いや、自由すぎるのか?…ドラマシリーズ『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2019年~)
シーズン1~シーズン4:U-NEXTで配信(日本)
原案:ダニー・マクブライド
動物虐待描写(家畜屠殺) LGBTQ差別描写 性描写 恋愛描写
じぇむすとーんけのけいけんなるしせいかつ
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』物語 簡単紹介
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』感想(ネタバレなし)
モザイクありのメガチャーチ喜劇
アメリカには「メガチャーチ(メガ・チャーチ)」と呼ばれる教会が存在します。「Megachurch」の名のとおり、メガなチャーチ…要はめちゃくちゃデッカイ教会ということです。
何も建物が大きいわけではありません。大勢の信者を抱え、その勢力規模が尋常じゃないのです。
メガチャーチは「繁栄の神学」を前提とすることが多く、これは「貯金するよりも教会に寄付すれば物質的な富もいずれ増える」と謳う考え方です。何とも宗教組織側に都合がいいですが、こうした考えを広めることで、メガチャーチは数多の信者から莫大な寄付金を集め、さらに大口寄付者も確保し、凄まじい資金力を手にしています。当然、メガチャーチの運営者は大富豪です。
その信仰活動も規模が桁違いで、スタジアムで派手なイベントをやったりと、さながらエンターテインメント大企業のようなメガチャーチもあります。
そんなあまりに金儲けありきのメガチャーチは批判の目を向けられることも多いですが、これもまた今の宗教の実態のひとつなのは間違いありません。
今回紹介するドラマシリーズはそんなアメリカのキリスト教のメガチャーチを風刺したコメディです。
それが本作『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』。
本作はキリスト教福音派のとあるメガチャーチを運営するジェムストーン家という白人家族の人間模様をドタバタ劇を交えて描いたコメディ。家長の父がいて、成人したこどもが3人いるのですが、この子どもたちがなんとも高慢で面倒臭い性格で、あちらこちらで騒動を起こします。
大富豪で権力のある白人家族を描いたドラマとしては、『メディア王 華麗なる一族』や『イエローストーン』がありましたが、この『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』は何度も繰り返すようにコメディに寄ってます。いわゆるお下品コメディですね。人死にもでるけど、基本はバカなノリです。


メガチャーチという権力を握った家族を愛すべきバカたちとして徹頭徹尾ふざけまくって描いているので、お付き合いできる人だけお楽しみください。
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』を原案として企画したのは、『スモーキング・ハイ』や『トロピック・サンダー 史上最低の作戦』でおなじみの“ダニー・マクブライド”。まさにそういう系のコメディです。
“ダニー・マクブライド”は脚本のほか、一部のエピソード監督も務めていますが、本作でもうひとりエピソード監督として関わっているのが、“ダニー・マクブライド”とは最近のリブート版『ハロウィン』でもタッグを組んだ“デヴィッド・ゴードン・グリーン”。ほんと、仲いいですね、この2人。
“ダニー・マクブライド”は主演もしていて大忙しですが、共演は、『ピッチ・パーフェクト』などこちらもお下劣コメディならお任せろの“アダム・ディヴァイン”、そしてドラマ『バイス・プリンシパルズ』で“ダニー・マクブライド”と顔を合わせていた“エディ・パターソン”。さらには、『10 クローバーフィールド・レーン』の“ジョン・グッドマン”、『お!バカんす家族』の“スカイラー・ギソンド”、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』の“ウォルトン・ゴギンズ”、『ザ・ダート: モトリー・クルー自伝』の“トニー・カバレロ”、ドラマ『Longmire』の“キャシディ・フリーマン”など。
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』はシーズン4で完結しており、本国では「HBO Max」で独占配信で、日本では「U-NEXT」で配信されています。
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 性行為の描写があるほか、かなり下品です。 |
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
中国の成都で24時間耐久洗礼式が行われていました。現在はコンサート中で巨大なプールで大勢が並んで、身を水に浸しています。仕切っているのはメガチャーチを家族で切り盛りするジェムストーン家。家長のイーライの息子たちである長男ジェシーと末息子のケルビンは信者を水に浸す傾け方をめぐって口論になり、イーライが「喧嘩はやめろ」と叱ります。しかし、どういうわけかプールの波機能がONになったようで、大波が発生。大混乱になります。
中国からアメリカにプライベートジェットで帰国した3人は、真ん中の娘のジュディに迎えられます。ジュディは秘書扱いな自分の立場に内心では不満です。
3台の車でサウスカロライナ州の広大な敷地に到着。ここがジェムストーン家の本拠地です。遊園地もあれば、射撃場もあります。3人にはそれぞれの家があります。
イーライにはたくさんのメイド、ジェシーには家族、ケルビンには…キーフという助手がいました。ケルビンの家はゲームセンターのようにアーケードが並んでおり、同棲するキーフは元悪魔主義者ですが穏やかな気質でケルビンを慕っています。
ジェシーにはポンティウスとエイブラハムという息子がおり、他にもギデオンという長男もいたのですが家を出てスタントマンをしているようで、ジェシーにとっては気に入りません。最近はポンティウスも反抗期です。ジェシーの妻アンバーは子を理解できそうにない夫を諭そうとするもいつも無駄でした。
イーライの妻エイミー・リーは亡くなっており、昔はテレビ伝道師として夫婦で有名でした。先日の中国の洗礼式もエイミー・リーの「東アジアに信仰を広げたい」という意思を尊重してのことです。
ジュディはBJという密かに同棲している男がいましたが、家族には好かれていません。
ジェシーは寝ようとしますが、スマホにある動画が送られてきて青ざめます。それは自分と仲間たちがコカインをおつまみに娼婦と一緒に卑猥なことをしてハメを外している様子を撮ったものでした。動画の送り主は不明ですが明らかに脅しです。
こっそり夜中に指定された場所に独りで行くジェシー。そこに悪魔マスクの人物が来て100万ドルを要求してきたのでした。
翌日、ジョン・ウェスリー・シーズンズを含むローカストグローブの牧師を集めてジェムストーン家の施設拡大計画を話し合うも、向こう側は小さな教会の存続危機となるため反対の姿勢をとります。しかし、イーライは何としてもこの地域を掌握したく、信者を増やすことが全てで、強硬な態度を崩しません。
父の跡を継ぎたいジェシーも乗っかりたいところですが、今はあの動画のことで頭がいっぱいです。どうやってあの大金を用意しようか…。
シーズン1:こんな家族でも神様は許す?

ここから『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』のネタバレありの感想本文です。
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』のユーモアの神髄は「白々しさ」にあるような気がします。それはメガチャーチの本質とも一致し、外と内の落差があまりに酷いことによる唖然とさせられるしかないアホらしさと言いますか…。まあ、要するにメガチャーチとこの手のコメディのジャンル…実は相性がめちゃくちゃ良いのでしょうね。
慎み深くありなさいと信者の前では説教しつつ、きっちりカネは巻き上げていくし、慈愛こそ大切と説きながら、家族関係は嫉妬と憎悪で渦巻いているし…。
本作の主役であるジェムストーン家の子ども3人…ジェシー、ジュディ、ケルビンは巨万の富の上で贅沢三昧だったからにしても自意識過剰で高慢すぎる性格に育っており、「ああ…この3人じゃあ、このメガチャーチもいずれ滅ぶな…」と未来が読めてしまうほどに希望がありません。父イーライもさすがに神に祈るのも諦めかける始末…。
そんな家族崩壊しつつあるジェムストーン家に、さらにイーライの疎遠になっていた義理の弟であるベイビー・ビリー・フリーマンが若い妻のティファニーとともに乱入し、加えてジェシーの長男ギデオンが父のセックステープスキャンダルを武器に腰が引けながらも脅しをかけてきて、どんどん収拾がつかなくなっていくのがシーズン1のだいたいの中身です。
とは言え、敵対者含めてこの作品に登場するほぼ全員がアホなので、起こっていることのわりには軽々しく進んでいきますが…。不謹慎であろうと、神が許してくれるなら何でもありの精神…。
それにしてもこの「悔い改めるなら許しなさい」の教えがこのコメディの暴走を正当化していますよね。この教えを大義名分に、アイツら、全然反省せずアホのままでいられるから…。
シーズン1はやたらペニスを映しまくってモザイクが大活躍していましたが、今後もこの調子なのでしょうか? 神様もモザイクかけるの面倒になってくるよ…。
シーズン2:アホでも団結できる
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』のシーズン2は、前回の家族内の騒動から一転、今度は家族外の敵と対峙しなくてはいけないことになり、家族の絆が試されます。
宗教界の偽善を暴くという名目で一部のメガチャーチを脅していた調査記者サニエル・ブロックとこっそり手を組んでいたのが、テキサス出身のテレビ伝道師カップルであるライルとリンディのリッソンズ夫妻。シオン・リゾートの共同事業を打診しつつ、裏でサイクルニンジャがイーライを排除しようとしていました。
そのイーライもかつて1968年にメンフィスで親指折りを特技に汚れ仕事もするプロレスラーだった時代が明らかになり、雇い主であるグレンドン・マーシュとその息子ジュニアとの因縁、そして1993年に認知症だった父ロイがグレンドン・マーシュ・シニアをうっかり射殺した事件まで告白され、いろいろとわかってきます。
これだけ文章で要約的に説明すると陰惨でシリアスな物語に思えますけど、実際のドラマ内ではこれらの展開が本当にアホ丸出しで描かれているのでね…。そういうドラマなんだ…この『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』は…。
シーズン2は、ジェシーがおなじみの信者の夫どもをかき集めた軍団(リバイだけ独身だけど)を「男らしさを取り戻そう!」と結集させたり、ケルビンがもはやカルトみたいなマッチョ団体を組織したり(今シーズンはペニスではなく筋肉多めだった)、あられもなく醜態を晒す男成分が濃かった…。
男だけでなく女たちもしっかり風刺はされています。保守的な規範どおりの良妻賢母でいようとするアンバーの滑稽さとか…。男社会に蹂躙されっぱなしの紅一点のジュディすらもアホな男たちに染まってしまっているので、このジェムストーン家はやっぱり未来が見えません…。
シーズン3:神は仲良しろと言っている!
『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』のシーズン3は、シーズン1と2の合わせ技と言いますか、またも家族内紛に戻りつつ、より物騒な方向へパワーアップ。
イーライがセミリタイアして隠遁気味の中、子ども3人は教会支持率低下を食い止められず(牧師に「あなたを信仰できない」って言われたらね…)、その最中にイーライの妹メイメイの夫であるピーター・モンゴメリーが乱入して、近親者対決が再燃。
このピーターはいわゆる終末を信じて民兵組織を作り上げている過激派の信仰集団。ただ、まあ、その動機もかつてイーライの2000年問題の不安を煽ってサバイバル・グッズを売って儲ける戦術に見事に引っかかってピーターは誰も信用しなくなったから…という自業自得ではあるのですが…。
互いに社会不適合者だと相手を罵る中、いとこと仲良くできるか…ジェムストーン家とモンゴメリー家の確執を解決しないと、少なくともこの家族らは終末を迎えてしまいます。ジュディの不倫は…些細なことか…(BJ、それでいいのか…)。
神様も付き合いきれないだろうな…(でもイナゴの大群は演出してくれる)。
本作はだいたいは「つべこべ言わず、仲良くしろよ!」と神様の怒りの融和が炸裂し、アホ満載のうちにいつの間にか丸く収まっている…この流れが定番です。モンスタートラックで全部OK。単純な人たちです。今回のテロ未遂まで乗り越えられたら、もう何でも上手くいく気がしてくる…。
シーズン4:気になる風刺の弱さ
シーズン3のラストが随分と円満な光景で、製作陣もあれで終わりでいいと思って作ったのかもしれませんが、このシーズン4が『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』の完結です。
しかし、フィナーレにしては原点に戻ったかのような、いや、それ以上に下品だった…。ベイビー・ビリーのフルチン芸はもういいとして、今回の主題は、引退した長髪イーライが妻の親友だったロリ・ミルサップと熱愛しているのが発覚するという、(そのセックスライフも含めて)子どもたちにこれが受け入れられるか…そんなわりと他者からしてみれば至極どうでもいい家族事ですからね。
一応、毎度恒例の緊迫(フリです)の展開もあって、鍵となるアイテムがジェムストーン家の家宝として受け継がれてきた金の聖書なのですが、この由来が描かれるシーズン4の第1話だけが本編とは別格の凄みのあるエピソードで見ごたえがあります。まさかの“ブラッドリー・クーパー”ですよ。この回だけで1本の映画になる…。軽薄で信仰に無関心な奴が宗教を築く…本作らしい起源ですしね。
そんな中、個人的な注目はやっぱりケルビンとキーフの物語です。シーズン1の頃からこの2人は周囲から「恋人じゃないの?」なんて言われていましたがケルビンは「キーフはそんなではない」と無邪気に否定していました。しかし、シーズン3の終盤で2人はキスをし、ついに「dude(男友達)」から「lover(恋人)」へと自覚的に変化しました。
今回のシーズン4ではその幸せ絶頂のケルビンとキーフが「PRISM」というLGBTQフレンドリーなプログラムを始め、ケルビン版のレインボーな聖書を売りまくり、ピンクマネーで大成功を納めます。ライバルである牧師のヴァンス・シムキンズのホモフォビアな嫌がらせも跳ね除け、2人は最後に結婚。このドラマで稀にみる茶々を入れない多幸感のあるゴールを迎えます。
本作がケルビンとキーフの関係をギャグで片づけず、ちゃんとゲイ・カップルとして真正面から描いたのはとても良かったのですが、このクィア・パートで本作の作品性の欠陥も浮き上がった感じがありました。
というのもやっぱり本作はどこか政治的に日和っているところがあるという点です。ケルビンとキーフの物語でも、雰囲気で性的マイノリティに寄り添っている感じは出していますが、「LGBTQ+」の言葉を積極的に使わず、包括性の話題は避けます。要するにすごく保守的な「LGB」オンリーの限定的受容性が滲んでいるわけです。「Fox News」を観ている家族なら絶対にトランスジェンダー差別の言及はでるだろうに、そういう今のアメリカの現実的なネタは入っていません。
ケルビンで描かれるのも2025年の作品にしてはあまりにベタなカミングアウト・ストーリーですし…。
その一方で、きっちりこのシーズンの敵であるロリの夫コブがわざわざワニと絡めて典型的な性的捕食者(Predatory Gay)として描かれ、ステレオタイプなゲイ表象を入れるあたりも、保守層の視聴者配慮な感じがします。
そもそも本作は全シーズンで、メガチャーチという宗教権力には切っても切り離せない政治のトピックをまるっきり無視しており、風刺は一定のラインを超えないようにしています。
そういう意味でも、誰よりもこのドラマ自体が「隣人を愛せよ」なんていう信仰でよくある修辞を白々しく使っているのかもしれません。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
△(平凡)
作品ポスター・画像 (C)HBO
以上、『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』の感想でした。
The Righteous Gemstones (2019) [Japanese Review] 『ジェムストーン家の敬虔なる私生活』考察・評価レビュー
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