モヒカン故郷に帰る
映画『モヒカン故郷に帰る』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:モヒカン故郷に帰る
製作国:日本
製作年:2016年
日本公開日:2016年4月9日
監督:沖田修一

【個人的評価】
 星 6/10 ★★★★★★
 

Plot Summary

モヒカン頭にこだわりをもつ永吉は、デスメタルバンドのボーカルとして寂しく活動していた。しかし、恋人の由佳が妊娠したため、瀬戸内海に浮かぶ故郷の小さな島へ7年ぶりに帰郷することに。久々に一家が顔をそろえ、何とも言えない雰囲気になるなか、父親が突然倒れてしまう…。

ネタバレなし感想

ゆる~いギャグは日本伝統

1951年、木下惠介監督の『カルメン故郷に帰る』という映画が公開、日本初のカラー映画として話題になりました。この映画は、東京でストリッパーとして活動していた女が地元の田舎村に帰郷するというお話し。

そんな『カルメン故郷に帰る』を思い出すタイトルの映画『モヒカン故郷に帰る』は、あらすじの導入部分も似ています。主人公はモヒカン頭のデスメタル・ボーカルです。

監督の沖田修一は、ゆる~いスローテンポな作風が特徴。役者の演技をとにかくじっくり撮るのです。俳優陣も素の演技力が発揮されることもしばしば。これまでの沖田修一監督作のなかでは、個人的には『横道世之介』(2013年)が好きです。


また、『滝を見にいく』では、ほとんど素人同然なオバサンを起用した、まったく緊迫感のない遭難サスペンス(?)を作るなど、ちょっとこの人のゆる~いスローテンポは別次元のゆるさです。

本作はコメディに徹していることもあって、大半がゆる~いスローテンポなギャグの繰り返し。そのためこの手のギャグが合わない人は、125分の上映時間が長く感じるかもしれません。でも、ゆるさにハマれば楽しいはず。でもどうでしょうか。きっと劇中の登場人物たちはそこまでゆるく生きているわけでもないように思います。ゆるいと思うのは他人事でいられるポジションにいる観客ならではの印象かもしれません。

ともあれ、ゆるさの源は俳優陣。主人公を演じる松田龍平は、『探偵はBARにいる』シリーズ(2011年ほか)などの出演作でもそうですが、ゆるいキャラが魅力的。主人公の恋人を演じる前田敦子は、『もらとりあむタマ子』(2014年)で抜群のゆるすぎるキャラを演じて一部を騒然とさせましたが、本作でもその片鱗が垣間見えるキャラとなっています。

地元・広島要素なのか劇中で野球の「広島カープ」がやたら押されてもいる本作。今年、リーグ優勝できたのは本作のおかげ…ではないと思いますが、気楽に観てください。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓




ネタバレあり感想

時間が速くなるタイミング

「生きていればそれでよくて、できることなら難しい話はしたくない。そんな家族の一大事を映画にしたいと思いました。誰にでもあって、いつかはやってくるお話だと思います」
監督はこんなコメントを残していますが、確かにそのとおりだなと思います。

ここからは私の私見ですが(このブログ全体が私見ですけど)、例えば、家族の死。突然、家族の誰かが「もう少しで死ぬかもしれません」という状況になったとき、周囲は「えっ」と困惑する時間も一瞬で、あとはもう大慌てでアワアワしているだけ。なんでこんなに忙しいんだというくらいでよくわからない経験したこともない時間の過ぎ方をしていきます。時計の針が凄い勢いでぐるぐる回転しているイメージ。しかし、いざその人が死んでしまうと、フッとあのときの忙しさが嘘のようにまた時計の針がまたいつものペースに戻る。不謹慎な言い方ですが、なんか安心してしまう。そんな経験をしたことがある人は一定数いると思うのです。

それは妊娠したという命の誕生とも対比的な時間の過ぎ方だと思います。妊娠の場合は、前述した人の
死とは逆パターンですよね。妊娠した瞬間はそこまで忙しいわけでもない。幸いなことに、お腹が大きくなり出産するまで時間があるので、じゅうぶん準備もできます。比較的のんびりしています。しかし、いざ出産して新しい命が生まれた瞬間、急に忙しくなる。また時計の針がぐるぐるモードに突入ですよ。なんでこんなに時間があっという間なんだという感覚。親であれば、絶対に避けられないライフスタイルであり、またもや時間が狂っていきます。

つまり、人は、人の死の直前と、新しい命の誕生後…という2つのタイミングで時間が高速化するわけです。

そして、本作ではそのうちの前者を描いています。頑固おやじが倒れて癌が発覚してからのてんやわんや。物語の終わりでは死が訪れたことで、再びゆったりした時間が戻ってきたかのように見えて、新しい命の誕生が近づいている。これが示すことは、また忙しくなるんだぞというフラグ。

しかし、まさにこれこそ家族の辿る道の必然のコースであり、ありのままの姿。沖田修一監督は、この日本の、あえて言いますけど、“非常に普遍的な”家族の経過を、実に割と現代的なタッチもありで描いてしまう。この才能はなかなかないですね。どうしてもステレオタイプ感が目立つようになってきた、日本伝統の家族喜劇をしっかり現代の視点にも耐えうるものにバージョンアップしてくれる才能は、今後の邦画でも貴重になってくるのではないでしょうか。

「ワイルドスピード・ピザ」を期待したいデス

沖田修一監督といえばギャグ。それは唐突に入るので油断なりません。

まさかピザ配達がカッコよく描かれるとは思いもしなかった。

船での「あ、どうも」的な同業者目くばせで笑わせるゆるいテンポからのバイクシーン。ちゃんと「ピザハット」、「ピザファクトリー」、「ピザーラ」の実在の3社が見事共演しており、いい宣伝になったんじゃないかと。ただ、そのあと柄本明が演じる田村治が過剰すぎる勢いで口いっぱいにピザをほうばるシーンを見ると、ピザを食べたくはならないという…。あれ、宣伝になっていないかも…。

ところでなんで「ドミノ・ピザ」は省かれたんだろうか。地域にはないのかな。ちなみに「ピザファクトリー」は広島専門の宅配ピザ屋さんらしいですね。

個人的にはこういう緩急つけたテンポのあるギャグのほうが好きなんですよね。どうせならピザ3社バイク疾走シーンはカーアクション風にもっと長回しでカッコよく撮ってくれてもよかったかなというどうでもいい欲望も頭をよぎりました。

このピザ3社バイク疾走シーン以外に、本作における貴重なスピード感のある演出といえば、父に代わり永吉が吹奏楽部を指導して曲にアレンジを加える場面。あのシーンは願わくば終盤に持ってきてほしかったです。永吉が吹奏楽部を指導するところだけを中盤に流して、指導した結果の曲は結婚式で披露する…とか。そのほうが最後のデスメタル&父親の死という一番ぶっとんだ演出にもつなげやすいと思いました。

登場人物はどれもゆるさが心地よかったのですが、主人公の弟・浩二を演じた千葉雄大は意外な掘り出し物的な魅力がありました。『黒崎くんの言いなりになんてならない』のような少女漫画的世界でのイケメン役が目立つ彼ですが、本作ではイケメン感は封印。アホ演技がベテラン勢に負けず自然で良かった。もっと見たかったです。

モヒカン故郷に帰る

一方、前田敦子が演じる由佳はキャラはいいのに、ギャグとしてはあまり活きてこない印象も受けます。本作のコメディは病人ギャグ、老人ギャグ、田舎ギャグの3要素で構成されていますが、由佳には彼女にしかできない妊婦ギャグというポテンシャルがあったはずなのに。劇中ではあまり彼女の妊婦としてのキャラがコメディになっていないのが残念です。まあ、父の死に対する生の象徴としての配置なのでしょうが、ワザとらしい見え透いた感じも否めない…と思ったりも。

私のなかでは食べ物映画として記憶に残ったのは意外でしたが、でも心地よい家族劇でした。

(C)2016「モヒカン故郷に帰る」製作委員会