アルファ帰還りし者たち
映画『アルファ 帰還りし者たち』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:ALPHA
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2019年にDVDスルー
監督:アルバート・ヒューズ

アルファ 帰還りし者たち

あらすじ

2万年前のヨーロッパ大陸。心優しき少年ケダは、父の首長タウらと初めての狩りに出る。だが、長く険しい道のりを越えて目的地に着いた矢先、バイソンに襲われて断崖絶壁から落下してしまう。痛みと寒さで目を覚ました彼は、孤独の中で生存するしかなくなる。そこで出会ったのは一匹のオオカミだった。

ネタバレなし感想

付き合ってもう2万年か…

私たち、もう付き合ってどれくらい経つ?

…これは恋人同士の会話ではありません。“私たち”というのは「人間と犬」のこと。我々人間と犬が付き合うようになった歴史はそれはそれは大昔の出来事です。まだスマホも、車も、お金や国という概念さえもなかった時代。私たちは“ベストフレンド”に出会うことができました。

現在、私たちの身の回りでたくさん飼われているペットの犬たち。ゴールデン・レトリバーから柴犬、ミニチュアダックスフンド、チワワなど実に多種多様な姿形の犬に溢れています。犬を家族の一員に迎え入れている人もいるでしょう。もしかしたら仕事のパートナーかもしれません。またはあなたの目や手の代わりになってくれているかもですね。

そんな犬たちは、ご存知の人も多いでしょうが、元は野生のオオカミが起源です。昔々…まだ人間が野生動物と同じく狩りをして暮らしていた時代。人間とオオカミはともに獲物を狩るライバルでしたが、その中で一緒に狩りをするオオカミが現れました。人間はこの“好意的な”オオカミを飼いならし、それはやがて「犬」となって、人間とつかず離れず生活することになり、今日に至ります。

そのオオカミが犬になった時期は諸説あって、1万から3万年前といろいろ言われますが、とにかくすごく昔だということ。“他者と共存する”という文化は、こんなに昔から私たちにはあったんですね。

この人間と犬の記念すべき“馴れ初め”をダイナミックに描く映画が本作『アルファ 帰還りし者たち』です。

本作は2万年前のヨーロッパを舞台に、過酷な自然の大地で孤立してしまった若者が、一匹のオオカミと出会い、異なる生物種でありながら友情を育んで、この弱肉強食の世界を生き抜いていく…そんなサバイバル・アドベンチャーです。

2008年にローランド・エメリッヒ監督による『紀元前1万年』という映画がありましたが、舞台設定的にはそれに通じるものがあります(まあ、時代は一致しませんが)。こういう時代の野生動物を含む自然が映像化された作品が好みなら絶対にマストで見るべき一作です。映像を見ているだけで楽しいですから。

また、結構ド派手なスタイルだった『紀元前1万年』と違って、『アルファ 帰還りし者たち』は主人公とオオカミという2つの命にのみ焦点をあてており、交流ドラマが軸になっています。なので映像ありきの作品ではない、丁寧なドラマ描写が大きな魅力。ドラマ性でいえば『アーロと少年』に近いものがありますね。

監督は“アルバート・ヒューズ”で、この人は“ヒューズ兄弟”として『ポケットいっぱいの涙』『フロム・ヘル』『ザ・ウォーカー』などを手がけてきたクリエイターです。あまり目立つ印象のない監督ですが、クリエイティブなセンスは確かなもので、それは『アルファ 帰還りし者たち』を観てもよくわかります。正直、有名な俳優もおらず、歴史的な事件が題材でもない(ある意味とてつもなく歴史的なのですけど)、そんな企画を映画化することはかなりの挑戦のはず。それでも実現してみせた監督のチャレンジ精神に感服します。

とにかく本作の魅力はオオカミ。ハッキリ言いましょう、“可愛い”です。2万年前でも人間と犬(オオカミ)の付き合いは同じだったんだと実感できます。

犬好きは必見の作品。犬を飼っている人が本作を観れば、もっと犬が好きになりますし、犬を飼っていない人が観れば、犬が飼いたくなります。オオカミは飼えないですけどね。

日本では残念ながら劇場未公開でビデオスルーになってしまいましたが、気になる人はぜひどうぞ。

オススメ度のチェック
ひとり◎(マニアにはたまらない)
友人◯(犬好き同士でホッコリと)
恋人◯(犬好き同士でホッコリと)
キッズ◎(動物好きならベスト)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

いつの時代でもダメ人間はいる

今から2万年前の後期旧石器時代。私たちの先祖となる人類が暮らしていました。この時代の人類は石器などの道具を使って狩りをする原始的な生活をしていましたが、小さな集落めいたものを形成し、コミュニティを持っていたと言われています。『アルファ 帰還りし者たち』でもこのある集落で共同生活する人間の一団がメインで描かれます。

集落で尊敬される男を父に持つ若者ケダは、正直、あまり優れているとは言えず、火を起こすこともできず、動物を殺すこともできない、かなりの臆病な性格。同じ集落の者たちからもダメ人間的な目線を向けられてしまいます(この時代でもこういう何をやっても取り柄のない奴がいたのかなぁ…。なんか同情心とともに悲しくなってくる…)。

それでは生きていけないぞと叱責され、父から「勇気を示すこと」を指示され、ケダは狩りに向かう一団に加わることに。名誉挽回のチャンス。途中で他の一団と鉢合わせして仲間を増やしながら、どんどん大きくなる狩りチーム(なんかそういうネットゲームみたいですね)。

しかし、夜にみんなで野営していると、何かの気配を感じたと思いきや、マカイロドゥス(いわゆるサーベルタイガー)らしき肉食獣に、突然、集団のひとりが襲われ、帰らぬ人に。犠牲者の墓を作り、自然の恐ろしさを痛感するケダ。一方で、オオカミを見かけた際は、リーダーとしての強くあるべき心構えを学び、また星図を手に記し、帰りの道しるべを教えてもらうなど、自然で生きるサバイバーとしての知恵も身に着けていきます。

そしていよいよ狩りの目的である大物のステップバイソンの群れに遭遇。息の合った連携でバイソンを崖に追い込み、突き落とす作戦。しかし、その途中で1頭のバイソンがケダに向かって突進。そのまま体が引っかかってしまったケダは崖に放り投げられ、落下。運よく下まで落ちなかったものの、崖の途中でせり出したわずかな場所に落ちて気絶。父は助けようとしますが仲間からは「諦めろ」と止められ、仕方がなく墓を作り、泣きながら供養するのでした。

どれくらい時間が経ったのか。目覚めたケダは、負傷した足をひきずりながら、状況を整理しつつ、まずどうやってここから降りようかと思案。すると雨で増水したことで崖下が川のように氾濫。滑り落ちるように水中へ落下。一命をとりとめ、崖上に回り込むと、仲間はいません。そして目の前にあったのは自分の墓。全てを察したケダは絶望。 

飢え、猛獣、寒さ(ちなみにこの時期は「最終氷期最大期」と呼ばれ、ヨーロッパ大陸の多くが氷床に覆われるほどの極端な気候変動に見舞われていました)。あらゆる自然の猛威が襲ってくる中、貧弱で勇気もないケダに生きる術はない。

しかし、ケダの前に現れた“一匹”の存在が彼の人生を、そして人類の生活史すらも変えていくのでした。

オオカミは可愛い(真理)

『アルファ 帰還りし者たち』の魅力は何と言っても「オオカミ」です。“可愛い”です(繰り返し明言)。

なお、作中で映し出されるオオカミは、本物のオオカミと、オオカミと犬を交配した“ウルフドッグ”、そしてCGで作られたオオカミの3種類が組み合わされて映像化されているそうです。どこでどれが使われているのかはわからないのですが、たぶん主人公ケダと近い距離で一緒に映るシーンはウルフドッグなのかな。本物のオオカミを使った撮影は何かと大変らしいという話は、同じくオオカミを登場させる映画『ワイルド わたしの中の獣』の制作裏話でも耳にしましたし…。
『ワイルド わたしの中の獣』感想(ネタバレ)…オオカミを飼う女性、それは純愛か倒錯か?
最近はCGの進化も極まり、今では本物と区別がつかないほどのハイクオリティなCGで動物を表現できるようになりましたし、『ジャングル・ブック』や『ライオンキング』の実写化という名のCG映画などとてつもない映像技術で野生動物の世界をゼロベースで構築できたりします。
『ジャングル・ブック(2016)』感想…実写化だけど、ほぼフルCG
でもやっぱりリアルな動物には敵いませんね。

作中でも実物だからこそのリアリティがありました。犬のように見えるけどオオカミは野生動物なんだということを示すかのような“怖さ”の描写。その中に“あ、やっぱり犬っぽいな”と思わせる愛嬌。その対比がまた良いです。

作中の物語でやっていることは、元も子もない言い方をすれば、犬を初めて飼いだした人間のしつけの過程を見ているようなもの。最初は完全に警戒されていたオオカミに対して、餌で釣り、“待て”を覚えさせて上下関係を叩きこむくだりとか、ほぼ現代の犬飼育中の一般家庭でよくある光景

でもオオカミであるアルファの方が狩りは上手く、明らかにヘタクソなケダを若干残念そうに見つめるアルファの顔(それに対し、オオカミ相手に虚勢を張るケダの痛々しさがなんとも…)。

こんな感じでサバイバル生活をしていくわけですが、どこか微笑ましくもあります。

夜に一度追い払われてもなおも隣で寝ようとしてくれるアルファとか、水浴びで川に投げ込まれてじゃれ合う二人とか、もはや恋人じゃないですか

というか、終盤の“アルファは妊娠していた”というオチからも、ラストの愛くるしい子オオカミに囲まれる幸せそうな終わりからも、本作はケダとアルファを疑似的な男女の出会いに例えて新しい家族の形成を描く物語にしている意図があるのでしょうね。

アルファ 帰還りし者たち

リアリティ重視の精神

『アルファ 帰還りし者たち』は他のアメリカ映画では見られない、なかなか珍しい特徴があります。

それは“架空の言語”で構成されているということ。主人公ケダを含む作中で描写される人間たちは、時代設定を考えれば当然、英語なんて話すわけがありません。でもさすがに一切言語がないのも厳しいと判断したのか、独自に作った言語で会話しています。なのでオリジナルでも英語字幕が表示されます。

これはかなりレアです。アメリカの観客は字幕で映画を観る習慣に乏しいと言いますし、嫌がられそうですが(少なくとも観客増員にはつながりにくい)、それでも時代考証を優先するリアリティ重視。

本作はとにかくこのリアリティ重視の姿勢が素晴らしいです。

それは言語以外の人間描写にも随所で見られ、例えば、序盤に狩りに出発する際に別れを惜しむシーン。これが現代ならキスするとかしそうですが、あくまで当時の人がやっていそうな、おでこをつけるとか、抱き合うといった動物的な行動にとどめています

一方で、コミュニティが作られていく中で、現代に通じる文化が生まれているのかなと思わせるシーンもあります。死者への追悼のための石を積み上げる文化とか、異なる集落との共闘とか、これらは明らかに現代の人間的な行動です。

実際にこの時期は人間が野生動物ではなくなっていくひとつの転換点であったのかもしれません。

その大きな変化を象徴するのがオオカミの家畜化(ペット化)。ラストの人間とオオカミが並んで狩りに出かける姿は、まさに現代人類の誕生の瞬間のようで、アツいものがあります

同時に今の私たちが生きる現代社会では、違いばかりを強調して分断しているわけですから、本作はそんな私たちに人類を形作る根本的なアイデンティティを提示するような映画と言えるかもしれません。

日本も例外ではありませんよ。なぜって、日本ではオオカミは人間の手によって絶滅させられたのですからね。本作を観た後にその事実を噛みしめると、ほんと、最低なことを日本人はしたなと痛感するのみ。

私たちは犬を見て思いだすべきかもしれません。共存こそが未来を作る、と。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 71%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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↑『紀元前1万年』…こちらはリアリティを重視したものではないですけど。
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