不思議の国アンフィビア
以上、『ふしぎの国 アンフィビア』の感想でした。
Amphibia (2019) [Japanese Review] 『ふしぎの国 アンフィビア』考察・評価レビュー