あの映画がパワーアップして再登板…ドラマシリーズ『プリティ・リーグ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2022年~)
シーズン1:2022年にAmazonで配信
原案:ウィル・グラハム、アビ・ヤコブソン
セクハラ描写 LGBTQ差別描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写
プリティ・リーグ
ぷりてぃりーぐ
ドラマ『プリティ・リーグ』あらすじ
ドラマ『プリティ・リーグ』感想(ネタバレなし)
あの映画が今度はドラマに!
野球は男でも女でも誰でも自由にやっていい。そんなの今は当たり前ですよね。あ…そう言えば、グラウンドが女人禁制となっている甲子園なる存在を抱える国がまだあったな…。なんて名前の国だったっけかな…。
まあ、しらばっくれても虚しいだけですが、2021年8月、その甲子園球場で初めて女子硬式野球の決勝戦が行われました。全国高校女子硬式野球大会が始まったのは1997年でしたが、女子野球の歴史としては1910年に佐伯尋常小学校で女子の野球チームが初めて創立されていたそうです。1948年には女子プロ野球チームが誕生していましたが、それでも長い歴史があったのに、女性は男性と同じ舞台に立つことが許されませんでした。
それはなぜなのか? そもそも女性は男性のように野球ができないと言われていました。理由は、女性は筋力的に弱いので怪我をしやすいからだと語られることもあります。
でもそんなのおかしな話です。スポーツをしている以上、性別やジェンダーに限らず怪我はつきもののはず。「女=”か弱い”存在」という何百年も前からある女性蔑視に基づく「男社会の女性保護」思想がここにもあり、女性を野球から遠ざけてきました。どんなに屈強で優秀なプレイヤーでも女性というだけで男性と同等に野球をさせてもらえない…。
野球に限らず、スポーツ全般で女性はそんな過小評価を受けており、その見下される女性スポーツ・アスリートを描く映画やドラマも最近はどんどん現れています。テニスであれば、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』はクィアな要素も交えながら描いていましたし、『ドリームプラン』は人種差別の要素も内包していました。
野球であれば、韓国映画の『野球少女』が記憶に新しい人も多いでしょう。
そんなテーマを先取りしていた映画が1990年代にヒットしていたのですが、覚えている人もいるのでは? それが“ペニー・マーシャル”監督の『プリティ・リーグ』(1992年)です。全米女子プロ野球リーグを題材にした本作は、女性差別が激しい時代の中で野球に奮闘する女性たちを描き、大きな話題になりました。監督役に“トム・ハンクス”、主人公ポジションに“ジーナ・デイヴィス”というキャスティングでしたけど、やはり“マドンナ”まで出演していたのは今でもなかなかに異彩を放っています。
そのファンも多い『プリティ・リーグ』ですが、ある人物も同じ想いでした。その人とは“アビ・ヤコブソン”。自分で脚本を書いてプロデュースして出演もする意欲的なクリエイターで、2014年に『Broad City』で高評価を獲得。そんな“アビ・ヤコブソン”がどうしてもリブートしたかったのが、この映画『プリティ・リーグ』。その溢れる熱意を抑えられず、権利を持つソニーに直談判までしに行った結果、このドラマシリーズが2022年に誕生しました。
それが本作『プリティ・リーグ』です。
本作は映画をリブートしたドラマシリーズであり、あらゆる点でパワーアップしています。まず当時の全米女子プロ野球リーグの様子がさらに正確に描かれるようになり、この時代の女性たちの苦悩がより生々しく伝わるようになっています。そして、人種差別やクィアの要素もたっぷり盛り込まれ、かなりインターセクショナリティの面で突き抜けた構成に大胆にアレンジされており、作り手の「包括的にやってやるぞ!」という揺るぎない信念をガンガン感じる内容です。めちゃくちゃシスターフッドです。映画版がシスターフッド濃度70%くらいだとしたらこのドラマ版は200%くらいはあります。
俳優陣は、“アビ・ヤコブソン”の他に、『ロクサーヌ、ロクサーヌ』の“シャンテ・アダムズ”、ドラマ『バリー』『グッド・プレイス』の“ダーシー・カーデン”、『Famalam』の“グベミソラ・イクメロ”、ドラマ『ヴィダ 故郷の母が遺したもの』の“ロバータ・コリンドレス”、ドラマ『エイリアニスト』の“メラニー・フィールド”など。わちゃわちゃしているので最初は登場人物名を覚えられないと思いますが、個性強めなのでそんなに気にしないでください。
このドラマ『プリティ・リーグ』の最大の欠点は(これは多くの人が思うことだろうけど)邦題ですよね…。女性差別と闘う作品なのにこの邦題センスはないだろうと…当時の映画公開時はどうだったのか私は把握していないのですが、今だったら猛批判を受けていただろうな…。ドラマ化する際に権利関係もあって邦題を変更できないのかもですが、いろいろ台無しにしている感じが…。
とりあえずタイトルは脇において、中身は最高に飛び跳ねたくなるエンパワーメント全開なドラマですので、気になる人は要チェック。ドラマ『プリティ・リーグ』は「Amazonプライムビデオ」で独占配信中で、シーズン1は全8話(1話あたり約45~60分)です。
ドラマ『プリティ・リーグ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :頑張る元気をもらえる |
友人 | :シスターフッドで盛り上がる |
恋人 | :同性ロマンスもたっぷり |
キッズ | :やや性描写あるけど |
ドラマ『プリティ・リーグ』予告動画
ドラマ『プリティ・リーグ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):野球する女がこんなにいるなんて…
1943年、アイダホ州レイクバレー。息を切らして列車に乗り遅れまいと走る女性。列車はもう駅に到着していましたが、直前でカーソン・ショウは呼び止められます。友人のエミリーとジョンで「夫のチャーリーは元気?」」「聖歌隊の練習は?」と聞かれますが、急いで会話を終わらせ、走行中の列車に飛び乗ります。
そして車内のトイレで野球帽とグローブを身に着け、気持ちを落ち着けます。もう引き返せません。
シカゴの街に着きました。ベイカーフィールドを探してウロウロしていると、同じ野球帽の2人の女性を見つけ、同じ目的ではないかと思い、ついて行こうとします。でもバレました。
「尾行しているの? 入団テスト受けるんでしょ?」
2人はグレタ・ギルとジョー・デルーカ。カーソンたちがここに来た理由、それは全米女子プロ野球リーグの入団テストのためでした。
球場には女性たちがたくさんおり、3人は驚きます。野球する女がこんなに…。
身体能力測定をし、走り、投げ、打ち プレイする。マスコミは「女が走り回する姿を見たいですか?」と懸念を突きつけますが、リーグ担当者は「女らしさを身に着けさせますから」とその場をなだめ、オーナーのベイカーは「女らしくない」と激怒していました。
そこへマキシン(マックス)・チャップマンとクランス・モーガンという黒人女性2人がゆっくり近づいてきます。すぐに気づいた白人男性が呼び止めますが、「私たちもアメリカ人です」と語るマックスを「黒人選手を入団させるつもりはない」と追い出しました。腹いせにマックスはパワフルな投球を見せて去り、その姿はカーソンの目にも映ります。
それが終わり、宿でグレタに髪を切ってもらいながら心情を吐露するカーソン。実は戦地の夫から帰還するという手紙が届いたのですが、逃げ出してきてしまった…。そんな後ろめたさを抱えるカーソンに「あなたは逃げてない。自分の宿命に向かって走っただけ」とグレタは優しい声をかけます。
翌日、チーム分けが発表。カーソンとグレタとジョーは3人ともロックフォード・ピーチズに配属されることになりました。
イリノイ州ロックフォード。ピーチズの面々はロックフォード寮に集います。門限10時、ズボンは禁止…。ベバリー軍曹がお目付け役です。
そんな地では実力を試す機会さえも得られなかったマックスが、母の経営するサロンで沈んでいました。
女たちの試合はまだ始まったばかり…。
シーズン1:女は自分のために球場に立つ
ドラマ『プリティ・リーグ』でカーソンたちの夢の舞台となる「全米女子プロ野球リーグ(AAGPBL)」。1943年に始まり、1954年まで運営されていた実在のリーグです。作中ではオーナーはベイカーとなっていますが、実際の創設者はチューインガムの製造メーカー「ウィリアム・リグレー・ジュニア・カンパニー」(今はスニッカーズなどを売っている「Mars」に買収された)の役員をしていた“フィリップ・K・リグレー”でした。
第2次世界大戦によってメジャーリーガーが兵役についてしまい、その不足を補うための「女性のリーグ」。あくまで男の代わりであり、その場を繋ぐための興行でした。
作中では「女性がいかに野球選手として全く世間に期待されていないか」が容赦なく描かれます。ユニフォームはスカートで、女らしさを常に求められ、実況者や観客からのセクハラにも耐えるしかない。プレイのスキルなんて誰も見ていない。
でも当人である女性たちはとにかく野球ができて嬉しい。差別的な扱いだけど、甘んじるしかない無力感を感じるけど、この嬉しさは本物。すごく切ないです。
一方で、本作で描かれるピーチズの女性たちはそんな押し付けられた女性らしさなんて知ったことかと言わんばかりの自由奔放さで、そんな対比があるからこそ、素の姿に元気がもらえます。金髪でテンション高く口が達者なメイベルとか、ギャップがとにかく面白い奴らばっかりだったり。
バラバラにまとまらない選手たちがやがてはひとつになっていく。国のためじゃない、男のためじゃない、自分のため。最終試合はみんなが彼女たちのスキルを見に来ている。そういうフェミニズムを合わせつつスポーツものの王道をしっかり楽しめるツボを押さえたドラマでしたね。
シーズン1:黒人女性はいつも最後
ドラマ『プリティ・リーグ』を作る際、白人ありきの物語になってしまうことは製作者の中でも懸念事項だったそうです。かといって当時の全米女子プロ野球リーグに普通に黒人選手が混ざるみたいな大嘘をつくのは、その時代の人種差別を無効化しているようで不誠実。
一応、白人としてパスできるラテン系の女性はリーグに入団できており、ルーペやジェス、さらに未成年で英語も喋れないエスティといった面々も個性的。とくにルーペとカーソンの対立は人種的な格差を示してもいます。
同時にやはりアフリカ系アメリカ人の描写は欠かせず、そこでマックスのエピソードがもうひとつのメインストーリーとして同等の分量で描かれており、こちらもアツいです。
黒人には「ニグロリーグ」というものがあり、1920年代から盛んだったのですが、黒人女性の活躍の場はほぼ無し。白人男性の次は白人女性か黒人男性、最後は黒人女性だ…そんなマックスのボヤキが切実です。
マックスにはモデルになった人物がおり、ニグロリーグでプレイしたことのある黒人女性…トニ・ストーン、マミー・ジョンソン、コニー・モーガンの3名を合わせた架空のキャラクターとなっています。
このひとりムシャクシャしながら奮闘するマックスと、それを脇で支える親友でアメコミ・オタクのクランスというフレンドリーシップも良かったですね。
マックスにも幸せな道が最終話では描かれてひとまず安心…。
シーズン1:当時の時代感覚が伝わるクィア描写
ドラマ『プリティ・リーグ』のもうひとつの見どころ。それはクィア。思っていた以上にクィアの味が濃厚でしたね。ものすごくたくさんクィアなキャラクターがでてくる。連続ヒットです。
しかも、1940年代前半当時のクィア・カルチャーが丁寧に描かれます。ドキュメンタリー『プライド』でも描かれたとおり、50年代にゲイへの弾圧が一層激しさを増すのですが、その迫害の前のまだ比較的穏やかだった時期の温かみのあるクィアな人たちの営みという感じです。
カーソンの「同性への感情」の目覚めに困惑しながらも手探りで前に進む姿とか、カーソンとマックスが性的指向の話題で心を通わせて「中間みたいな分類がいるよね」と意気投合したりとか、まだレズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーという明確なラベルも定まっていない人たちがなんとなくクィアという形に無いものを共有して同居している世界。
マックスの重要な導き手になってくれる親戚のバーティ(バート)も良かったし…。「男になればそれで楽になるのか」と言ってしまったマックスが最後は謝るくだりもね。
確かにキツい時代でもあります。ゲイバーの手入れでジョーは暴力を受けて移籍しないといけなくなるし、シャーリーみたいにチームメイトでも同性愛嫌悪を抱く人はいる。それでも最後はそういう人種やクィアを乗り越えた融和をあえて理想的すぎるかもしれないけど描く。
差別を受けている者同士だからこそ、その構造は違えど、痛みをわかち合って支え合おうという姿勢が、ラストのジョーと一緒のホームタッチに込められていたのかなと。
ドラマ『プリティ・リーグ』もドラマ『テッド・ラッソ 破天荒コーチがゆく』と同様に、勝ち負けではない人生の大切さを見い出すスポーツドラマとして現代らしい立ち位置で成功している一作でした。
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 94% Audience 74%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios、Sony Pictures Television プリティリーグ
以上、『プリティ・リーグ』の感想でした。
A League of Their Own (2022) [Japanese Review] 『プリティ・リーグ』考察・評価レビュー