でもやりかたがわからない…ドラマシリーズ『インテリア・チャイナタウン』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にDisney+で配信
原案:チャールズ・ユー
恋愛描写
いんてりあちゃいなたうん
『インテリア・チャイナタウン』物語 簡単紹介
『インテリア・チャイナタウン』感想(ネタバレなし)
2024年もアジア系は声をあげる
2024年は、いや、2024年も、アジア系の作品がハリウッドで大きな注目を集めました。2024年の顔となったと言い切っても過言ではないドラマ『SHOGUN 将軍』はその威勢のいい象徴作です。
これだけの情勢をみると「アジア系を主題にした作品なんて一時のムーブメントでしょ?」という警戒的な見方も杞憂なんじゃないかと思わなくもないですけども、やっぱり安堵はできません。
それはやはり業界、そして社会におけるアジア系への差別や偏見というのは全く消えていないからです。
“ドナルド・トランプ”の1回目の大統領時代末期(コロナ禍の時期)はアジア系へのヘイトクライムが続発し、以降も上昇を続けました(加害者の75%以上は白人です;Victims & Offenders)。アジア系の人々に憎悪が向けられやすくなっていることが示唆されています。
だからこそ現地のアジア系の人たちは声を上げ続けます。作品でもそうです。作品にどう描かれるのかは現実のアジア系の存在にも影響します。王道のカッコいいアジア的な表象だけでなく、等身大のリアルなアジア系の姿がたくさん増えれば…。レプリゼンテーションもまた政治的抵抗の運動です。
今回紹介するドラマシリーズは、2024年の「アジア系を舐めるなよ」と言ってくれる代弁者となった作品でしょう。
それが本作『インテリア・チャイナタウン』。
本作は、“チャールズ・ユー”という台湾系アメリカ人の作家が2020年に書いた比較的新しい小説が原作となっており、今回のドラマ化でも“チャールズ・ユー”がショーランナーを務めています。
この物語がとにかく一風変わっています。ひと言で説明できないし、説明するとネタバレになるので、ややボカしながら語りますが…主人公はアメリカのチャイナタウンに暮らす平凡なアジア系の男。中華レストランでウェイターをしているという、本当にベタです(ベタなのにも理由がある)。そんな彼が、ある日、偶然に犯罪っぽい現場を目撃するところから始まります。それが自分の殻を打ち破り、想像を超える第一歩に繋がるとは本人もよく知らずに…。
う~ん、これだと魅力が全然伝わらないなぁ…。とにかく、あれです、本作はものすごくメタなストーリー構造を持っているタイプの作品です。
いわゆる「内面化された劣等感」と向き合う物語という、アジア系の人種的アイデンティティのストーリー・テーマとしては外せないものですが、すでにいくつもの作品が同様の題材に挑戦してきました。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ではマルチバースで打破し、ドラマ『BEEF ビーフ』では口喧嘩で突破し、『非常に残念なオトコ』では恋愛でこじらせ、ドラマ『アメリカン・ボーン・チャイニーズ 僕らの西遊記』では西遊記が青春を後押しし、ドラマ『Mr. & Mrs. スミス』ではスパイのジャンルでひっくり返す…。
『インテリア・チャイナタウン』は「そうきたかーっ!」という感じのエキセントリックなアイディアでアプローチしてきます。とりあえず1話1話で予想のつかない方向に転がりながら、アジア系の葛藤がギュっと凝縮された物語ですのでお楽しみに。
ドラマ化にあたって、あの“タイカ・ワイティティ”が製作総指揮を務めており、一部のエピソード監督もしています。
主人公を演じるのは、『ラブ・ハード』の香港系アメリカ人の“ジミー・O・ヤン”。堂々の代表作になりましたね。共演には、ドラマ『エージェント・オブ・シールド』で堂々の主演を務めた、父が中国人である”クロエ・ベネット”。他にもアジア系の俳優が揃っています。
ドラマ『インテリア・チャイナタウン』は日本では「Disney+(ディズニープラス)」で独占配信中で、全10話(1話あたり約40分)。目立たないドラマですけども、私はその目立たなさにこそ現実とシンクロする意義があると思います。
ネタバレ厳禁の内容なので、以下の後半の感想を読む前にぜひ鑑賞を!
『インテリア・チャイナタウン』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも観れなくはないですが、やや複雑なストーリーテリングです。 |
『インテリア・チャイナタウン』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
ウィリス・ウーはチャイナタウンのゴールデンパレスにある中華レストランのウェイターをしていました。この店の支配人は親戚のウォンです。今日も夜中に同僚のファティとゴミを捨てる片付けの真っ最中。ファティは店の片隅にあるアーケードゲームでサボってばかり。これもいつものこと。
その間、ウィリスは刑事ドラマのアバンにでてくる「死体を発見する」という役をやってみたいと熱烈に語ります。今の自分はまるでドラマのエキストラみたいで影が薄すぎると不満をこぼしながら…。
ひとりでまた路地裏にゴミを捨てに行くと、怯えるひとりの女性が黒い車に連れ去られる姿を目撃。一瞬の出来事でした。誘拐事件?
ウィリスは何もできません。兄なら違ったことをしたかもしれない…。ウィリスの兄は今は行方不明なのですが、カンフーの達人でした。
兄の誕生日は両親のもとに行きます。狭い部屋の住居で母リリーは手がかりのない状態に意気消沈していました。次は同じ建物の父の部屋に。父ジョーは部屋から出てきません。父は兄を溺愛していました。ウィリスのことは鍛えてくれませんでしたが、兄は弟のウィリスを信じていました。
別の日、レストランのテレビでおそらくウィリスが目撃したと思われる女性行方不明事件に関するポートハーバー警察署の記者会見が行われていました。そこで事件概要を説明しているのはラナ・リー刑事。アジア系の人が堂々と活躍している姿に思わず見惚れます。
自分だって目撃者なのだからもっと捜査に関われるのでは? でもやっぱり無理か…。気持ちが迷います。
しかし、悩んでいるとあのラナ刑事が店に来ます。完全にその姿にうっとりしてしまうウィリス。自分は変わろうと決心し、彼女に近づき、勇気を出して声をかけます。そして誘拐を目撃した話をします。とりあえず連絡先をゲットできました。
そして急にこの店が事件の舞台となりだしました。その後に店内でギャングの抗争が勃発。ウィリスはカンフーの練習の成果をだすときだと覚悟を決め、仲間たちとギャングに挑んでいきます。
しかし、勢いはよかったもののボコボコにされるだけでした。滅茶苦茶になった店内で落ち込むウィリス。いじけるしかできません。やっぱり何かやろうなんて張り切るべきではなかった…カッコ悪いだけだった…。
パーティで羽目を外して現実逃避していると、ラナに呼び出されます。なんとウィリスの兄が以前に捜査に関わっていたそうで協力を申し込まれます。
刑事の相棒のポジションになる…自分が? 考えてもみなかった人生のルートが始まりだすのでしたが…。
アジア系としてどこまでいける?
ここから『インテリア・チャイナタウン』のネタバレありの感想本文です。
『インテリア・チャイナタウン』は冒頭から観客にだけはこの世界観の前提が明らかになるタイプの見せ方をしてきます。つまり、このウィリスのいる世界は、フィクションのドラマ内(『ブラック&ホワイト』という刑事ドラマ)であり、ウィリスたちはドラマ内の無数の登場人物のひとりにすぎません。超常現象的な何かの力が働いている空間で、大多数の人たちはそのことを自覚もしていません。
同様の似たような設定の作品はいくらでもありますが、本作が面白いのは人種的アイデンティティ、要するにアジア系の人が置かれている状況を風刺していること。
主人公のウィリスは、チャイナタウンの中華レストランでウェイターをしているアジア系という、頭から足の先まで全部がベタすぎるアジア系表象です。
そんな彼がラナ刑事の相棒として捜査に協力しようとするのですが、介入ができません。当初は警察署にすら謎の力で入れず、ドラマの主役であるグリーン刑事とターナー刑事には認識すらされず、画面に映らないか、映っても背景に佇んでいるだけ。笑うしかないくらい酷い扱いですが、アジア系なんてそんなものという痛烈な自虐…。
どうすればいいんだ?という八方塞がりなのですけども、ここから本作は異色の「潜入モノ」になっていきます。犯罪組織に潜り込むとかではなく、物語の本編に潜り込む「潜入モノ」です。
そのために、まずは料理のデリバリースタッフから始め、テックガイ(IT担当)となって行動範囲を広げ、通訳として取り調べに参加する…。アジア系なら起用されそうな「役」を順々に手探りでステップアップするように警察内部に潜入していきます。この過程がユーモアもありつつ、今までにないサスペンスがありました。アジア系としてどこまでやれるかを試される緊張感といいますか、でもこれって現実のアジア系の俳優志望の人たちが長年にわたって経験してきたことなんですよね。
そして第6話のラストで、ウィリスは刑事たちに本音を吐露し、「見知らぬ脇役」から殻を破ります。第7話の刑事ドラマのオープニングは変化し、ウィリスもメインの出演者に昇格。そのエピソードの最後では「俺の物語の始まりだ」と覚悟を決めたウィリスがパトカーを自分で運転し始める…。この流れだけでカタルシスがありますよ。ついにここまでこれたよ、おめでとう!…って感じで。
兄のジョナサン(ジョニー)はカンフーガイというステレオタイプな役どまりだったことを踏まえれば、ウィリスの成し遂げたことは偉業で、感動します。まるでずっと応援してきた俳優が初めて主演を勝ち取った瞬間に立ち会えた興奮のようで…。
支配下での「成功」…それでいいの?
しかし『インテリア・チャイナタウン』はここで終わりにしません。あそこで終わっていても気持ちはいいかもしれませんが、その先にまだ批評を続ける。ここが本作の真面目さだと思います。
第8話ではウィリスは完全にスターとして大人気になっており、CM撮影の仕事もバンバン入ってくるほどに大忙し(作中では本人はCMと認識できない曖昧な境界にいますが)。アメリカンドリームを達成した存在としてキャリアの頂点を謳歌しています。でも「本当にこれがアジア系としての幸せですか?」と本作は問いかけてきます。
不可視化されてきた存在のモデル・マイノリティの神話を見事に看破する展開でした。
ウィリスの母と父のサイド・エピソードも良かったですね。大切なものを捨ててまで手にする成功に何の価値があるのかと…。
最終的に家族の歴史と向き合い、自分の未来を自分なりに模索することに決めます。兄の真相(本当にマクダナーを殺害した後に船で逃走して沈没死したのか)を明らかにし、この世界の秘密を暴かないと本当の意味で始まりません。
はい…で、ネタバレしますが、この世界は「HBWC」という巨大エンターテインメント企業の支配下にあるようで、どうやら全部を監視し、コントロールしていることが明らかになります。ウォンが関与しているコンテナの件も、まるで不法移民の手助けのようでしたが、実際はこの世界で死んだ人は記憶を失って転生し、再利用されるらしいのでした。まさにコンテンツ扱いですね(コンテナとひっかけた言葉遊び)。
ちなみに「HBWC」は「フールー・ブラック・ホワイト・コーポレーション」の略と言及されており、本作がアメリカ本国では「Hulu」で配信されていることへの小ネタです。つまるところ…諸悪の根源の敵はディズニーだな…。
ここからの第9話と最終話の第10話は、怒涛の伏線回収の連続です。またウェイターに戻ってレストランに潜入する原点回帰、そこからのアーケードゲームをヒントにしたバグ技のような裏技で最後は世界からの脱出を図ったり、アツい展開にハラハラさせられます。
ラストのラスト、オチも皮肉が効いていました。ウィリスとラナが目覚めたのは「放送内容審査部」。それもまた画面に映ることであの世界もまだフィクションとして支配されていることを匂わせつつ、でも当事者がよりクリエイティブな権限に近づきつつある…。
『トゥルーマン・ショー』のアジア系版という簡単な人種の置き換えではなく、その業界構造まで網羅して余すところなく風刺しきり、現実に「どうするんだ!?」と突きつける。まさに今のアジア系を代弁するドラマシリーズでした。
向こう側でこちらを見つめている連中…つまり「私たち」がどうするかです。ただ、動画配信サービスに登録して、「再生」をタップしているだけでいいのでしょうか。もっと刺激的な選択肢があるかもしれませんよ。そうしたら別の世界が意外なところにあると気付けるのかもしれません。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)Disney インテリアチャイナタウン
以上、『インテリア・チャイナタウン』の感想でした。
Interior Chinatown (2024) [Japanese Review] 『インテリア・チャイナタウン』考察・評価レビュー
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