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『AI崩壊』感想(ネタバレ)…日本のAI映画は崩壊というか要アップデート

AI崩壊

日本のAI映画は要アップデートです…映画『AI崩壊』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:AI崩壊
製作国:日本(2020年)
日本公開日:2020年1月31日
監督:入江悠

AI崩壊

えーあいほうかい
AI崩壊

『AI崩壊』あらすじ

2030年、天才科学者の桐生浩介が亡き妻のために開発した医療AI「のぞみ」は、全国民の個人情報と健康を管理していた。いまや社会インフラとして欠かせない存在となった「のぞみ」だったが、突然、暴走を開始。AIが生きる価値のない人間を選別して殺戮しようと動き出す。犯人にされてしまった桐生は義弟でもある西村悟と連絡を取りながら、事態を収拾しようとするが…。

『AI崩壊』感想(ネタバレなし)

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AIよりも進化が凄い入江悠監督

「Google翻訳」より優秀だ!と話題になった「DeepL翻訳」というサービス。これはAIによるニューラルネットワーク技術を駆使して文章を翻訳しています(なおGoogle翻訳の翻訳アルゴリズムもニューラルネットワークを使用しているはずなのですが、日本語にはまだ対応不十分なのかな?)。ひと昔前までは機械翻訳と言えば半笑いの対象でしたが、どんどん技術は進歩しており、近い将来日常で当たり前に使うテクノロジーになるのかもしれません。ちなみに私の感想ブログの記事の文章をDeepL翻訳に全部ぶっこんでみたら、なんかイマイチな英文になる…これはあれか、私の日本語が変ってことか、そうなんですか、AIさん…。

そんな急速に私たちの生活を浸食し始めている「AI」。10年、20年後の未来がどうなっているのかは予測できませんが、間違いなくAIはさらに発展して拡大していくでしょう。

当然、AIを題材にした映画も時代に合わせて変化します。毎年ひっきりなしにAI映画が登場しており、SFにおける当たり前のパーツであり、ちょっとしたその時代性を測る指標ですね。

そして2020年、ついに日本もAI映画の大作が登場しました。それが本作『AI崩壊』です。

別に本作が初めてAIを取り上げた邦画というわけではなく、これまでも日本のAI映画は多数公開されています。ただ、『AI崩壊』が特筆されるのはオリジナル作品だということ。この何でも原作ありきの映画化ばかりな日本映画業界で、こうやってオリジナル映画が誕生するだけでも珍しいのに、そこにAIという題材をぶつけてくるあたり、なかなかに攻めています。

監督&脚本を手がけるのは“入江悠”。2009年に『SR サイタマノラッパー』シリーズというインディーズ映画で映画ファンに注目され、そこから生活が困窮するほどの厳しい状態を一時経験するも、少しずつ監督業のキャリアを重ね、ついに2017年の『22年目の告白 私が殺人犯です』で大ヒット監督の堂々たる仲間入りを果たした、見事な成功者です。

そんな“入江悠”監督が2020年には『AI崩壊』というオリジナル大作を手がけるとは…。この10年のキャリアアップの上げ幅が尋常じゃないです。AIの進化よりも“入江悠”監督の進化の方が凄いのではないか…。配給のワーナー・ブラザースも今後も“入江悠”監督をプッシュしていくのかな。

『AI崩壊』は渾身の一作なだけあって、俳優陣も豪華です。俳優だけを見ても本作が幅広い客層をターゲットにしているのがわかります。

まず主演は『キングダム』で主役以上にハマっていた“大沢たかお”。若手ではないけど主役を張れて大衆にウケる俳優として地位を確立していますよね。今作も“大沢たかお”だからこそ成り立っている作品ですし、『22年目の告白 私が殺人犯です』の時といい、“入江悠”監督の大作は主演の俳優パワーで押し切る映画が多いかもしれない…。

準主役級の登場人物に『ちはやふる 結び』の“賀来賢人”、『パーフェクトワールド 君といる奇跡』の“岩田剛典”を配置。さらに『葛城事件』の“三浦友和”という渋めの大物もいます。男性陣ばかりではなく、女性陣も“広瀬アリス”、“玉城ティナ”、“余貴美子”、“松嶋菜々子”と多彩な顔ぶれ。女優の中では“広瀬アリス”が一番出番が多めです。

ちなみに子役として出演し、物語でも重要な役目を担う“田牧そら”は13歳。2006年生まれで、2006年は「PlayStation 3」と「Wii」が発売した年です(えええぇ…)。

撮影は『世界から猫が消えたなら』や『寄生獣』2部作の“阿藤正一”で、『AI崩壊』でもかなり迫力のあるカメラワークで観客をサスペンスに熱中させてくれます。音楽は『ちはやふる』3作の“横山克”

また、本作のAI監修には東京大学大学院の松尾豊、公立はこだて未来大学の松原仁、筑波大学の大澤博隆が参加。他にもサイバーセキュリティ監修、犯罪心理学監修、警察監修、医療監修と、各方面のバックアップがついており、本格度が窺えます。

日本でもAIという言葉は詳細を理解しているかどうかはさておき老若男女問わず報道やSNSで聞く言葉になってしまいましたし、もう無視もできません。この『AI崩壊』は日本のAI映画の先駆けになることでしょう。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(話題作を押さえるなら)
友人 ◯(AIトークで盛り上がろう)
恋人 ◯(各人の興味を見つけやすい)
キッズ ◯(AIに興味ある子どもにも)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『AI崩壊』感想(ネタバレあり)

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現在、当社のAIに不具合が発生しており…

2020年。AI研究者として名高い桐生浩介の研究室にひとりの男性が駆け込んで書類を持ってきます。「どうだった?」「ダメです。法整備がないと厚労省は認可できないって」…その手には「医療機器承認申請却下のお知らせ」という書類があり、桐生浩介はそれを悔しそうに見つめるしかできません。

桐生浩介の妻、桐生望は末期のガンで残された人生の時間はわずかでした。桐生浩介は高度なAIがあれば新薬を開発してガンを治療できると考えていましたが、その未来は絶たれました。桐生浩介の義弟で桐生望の実弟である西村悟もこのAIに賛成し、強く推し進めますが、許可がない以上はどうすることもできません。桐生浩介には一人娘のがおり、彼女のことも心配です。
死の直前、桐生望は人工知能が人を軽んじる世界が来ることへの警告を口にしつつ、夫に「もうプログラムは書かなくていいから」と語りかけ、未来の技術の発展に希望を託して亡くなりました。

その後、桐生浩介は娘の心と新生活のために業界を離れました。一方で、桐生浩介が開発し、西村悟に託された医療人工知能「のぞみ」は世界に発表され、瞬く間にノーベル賞級の発明だと評価され、皮肉にも認可が下ります。HOPE社を立ち上げ、社長となった西村悟の指揮のもと、どんどん普及していくAI「のぞみ」。しだいに電気、水道、ガスに続く第4のライフラインとして無くてはならないものにまでなり、全ての医療はこのAIを基盤に動くようになりました。

そして10年後の2030年。シンガポールで第2の人生を過ごしていた桐生浩介。西村悟から動画メッセージが送られてきて、自分に総理大臣賞が授与されること、千葉にデータセンターが作られるのでオープニングセレモニーに来てほしいという内容でした。反抗期ぎみな心は日本に行きたがり、母への想いを露わにします。やむを得ず桐生浩介は日本の地に再び足を向かうことにしました。

HOPE社の広報の女性に案内されながら車で会社前に到着。そこでAIに反対する激しい抗議デモが勃発しており、マスコミに取り囲まれつつ、会社建物へ。中では「おかえりなさい」と温かい拍手で出迎えられ、西村悟も笑顔で歓迎してくれました。

HOPE社データセンター所長の前川の先導で、地下13階のサーバールームへさっそく向かいます。登録されていないデジタル機器が持ち込めず、鉄壁の防御でテロリストや爆弾でも平気だというその施設。心が「ドア、開けて」というと開き、そこには広大なサーバールームが広がり、中央に特殊な形状をしたAI「のぞみ」のメインサーバーが鎮座していました。

心が「こんにちは」とあいさつすると挨拶し返してくるAI。「はじめまして、のぞみです」

桐生浩介は会社のロビーでスピーチをします。「その進化に驚きました」とAIの発達に感激しつつ、感謝を述べます。妻は「苦しんでいるたくさんの人を救う日が来ますように」と願っていたとも…。

ところが「AI粉砕!」と叫ぶ乱入者が出現。「AIの侵略がすでに始まっている!」と連呼しながら暴れ、会場にいた警察にすぐに連行されました。

一旦お開きとなった会場。どうやら不穏な動きを事前に察知し、警備を強化していたようです。警察庁の桜庭誠が挨拶をしてきます。彼もAIに関して天才らしく、警察もAIの開発を進めているとのこと。しかし、HOPE社はAIは全ての人のためにあるべきというポリシーを大事にしており、警察との共同開発は拒んでいました。

会場から立ち去ろうとすると、デイリーポストの編集者が訪ねてきて、「AIがやがて人間を選別しませんか?」と質問をぶつけてきます。桐生浩介は「のぞみは人を助けるAIです」と否定しました。

車に乗ると心がかばんに入れたはずの母の写真がないと焦りだし、心と一部のスタッフはサーバールームで探すことに。桐生浩介は先に自動運転カーで向かいます。

しかし、しばらく後、日本中で異変が起きて始めます。病院で謎の警告音が鳴り響き、医療体制はストップ。ペースメーカーをつけた総理は急に倒れ、街行く人々も倒れる人が続出。車も急停止し、事故が多発。おカネ関係のアプリの残高もロックされ、人々は店に殺到。エレベーターも停止。

HOPE社のサーバールームにも警告音が鳴り響き、「インシデント発生、セキュリティロックします」とアナウンスのもと、心がサーバールームにまだいるのに強制ロック。「アタックを確認、自己防衛モードに切り替えます」と報告するAI。マルウェアが侵入を繰り返しているようで、AI「のぞみ」はシステムを落とすことができないと外部からの操作を一切却下し、自動思考モードに移行。対処のために急速冷却モードが作動。サーバールームは一気に冷え込み、心の命の危機に。

そして渋滞で動けない桐生浩介は自分のそばにあった鞄の見知らぬタブレットから攻撃プログラムが送られていることに気づき、容疑者として追われます。

人類にAIが刃を向ける時、私たちに対抗する術はあるのか…。そして事件の真相は…。

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これは10年後の日本なのか?

『AI崩壊』は現在の日本映画業界が全力を持って打ち出す渾身の大作だったと思いますし、キャストや映像のクオリティは確かに一流でした。最近の邦画は映像の品質が追い付いていた感もあり、本当に見ごたえがあります。今作もサーバールームの雰囲気や追走劇などCGを混ぜ合わせたバランスが程よくてナイスです。

しかし、SF映画として目を通すなら、残念ながら私は厳しい評価をせざるを得ないところが多い作品だなと思うのが正直な気持ちです。

本作はコンセプトとして「10年後の日本を描く」ことが前提にあります。でも私は本作を観ていてもこれが10年後の日本だなとはどうしても実感できませんでした。本作には未来を予測するというSF映画に欠かせないリアリティに致命的な欠陥が散発していると思います。

まず物語の要になるAIですが、導入のされ方が妙に変です。普通、AIの導入が最初に進むであろうと考えられるのは、製造業や農業、運送業、客対応業務などのサービス業…つまり人手不足に苦しむ低所得労働者の仕事でしょう。しかし、本作ではなぜか一番導入ハードルが高そうな医療業界と警察に真っ先に使われているのです。

で、例のAIパニックが起きると大混乱に陥るのですが、作中でわかるかぎりだとスマホは使えているようですし、物流は止まっていないようですし、テレビはやっているし、最初の衝撃はあれど案外と平常なんですよね。車もあれだけ当初は交通障害を起こしておきながら、その後のシーンは何事もないようですし…。なんか釈然としません。

そもそも日本でたった10年でここまでAIが浸透するのかという疑問もあります。皮肉にも、この映画の公開後に日本のデジタル・インフラがボロボロなのが露呈する一大事が起きました。新型コロナウイルスのパンデミックです。給付金のオンライン申請はグダグダに機能せず、印鑑のせいでテレワークもまともにできず、散々でした。私も日本社会はここまでデジタル音痴だったのかと愕然としました。ハッキリ言ってこの現状の日本社会ではAIの普及拡大は無理でしょう。AI以前の問題で躓いているのですから。

「10年後の未来を描く」というテーマはSFにおいて実は一番難しいと思うのです。それだったらもっと先、100年後とか、200年後とかの方が精密な考証がいらないので思いきったことができます。

『AI崩壊』に近いなと思う有名な海外映画は『マイノリティ・リポート』ですが、あれみたいに完全な未来世界に設定してしまえば、勢い任せのこともそれほど気になりません。たぶん『シン・ゴジラ』の成功を踏まえ、ああいう未曽有の危機に翻弄される人類を描くリアルシミュレーションな作品にしたかったのでしょうけど、怪獣とAIでは求められるリアリティは全然違いましたね。

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「人類の選別をする」は基本ダサい

『AI崩壊』は各専門家の監修があったはずなのに、なぜこうも未来描写が杜撰なのか。

おそらく「AIが人類の選別をする」というストーリーの根幹を前提にした世界観構築をしているからなのではないかな、と。医療機関にAIが浸透している設定なのも「AIが人類の選別をする」オチに繋げたいがためです。それありきです。

根本的なことを言っちゃうなら、この「AIが人類の選別をする」というお題目がどうなの?と思うところです。いや、確かにどこぞのヒトラーさんは似たような思想で民族抹殺に取り掛かりました。でもあれだって表面的に単純な思考に見えて裏では複雑な背景があるものです。

今回の「AIが人類の選別をする」件に関して首謀者の桜庭誠いわく「生産性が高い人間だけを選び、社会の再設計を目指す」ことが目的だったようです。ではこの「生産性が高い」を何を基準に判断しているのか。作中を見るかぎり、病気、年齢、仕事でジャッジしているようですけど、社会って別にその構成要素だけではないし、もっとややこしいです。だったら犯罪やセクハラする奴とかを殺せよという話にもなります。それに特定の人を殺しただけで生産性は上がらないでしょう。これは社会構造の問題なのですから。

結果、この首謀者の桜庭誠がどこぞの『デスノート』の影響を受けたアホでイタい男にしか見えなくなっています。全然社会をわかっていない、賢くもないです。

これで終盤で再起動したAI「のぞみ」が真っ先に桜庭誠を殺害したら、すごくブラックなオチで最高だったのですけどね…。そのオチだったら、本作のAI「のぞみ」がただの思い出映像プロジェクターになる残念過ぎるセンチメンタル・エンディングよりははるかにSFっぽいです。

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最新のSFから学んでほしかった

「ハリウッド風の日本映画ではなく、日本映画のエンタテイメント大作」を目指したとインタビューでは心意気が自信満々に語られていたのですが、私は本作を観て「日本らしい」と思えたものはとくになかったな…。

あえて言うなら、まるで官僚的なAIの利便性と危険性の2点をとてもざっくり解説したプレゼンテーションを見せられたような、そんな気分…。

やっぱり日本らしさを掲げる前にちゃんと海外の良質なSF映画から学んだ方がいいと思います。『AI崩壊』の作り手は、往年の80年代~00年代ハリウッドSFで認識が止まっているのではないかと邪推してしまうくらいです。

今のSF映画は全然別世界ですよ。もうAIの反乱だ~!みたいなそれだけの作品はないです。あの最新作『ターミネーター ニュー・フェイト』だってそのシリーズ初期の要素をバッサリ切り捨てるくらいですからね。

『ブレードランナー 2049』や『アリータ バトル・エンジェル』、ドラマシリーズ『スター・トレック ピカード』のようにAIの自己探求をテーマにした深淵なものが多く、加えて昨今は『エクス・マキナ』や『アイ・アム・マザー』、ドラマ『ウエストワールド』のようにAIのジェンダーロールを題材にする作品も目立っています。

“入江悠”監督はジェンダー問題は得意ではないだろうなと感じ取れますが…。本作でも女性キャラの扱いから脱臭できないほどに男性目線主体の匂いを感じますし…(AIに妻の名前をつけるのどうなの?って話も思ったけど)。日本でもAIの無自覚なジェンダーロールによる女性差別が問題視されているのだけどなぁ…。本作のラストのセリフ「親は子どもを幸せにできるんだ」といい、保守的な家庭観がこぼれでているな、と。

未来なのに移民の話題は出てこなかったり、暴徒化するデモの人の描写が“1960年代全共闘と全国学園闘争”レベルと変わらなかったり(今の日本のデモは大半が平和的です)、やっぱりここでも随所で認識の古さがありますよね。

私は『ビジランテ』(2017年)みたいな地方を舞台にしたうえで、そこにSF要素を加えるのが“入江悠”監督にはちょうどいいのではないかと思います。『太陽』と同じような感じで。それでもいろいろアップデートは必要ですけど…。もしくは『ロボット2.0』くらいバカ方向に振り切るなら「命の選別」というチープなテーマもいけるのですが…。

ということで意気込みは良いけどSFのアップデートは怠らないでね…という平凡なセキュリティ対策の助言みたいな文章になってしまいました。

AIが映画の感想を書き始める時代になったら、私もAIを崩壊させてやります…。

『AI崩壊』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★

作品ポスター・画像 (C)2019「AI崩壊」製作委員会

以上、『AI崩壊』の感想でした。

『AI崩壊』考察・評価レビュー