アリータ バトル・エンジェル
映画『アリータ バトル・エンジェル』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Alita: Battle Angel 
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年2月22日
監督:ロバート・ロドリゲス

あらすじ

数百年後の未来。スクラップの山の中から奇跡的に脳だけが無傷の状態で発見されたサイボーグの少女アリータは、サイバー医師のイド博士によって新たな体を与えられ、目を覚ます。しかし彼女は、自分の過去や今いる世界についてなど、一切の記憶が失われていた。

ネタバレなし感想

ジェームズ・キャメロンの渾身の映画化

常に映画化企画のネタ探しに血眼になっているハリウッド・ビジネス界にとって「日本の漫画やアニメ」はまだまだ手を出しにくい存在なのかもしれません。それは確かに宝の山だとも言えますが、迂闊に触れればスクラップと化す、扱いに困るコンテンツ。それくらい日本の漫画やアニメは独自性が強いのでしょう。

最近の日本の漫画やアニメをハリウッドで実写映画化した大作といえば、2017年の『ゴースト・イン・ザ・シェル』が大きなトピックでした。
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結果、こちらは興行的にも批評家評価も一般観客評価もあまりよろしくない結果に終わり、明らかにネームバリューを狙ったであろう大物女優の主人公起用は逆にホワイトウォッシュ批判につながってしまい、ボロボロな感じに…。

それでも日本のコンテンツを愛し、挑戦し続けてくれる人はいます。

次なるチャレンジャーはこの人、ハリウッド映画界で最も売れた映画である『タイタニック』と『アバター』の2本を手がけている、トップクリエイターの“ジェームズ・キャメロン”です。

完璧主義者でこだわりが人一倍強い彼が製作&脚本として関わって生み出されたのが本作『アリータ バトル・エンジェル』

原作は「銃夢」という木城ゆきとによる漫画で、案の定、漫画に疎い私は原作を全く知りません。本作の実写映画化企画を目にしたときも「じゅうむ…?」とか思ってましたからね(正しくは「ガンム」)。ちなみに原作では主人公となる少女の名前は「ガリィ(Gally)」で、英語だと響きが良くないので英語版刊行時に「アリータ(Alita)」に変更された経緯があるそうですね(さらにちなみに映画の邦題は当初、『アリタ バトル・エンジェル』でした)。

どうやら2000年頃から“ジェームズ・キャメロン”はずっと虎視眈々と映画化を進めていたようで、しかし、『アバター』の特大ヒットにより、どんどんその企画は先延ばし。“ジェームズ・キャメロン”自身は『アバター』の続編シリーズを作るビッグ・プロジェクトで手いっぱいで、これは映画化はとうぶんないのかなと思っていたら、脚本のまとめを上手くやってくれた“ロバート・ロドリゲス”に監督を任せるという判断をして、映画化が地に足つき、撮影に至りました。

“ロバート・ロドリゲス”といえば、ケレン味の濃い作風が特徴の人で、『スパイキッズ』シリーズがわかりやすいですけど、確かにフィクション漫画原作の料理も上手そうです。

そう聞くと「じゃあ、“ジェームズ・キャメロン”監督作ではないから、彼の作家性はそこまで表現されていないのかな」と心配する人もいるかもしれません。でも大丈夫です。“ジェームズ・キャメロン”色、全開ですから。あれもこれもどこを見ても“キャメロン”のエッセンスたっぷりで、もはや製作というか総監督という肩書にした方がいいのではと思うほど。逆に“ロバート・ロドリゲス”は今回、職人監督に徹しましたね。

2018年12月公開から2019年2月公開へと土壇場でさらに日の目を浴びる瞬間が遅れてしまいましたが、クオリティに陰りはなし。観客評価も非常に高く、興行も初週としてはまずまずの滑り出し(日本と中国の公開は22日なので記録に含まれていません)。さすがに『アバター』ほどの異常な歴史的大ヒットとまではいきませんが、やはり“ジェームズ・キャメロン”、その実力は侮りがたし。

原作ファン・映画ファンのみならずとも、幅広い観客層が楽しめる映画に仕上がっています。当然、映画館の大スクリーンで見ないと、真の面白さなんて語れない映画ですよ。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

目だけでない、アリータの創造力

本作は何と言っても真っ先に目につくのが主人公であるサイボーグの少女アリータのビジュアル、とくに「目」です。通常の人間のサイズよりもひとまわりもふたまわりも大きくなっており、“目力”が凄いデザイン。これはもちろん原作のデザインを意識したもので、日本の漫画やアニメはキャラクターの目が大きく描かれることが多いですが、それに正直すぎるくらい忠実に倣ったかたち。

この目についてはビジュアルの発表当時に賛否両論がありました。気に入るか気に入らないか個人の好みというのもありますけど、俳優というプロフェッショナルで仕事している人の顔をこうも安易にいじっていいのかという職業的視点からも意義を唱える声もあります。

ただそこは“ジェームズ・キャメロン”。そんなことは百も承知の上であえてこういうデザインにしているのは自明。“ジェームズ・キャメロン”としては原作を最大限にリスペクトしたいというのもあるのでしょうし、彼は常に1歩2歩先の未来を見据えた挑戦をするクリエイターなので、挑む価値のあるものだと選択した結果のはず。実際、俳優が生身で演技することと、着ぐるみを身に着けて演技すること、この中間に位置するフェイシャル・モーションは今後も映画界の主流として存在感を発揮するでしょう。『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』はまさにその究極の一例ですが。
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こういう技術革新を適切に評価する準備が整っていない、今の映画界の保守性にこそ問題がある気もします。

私はこのタイプのデザインの繁栄地である日本にいる人間だからか、それともみんな画像アプリでこぞって目を大きく修正するのが日常化しているせいなのか、アリータの目にもとくに違和感は感じませんでした。

それよりも技術的な部分で感心しながら映像を堪能していました。アリータは演じているのが“ローサ・サラザール”という女優(『メイズ・ランナー』シリーズに出演してました)。
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彼女の顔と体の演技をキャプチャーしてVFXで「アリータ」を創造しています。当然、皆さんがよく使っている画像アプリのように目を単純に大きくするだけでは変ですので、ちゃんと調整が加えられており、その作業量だけでもご苦労様ですと労いたいレベル。

しかも、目だけじゃないんですね。“ローサ・サラザール”は現時点で33歳という年齢なのですけど、アリータは見てのとおり10代の少女に見える、華奢な体型です。つまり、目だけでなく体全体を調整しているわけで、これも含めるとその作業量は…。もう“ローサ・サラザール”の面影はかろうじて感じ取れる程度ですね。でも、そのかいあって、作中の中盤すぎにグリュシュカとの戦いで体がバラバラになったアリータがボディを新しくするシーンでは、まさに視覚的に成長を表現するというフレッシュな演出が実現できています。

ラクな方を選ぶならアリータに近い華奢な体型の女優を選べばいいのにそうはしないのは、見た目は幼く見えても内面は大人として描くという、“ジェームズ・キャメロン”の譲れないこだわりのためなのでしょう。

でも一番俳優の原型をとどめていないのは巨大サイボーグのグリュシュカでしたね。“ジャッキー・アール・ヘイリー”が演じていますけど、面影どころか“誰?”状態です…。

アリータ バトル・エンジェル

目は心の強さを語る

ストーリーの方はかなりシンプル。私は、寄り道をせずに物語をスマートにまとめた“ロバート・ロドリゲス”の仕事は良かったと思います。

もちろん原作ファンに言わせればきっと「あれも足りない」「これも無くなっている」と不満もあるでしょうけど、映画化する以上、取捨選択は避けられないですしね。

個人的には物語の本筋をアリータの心情変化に絞っている、しかもそれが説明的ではないのがプラス・ポイント。さっきも言ったように、目やボディなど視覚情報でその心を映しています。

まず、天空に浮かぶユートピアとされる都市ザレムから落下してきたゴミの山でアリータの頭部が発見される場面に始まり、最初に“モノ”としてのアリータの存在を観客に突きつけます。ところが、次のパートでは、あくびをして起き上がり、涙を流し、オレンジを「美味しい」と言って頬張るアリータの“命”としての姿。このギャップを短い時間でパパパッと見せて、この“ピノキオ少女”に実在感を与える。この手際は文句のつけようがない100点満点です。

それからも普通の少女らしい無邪気な一面を見せてくれますが、しだいに戦士として目覚めるアリータ。ここからは“ジェームズ・キャメロン”お得意の「強い女性像」を体現。その強さがハッキリ言ってチート級に最強で、戦闘面ではモーターボールの場面も含めて向かうところ敵なしなので、もはや敵を爽快に倒す姿を眺めるだけの映像になってしまっているのが、サスペンスに乏しいと低評価につながる部分かもしれません。でも“ジェームズ・キャメロン”的には、いかにも筋肉質で強靭そうな女性ではなく、一見するとフェミニンでか弱そうな少女が真の意味でパワーを見せつけ他者を圧倒する…そこがいいんだよ!という思いなのでしょうし、それはじゅうぶん伝わるエネルギーでした。

こういう「見た目は少女だけど、実はすさまじく強い」というのは日本の漫画やアニメではよくあるシチュエーションなので、それをそっくりそのまま再現してくれた“ジェームズ・キャメロン”はやっぱり“わかっている”人なんですよ。

ファミリー映画でも犬は殺せる

アリータに関しては心情の変化も含めて濃密に描いているのですが、対するアリータ以外のキャラクターの物語はかなり縮小されています。

自分の娘を重ね合わせているアリータを戦闘兵器にさせたくないというイドの葛藤も、結構あっさり“やってしまえ”モードに切り替わりましたし、イドの元妻であるチレンの終盤の変わり身の早さは、母親精神を示すにしては雑な感じは否めません。また、アリータと恋仲になるヒューゴの「サイボーグとの間に愛はあるのか」という部分も「ま、いっか」みたいなノリですんなりクリア。さすが『タイタニック』を作った“ジェームズ・キャメロン”だよと思いました。でも、この「サイボーグへの恋愛」云々は今の時代を生きる若者感覚であればそこまで壮大なテーマにするほどのものではないのかもしれませんね(これも愛の多様性ですから)。

問題は悪役に魅力が欠けることですかね。どの悪役も“やられやく”でしかないし、ノヴァは上から見物しているだけだし…。

ただ、ここは“ロバート・ロドリゲス”の本作における数少ないアピールポイントであろう、残酷描写はほどよい感じで良かったです。人間も、サイボーグも、犬も、バラバラになってね。そうです、これくらいの残酷さでもファミリー映画で全然いけますよ(本作はレーティングは全年齢におさまってます)。ね、ヴェノムさん…。
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社会派な難しさもないエンターテインメント娯楽作を目いっぱい満喫できて、いいリフレッシュになりました。

それにしてもここまでの物量でクオリティを見せられると、日本のSF系の漫画やアニメを実写化する邦画へのハードルはどうしても上がってしまいますね…。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 59% Audience 94%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation