ブロッカーズ
映画『ブロッカーズ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Blockers
製作国:アメリカ(2018年)
日本では劇場未公開:2018年にDVDスルー
監督:ケイ・キャノン

ブロッカーズ

あらすじ

3人の親たちは自分の娘がプロムで処女を失おうと決意したと知る。こんなことを知ってしまったら、家でじっとはしていられない。猪突猛進な娘たちを寸前でやめさせようと一夜限りの秘密の作戦を開始し、裏で動き出す。一方の娘たちは自分の親が画策していることを知るわけもなく…。

ネタバレなし感想

ポリコレ時代でも“お下品”は不滅です

ハリウッドでは映画製作において「ポリティカル・コレクトネス」を尊重するのは今や“当たり前”になってきました。人種や性などの差別や偏見を助長するようなことはせず、現実をそのまま反映しようという動き。一応、言っておくと別にポリコレは最近になって急に出現したものではありません。映画史の成り立ちと常に隣合わせで存在していました。ただ、最近のポリコレは「多様性(ダイバーシティ)」をキーワードに、より一層求められるレベルも深化しています。

この映画界のポリコレに対して「創作の自由が下がる」と危惧する意見もあります。私はその意見に全面賛成しないつもりでしたが、心の中であるひとつの懸念がありました。ポリコレの登場によって一番困りそうなジャンルがあるじゃないですか。そう、下ネタなんでもありの「お下品なお下劣コメディ」というハリウッドでは定番のジャンルが…。

このジャンルは差別や偏見の塊というか、あえてそれで笑いをとるのが常套手段。なのでもともと結構好き嫌いの別れやすいジャンルです。“嫌なら見なければいい”でこれまでは通してきたのですが、でもポリコレ時代はそれもどうなのか。ユーモアという名目でお下品を堂々と見せることは自粛していく流れになってしまうのだろうか。お下劣コメディ映画も好きな自分としては、そういう心配も、正直、ありました。

しかし、今ならハッキリ言えます。それは杞憂だと。

本作『ブロッカーズ』がまさにそれを証明してくれました。ポリコレ時代にはこの時代ならではのお下品の見せ方がある…あらためてアメリカのギャグ魂の粘り強さを見せつけられました。やっぱりお下品は永遠に不滅ですね。

私はこれまでのアメリカお下品コメディ映画の中では『スーパーバッド 童貞ウォーズ』が好きなのですが、これはモテない男子3人がプロムで童貞を卒業しようと奮闘する物語で、批評家の評価も高い一作でした。一方、『ブロッカーズ』はその逆バージョン。女子3人がプロムで処女を捨てようと奮闘する物語なんですね。ちなみにタイトルは英語表現の「cock-blocker(セックスを妨害する人)」に由来しています。

今まで“童貞”映画は山ほどありましたが、“処女”映画はアメリカでは珍しいです。ただ、そのピンポイントだけでフレッシュというわけではなく、本作は随所にそうしたステレオタイプを逆転させる構造が散りばめられており、それが予想外の定番性と合致したり、また逆に定番を覆したりするから面白い…そんな映画です。リブート版の『ゴーストバスターズ』に近いといえるかも。
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従来のお下品コメディ映画が内包する差別的に受け捉えかねない嘲笑に内心でイラっとしていた人ほど、『ブロッカーズ』は気持ちいいかもしれないですね。

製作は“セス・ローゲン”“エヴァン・ゴールドバーグ”など、いつものお下品コメディ映画を作ってきたメンツなので、中身は容赦のない下ネタの嵐です。でもどこか新時代的でもある。お下品コメディ映画の新しい可能性を見せてくれた気分で、とても爽快感がありました。

監督は“ケイ・キャノン”という人で、本作が監督デビュー作らしく、非常に今後に期待の持てる才能の登場にワクワク。

出演陣は、“レスリー・マン”“アイク・バリンホルツ”といったお下品コメディ映画では定番の顔ぶれに加え、最近になって脳筋俳優として存在感を増しているプロレスラー“ジョン・シナ”も抜群に笑いをとってくれます。ティーン側を演じるのは、『名探偵ピカチュウ』でヒロインを演じる“キャスリン・ニュートン”など多様な若手が勢揃い。

ちなみに作中では女優で歌手でもあるヘイリー・スタインフェルドの曲「Love Myself」が使用されています(本人は出てきません)。

あえて言いましょう。ご家族一緒にご鑑賞ください、と。

オススメ度のチェック
ひとり◎(爆笑しながら満喫しよう)
友人◎(ワイワイと盛り上がる)
恋人◎(ワイワイと盛り上がる)
キッズ◯(ティーンなら楽しめる)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

センシティブな問題だけど

『ブロッカーズ』が題材にしている「初めての性体験」。手垢のベタベタついたやり尽くされたネタではありますが、実際のところクソ真面目に考えれば考えるほどセンシティブなテーマでもあります。

何度も言っているように今はダイバーシティの時代。性別は「男」か「女」かの二択ではないし、人生は「結婚」か「独身」かの二択でもない。性体験だって「した」か「していない」かをことさらクローズアップするのはナンセンスとも言えます。性行為経験を“優れた証”とする風潮の押しつけは、性の乱れのようなマイナス面を引き起こし、あげくにレイプへと変貌する可能性だってあることは多方面で指摘されているとおり。
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一方で、性行為経験をタブーとするような抑圧はそれはそれで純潔思想の増大などジェンダー差別の引き金にもなります。歴史的にフェミニストたちが女性の“性の解放”を訴えてきた流れに逆行するわけですから。
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要するに、難しい。そういうこと。

その一筋縄ではいかぬ問題に対して『ブロッカーズ』は前述したとおり従来のジャンルの定番だった「童貞のティーン少年たち」を主役に据えるのではなく「処女のティーン少女たち」を主役にすることで一定の解決策を見いだしています。

既存の童貞特有の思考にありがちな“理想的な女性像の幻想”という一歩間違えると“レイプ願望”になりかねないデンジャーゾーンはデリートして、あくまで女性の自立心の芽生えとして“処女卒業”を目指す少女たちを描く。でも主人公となる3人の少女は同じ“処女卒業”を掲げていても考えはバラバラ。ジュリーは付き合っている恋人とセックスがしたいと思っているオーソドックスな恋愛の延長であり、ケイラは恋愛とかではなくセックスをすることで何かが変わるのではという希望的観測。さらにサムにいたっては実は同性愛でありながら、クローゼット(自分の性をオープンにしていない人)なため、一種の自己確認のためにセックスをテストしたいという複雑な事情を抱えています。

そんな彼女たちが最終的に映画のラストで“経験”したことを見るかぎり、本作は性行為体験を“優れた証”とするような美化はしていないと思いますし、あくまで“個人の幸せ”に準じるべきという極めて真っ当な着地でした。

ただ良い親になりたくて

一方で『ブロッカーズ』にはもうひとつの主人公組がいます。ジュリーの母親であるシングルマザーのリサ、ケイラの父親である家事もやる筋肉男のミッチェル、サムの父親で離婚別居中のハンターの3人。

この大人チームが娘の“処女卒業”をブロックするために悪戦苦闘するわけですが、子ども側にしてみれば本当にただただ迷惑で最低なのは描かれているとおり。親心的に心配だというのは百も承知ですが、でもやりすぎ。本作ではこの3人の親をいわば反面教師的に配置しています。

正論はわりと序盤で明示されます。ケイラの母のマーシーが“処女卒業”ブロックに醜いほど必死になる3人に対して「自分の性を自由に追求できるようにするべき」「男の子は童貞を失ったら祝福して、女の子には純潔が失われたって嘆くの!?」と至極まともな怒りを露わにするシーン(それを言うマーシーがインド系というのも逆転的でユニークですね)。

パニック状態の3人の親はそんな平等主義的な考えを華麗にスルーするわけですが、それでも最後はこの親たちも自分なりの受け止め方を見つけ出します。

ミッチェルが吐露するように3人とも「ただ良い親になりたくて」という愛情の暴走が、親以上に自立した娘の生き様によって救われる。子が親を導くという“子離れ”の話であり、ここもまた従来とは異なる逆転構造ですね。

本当の意味で“親らしい”ことができた3人の誇らしげな後ろ姿と、でも最後はあんまり学んでいない感じがまた良いものです。

男子たちはどう描くか

「処女のティーン少女たち」が主役の『ブロッカーズ』。え、じゃあ、「童貞のティーン少年たち」が主役の映画はポリコレ時代には作れないのですか?というツッコミにもしっかり答えを用意しています。

ジュリー、ケイラ、サム。3人の相手となる男子のオースティン、コナー、チャド。従来の童貞映画であったら、相手となる女子は無知な童貞男子の導き役として少し大人っぽく描かれるのが普通でしたが、『ブロッカーズ』では逆転しているので、この3人がその役割を担います。

それと同時に女性を受け止める男子として“こうあるべき”という理想のお手本みたいな感じにもなっています。決して強引に襲うでもなく、相手の無知に付け込むでもなく、ちゃんと女子たちと対等に付き合う。これを“こんな男子いないよ”と聖人君子のようにとらえる人もいるかもしれないですが、でも“これが従来の童貞映画で描かれてきたお相手の女子そのものですよ”という鏡でもあり、加えてセックスに対する男性の在り方として“これが普通であるべきなんじゃないですか”という視点。この2点を両立させているのは上手いなと思います。

またズバリ“童貞”問題に対しては、ことさら騒ぎたてずにサラリと描くというスマートさもさりげなく斬新ですよね。わりとステレオタイプ感のあるチャドを含むあの3人男子も今回の一件でそれぞれの“経験”をしたわけですが、それも“個人の幸せ”(&相手の女性の幸せ)に帰結する。童貞を恥ずかしいものとして描くことを綺麗さっぱりやめたのは英断だったのではないでしょうか。

ブロッカーズ

カミングアウトされて感動して泣く親

斬新と言えば、「自分が“どっちか”ってどうやってわかるのかな」とひとりで悩むサムの問題。これまでこの手のLGBTQティーン映画をたくさん見てきましたが、『ブロッカーズ』はそんな類似作品にはないフレッシュなシーンがありました。

そのシーンとは、サムからレズビアンをカミングアウトされたハンターが泣くという場面。無論、観た人ならわかるとおり、ショックで涙したのではなく、母や義父よりもまず自分にそんな大切なことを告白してくれた娘の想いに泣いているのですが…。でもカミングアウトされて感動して泣く親も、なかなかないですよね。

けれどもこのお笑い的なサムの泣きも、結果的にサムの重々しい空気を壊す効果になっているのがまた良くて。その後にしっかり娘の背中を力強い言葉で押してあげる父のたくましさ(序盤にサムが母から言われたことと対比になっています)。

先ほどの童貞問題と同じくLGBTQもことさら騒ぎ立てないのも本作の良さじゃないですか。

ちなみにサムが密かに好意を寄せる相手のアンジェリカがアジア系というのも印象的。『指輪物語』のガラドリエル風の衣装を着ていますが、ガラドリエルがいかにも“The・白人”というキャラなので余計に。序盤にハンターが「俺はアジア人のポルノを見まくっている」と笑い話で語ることとリンクするのがほんと、しょうもないギャグですけど。

でもやっぱりお下品です

ここまでの感想だと『ブロッカーズ』が教育的にも役立つ感動の物語に見えますが、ちゃんとそうはさせないぞと言わんばかりにぶっこまれるお下品度MAXのネタの数々。

逆転構造はお下品ネタにもあって、通常なら子ども側がお下品に暴れるのですが、『ブロッカーズ』では大人側がひたすらその役割を担うのも特徴的。

娘たちの居場所を知るためにオースティンの家に侵入したミッチェルが、そこで裸で“Hide&Seek”ゲームに興じる性にフリーダムなオースティンの親たちと遭遇するくだりとか。ハリウッドでおなじみホラー映画演出でチ○コがデーンと登場する…そんなくだらなさが最高。

ポリコレ時代ならではのギャグもありますよね。

例えば「マスキュリニティ(男らしさ)」をギャグにするやつとか。最近だとクリス・ヘムズワースやドウェイン・ジョンソンがそのコメディ芸で輝いていますが、本作でも“ジョン・シナ”が大暴れ。オースティンの両親のセックスをまじまじと見ながらの「あの体勢じゃ股関節脱臼を起こすぞ」のセリフとか逐一で脳筋アホっぷりを見せてくれます。

また「テキトー・リベラル(私が勝手に命名)」も昨今のアメリカ映画では定着してます。要するになんとなくリベラルな雰囲気なことを言っているけど実際はよくわかっていない人たちを小馬鹿にする笑い。作中でもリサの「うちの娘は偏見野郎じゃない。デモにも行っている。トランプに納税額を公開させるデモとか」というセリフなど、親バカ的なリベラル便乗がイマドキらしいです。

個人的には“薄っぺらい映画知識ネタ”も楽しいところ。娘たちの絵文字だけのSNSトークを見て解読にのぞむなか、ハンターが「『インフェルノ』を見たから」と謎の自信をみせるくだり。はたまたジュリーがベッドに花びらをまき「『アメリカン・ビューティー』っていうロマンチック・コメディで見た」と口にし、オースティンに「最後まで見た?」とツッコまれるくだり。さらには娘の乗るリムジンを追いかける親組の車内でのハンターとリサの以下の会話とか。
「俺は『ワイルドスピード』シリーズ全部見ている。そっちは?」
「東京のやつと、ドウェイン・ジョンソンが魚雷をやっつけるやつなら見た」
「なら“W,W,V,D,D”はわかるか」(吹替だとVDNDS)
「What would Vin Diesel do?(ヴィンディーゼルならどうするか)」
「わかったのは君が初めてだ」
処女や童貞じゃないですけど、作中の登場人物の映画知識もこうやって素人臭いのがまた愉快。

とまあ、こんな感じであらゆる観点で楽しめる一作でした。どんなに映画界をとりまく環境は変わっても、お下品コメディは絶好調。このジャンルはいつまでも処女&童貞ですよ。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 84% Audience 50%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

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↑『アメリカン・ビューティー』…たぶん今のアメリカのティーンに見せてもこの映画はわからないんじゃないか。
作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures