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ドラマ『メディア王 ~華麗なる一族~(Succession)』感想(ネタバレ)…またの名をキング・オブ・メディア、本名はサクセッション

メディア王 ~華麗なる一族~

邦題はいろいろあるけど…ドラマシリーズ『メディア王 華麗なる一族』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Succession
製作国:アメリカ(2018年~2023年)
シーズン1:2021年にU-NEXTで配信(日本)
シーズン2:2021年にU-NEXTで配信(日本)
シーズン3:2022年にU-NEXTで配信(日本)
シーズン4:2023年にU-NEXTで配信(日本)
製作総指揮:ウィル・フェレル、アダム・マッケイ ほか
性暴力描写 セクハラ描写 児童虐待描写 交通事故描写(車) LGBTQ差別描写 人種差別描写 性描写 恋愛描写

メディア王 ~華麗なる一族~

めでぃあおう かれいなるいちぞく / さくせっしょん
メディア王 ~華麗なる一族~

『メディア王 ~華麗なる一族~』あらすじ

世界的な影響力を有する巨大複合企業の「ウェイスター=ロイコ社」は揺れていた。創業者にして億万長者であるローガン・ロイは高齢となり、その進退に家族の面々は注目していた。しかし、ローガンは現職に留まるという判断を下し、家族に動揺が走る。これを機に権力が手に入ると思っていた者も含め、失望や混乱が広がる。ところが思わぬ事態が勃発する。ローガンが意識不明で倒れたのである。空いた席に座るのは誰なのか…。

『メディア王 ~華麗なる一族~』感想(ネタバレなし)

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権力者の死は権力争いの開幕の合図

絶大な権力を持つ人物が亡くなったとき、ほぼ必ず起きること。それは次の覇権を決める権力争いです。

理屈上は家族みんなが仲良ければ争いはないのですが、強大な権力を持っている人物となれば、その影響力は計り知れませんし、家族だけでないあらゆる人間の思惑が絡んできます。一枚岩とはいきません。相続することになる金銭的な資産はもちろんのこと、関係する組織のコネクション、業界のパワーバランス…あらゆる物事が激震します。それをどう舵とるかで権力の方向性だってまるで変わってきてしまいます。

そんなわけですから、表向きは追悼の意を顔に浮かべていても、裏では何が起きているやら…。欲が絡むと人は豹変すると言いますが、ドロドロの権力闘争がきっと今も起きているはず…。とくに突発的な死が起きてしまったあかつきにはそれはもう…。

ただ、そういう極めてプライベートな家庭的権力争いというのは外部の人間には見えにくいんですけどね。

それが観たければこのドラマシリーズを視聴するのがいいのではないでしょうか。

それが本作『メディア王 ~華麗なる一族~』です。

本作は、架空の世界的巨大複合企業を舞台に、その経営で巨万の富と権力を得た創業者とその一族である家族の面々が果てしない次世代の座をめぐって権力争いをしていく姿を描く、サスペンスドラマであり、風刺ブラックコメディであります。

『メディア王 ~華麗なる一族~』は2018年から「HBO」で放送され、2023年にシーズン4で完結した大作となっています。評価は絶賛であり、ゴールデングローブ賞やエミー賞を始め各所で、作品賞・脚本賞・俳優賞と幅広く支持され、近年の有力な高評価ドラマの顔となってきました。

この手の風刺モノは過去にもありましたが、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』など政治劇が人気でした。この『メディア王 ~華麗なる一族~』は巨大複合企業、いわゆるメディア・コングロマリットを題材にしているのが特徴です。やはり今の時代はこのメディア・コングロマリットの存在は無視できません。なにせ今やハリウッドで映画やドラマを作っている大企業のほとんどがこのメディア・コングロマリットに属していますからね。本作『メディア王 ~華麗なる一族~』はある意味ではクリエイターたちが自分の親元を自虐的に風刺しているようなものです。

本作の主題の架空企業は家族経営であり、家族という概念の気まずさを描くアンチ家族モノとしてのジャンルの面白さもあります。ほんと、えげつないほどに家族の醜悪さがこぼれ出ていますよ。家族が心底嫌になる…。

そんな本作『メディア王 ~華麗なる一族~』を製作したのが、もはや風刺モノにおいては最も成功している人物と言える“アダム・マッケイ”『マネー・ショート 華麗なる大逆転』では金融業界、『バイス』では政治業界、『ドント・ルック・アップ』では環境問題、『Qアノンの正体』では陰謀論界隈…もうこの“アダム・マッケイ”の風刺ターゲットはどんどん拡大中。今作『メディア王 ~華麗なる一族~』でも容赦ないですよ。

出演陣は、“ブライアン・コックス”、“ジェレミー・ストロング”、“サラ・スヌーク”、“キーラン・カルキン”、“アラン・ラック”、“マシュー・マクファディン”、“ニコラス・ブラウン”、“ヒアム・アッバス”、“ピーター・フリードマン”、“J・スミス=キャメロン”など。

その『メディア王 ~華麗なる一族~』なのですが、ひとつ注意点があって…。作品の中身ではなく邦題の件です。実はこのドラマ、邦題が複数あるんですね。原題は「Succession」。で、当初の日本ではスターチャンネルで『キング・オブ・メディア』として放送されていました。その後、Amazonビデオで『サクセッション』という原題をカタカナに変えただけの邦題に変更。そしてなぜかすぐに『キング・オブ・メディア』に邦題がAmazon内でも戻ります(サムネイルは「サクセッション」のままという雑さ)。さらにHBO作品の配信権利が「U-NEXT」に移行し、そちらでは『メディア王 ~華麗なる一族~』という邦題になった…という経緯です。中身は同じなのにこうもころころと邦題が変わると、感想とかを語りにくいし、共有しにくいし、勘弁してくれという感じなんですけど…。なので感想とか調べる際は注意してくださいね。

とりあえずこの感想記事では『メディア王 ~華麗なる一族~』でいきます。

極太の風刺サスペンス好きは必見のドラマ。大ボリュームではありますが見ごたえはじゅうぶん。シーズン1はスローペースで進むのですが、後半になるにつれて一気にギアがチェンジし、シーズン1の終盤を見終えれば、「早く続きが観たい!」とハマっているはず。

権力争いはいつの時代も愚かながら魅入ってしまう魔力がありますね。

オススメ度のチェック

ひとり 5.0:風刺ドラマ好きは必見
友人 4.5:ハマった人同士で盛り上がる
恋人 3.5:ロマンス要素は薄め
キッズ 3.5:醜い大人のドラマです
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『メディア王 ~華麗なる一族~』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『メディア王 ~華麗なる一族~』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):家族は争い合うためにある

世界屈指のメディア巨大企業「ウェイスター=ロイコ社」の創設者でありCEOのローガン・ロイは密かに健康問題を抱えていました。かなりの高齢で、夜中に徘徊して失禁しまうほどの状況。当然ながら企業経営判断ができるのか心配されかねないですが、それを知るのは3人目の妻マーシャ(マーシー)だけ…。

ロイ家の2人目の妻との子である次男で役員のケンダルは張り切って会議に臨みます。しかし、ヴォルター社との取引の件は創業者ローレンス・イーに断られます。家族経営の体質など古いと一蹴されて…。COOのフランク・ヴァーノンに「何としてでも買収するぞ」と意気込みます。父に見下されたくはない…。

オフィスでケンダルがイラついていたとき、ケンダルの弟のローマンが飄々と呑気にやってきます。ローマンも役員ですが、会社経営には全く興味がありません。「もうすぐ兄貴が会社のトップになるんでしょ?」と口が軽いです。実はケンダルのCEO就任の発表が控えていました。

一方、ローガンの2番目の妻との間の末っ子で唯一の娘であるシヴォーン(シヴ)は会社から離れて政治コンサルタントをしています。恋人で結婚目前とされるトム・ワムスガンスはローガンに気に入られたいようで必死です。

ケンダルのもとにローガンがふらっとやってきて、ケンダルは緊張します。「これからはお前が決めるんだ」とローガンは淡々と告げるだけでした。

ローガンの家では家族が集まっていました。ローガンの最初の妻から生まれた長男であるコナーも同席しています。会社から離れ、若いガールフレンドのウィラをいつも連れ歩いている男です。

そんなローガンの誕生日パーティーのもとに、ローガンの不仲の兄であるユーアンの孫であるグレッグ・ハーシュは訪問してきます。臆病でヘマばかりで、着ぐるみの仕事さえも失い、母に言われて仕事を紹介してくれないかと狙って来たのでした。ユーアンが頭を下げたら助けてやると言われます。

誕生会の場でもケンダルは焦っています。買収に成功しないと自分のトップ就任のニュースが笑い者になってしまう…。

そのとき、ローガンから話があると言われます。家族信託の件で、ローガンがもし死んだ場合、マーシャに議決権を与えると一方的に説明します。そしてCEOを自分はまだ続けるといきなり宣言します。ケンダルは驚愕です。茫然とするしかありません。

ケンダルは父に抗議します。しかし、ローガンは折れず、「3年前にヤクチュウだったのはいい。でも弱腰なのが気に入らない。ビジネスの本の知識ではなく、ときには玉のデカさも必要なんだ」と言い放ちます。言い返せないケンダル…。

ローマンもシヴも契約には納得できないと告げます。しかし、移動中のヘリの中で急にローガンは意識を失ってしまいます。脳内出血で、危険な容態です。

この事態を自分の流れに変えることができる者はいるのか…。

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シーズン1:「ごめん、父さん」

メディア・コングロマリットで家族経営をするなんてもう時代遅れです。例えば、ディズニー・ファミリーはすでに経営から手をひいてしまい、一族のある人なんかは公然とディズニー批判をしたりしています。今も家族経営を維持している著名な例は「フォックス・コーポレーション」でおなじみのマードック家かな。

『メディア王 ~華麗なる一族~』はそんな家族経営の末期を描くような実録ドラマ風の物語。カメラの撮り方もちょっと密着ドキュメンタリー風にわざとしていますよね。

本作の主役であるロイ家。これぞまさしくという絶対的家父長制で支配されています。ローガンの子どもたちの立ち位置を整理しましょう。

次男ケンダルと三男のローマンは、完全に父から恐怖心を叩きこまれて育っており、PTSDと言っていいレベルで身がすくんでいます。物語開始当初ではケンダルは父に認められたいという承認欲求に一生懸命ですが、父の容体悪化…からの支配権があるかないかの微妙な瀬戸際でメンタルも大混乱。

一方でローマンは映画部門での失敗からすっかりイジけてビジネスに興味ない振る舞いをしつつ、やはりこちらも父に認められたくて兄を見返したいという感情を秘めています。

2人の違いはメンタルですかね。ケンダルはとにかく弱い。見ていて哀れなくらいに最弱。それを父にも見抜かれています。ローマンは飄々としてますがあまりに性格が軽すぎて気品ゼロ。第1話での家族恒例の野球ゲームで「ホームラン売ったら100万ドル上げるよ」とそのへんの子どもにけしかけて達成できなかったら「ゲームだよ。惜しかったね(笑)」と嘲笑うあの仕草、最終話でのペニスみたいと言われたロケットが打ち上げで大爆発してそれでも「親指だけの被害に抑えた凄い奴は俺だ」と自画自賛するあの軽薄さ。完全に世の中というものを舐め腐っている…。

対する長男のコナーは、組織統率力ゼロの典型的なパワハラ野郎であり、自己中心的なリバタリアン。晩餐会指揮でなぜか自分は有能だと勘違いし、終盤のシヴの結婚披露宴でもギル・イ―ヴィス上院議員相手に論戦できたと勝手に思いこみ、「やっとやりたいことを見つけた、大統領だ」と意気揚々と宣言。救いようがない…。まあ、でもドナルド・トランプが大統領になれたわけで、コナーも大統領になれちゃうのがアメリカなんですが…。

唯一の娘のシヴは会社と距離をとって理性的に見えましたが、元カレのネイトとの再燃、その最中で夫のトムをカードに使う気配を見せ、実は父譲りの狡猾さがあるんじゃないかという感じも…。そのトムは権力と愛に尻尾をふる典型的な男性部下のそれで、こっちも情けなさがすごかった(それを本人が自覚しているのがまた…)。

個人的に面白いなと思うのはグレッグです。大統領さえも駒にできるローガン相手に動じないあの無敵のメンタル(空気の読めなさともいう)。ちゃっかり仕事をくれたことにするところとか、なんだかんだで上手く立ち回り、しかしトムからのホモソーシャルな勧誘に染まらず(靴とか食事のエピソードは爆笑)、権力ゲームを全然理解していないけど、権力の手駒にとりあえず配属されているような…(シュレッダーのエピソードでの「なんかこれウォーターゲート事件っぽくない?」はセリフが面白ズルい)。でもしっかり例のクルーズ犯罪隠蔽資料のコピーを用意している。最もローガンを倒せる武器を持っているのはコイツという皮肉…。

役員会での不信任投票という博打は最悪の大失敗で終わり、終盤の敵対的買収は成功したにみえたケンダル(ケンダルのいないところで狼狽えるローガンが新鮮)。しかし、ローガンに八つ当たりされてクビにされたウェイターを同乗させてコカイン探しにケンダルが運転したところ、シカを避けて交通事故。翌日、父に呼ばれ、事故現場でお前の部屋のカードキーを見つけたと言われ、しどろもどろ。「サンディにお前は買収から手を引くと伝えろ。若者を殺したボンボンにはなりたくないだろう」との誘いに父に泣きついて抱きしめるあの屈辱的敗北。父に勝てない…。

引き継ぐのは権力だけじゃない、負債も不正もある。氷山に直行するタイタニック号のような惨状で、若い女性起業家家から「ヒトラーと結婚するようなもの」と言い放たれるほどに家名は評判最悪。この家族船、どこでどうやって沈むのか…。

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シーズン2:「食べよう、俺のおごりだ」

『メディア王 ~華麗なる一族~』のシーズン2も、パターナリズム地獄家族風呂つきの船は氷山に向かって突き進んでいます。この家族の“死んでなるものか”という延命の強い意志だけが燃料です(社員は自殺しまくっているけど…)。

今作では、ケンダルは抜けましたけどスチューイとサンディによる敵対的買収に対抗するべく、正反対の文化を持つライバル・メディアのPGMを保有するピアース家を取り込もうとする禁じ手にでます。このピアース家はリベラルというだけでなくナン・ピアースを中心とする家母長制になっていて、保守派の家父長制であるロイ家と対極です。右派と左派でも経営家族のいや~な構造の共通点があったりして面白いですね。

そしてシーズン2で光があたるのがシヴです。父から次期CEOを任せるつもりだと打ち明けられるシヴ。彼女は男ばかりの後継者争いで蚊帳の外に置かれているのは女性差別のせいだと痛いほどわかっている。でも文句は言えない。そんなときのこの父からのあの言葉。あのシーンで幼い娘の顔に戻り、承認欲求を抱えていたという寂しさをガシっと掴まれてしまいます。でもウェイスター=ロイコ社はレスター(モー)の犯したクルーズ犯罪隠蔽が明るみになり、女性への性的加害問題に対処するべく、女ということで矢面に立たされるシヴ。

そしてそのシヴのライバルとなるのは、PGMのCEOだったレア・ジャレル。しかし彼女もロイ家の闇深さを知って失望し、撤退します。

結局、家父長制の中で女性はどう利用されるのか…如実に表すような展開でした。

一方、男たちと言えば、無能の自覚皆無のコナーは「税金をなくすぞ、僕は払わない」という信念だけで選挙活動を開始。支持者(親衛隊)を集めるも実のところ家族にとってもウザいだけ…。その相手のウィラも作家才能ゼロでわりと似たり寄ったりなのが…。

ローマンは、経営者教育プログラムに参加し、ちょっと自分を省み始めますが、タバサとはセックスできず、ジェリーに罵倒されて性的快感を得るという、なんか父からの抑圧が変な方向に発散されている…。

そしてケンダル。シーズン1での完全敗退からすっかり子ども扱いを受け入れるほどに戦意喪失。共同COOになるも父の言いなりです。しかし、このシーズン2はそんなケンダルの反抗心復活の物語。公聴会を乗り切ったものの株主総会前に生贄を決めないといけないことになり、消去法でケンダルに決定。父への忠誠…と思わせておいて、ラストの記者会見で父を公然と責め、「父の支配は今日限りで終わる」と宣言。シーズン1では殴った瞬間に謝ったようなものでしたけど、今回はどうなる…?

そのケンダルをアシストしたのはグレッグ。今回も笑わせてくれました。トムとATNに転属して「差別的なメディアはちょっと」とゴネたり、プライベートジェットに乗って「U2みたい」と単純な感想を口にしたり…。でもバカなキャラで終わらない。クルーズ犯罪資料コピーの件を持ち出してついにトムとの上下関係がひっくり返り始め(その瞬間のトムの反応が笑える)、それでも処分を迫られ、今度はそのやりとりを録音しつつ、燃やす前に一部の資料をもぎとって、それがケンダルの反逆の決め技に…。グレッグ、自分ではわかってないけど、歴史に名を残すジャーナリズムな行動を実行しているんですけどね…。天然の善良臆病キャラをここに混ぜる製作陣のアイディアが見事に活きてます。

またしてもイノシシ狩りより恐ろしい戦いの開幕。次の勝者は誰か。そもそも家族の共食いですけど…。

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シーズン3:「俺はいつでも勝つ」

『メディア王 ~華麗なる一族~』のシーズン3は、前回のラストのケンダルの反旗を翻した直後からスタート。ウェイスター=ロイコ社は敵対的買収の件に加えて、ケンダルが暴露した企業犯罪の捜査にも対処しなければなりません。さらにローガンがATN番組の中で現大統領(レーズン)に批判的な路線へ変更したことで、大統領はご立腹で「もう大統領やめる!」と宣言。政府とのコネを失い、大統領候補者選びで今度は家族間で争ったり(結局、極右候補を推すことにしたみたいですが)。

このシーズン3を観ていて実感したのは、家父長制や大企業体質というものがそれこそ「カルト」と同じ構造を持っているということ。第2話でケンダルは他の兄弟妹と密会して「膿をだして立ち位置を修正できないか」と持ちかけます。家父長制を脱しようという誘いです。けれどもあの子どもたちは父のいない世界を想像できません。どう自立すればいいかもわからない。カルトに育てられた子どもがカルトから抜け出せないのと重なります。株主総会でのローガンの健康悪化で判断支離滅裂になったときのそれでも従っているだけの一同の哀れさもね…。

終盤では、ローガンが子どもたちに内緒でGoJo社のルーカス・マットソンにロイコ社を売却するという策を進めていることが発覚。ここでケンダル、ローマン、シヴがまた集うのですが、あのケンダルの打ちのめされようがまた可哀想です。今回のケンダルは世間のネタにされる覚悟を持って誹謗中傷に耐え、自信を取り戻したものの、傲慢さがこぼれ、自己顕示欲という父と同類のものが顔を覗かせ、迷走します。そこには例の揉み消した事故の罪悪感と、自分が良き父親になれない惨めさが、ごちゃごちゃと混ざっており…。

父に降参宣言したケンダルはプールで溺れかけますが、あそこは希死念慮の暗示であり、「俺はもう関わりたくない」とぼやき、人を殺したとシヴとローマンに告白したのも、自分を捨てたからなのでしょう。男性のメンタルの描き方が本作は本当に上手いです。

そんなケンダルをかばうローマンとシヴ。2人も被害者であり、ここでやっと家族の健全な強さがこのドラマから見られたり…。そしてついに3人の団結で父に反逆する意思が固まります。しかし…。

今回のシーズン3は反転の回だと思いますが、反転するのは子どもたちだけではありませんでした。

最終話ラストでまさかの母とトムの裏切り。そこにはおそらくグレッグも同調しているはず。トムは愛よりも権力欲が勝ったのでしょうし、グレッグもすごくみみっちい“トキシック・マスキュリニティ”が芽生え(滅べ、グリーンピース!)、中間層男性が見事に家父長制の配下になりました。トムとグレッグは刑務所恐怖の一件でホモソーシャルな間柄を構築しましたね。

拒否権を無効にされて子どもたちは万事休す。さあ、次はどうするのか。最底辺にまで落ちたケンダルは今度こそ起死回生の一手を打てるのか。ローマンのチン写癖は治るのか。シヴは子どもを作ってしまうのか。コナーは本気で大統領候補としてダークホースになる?

このドラマはまだまだ面白さの株価は急上昇してくれそうです。

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シーズン4:「お前には無理だ」

※シーズン4に関する以下の感想は2023年5月29日に追記されたものです。

『メディア王 ~華麗なる一族~』はシーズン4でファイナル。ついにこのロイ・ファミリー・サーガも完結です。

シーズン4は序盤が怒涛の展開で、最終章にてやっとケンダル&ローマン&シヴの3人が父ローガンに協力して反旗を翻したわけですが、視聴者が思いつきそうな「最終的にこういう展開になるのでは?」というイベントを序盤で全部やってみせます。

第1話では、3人シブリングはPGM社の買収についてローガンに競り勝ってみせ、父に勝利した余韻を共有します。第2話では朽ちぬカリスマ性をATN社視察スピーチで披露するローガンでしたが、3人シブリングの前で「sorry」と謝罪もしてきます。

勝利、謝罪…ときて、第3話は「死」。それもあまりにも唐突なローガンの死です。ここは本当に本作がドキュメンタリー風に演出しているのが抜群に効いていますね。見事なリアルタイム感。父の死を直接見届けることもできず、狼狽するしかできない子どもたちがまた…。

そしてこれをやってしまうと「じゃあ、この後は何が起きるんだ!?」と視聴者も全く先が読めなくなります。まんまと製作者にしてやられてる…。

ここからはケンダル&ローマン&シヴの3人の団結に綻びが生じ始めます。この3人、しっかり父からは権力欲というものだけは受け継いでます。

下線なのか取り消し線なのかわからない一文で自分がCEOにと書かれたらしい遺言に一縷の望みを託し、ケンダルは他人を利用するなどの残忍さを取り戻して前に出ようとします。投資家デーの「Living+」発表と言い、すっかり調子に乗り始めるケンダル。

ローマンとシヴはそのケンダルを認めるのか否か。二転三転しながらもつれ込んだ最終話の役員会でのGoJo買収投票は精神を削りに削りまくった喧嘩でした(前日にキッチンでの3人の戯れをみせるのがまたなんともニクイ)。

結果的にシヴの裏切りでマットソンの買収が決定し、CEOはトムに確定。マットソンはいわば“イーロン・マスク”的な存在ですから、そういう奴に乗っ取られるというオチです(まさに現実で起きてること)。

本作は家族経営の大企業帝国の崩壊を描く作品ですが、実質、アメリカという共同体の栄光と転落を痛烈に風刺した悲劇です。

第8話でATNが極右のメンケンの当確を何の根拠に基づかずに放送し、強引な大統領決定を後押ししてしまうというメディアとして絶対にやってはいけないラインを越えます。これは企業としての”おしまい”を意味するのですが(皮肉にも本作の元ネタであるFOXニュースは大統領選で不正に加担したと報じられ名誉を傷つけられたとして投票機メーカーのドミニオン・ヴォーティング・システムズに訴えられていた裁判で、7億8750万ドルを支払うことになったと報じられたばかり;BBC)、アメリカ社会の終焉でもあり、その後の大混乱が背景に映るのも、いわば本作なりのディストピア。

「クレイジーだ…」「核ボタンみたい」と感想がこぼれるあの第8話の世紀末っぷりはさすが“アダム・マッケイ”製作陣の作品ですね。

作中の登場人物はトップの座を巡って争っているけど、事実上はもうメディアは死んだも同然なのです。ただの虚しい権力闘争の残骸だけ。

その次のエピソード(第9話)がローガンの葬儀というのもこれまた嫌味ですが、自分たち自身の葬式にもなっているとも言えます。また、あの葬儀は「傷つけられた者たちの慰め合い」でもあり、追悼とは違う趣もあるのが味わいを深めていました(ケリー含めたローガンの妻&愛人たちがひっそり連帯しているのが印象的)。

(とくに保守的な)アメリカに未来はあるのか…。その答えをここまで突きつける『メディア王 ~華麗なる一族~』はこの時代を切り取る見事な傑作ドラマでした。私たちはただ放心状態でベンチに座って沈む太陽を眺めるしかできないのです。

そんなシリアスな感想で締めようかと思いましたけど、シーズン4もグレッグが最高でしたね。あの「大統領に紹介してくれない?」と図々しく踏み込む姿勢は変わらないし…。一部のLGBTQコミュニティではこのグレッグとトムの関係性にクィアネスを見い出している人もいるといいますがXtra Magazine、わからなくもない…。他にもケンダルとスチューイもヘッドカノンなカップリングができあがっているんですねPinkNews。グレッグとトムの付き合いはラスト後も続くようですし、そこにマットソンも加わって奇妙な三角関係ができそうだな…。

『メディア王 ~華麗なる一族~』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 89% Audience 81%
S2: Tomatometer 97% Audience 87%
S3: Tomatometer 97% Audience 89%
S4: Tomatometer 98% Audience 90%
IMDb
8.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
9.0
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関連作品紹介

アダム・マッケイが手がけた作品の感想記事です。

・『ドント・ルック・アップ』

・『バイス』

・『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

作品ポスター・画像 (C)HBO

以上、『メディア王 ~華麗なる一族~』の感想でした。

Succession (2018) [Japanese Review] 『メディア王 ~華麗なる一族~』考察・評価レビュー