ウィー・ハブ・ア・ゴースト!…Netflix映画『屋根裏のアーネスト』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にNetflixで配信
監督:クリストファー・ランドン
恋愛描写
屋根裏のアーネスト
やねうらのあーねすと
『屋根裏のアーネスト』あらすじ
『屋根裏のアーネスト』感想(ネタバレなし)
引っ越したら幽霊がいるかも?
3月に突入するといよいよ引っ越しシーズンです。引っ越し先はもう決まりましたか? 準備はできていますか? 物価高で何かと値上がりしてもいるので引っ越しも大変でしょう。
どこに住むのか…新しい居住地となる家を選ぶのもワクワクやドキドキがいっぱいです。人によってはいろいろ選ぶ基準があるものです。映画が趣味なら近くに映画館があると最高ですよね。
では自分がこれから暮らすことになる家に「幽霊」がいるかどうかは気にしますか?
あ…いや…帰らないでください。今回はこの幽霊が主題なんです。
もし新居に幽霊が住み着いているのだとしたら…さすがにちょっと…難色を示す人も多いはず。幽霊は人ではないし、動物でもないから、もろもろでノーカウントなのかもしれないけど、そうは言っても幽霊だし…。
なんですかね、幽霊割引とかで家賃が格安になるなら、それでOKと考える人もいるかもだけど…。
しかし、今回紹介する映画の主人公たちは違います。引っ越し先の家に幽霊がいたからといって、家を出るわけでもなく、幽霊を退治するわけでもない。こういう付き合い方も現代らしいのかな?という「with 幽霊」な新生活を開始するのです。
その映画が本作『屋根裏のアーネスト』。
本作は、“ジェフ・マーノー”の短編小説を長編映画化したもので、とある一家がボロボロな古い家に引っ越してくると、その家の屋根裏に幽霊が住み着いていて…という始まり。
とは言え、幽霊がでてくる映画ですが、戦慄のホラーではありません。家族向けのホラーコメディの体裁になっており、怖い描写が苦手な人でも気軽に見れます。
家に幽霊がいた!というホラーコメディと言えば、『キャスパー』みたいな映画がありますが、この『屋根裏のアーネスト』に登場する幽霊はそういうデフォルトされた可愛らしいやつではなく、バーコード頭のオッサンだというのが特徴です。
そのオッサン幽霊を熱演しているのが、あのドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でおなじみの“デヴィッド・ハーパー”。最近は『ブラック・ウィドウ』でお腹のでたおっさんヒーローになったり、『バイオレント・ナイト』で暴力覚醒サンタクロースを演じたり、毎度いつも何か新しい姿に変身している印象が強い…。
『屋根裏のアーネスト』を監督している人物も昨今のホラー映画界隈では話題の人です。それが“クリストファー・ランドン”。『パラノーマル・アクティビティ2』などの脚本で着実にキャリアを重ね、2017年に監督した『ハッピー・デス・デイ』が大ヒット。そちらは好評で続編も作られ、2020年には『ザ・スイッチ』という女子高生と殺人鬼オヤジの身体が入れ替わるスリラーでこれまた注目を集めました。
つい最近は『ベスト・フレンズ・エクソシズム』などのプロデュースにも関わりつつ、今回は比較的予算規模を引き上げた新作に乗り出し、「Legendary Entertainment」と手を組んで作り上げたのがこの『屋根裏のアーネスト』です。
ちなみに原題は「We Have a Ghost」で、こっちの方が映画の余韻と合っているのでいいと思うのですが、しかも「屋根裏のアーネスト」という邦題だとオチ的にちょっと噛み合わない感じも…。まあ、そこはネタバレになるので後半の感想で。
今作は実は“クリストファー・ランドン”監督のプライベートな想いも入り混じる映画になっていたりします。
俳優陣は、“デヴィッド・ハーパー”と共演することになる主人公として、 ブロードウェイの『ライオンキング』でヤングシンバ役に抜擢された“ジャヒー・ディアロ・ウィンストン”、さらにMCUのファルコン役ですっかり知れ渡っている“アンソニー・マッキー”も参加しています。
他には、『アーミー・オブ・ザ・デッド』の“ティグ・ノタロ”であったり、ドラマ『ホワイト・ロータス 諸事情だらけのリゾートホテル』で忘れられない印象を植え付けてくる“ジェニファー・クーリッジ”も今回も暴れまくっています。
新人枠としてはアジア系の“イザベラ・ルッソ”の活躍も注視したいところ。
『屋根裏のアーネスト』は日本では劇場公開されずにNetflix独占配信となったのですが、まだ馴染めていない家でひっそり鑑賞するにはちょうどいいお手軽なエンターテインメントです。
『屋根裏のアーネスト』を観る前のQ&A
A:Netflixでオリジナル映画として2023年2月24日から配信中です。
オススメ度のチェック
ひとり | :気楽なエンタメ |
友人 | :暇なときにでも |
恋人 | :恋愛要素もあり |
キッズ | :やや性的表現あり |
『屋根裏のアーネスト』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):怖くない幽霊
1軒の家。夜、突然の悲鳴と共に玄関から人が飛び出してきて車に乗り込み、逃げるように発車します。そして家のドアが急に閉じるのでした。
1年後。その家の庭は手入れもなく植物がぼうぼうですが、そこに1台の車がやってきます。引っ越してきたプレスリー家族です。業者のバーバラが迎え、プレスリー家のフランクとメラニーの夫妻、その息子のフルトンを中へ案内します。
中はかなり散らかっていて埃っぽいですが、歴史的建造物だとバーバラは営業トークで絶賛。メラニーは「この家はなぜこんなに安いのか、事故物件なのか」と恐る恐る聞きますが、バーバラはお買い得なだけと笑って流します。
一方、フランクはもうひとりの子であるケヴィンが車から降りてこないので、降りるように促します。ケヴィンはしぶしぶ車の外へ。そのとき屋根裏の窓が光っているような気がします。
ケヴィンは家を探索。あの光っていたような場所へ行くも、屋根裏には見た感じ何もなく、綺麗なステンドグラスがあるだけ。
トラックから荷物を運び、隣ではジョイという子が金管楽器を吹いていました。
家族が揃っても無愛想なケヴィンに父は「白人のギターの方がいいのか」と小言を呟き、「家族の新たな船出なんだ」と語るも「何回目かな、飽きたよ」とケヴィンも食い下がりません。
夜、ケヴィンは上から怪しい気配を感じて、また足を運んでみます。椅子がひとりでに揺れており、さらにスマホのライトに照らされたのは、半透明な男…。なんだか手を広げて脅かそうとしてくるのですが、吹き出して笑ってしまうケヴィン。相手はうんざりな顔で背を向けて消えてしまいます。
学校でひとり幽霊について調べていると、あのジョイに話しかけられます。アジア系への差別でいじめられているようですが、近所のよしみで連絡先を教えてくれます。
帰宅したケヴィンはまた屋根裏へ。歌ってみるとまた驚かしてくるあの幽霊。「怖くないよ」と穏やかに語り、座ってと促して横に並びます。幽霊は茫然としているだけで何も喋らず、話せないようです。「ここで死んだの?」と訊ねると記憶がないらしく、「名前はアーネスト?」とシャツの胸にそう記されているので聞いてみます。手を差し出して握手。手が実体化して握られるようでした。
自分だけの秘密の体験ができて少し上機嫌なケヴィン。けれどもフルトンにスマホの幽霊を撮った動画を見られ、父にもバレてしまいます。母には言わないでおこうと約束し、父は動画サイトにその映像をアップしてしまいます。一般の反応は視覚効果のフェイクだと思われているようで再生数は微妙です。
父とフルトンは屋根裏でもっと刺激的な動画を撮りに行き、メラニーは幽霊を見て絶叫する映像を撮影できました。
メラニーはバーバラに即座に苦情を言い、「ホラー映画の愚かな白人とは違う」とこの家から離れようとしますが、フランクはこれはカネになると説得。
案の上、ネットで幽霊動画はバズり、熱烈なファンまで発生。アーネスト・チャレンジという壁抜け企画は拡散し、幽霊の権利にまで話は飛躍。幽霊と恋愛はできるかなど話題は尽きません。
しかし、その動画をレズリー・モンロー博士がたまたま目にしてしまい…。
幽霊動画はバズる! 幽霊カーチェイスは面白い!
『屋根裏のアーネスト』は前半はあからさまにホラー映画のお約束のパロディになっており、観客を楽しませてくれます。
“デヴィッド・ハーパー”演じる幽霊初登場シーンであえてその幽霊を「怖くないもの」として描くことで、本作はコミカル路線まっしぐら。
しかも、窓から光っていた正体はこの幽霊のバーコード頭のおでこの日光反射だったというあまにもしょうもないオチ。その展開を観た時は「え? この映画、こんな超くだらない方向でいくの!?」とちょっとびっくりしたのですけど、さらにカオスなことになります。
おそらく幾度となくビジネスに失敗したのであろうフランクが今度は幽霊動画で儲けることを思いつき、それがあれよあれよと大成功。アーネスト・フィーバーが起きるのですが、その描写は実に極端で、ただ現実でも起きそうではあるのであまり一笑して片付けるわけにもいかない…。
そもそも幽霊ってスマホで普通に撮影できるんだなって思いますけど、ほら、最近のスマホ、無駄にカメラいっぱいついているし、なら大丈夫か…。
ここで幽霊の権利が取り上げられ、ここではギャグのように流されますが、しっかり後半で活かされるあたりなど、伏線を張ってはいるのですけどね。
そして霊能者ジュディの登場でカオスさが頂点に達します。やっぱり“ジェニファー・クーリッジ”は面白すぎる…。
この場面は典型的なホラーパニックの乱れ打ちで、『ポルターガイスト』に始まり、『エクソシスト』みたいな動きをして、幽霊の顔がデロデロと溶ける(そんなこともできるの!?)というサービス精神満載。幽霊って本気だせば大概のホラー映画は再現できるんだな…。
これはもう“クリストファー・ランドン”監督なりのホラー映画祭りの開催ですね。たぶんもう少し予算をもらっていたら、もっと派手なことをしていただろうな。
そしてケヴィンとジョイと幽霊で外へ出てからの怒涛のカーチェイスがまた愉快で、ここも何度も見返したくなります。“デヴィッド・ハーパー”が一切喋らずともここまで笑えるアクションができるんですから、幽霊の力は偉大だ…。
監督の父親像は…
しかし、この『屋根裏のアーネスト』、前半のフルスロットルなテンションで後半もかっ飛ばすわけではありません。
そこは“クリストファー・ランドン”監督らしく捻りを加えてきており、人によっては「この捻りはいらない!ずっとあのハイテンションが見たかった」という人もいると思いますが、そこは監督の選択としてこうしたかったんでしょうね。
後半は幽霊が捕獲されて以降、さらにゾっとする真相が明かされます。それまでのかなり笑いで片付けられる話ではない、人間の闇がボロっとこぼれだす凶悪な展開。
幽霊の本名はランディで、幼い娘のジューンを知り合いの夫婦が奪うために、実はランディは殺され、死体は埋葬されてしまっていたのでした。娘を捨てたわけでも、自殺したわけでもなく…。
この後半の豹変は「え…こんな闇深い話になるの…」と観客もドン引きな話ですが、“クリストファー・ランドン”監督の作品はだいたいこんな感じですからね。
そして終盤は父と子の物語として着地します。このへんもベタにエモーショナルな帰結なので、ややトリッキーさを期待するとガッカリなのですが、これに関しては“クリストファー・ランドン”監督なりの理由があるようです。
というのも“クリストファー・ランドン”監督の父親は『ボナンザ』や『大草原の小さな家』でおなじみの俳優である“マイケル・ランドン”で(9人も子どもがいる)、“クリストファー・ランドン”が16歳の時に亡くなっているんですね(享年54歳でした)。
そして“クリストファー・ランドン”監督自身も今や子がいる中年の父親となり、インタビューでも自分がそういう父と子の関係性を考えてしまう時期になっていると打ち明けています。
なのでこの『屋根裏のアーネスト』は父への追悼映画としても機能していきます。だからこその「We Have a Ghost」という原題です。大切な人がこの世を去っても私たちには幽霊がいるじゃないかという…。
個人的にはもう少しジョイと父の関係性も焦点をあてて欲しかったのですが、そこはボリュームとして入りきらずかな。でもジョイのキャラクター性は良かったですけどね。“クリストファー・ランドン”監督、前作『ザ・スイッチ』でもそうでしたが、クィアな包括性を入れ込むのがさりげなく上手く、今作でもジョイがケヴィンを男子トイレに引っ張って話し込むシーンで既に中にいた男子生徒が文句を言ったとき「あなたのくだらないジェンダー規範が?」とジョイが反論したり、アジア系ステレオタイプをぶち壊しつつ、ジェンダーへの意識も忘れないという両立をやってのけていました。
もしあなたの家に幽霊がいても優しくしてあげてください。引っ越しの寂しさを埋め合わせてくれる相手になってくれるかもしれませんよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 45% Audience 68%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『屋根裏のアーネスト』の感想でした。
We Have a Ghost (2023) [Japanese Review] 『屋根裏のアーネスト』考察・評価レビュー