シング・ストリート 未来へのうた
映画『シング・ストリート 未来へのうた』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Sing Street
製作国:アイルランド・イギリス・アメリカ
製作年:2015年
日本公開日:2016年7月9日
監督:ジョン・カーニー

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 

Plot Summary

1985年のアイルランド、ダブリン。14歳の少年コナーにとって唯一の楽しみは、音楽マニアの兄と一緒に隣国ロンドンのミュージックビデオをテレビで見ることだった。そんなある日、街で見かけた少女ラフィナに一目惚れしたコナーは、自分のバンドのPVに出演しないかとラフィナを誘ってしまい、慌ててバンドを結成することに…。

ネタバレなし感想

これこそジョン・カーニー監督の音楽映画

『オデッセイ』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のように、往年の名曲の数々を流すことで演出に花を咲かせている映画が最近は人気のようです。素直に楽しいですよね。なんでこういう音楽の使い方をする邦画はないのだろうかと疑問に毎回思うのですけど、邦画はタイアップしている曲以外は使えないのかな…。

そんな絶好調な音楽をミックスした映画たち。しかし、ジョン・カーニー監督がつくりあげる映画はそれらとは根本的に違います。

自身もロックバンドとして活動していたジョン・カーニー監督にとって、音楽は演出ではなく主役。まさに音楽のための映画、それが音楽映画です。

ジョン・カーニー監督の前作『はじまりのうた』は、人生に迷った女性シンガーソングライターが落ち目の音楽プロデューサーに出会って再起する物語で、劇中の挿入歌を含め、音楽性で高い評価を獲得。日本でもクチコミで人気が広がりました。 溢れんばかりの生っぽい音楽愛が詰まった一作であり、やはりこういう音楽の力は国を超えて支持されるパワーがありますね。


しかし、ジョン・カーニー監督は2016年5月に『はじまりのうた』で主演したキーラ・ナイトレイに対して「キーラはミュージシャンではなく、音楽をリアルに見せるのが難しかった」「二度とスーパーモデルとは映画を作らない」と批判的なコメントを語って話題に…。後に発言を撤回し謝罪しましたが、ジョン・カーニー監督のなかでは『はじまりのうた』に完璧な満足にはいたっていないことの表れなのかもしれません。ちょっと女優に批判を向けるのは良くなかったと思いますが、監督の並々ならぬ音楽の追及が突っ走っているのを感じます。

そんなジョン・カーニー監督の最新作『シング・ストリート 未来へのうた』は、彼の持ちうる音楽への想いを全てぶつけた渾身の映画といえるでしょう。たぶん今作には監督も文句ないのでは? 少なくとも製作時点では。監督の半自伝的な体験をベースにしているらしく、その想い入れは想像するに難しくありません。

舞台は1985年のアイルランド、ダブリン。劇中で流れる80年代ブリティッシュミュージック、そしてオリジナル楽曲の数々を、一番魅力的にみせるジョン・カーニー監督の才能が爆発しています。

現代の女性を主役にした前作『はじまりのうた』と比べて、本作はストライクゾーンが絞られたと思いますが、ハマる人にはクリティカルヒットすることは間違いなしです。

予告動画







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ネタバレあり感想

リバイバルで生まれる新たな才能

「1990年代以降の音楽はリバイバルばかりだが、1980年代の音楽は純粋にオリジナルだ」と語るジョン・カーニー監督。しかし、本作こそ1980年代の音楽を題材にした「リバイバル」といえるかもしれません。

本作はあくまで音楽映画。言い換えればミュージックビデオ的なつくりです。キャラクターやドラマは音楽をひきたてるためにあり、主題ではないというのは先にも述べました。

なので、キャラクターやドラマには雑なところも確かに目立ちます。

例えば、本作は主人公コナーとその兄のブレンダン、コナーが恋するラフィーナの3人が物語の主軸であり、他のキャラクターの扱いは比較的あっさりしてます。バンドメンバーもとりあえずバンドに必要な数さえ揃えばいい感じで、個々が深くスポットされることはありません。あくまでバンドを結成するという部分が重要なだけ。このへんは『はじまりのうた』でも同じ展開がありましたね。

ラストのオチも、青春映画としては綺麗な夢あるエンディングです。しかし、憧れの女性と一緒になるためにバンドを始めた主人公はあれでいいでしょうが、残されたバンドメンバーは放置状態…人によっては使い捨ての駒のようにも見えかねません。バンドメンバーにしてみれば「バンドに誘われて調子に乗って始めたら、急にリーダーが女と一緒にどっか行ってしまった」という残念な青春にも…。私なんかこっちに感情移入してしまいそうになりますが、そこは人それぞれ。まあ、コナーが成功すれば、他のメンバーもロンドンで活躍できる未来が待ってるのかもしれませんが、そう上手くはいかない現実も前作『はじまりのうた』では描いていましたから、余計にね。

バンドメンバーがバンドに参加する動機と結果をしっかり描いていたら、少しはノイズが抑えられたかもと考えてしまいます。

音楽映画は音楽が主役なのだから、このキャラクターやドラマの雑さもそこまで気にしなくてもいいのかもしれませんが、それでも結構重要になるときがあります。

なぜなら音楽が映画上の重要な要素を担う作品は、音楽にのれるかのれないかに評価が左右されます。でも、音楽の感じ方は個人の経験とか人生に影響されます。当然、青春を音楽抜きで過ごした人だって存在するわけです。音楽にのれればそれでいいのですが、音楽にのれない人は他の部分、つまりキャラクターやドラマで評価するしかありません。

そういう意味では音楽に特化した本作は結構な諸刃の刃だと思います。

私は本作の音楽はもちろんとても良いと感じましたが、もともとそこまで音楽にのめり込むタイプでないため、どうしてもキャラクターやドラマのノイズが気になる部分は避けられませんでした。

ただ、本作の貧しいコミュニティの少年が音楽という切符を頼りに夢のロンドンを目指すというのは、確かに味わい深いものがあります。本作の舞台はインナーシティと呼ばれる街中にある低所得者層が密集する住宅地域。子どもたちにしてみればクソみたいな場所です。なんとしても脱出したい、でも脱する方法なんてそんな簡単にはない。その唯一の希望の光が音楽であれば、それは愚直に突っ走るのも当然でしょう。

それに本作のあのラストも綺麗な夢あるエンディングとは必ずしも言えないのもとどめておく必要があります。人生がそんなに上手くいくものではないのは、これが監督の半自伝であることを踏まえれば、じゅうぶん示唆されているのではないでしょうか。でもあのコナーにとっては、そんな未来のことまで考えている余裕はない。今はこの町を出ることでいっぱい。試練はこれからです。

Sing Street

話は変わって、音楽抜きで文句なしに良かった点もありました。それは主人公を演じたフェルディア・ウォルシュ=ピーロ。数千人の中から抜擢されたという彼は演技経験なしだそうですが、見事輝いていました。劇中でファッション七変化をみせますが、どれも佇まいからして良かったです。この才能を発掘しただけでも、本作の功績はじゅうぶんでしょう。

あと、弟に夢を託す影の主人公である、主人公の兄・ブレンダンを演じたジャック・レイナーも素晴らしかったです。あの心の奥で葛藤があるだろうに、それをグッとこらえる内面を察するだけで…あいつは真の男だよ…。

全体的に決して懐古趣味にはなっていないとは思いますが、それでも青春の思い出にかなり頼っているのも事実。シンクロすれば最高の体験になる一作でした。次の音楽映画にも期待です。

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