ホテル・エルロワイヤル
映画『ホテル・エルロワイヤル』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Bad Times at the El Royale
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2019年にDVDスルー
監督:ドリュー・ゴダード

ホテル・エルロワイヤル

あらすじ

1969年、カリフォルニア州とネバダ州の州境のに建つ、寂れたホテル「エルロワイヤル」に集まった7人の男女。彼らは全員が重大な秘密を抱えていた。やがて、それぞれの正体と、ホテルに隠された衝撃の真実が浮かび上がり、最悪の夜を迎えることになる。

ネタバレなし感想

いらっしゃいませ、宿泊ですか?

大型連休や長期休暇シーズンになるといつもの日常を離れてどこか旅行に行きたくなる人も多いかと思います。その際に楽しみな要素のひとつが宿泊場所となるホテル選びですよね。人っていうのは不思議なもので、自分のプライベートではないテリトリーにいる時は緊張したり警戒したりするものですが、なぜかこういうバケーションや仕事先で訪れたホテルでは“自分を解放していい”気分になってきます。普段は買わないものを買ってみたり、着ないような服を身に着けてみたり、自分をフリーダムにするスイッチがいつまにか押されます。本当になんででしょうね。

本作『ホテル・エルロワイヤル』も、通常は自己を抑えてきたようなワケアリな人間たちが“とあるホテル”に集うことで“解放”状態になって大変なことになっていく…そんな映画です。

日本では劇場未公開でビデオスルーになってしまったのですが、そんな扱いはもったいないほどの豪華キャスト陣が魅力。

まずはハリウッドを代表する名俳優“ジェフ・ブリッジス”。『トゥルー・グリット』では保安官、『最後の追跡』ではテキサス・レンジャーと、どちらかといえば“追いかける側”の人間を演じていましたが、はたして今回は? なんかいっつも胡散臭い感じがするのですよね…。

続いて“シンシア・エリヴォ”。私は存じ上げなかったのですが、なんでも舞台で活躍されている非常にい有名な話題のスターだそうですね。スティーブン・スピルバーグ監督で映画化もされた『カラー・パープル』の舞台版で主役に抜擢されています。映画業界での活躍は日が浅いですが、すでに『ロスト・マネー 偽りの報酬』など他作品での出演もどんどん始まっているので、今後目立ってくるでしょう。歌唱力が素晴らしく、『ホテル・エルロワイヤル』でも彼女の歌が重要なポイントになってきます。

謎の女性宿泊客を演じるのは“ダコタ・ジョンソン”。『フィフティ・シェイズ』シリーズやリメイク版『サスペリア』など王道ヒロインから異色ヒロインまで何でも演じているイメージの彼女ですが、今作ではどんな魅力を見せるのか。ちなみに『ホテル・エルロワイヤル』ではダンスは披露しません。
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怪しいセールスマンを演じるのは“ジョン・ハム”。最近だと『ベイビー・ドライバー』や『ベイルート』に出演していますが、『ホテル・エルロワイヤル』でも“なんかコイツ裏にあるな”と思わせる空気がビンビンに漂っています。
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そしてみんな大好き雷男ソーでおなじみの“クリス・ヘムズワース”も存在感抜群で登場。もうノリノリですよ、今作では。服とかはだけて無駄に筋肉を見せているし、いっそのこと全裸になってしまえと思うのですが(えっ)、残念ながらそこまでのサービスはないです。

さらにこの“クリス・ヘムズワース”以上にある意味“ぶっとんだ”役を演じているのが“ケイリー・スピーニー”。『パシフィック・リム アップライジング』『ビリーブ 未来への大逆転』『バイス』と多種多様な映画で顔見せしている最近急上昇の若手女優。その彼女がこの『ホテル・エルロワイヤル』では、まあ楽しそうに…。これは見てのお楽しみ。

また『荒野にて』『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』にも出ていた“ルイス・プルマン”も予想外に重大な役割を担っています。

主にこの7名で群像劇が進行。じゅうぶん元が取れるメンツです。

監督は『クローバーフィールド HAKAISHA』や『オデッセイ』、ドラマシリーズでは『LOST』の脚本を手掛け、誰もが驚いた異色のホラー映画『キャビン』を監督もした“ドリュー・ゴダード”です。この時点でユニークなシナリオを期待できますが、実際『ホテル・エルロワイヤル』も変わったことをしています。

俳優目当てでも何でもいいので、関心があるならぜひ鑑賞してみてください。デジタルレンタルならすぐにお安く観れますからね。

オススメ度のチェック
ひとり◯(じっくりサスペンスを楽しめる)
友人◯(みんなでワイワイ盛り上がって)
恋人◯(出演陣に惚れると困る)
キッズ△(残酷描写は少しあり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

普通のサスペンス?

『ホテル・エルロワイヤル』はある種の王道の映画です。特定のシチュエーションに集まった人間たちがそれぞれの抱える思惑で駆け引きしていき、やがてバイオレンスな結果に行き着く。しかも、会話劇と暴力的なサスペンスを交互に見せていくこの感じ。

“コーエン兄弟”風もしくは“クエンティン・タランティーノ”風な雰囲気を感じ取った人も多いはず。実際、宿泊地的な一時施設という点では“クエンティン・タランティーノ”監督の『ヘイトフルエイト』に近い内容です。

そういう風に観ていくと本作の物語は確かにハラハラする立場の逆転の連続によるマウントの取り合いが面白いですが、それ以上のものはないようで、そこまでの新鮮さを感じなかった人もいるかもしれません。

実は本作は気づいた人もいるでしょうが、ただのサスペンスミステリーというだけでなく、もうひとつ深い読み込みで別の面白さを開くことのできる仕掛けが用意されています。

それが本作に隠れた当時の時代背景に基づく社会要素によるシニカルな描写や演出。本作は1969年を舞台設定にしている物語ですが、ちゃんとそこに意味のある構成になっています。それについてひとつでも多く気づくことこそ本作の醍醐味です。

モデルとなったホテルとあの人

まず本作の舞台であるカリフォルニアとネバダの州境に建つ「エルロワイヤル」。このホテル、実はちゃんとモデルになったホテルが存在します。ここが最重要ポイントです。

それが実在の「Cal Neva Lodge & Casino」というホテル。

作中に出てきたものと外観も瓜二つのこのホテルは、1926年に建設された歴史あるリゾートホテル。本当にカリフォルニアとネバダの州境に建っています。今はホテルとしては運営していないみたいで、個人の不動産として所有されているようですね。

そしてこのホテルがなかなかに“いわくつき”の場所で、それこそWikipedia(英語版)にもしっかりページが作られるほど語りがいのあるところなのです。

その中でもとくにキーパーソンとなるのが「ロバート・F・ケネディ」。アメリカ大統領のあの人です。このケネディ一家がよく利用したのが「Cal Neva Lodge & Casino」で、このホテルはあの「フランク・シナトラ」がオーナーだった時期があります。

著名な歌手兼俳優だったフランク・シナトラとロバート・F・ケネディ。もう知っている人も多いでしょうが、とても密接な関わりのある二人です。ジャズ歌手で人種差別を嫌悪していて公民権運動も支持してきたフランク・シナトラですが、ケネディ兄弟と家族ぐるみの親しい関係も築いていました。そのエピソードは多々あるのですが、例えば、フランク・シナトラがいろいな女性をケネディに紹介させ、不倫に発展させたこともあったり。はたまたフランク・シナトラはイタリア系マフィアと強い結びつきがあり、そのマフィアからケネディのために寄付金を募ったことがFBIによって明らかにされているとか。

しかし、フランク・シナトラとロバート・F・ケネディの関係性は後に悪化。ご存知1968年にケネディ大統領が暗殺される“かの有名な事件”が起きます。このいまだに真実のあやふやな暗殺事件、ありとあらゆる陰謀論が巻き起こっていますが、そのひとつにフランク・シナトラが間接的に関与しているのでは?という指摘もあるくらいです。これは彼が『三人の狙撃者』という大統領狙撃を目論む暗殺を描いた映画に出ていたりしたため、余計に勘ぐる人が現れたというのもありますが…。

ホテル・エルロワイヤル

フィルムの正体

以上の史実を踏まえると、『ホテル・エルロワイヤル』でなぜこんな登場人物を出したのか、わかってくるのじゃないでしょうか。

まず掃除機のセールスマンとしてやってくる“ジョン・ハム”演じるララミー・サリバンという男。彼はFBIだということが電話で「フーバー長官」の名を出すことで判明します(有名なFBI長官の「ジョン・エドガー・フーヴァー」です)。ちなみに彼が家庭用品のセールスマンとして身分を偽っているのは、有名な掃除機メーカーで「フーバー」という会社があるので、それに絡めたギャグなのかな。

で、この「エルロワイヤル」のある部屋には“ジェフ・ブリッジス”演じるダニエル・フリン神父(実は強盗犯)の仲間が昔に隠した大金があるということがわかります。でもサリバンはこの金を捜査してきたわけではなく、またフリンの真の狙いも別にあることがわかります。それがある“フィルム”。このホテルは各部屋にある鏡がマジックミラーになっていて専用の秘密通路からいくらでも覗き見できるのでした。“フィルム”はおそらくその盗撮した映像をおさめたもの。

では、“フィルム”には何が映っているのか? すでに亡くなった人の、それもかなりの大物だということがフリンによって終盤に暗示されますが、これはモデルとなったホテルの背景も考えれば、当然ロバート・F・ケネディ絡みだろうと推測するのは難しくありません。暗殺の1年後の話ですから。中身は、不倫などのスキャンダルか、マフィアとの闇深い付き合いの証拠か、それとも暗殺に関する新事実か、それは不明。FBIが血眼になるのは当然ですし、金になるのも必須。

そう考えると本作は単なる強盗の話かと思いきや、国家を揺るがす秘密をめぐる話だったのですね。

アメリカの闇を燃やし尽くす

もうひとつケネディ以外で重要な実在の人物がひとりいます。

“クリス・ヘムズワース”演じるビリー・リー。カルト的なコミュニティを率いるサディスティック殺戮集団のリーダーで、“ケイリー・スピーニー”演じるローズはその集団に入信し、洗脳されていた彼女を“ダコタ・ジョンソン”演じるエミリーが助けてホテルに逃げ込んだものの、ビリーが後半に乱入してきて大惨事…というのが作中の流れ。

このビリー。ヒッピーみたいなものに見えますが、明らかに「チャールズ・マンソン」がモデルです。

狂信的な殺戮ファミリーを構成し、有名なのが1969年に起きたロマン・ポランスキーの妻で女優のシャロン・テートら5人を無差別殺害した事件。本作と全く同じ時期の出来事ですし、エミリーを容赦なく殺すあたりも、そのチャールズ・マンソンを示唆させるこれ以上ない露骨な展開です。

この舞台となった時期とその直前はアメリカにとって暗黒時代です。本作の原題「Bad Times at the El Royale」のとおり、まさしくバッドタイム。絶え間ない人種差別、凶悪殺人鬼の暗躍、政府権力の陰謀と腐敗、そしてロバート・F・ケネディがアメリカの本格介入の決定をした「ベトナム戦争」。アメリカが戦争の地獄を見たあの戦い。

“ルイス・プルマン”演じるマイルズ・ミラーは元ベトナム戦争従軍兵士であり、戦場で多くの人間を殺めことで罪の意識に苛まれていたのでした。あのマジックミラーも彼の“人間の闇”を見たことを示す視覚的なメタファーとも言えます。

そういうアメリカの闇の犠牲者が集合するホテルで、一筋の光を背負うのが“シンシア・エリヴォ”演じるダリーン。彼女は音楽の力でアメリカの次の時代の扉を切り開きます。それは時代の闇に沈んでいった者たちの鎮魂歌。ホテルオーナーだったジャズ歌手のフランク・シナトラの意志を継ぐというのもありますし、チャールズ・マンソンだって殺人鬼になる前はミュージシャンだったという事実がありますからね…。

『ホテル・エルロワイヤル』は点と点が線でつながっていくことで、アメリカのひとつの時代が見えてくる、歴史博物館みたいなホテルなのでした。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 75% Audience 73%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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