ブロー・ザ・マン・ダウン
映画『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Blow the Man Down
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にAmazonビデオで配信
監督:ダニエル・クルーディ、ブリジット・サヴェージ・コール

ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定

あらすじ

メイン州の港町イースター・コーヴ。メアリー・ベスとプリシラの姉妹は母親の死を嘆き、不確かな将来に向き合っていたが、危険な男と恐ろしい揉め事を起こし、深刻な問題を抱え込むことになる。自分たちの犯した罪を隠すために、姉妹たちは場当たり的に行動するが、それは思わぬかたちでこの町の暗部の秘密を浮かび上がらせることになり…。

『ブロー・ザ・マン・ダウン』感想(ネタバレなし)

可哀想な映画たちを見てあげて…

映画館がどんどん休業してしまって観る映画がない!?

いや、ちょっと待ってください。これを機に知ってみませんか。何をかというと日本で劇場未公開のままビデオスルーされてしまっている映画たちのことを。最近は配信スルーですね。これらの映画たちは別に世間が緊急事態宣言でなくても映画館で上映するチャンスを得られなかった、本当に可哀想な映画たちなのです。

こんな酷いこともないですよ。なんていったって劇場未公開だと取り上げてくれる人がほとんどいないですからね。メディアも無視か扱いが極小で終わります。え、そんな映画があったの?…なんていう存在感の薄さになってしまいます。

でもだからといってこれらの不遇な映画がつまらない作品ばかりというわけではありません。むしろこれは年間ベスト級に突き刺さるんじゃないか?と思えるぐらいの名作・傑作が隠れていたりするのです。あなたが映画マニアならこれらの映画館に見放された映画も逃がさずにキャッチしてあげてください。そうすれば映画が救われます。

じゃあ、そういう映画はどこで見つかるの?との疑問もあるでしょうが、近年は「Amazonオリジナル」でそういう作品に出会える可能性が高めです。Netflixと違ってAmazonはなぜか自社のオリジナル作品をそこまでガンガン宣伝しない傾向にあり、人知れずひっそりとPrimeVideoで配信されているケースがあるのです。2019年も『ザ・レポート』『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』がそうでしたし、オリジナルではないけどここでしか見られない映画では『ホワイト・ボイス』がありました。もうちょっとアピールしてください…。

そして2020年もなかなかの傑作がサラッと放置されるように「Amazonオリジナル」として配信されていました。そのひとつが本作『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』です。

本作を傑作と断言する客観的な根拠として、映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では99%の批評家スコアを獲得していることがあげられます。別に全員が絶賛するわけではないですが、このスコアはなかなか叩き出せる数字ではありません。これだけでも映画ファンならばセンサーに引っかかるというものです。

『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』はインディーズ映画ですが、物語はとある港町で姉妹が罪を犯してしまい、そこからこの町の闇が見えてくるというクライムサスペンス。ただ、ずっしり重たい作品かというとそれ一辺倒でもなく、どことなく気が緩む雰囲気も持っているような独特の空気感。一番近いのは『ファーゴ』などでおなじみのコーエン兄弟の作品ですね。まあ、あれです、批評家が好きそうなタイプです。

監督は“ダニエル・クルーディ”“ブリジット・サヴェージ・コール”のコンビ。今までは短編やTVドラマシリーズの数エピソードを手がけただけで、本作で本格的な長編監督デビューのようです。それでいきなりの高評価なので、これは注目監督として良い船出じゃないでしょうか。

俳優陣は一般の知名度がある人はいないのですが、名演を保証する人が揃っています。主人公の姉妹のひとりを演じるのは“モーガン・セイラー”。『ホワイト・ガール』での演技が印象的。姉妹のもうひとりを演じるのは“ソフィー・ロウ”。オーストラリアの女優で、『Beautiful Kate』や『Blame』などの作品で活躍。


他には本作は脇役が非常に良い味を出しているのですが、その筆頭であるのが“マーゴ・マーティンデイル”です。最近だと『インスタント・ファミリー 本当の家族見つけました』で優しいおばあちゃん役でしたが、この『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』ではガラッと変わって…。加えて『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』の“ジューン・スキッブ”、『48時間』の“アネット・オトゥール”などなど。なんとなく察したかもしれませんが、この『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』、おばちゃん映画なのです。

約90分のコンパクトな作品なので家で暇な時間ができたときにすぐ観れます。不要不急の外出は必要ありません。たまには配信スルーになってしまった映画をまとめて鑑賞するのも良いですよ。

オススメ度のチェック
ひとり◎(隠れた良作をお見逃しなく)
友人◯(マニアな映画ファン同士で)
恋人◯(サスペンスが観たいなら)
キッズ△(大人のドラマです)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ブロー・ザ・マン・ダウン』感想(ネタバレあり)

人知れず追い込まれた若き姉妹

アメリカ合衆国の東の北の端っこにある州、メイン州。漁業がかつては州経済の主力だったこともあり、港町ではその名残もあるものの、すっかり寂れてしまった地域も少なくありません。

そんなメイン州の小さな漁師町、イースター・コーヴが舞台です。

暗澹とした空気の中、浜辺でひとりの若い女性が一点を見つめ、文章を覚えるように口にします。

「母が教えてくれたのは強い倫理観でした。メアリー・マーガレットは大きな笑い声と笑顔で…」

そこへ別の若い女性がやってきて隣に立ち、「ママに献杯しよう」と声をかけます。

プリシラ・コノリーメアリー・ベス・コノリーは姉妹。彼女たちをひとりで支えてきた母親は亡くなってしまい、今日はその葬儀です。スージー、ゲイル、ドリーンなど母とも顔なじみの住人たちは思い出話に花を咲かせる中、姉妹は当然ながら暗い顔。「家族を優先して良かったと思う時が来る」と言葉をかけられます。

この姉妹、実はこれからの将来について悩んでいました。母はコノリー魚店を切り盛りしてきたのですが、家を担保にするくらいに店は借金で苦しかったようで、今後どうすればいいのか見当もつきません。家を一番に考えてきたプリシラは八方塞がりです。一方、大学に行きたいメアリー・ベスは「私はここを出る」と言い放ち、軽く口論になったプリシラも「出ていけばいい」と突き放すのでした。

家に残って片づけをしていたプリシラ。ふと誰かが来た気配がして、玄関を開けるとドアの前に花が置いてあり、葬儀に来なかったミセス・デヴリン(エニッド・ノーラ・デヴリン)の後ろ姿がありました。

一方、メアリー・ベスはバーで出会った男、ゴースキーと意気投合。夜中に彼の車をかっ飛ばしてむしゃくしゃした苛立ちを解消。しかし、ふと今さらながらこの男はヤバいかもと察知。動揺してハンドル操作を誤り、そのへんにぶつけてしまいました。

とりあえずその場を車で立ち去ることにしますが、警戒心はさらに増します。停車し、トランクに血の付いたものが散乱しているのを見て、戦慄。ゴースキーは釣りだと言い、「落ち着けよ」となだめますが、そんな状況ではなし。揉み合いになり、メアリー・ベスは逃げます。といっても逃げ場があるような場所でもありません。漁業具が保管されているところで追っ手を出し抜き、不意を突くかたちで銛で豪快に串刺しに。殺ってしまった…と思ったらまだ生きており、追い打ちでそばにあったレンガで頭を強打し…

プリシラのもとに帰ってきたメアリー・ベス。血まみれです。

シャワーで血を落とすメアリー・ベスに対して、プリシラは自分の頭を整理するためにも状況を確認します。「正当防衛よね?」…でもどうやらレンガでとどめをさしたらしく、なんだか正当だと言えない感じも。メアリー・ベスも「わけがわからなくて…警察に電話するの?」と混乱。

プリシラは一旦警察に電話しかけるもすぐに切ってしまい、自分で“対処”することにしました。

遺体のもとに来た姉妹。無残な遺体の顔をみて尻込みするメアリー・ベス。励ますプリシラ(ここで交わされる「コールスロー食べたでしょ?」の“コールスロー”って何だろうなと思ったらサラダみたいなやつなんですね)。

クーラーボックスに遺体を入れようと二人がかりで無理に押し込めますが、明らかにサイズが大きい。でも今さら警察は呼べない。「腕を切り落とす気?」との気弱なツッコミに、プリシラは覚悟を決めました。遺体を大の字にして、コノリー魚店の刃物を手にするプリシラ。普段切っているのは魚。でも今回は…。意を決することに…。

作業を終え、満杯のボックスを引きずって運ぶ姉妹。それを岩場の崖から荒れる海に投げ入れて、この一件は終了しました。

いや、全然終了していませんでした。翌日、思わぬ事態に直面することに…。

ブロー・ザ・マン・ダウン

銛は正当防衛には向かない

『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』の物語、その発端は衝動的にやってしまった殺人です。しかも「銛で突き殺す」という漁村ならではのアクアマンもびっくりな豪快殺害。映像的なインパクトもさることながら、結果的に「あれって正当防衛…とは言えないかも…」という当事者の自信のなさにもつながってしまうという、ちょっと不謹慎な笑いを誘うシーンにもなっています。まあ、レンガで追い打ちしちゃったらね…。

本作はこんな感じで起こっていることは人生転落レベルの絶望さなのに、どことなくユーモアも混じったうえで映し出すのが、絶妙な味になっています。あの遺体隠滅の悪戦苦闘っぷりといい、「あれ、ナイフどうしたっけ?」というパニックっぷりといい、確かに“こんな行為”に慣れていない人間ならそうなるのも当然な話。魚を捌くのだって初心者は途方に暮れる…それと同じであの姉妹も初めての殺人にてんやわんやです。

そして案の定、遺体がすぐに見つかってしまいます。この警官のジャスティン・ブレナンを小型ボートに乗せることになったプリシラの、処刑宣告を待つような気まずさ。「ちょっと気持ち悪いと思うよ」なんてフォローされても内心では「うん、知ってる」ってなっているわけで、他人事な立場だと完全にギャグでしかありません。

ところが本作はここから思わぬ展開が。打ちあがった遺体は姉妹が殺した男ではなく、全然別の女性らしき人。あれ…?

そこから主人公姉妹は“わけわからん状態”に陥りつつ(ここも傍から見ると滑稽なのですが)、観客には裏の主人公的な登場人物が提示されていきます。

それがオーシャンビューという宿で実質的には売春宿として運営をしてきたエニッド・ノーラ・デヴリンと、遺体として見つかったディーの友人でもあり一緒に売春宿で働いていた女アレクシス

メアリー・ベスがゴースキーの小屋で偶然に見つけた大金をきっかけに、この表の主人公(姉妹)と裏の主人公(アレクシス)は直接的な対峙はほぼなく、でもクロスしていくことに。

そして最後のシーンで明らかになる事実。並んで歩く姉妹は、外でクーラーボックスを洗っているスージーを目撃。それは姉妹がゴースキーの遺体を入れたもので…。

何とも言えない余韻を残しながら、物語はここで幕を閉じていきます。

ユーモアとサスペンスとさらなる深み、それらが巧みにブレンドされた見事なプロットです。

田舎町で起こるフェミニズムの世代交代

あのラストを観てどう解釈するかは人それぞれですが、少なくとも私はあのシーンを持って「この町の本当の闇はあのおばちゃんたちだった!」なんていう、雑なオチの理解で終わらせるべきではないと思っています。

『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』ではさりげなくですがこの町の歴史が語られています。そこが何よりも重要です。

そもそもエニッドはなぜ売春宿を始めたのか? どうやら最初から風俗店的な立場ではなかったようです。かつては男たちが女たちを勝手に連れ込むようになり、治安が悪化した…と語られているとおり、このイースター・コーヴは暴力性を内包した男性社会が漫然と広がっていたことがわかります。そんな男社会に対抗すべく、せめて女性たちを対等な立場に保持させるために始まった売春宿。しかも、それは町の女性たちの暗黙の公認として行われていたということも薄っすらわかります。

つまりこの町の女性たちは昔から“連帯”をしていたんですね。

ところが現在、エニッドは暴走をしてしまいます。それに対しておばちゃんたちが議論するわけです。「エニッドは一線を超えた」「オーシャンビューは役目を終えた」…と。

確かにかつては売春宿の存在が女性の正義のためには必要だったけど、今ではその役割すら担えなくなっている。おそらく売春宿に関わっていた(そしてエニッドとは深い付き合いだったと思われる)姉妹の母がその事業から離れたのもその理由からなのでしょう。

一方でエニッドにも言いたいことはある。この売春宿を運営する責任をひとりで背負わされたことで人生が潰されたことへの恨み。作中で何度か「ミセスじゃなくてミスよ!」と自分がこの年齢でも独身であることを強調するセリフがありますが、そこからもエニッドの苦しみが伝わってきます。

そして新しい時代を迎えつつある今、その最前線に立とうとするのがあの姉妹とアレクシスの全く異なる境遇の二者。映画の最後、彼女たちは将来に向かって進みます。町を出る者も残る者もいるけど…。

こうやって振り返ると『ブロー・ザ・マン・ダウン 女たちの協定』は、ローカル・ノワールの枠の中でフェミニズムの世代交代を描いた一作だとも言えるのではないでしょうか。

エニッドは明らかに旧時代的な価値観から脱せない女。姉妹を自分の事業に誘うしかできない。若い女性たちにも「あんたたちはラクをしている」「甘やかされている」と言葉をぶつけるしかできずに…。もちろん本作はセックスワーカーを否定するものではないですが、でも今は違う未来だっていくらでも開けている。それを潰すなんてしてはいけない。エニッドの最期はとても切なく悲痛です。

対する他のスージー含むおばちゃんたちは新しい女性の未来の到来とそこに向かって不安を抱えながらも踏み出す若い女性を温かく見守っています。洗い物をしながら…。

本作はかなり女性が前面に出た作品で、こういう田舎ノワールだと珍しいです。普通は男性が前面に出がちですからね。逆に本作は男性が背景にいるだけなのが印象的。それこそ耳に残るあの歌を歌う漁師たちとか、あくまでも物語を引き立てる脇に立たせている。そこも本作の特異性だなと思います。

アメリカであろうが日本であろうが、どんな田舎の町であっても、そこには女がいて女たちの物語がある。知らないのは語られていないからというだけ。

まさに本作のタイトルどおり「Blow the Man Down」な物語がきっとあるに違いありません。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 99% Audience 79%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★

関連作品紹介

Amazonオリジナルの映画の感想記事の一覧です。

・『ザ・レポート』


・『ブリタニー・ランズ・ア・マラソン』


作品ポスター・画像 (C)Amazon Studios ブローザマンダウン