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『ベイルート Beirut』感想(ネタバレ)…リアルと交渉する映画の苦悩

ベイルート

リアルと交渉する映画の苦悩…Netflix映画『ベイルート』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Beirut
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にNetflixで配信
監督:ブラッド・アンダーソン

ベイルート

べいるーと
ベイルート

『ベイルート』あらすじ

1982年、内戦状態の緊迫した情勢にあったレバノン。アメリカの政府職員が武装勢力に拉致されるという事件が発生した。CIAによって、人質救出のための交渉役に抜擢されたのは、元外交官のメイソン・スカイルズ。政治や紛争の現場から退いていたメイソンだったが、しぶしぶ仕事を引き受ける。しかし、この任務には彼も知らない裏があった。

『ベイルート』感想(ネタバレなし)

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レバノンという舞台

「レバノン」という国は今後の映画界で存在感を強めていくかもしれません。

というのも、ここ最近でもレバノンに関連する映画や監督が相次いで映画賞などのステージで存在感を増しているからです。『万引き家族』がパルムドールを受賞した2018年のカンヌ映画祭で、事前にパルムドールの有力候補とされて実際は審査員賞を獲得したレバノンの女性監督作品『Capharnaum』。2017年の米アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされた、レバノン出身のジアド・ドゥエイリ監督作の『判決、ふたつの希望(The Insult)』。大きな映画祭で「レバノン」の名前を聞かないことはないと言えなくもない勢いです。

なぜここまでレバノンがホットワードになるのか。それは様々な民族や宗派が争い合ってきた重い歴史を抱え、今なお紛争の激しい中東・西アジア・アフリカに囲まれるように位置しているからでしょう。

多様性という言葉が叫ばれる昨今、それは聞こえのいいフレーズですが、そんな簡単に実現するものではなく、多様な人種や民族が揃えば必ず対立が生まれてしまいます。その宿命を身をもって体験してきたのがレバノンという国です。

多様性を目指しつつ、付随して生じる軋轢に今まさに直面している欧米諸国にとっては、レバノンは色々な意味で参考になる地域なのかもしれません。

そんなレバノンが凄惨な内戦状態にあった1975年から90年の通称「レバノン内戦」。その時代設定を持ってきたサスペンス映画が本作『ベイルート』です。

ジャンルは、エスピオナージ・スリラーと呼ばれるもので、もう少しわかりやすく言うとスパイ・フィクションです。本作の製作&脚本は“トニー・ギルロイ”。『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』や『グレートウォール』の脚本家で、近年も活躍が目立ちますが、本作との関連で言えば「ボーン」シリーズを紹介すべきですかね。マット・デイモン主演で大ヒットしたアクション映画のこの「ボーン」シリーズは、アクション面もリアル重視でしたが、比較的リアリティを意識した世界観のなかでバランスよく“あり得ない”フィクションを織り交ぜるのが上手い作品でした。

『ベイルート』はアクションではなく、諜報&交渉がメインですが、そのリアリティ観のエッセンスは引き継いでいるので期待していいと思います。

本作の主人公をつとめる俳優は、エドガー・ライト監督のノリノリ・カーアクション『ベイビー・ドライバー』で主人公を最後まで追いつめる強敵を演じた“ジョン・ハム”。本作では飲んだくれですが、仕事はできる良い奴です。ヒロインは、デヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』で男性陣を震撼させた最恐の妻を演じた“ロザムンド・パイク”。本作では…どんな裏を見せる?

誰が敵で味方かもわからない、対立渦巻くレバノンのサスペンスをお楽しみください。

Netflixオリジナル作品として配信中です。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ベイルート』感想(ネタバレあり)

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本物みたいなリアルさ

物語はレバノンがまだ混沌の内戦に突入する前の1972年から始まります。実績を積み重ねてレバノンで不動のキャリアを手に入れていた外交人のメイソン・スカイルズは、自宅でパーティを開催していると、そこへ政府役人の友人カルがやってきます。そして、口にしたのはある宣告。メイソンが養子で育てている現地の子カリーム…この子には実は兄がいて、そのラフィードという名の兄は、あのミュンヘンオリンピック事件にも関与した相当な“ヤバい奴”という衝撃の事実。今すぐ尋問のためにカリームを引き渡せと言われ揉めていると、そこへ突然の銃声。ラフィード率いるテロリストグループが襲来、メイソンの妻ナディアを銃殺し、カリームを誘拐していったのでした。

それから10年後。あの衝撃の事件で現場から退いたメイソンは、本国に戻って法律事務所で労働争議の仲裁をする地味な仕事をしていましたが、そこへある仕事の依頼が。内戦によって見る影もなく荒れ果てたレバノンに戻った彼に突きつけられた任務。それは人質事件の交渉。その人質はかつての友人だったカル。そして、犯人グループの首謀者はかつて愛をかけて引き取ったカリーム。さらにカリームの要求は、メイソンにとっては大切なものを奪った憎きラフィードを引き渡せというものだったのです。

ネタバレありで前半のあらすじをまとめるとこんな感じ。

思わずこんなドラマチックな出来事があったのか!と驚いてしまいますが、フィクションだったことを思い出して我に返ります。それくらい世界観設定がリアルベースなだけあって、本物っぽいです。

その代わり、レバノンという特殊な環境もあって、登場する主要グループの立ち位置も、社会情勢の知識がある人でない限り、わかりづらいです。なにせ主人公はこの地域のプロで、映画には熟知したプロしか出てこないので観客は置いてけぼりを食らいます。そこは「ボーン」シリーズとは違う部分で、取っつきにくいところ。

個人的にはそこまで難解とは感じませんでしたが、個々人の知識量に左右されるので、そのへんの詳細に知りたければWikipediaとかで事後学習するとかするといいでしょう(参考「Wikipedia – レバノン内戦」)。

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無難なバランスの上に立つ映画

『ベイルート』はアメリカで予告動画が公開されたとき、その内容が「白人至上主義的だ」「歴史の軽視だ」と諸々批判意見があったようです。まあ、フィクションですから、ある程度エンタメ的な虚構は混じりますよね。でも、映画が公開されると、批評家の意見はおおむね好評。それは観ればわかると思いますが、極端に特定の立場に偏った映画になっていませんし、とくに激しくまくしたてることもない、バランスのまとまった無難な構成の映画でした。

あえて苦言というほどではないですが、口を出すなら、結局のところの悪い奴として、CIAとNSCの奴らが欲に溺れて横領など不正行為を働いていたというオチになる展開は、いつもの「ボーン」シリーズと同じすぎて拍子抜けした気分もややありましたが…。

レバノンが舞台である以上、敵の設定は一歩間違うと批判を招くセンシティブな問題で、それこそこの映画で描かれるような複雑な対立関係を象徴するようで興味深いですが、エンタメとの両立は難しかったかもしれません。最終的には歴史的バックグラウンドに映画としての着地をぶん投げた感じもしますが、逆にどうすればよかったのかと言われると…。

本記事の冒頭でレバノンの映画で高評価な作品が増えていると書きましたが、それは監督などがレバノン出身だったりと、確実なリアルに裏打ちされたものばかり。本作のような他国がフィクションでレバノンを描くのはまだまだ手探りといえるのかな。

希望を言えば、こういうスパイフィクション映画でも、本作であればカリームを主人公に物語を展開するくらいのような、既存のハリウッド的枠組みを飛び越えたことをしても良かったのではと思います。

それができるのはいつの日になるでしょうか。

『ベイルート』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 82% Audience 56%
IMDb
6.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『ベイルート』の感想でした。

Beirut (2018) [Japanese Review] 『ベイルート』考察・評価レビュー