ロブスター
映画『ロブスター』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Lobster
製作国:アイルランド・イギリス・ギリシャ・フランス・オランダ・アメリカ
製作年:2015年
日本公開日:2016年3月5日
監督:ヨルゴス・ランティモス

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★
 

Plot Summary

独身者は身柄を拘束されホテルに送られる。そこで45日以内にパートナーを見つけることができなければ、自ら選んだ動物に姿を変えられて森に放たれる。そんな時代に、独り身になってしまった中年の男・デヴィッドもホテルでパートナー探しに奮闘することになるが…。

ネタバレなし感想

ブラックに突き抜けすぎた恋愛映画

「独身なんて寂しくて人生が孤独死まっすぐだよ!」「いや、結婚こそ人生の墓場であり、自由のない監獄のようなものだ!」そんな弁論大会のごとく長広舌をふるうような“やりとり”はいつの時代もあるのかもしれませんが、なんでなんでしょうね。是非はともかく人間によって結婚は大事なんだなぁ…(宇宙人的コメント)。

そんな永久に終わりの見えない議論を風刺するような映画といえば、この本作『ロブスター』はぴったりでしょう。なんともいえない奇想天外な映画です。

“独身は罪で、独身のままだと動物にされてしまう”

映画を普段見ない人でも、この世界観の設定を聞いただけで思わず気になってしまう誘引力があります。「独身はダメなこと」という社会的な扱いは百歩譲ってわかるとして、動物にされてしまう…これは比喩でもなんでもなく、本当にあの動物です。獣です。

本作を創り上げたヨルゴス・ランティモス監督は、独自の作家性を持った強烈な人で、過去にもヘンテコな映画を撮ってきました。どれもブラックユーモアというにはあまりにもブラックに突き抜けすぎている作品ばかりです。

過去作『籠の中の乙女』では「家族」の歪さが描かれていました。これも本当に語りづらいほど珍妙で、観ていると「なんだこれ…」と茫然とするばかりなのですが、本作『ロブスター』でヨルゴス・ランティモス監督がターゲットにしたのは「恋愛」。

本作では「恋愛」を一切ロマンチックには描かず、シニカルな表現で「恋愛」の気まずさや可笑しさといった部分だけを抽出したようなつくりになっています。本当に容赦なくロマンチックな雰囲気がゼロです。いや、マイナスです。

といっても本作は『ブルーバレンタイン』のような恋愛トラウマ映画ではありません。少なくとも私はトラウマ的な絶望感はなかったかな…。その理由は、あまりにも非現実的すぎるから…ヨルゴス・ランティモス監督作は妙に観客を良い意味で“冷めさせる”のが上手いですよね。

独身が罪という世界観ですが、独身の人が見ても辛くなることはないとは思います。ただ、独身であろうと既婚であろうと、居心地が悪くなる映画ではあります。そこが楽しめれば最高の映画となるでしょう。本作は全体にわたって恋愛を極端にシュールに扱っており、笑えるかどうかは人それぞれというしかないのですが…。まあ、中高生が観たら夢も希望も無くなって可哀想なので、恋愛や結婚に夢を持っていたい人には押し付けるようなオススメはできないですけど。

また、本作は意外とキャストが豪華なのも特徴です。コリン・ファレル、 レイチェル・ワイズ、レア・セドゥー、ベン・ウィショー、ジョン・C・ライリーといった堂々たるメンツがヘンテコな演技をしているのは一見の価値ありです。コリン・ファレル、こんな冴えない男だったか?と思うくらいの風貌になっちゃってますよ。

ちなみにR15指定で、性的なシーンがあります(ただ全くエロティックではないけれど…)。動物が殺されるシーンは多数あるので、苦手な人は注意です。

予告動画







↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

恋愛なんてくだらない?

なんでしょうか、観客さえも実験サンプルになっているような気分になってきます。この『ロブスター』という映画の映像を見せられる実験。そして、どんな反応を見せるかを、マジックミラーの向こうで白衣を着た研究者たちが記録しているような…。

私はとくに結婚にも恋愛にも特別な感情は持っていないほうだと思っているのですが(個人の好きにすればいいというスタンス)、それでもこの映画は観ている間は気まずいムズムズ感がありました。逆に結婚や恋愛に一家言を持っている人はどう思うのだろうか、気になりますが…。

本作の特徴は、“突き放し”。

「恋愛」を題材にすれば、大なり小なり観客の感情移入を狙うものなのですが、本作はそんなものは一切考えていないところが私は気持ちがよかったです。「恋愛」って良いものだねとか、辛いものだよねみたいなことも思わせない…突き放しっぷりが清々しいです。

世界観の説明も、映像だけで観客に突き放してみせます。何気ない場面でも、フラミンゴなど明らかにその環境には不釣り合いな動物が横切る光景は異常空間です。可愛らしいウサギでさえも、皆、独身者の慣れの果てなのかと思うと複雑になります。しかも主人公たちは食べてましたからね。この世界の動物って、えっ、もしかしてアレも…、じゃあそれって…。これ以上深く考えたらダメなやつです。

あの劇中の動物はリアルですよね? わざわざ撮影のために用意しているのか…。このへんの製作段階のことさえ考えてもシュールというのがまたいいですね。

The Lobster

動物にどうやって変えられるんだろうと思ったら、解剖によって臓器を摘出されるという異様に生々しい設定が用意されており、「動物に変身するなんてメルヘンチックかも」という甘ったれた想像は粉砕されます。

恋愛の成就に至る過程はさまざまな切り口がありますが、本作ではカップルができる条件をあえて限定して設定しています。それが「共通点探し」。劇中で主人公デヴィッドや他の独身者たちは最初から最後まで憑りつかれるように共通点探しのことしか考えていません。この「共通点」は皆、性質的なもの(近視、足が不自由、鼻血が出やすい、冷酷など)ばかりなのも、意図的なものでしょう。「共通点探し」のために強引に相手に合わせる男たちの姿は滑稽です。そこまでやる?とドン引きする奇行の数々、まるでカルト。

本作は恋愛に夢中になる奴だけを馬鹿にしているわけではありません。あえて独身でいようとするグループも滑稽でした。イヤホンで独りダンスパーティをする彼らもカルト的です。

でも劇中の光景は確かにシュールですが、現実で私たちがしていることを超オーバーに置き換えたものだと考えると、気まずくなります。

登場人物の最後は全て綺麗に突き放して終わっています。足の悪い男は嘘を暴露され、友を撃とうとした滑舌の悪い男はパンツ一丁で森に置いてかれ、独身者たちのリーダーはあっけなく反逆されます。冷酷な女やホテルの支配人の放置っぷりも忘れられません。

その後どうなったかを描かないのがヨルゴス・ランティモス監督らしさ。

そして、最高の突き放しはラストにありました。

映画の終盤。デヴィッドが恋した女性が独り者集団のリーダーに視力を奪われて失明したことで、独り者集団から脱退を決意する二人。無事、脱出するも近視という共通点はなくなってしまいました。共通点をつくるために目をえぐって失明しようとするデヴィッドですがためらう姿が…。最後に待ち続ける彼女の長めのカットが映ってエンドクレジットでした。

この解釈は人それぞれだと思いますが、エンドクレジットで流れる波の音と合わせて、デヴィッドは彼女を捨ててロブスターになったとも考えられます。

もしそうだとしたら彼はなぜロブスターになる道を選んだのでしょうか。

個人的な解釈としては、デヴィッドまで視力を失えば共通点を確認することもできないわけで、本末転倒。そのことに気付いて、我に返ったのかもしれません。「なんてくだらないことをしていたのか」と…。

『ロブスター』を見ると恋愛について難しく考えるのが馬鹿馬鹿しくなるので、恋愛トラウマ映画を見た後の口直しに最適です。まあ、その結果、別の副作用がでてきても一切責任はとりませんが…。

(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.