今回の真相は?…「Apple TV+」ドラマシリーズ『推定無罪』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
シーズン1:2024年にApple TV+で配信
原案:デビッド・E・ケリー
性描写 恋愛描写
すいていむざい
『推定無罪』物語 簡単紹介
『推定無罪』感想(ネタバレなし)
推定無罪の意味を突きつける
「無罪推定の原則」…「推定無罪」とも呼ばれていますが、これは「いかなる犯罪で告発された人も有罪が証明されるまでは無罪とみなされる」という法的な原則のことで、国際人権規約にも明記されている基本的な人権です。
正直、この「推定無罪」という言葉はネット上では乱雑に使われすぎているところがあって、何らかの疑われる出来事に対して相手を論破したいときの格好の概念になり果ててしまっているのですが…。
本来は刑事法における検察を中心とする国家権力を諌める重要性があります。絶大な権力を持つ警察関係機関はその気になれば庶民をいくらでも「犯罪者」にして自由の権利を奪えてしまいます。そんな横暴が起きないようにするための「推定無罪」です。要は「検察はちゃんと仕事しろよ」ってことです。
検察の仕事は本当に大事です。いい加減に仕事すれば、無罪の人を有罪にしてしまったり、有罪の人を無罪にしてしまったりします。下手すれば起訴すらできないかもしれませんし、逆に無実の人を死刑にしてしまうかもしれません。だからこそ立証責任を負います。
今回紹介するドラマシリーズは、まさにその立証責任の本質を突きつけていくような緊張感のある法廷劇(リーガル・サスペンス)です。
それが本作『推定無罪』。
本作はアメリカの小説家である“スコット・トゥロー”が1987年に執筆した『推定無罪(Presumed Innocent)』を原作としています。“スコット・トゥロー”自身が元検事補で現役の弁護士であり、法曹界を知り尽くしている人物ということで、この小説『推定無罪』も非常にリアリティのある物語が高評価となりました。
この小説は1990年に『推定無罪』というそのままなタイトルで映画化され、”ハリソン・フォード”主演で、当時は大ヒットしました。
その原作を今度はあらためてドラマシリーズ化したのが本作です。タイトルが全く同じなので区別しづらいのですけども、とりあえず「Apple TV+」で独占配信されているので、Apple版ドラマと呼んでおきましょうか。
Apple版ドラマ『推定無罪』も基本は同じで、主人公は首席検事補の男。ある身近に起きた事件が、主人公のキャリアも家族も揺るがしていくことになります。
ただ、小説や映画のオチも知っている人にも朗報。今回のApple版ドラマ『推定無罪』は展開が細部で変わっています。それが最終的にどう結末に影響するのかは、実際に鑑賞して確かめてください。とにかく原作の物語がわかっている人でも新鮮に楽しめるでしょう。
今回はシーズン1で全8話(1話あたり約40~50分)のボリュームになっているので、物語にたっぷり入り込めます。だからこそキャラクターの感情にこちらも翻弄されていき、ハマりやすさは映画以上かもしれません。
Apple版ドラマ『推定無罪』のショーランナーは、ドラマ『リンカーン弁護士』や『ラブ&デス』の”デビッド・E・ケリー”。
主人公を熱演するのは、最近も『コヴェナント/約束の救出』や『ロードハウス/孤独の街』と多彩に魅力を振りまく”ジェイク・ギレンホール”(ジェイク・ジレンホール)。意外ですが、テレビドラマで本格的に主演するのはこれが初なんですね。今作の”ジェイク・ギレンホール”もめちゃくちゃいい演技してます。私は『ナイトクローラー』や『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のように、胡散臭い男を演じる”ジェイク・ギレンホール”が大好きなんですけど、今回の”ジェイク・ギレンホール”はドンピシャでした。
共演は、主人公の妻の役で『PASSING 白い黒人』の“ルース・ネッガ”、気の知れた上司の役で『ボストン・キラー 消えた絞殺魔』の“ビル・キャンプ”、ライバル検事補の役でドラマ『インテロゲーション:尋問~殺意の真相~』の“ピーター・サースガード”など。
他には、ドラマ『ファーストレディ』の”O・T・ファグベンル”、『わたしは最悪。』の“レナーテ・レインスヴェ”、『The Harbinger』の“ギャビー・ビーンズ”、本作で本格的なデビューとなる“チェイス・インフィニティ”、”キングストン・ルミ・サウスウィック”などです。
今、面白い法廷劇を観たい!と思ったら、真っ先にまずはこのApple版ドラマ『推定無罪』に手をつけましょう。
なお、後半の感想では、小説や映画版のネタバレもしているので、留意してください。
『推定無罪』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :じっくり物語を堪能 |
友人 | :法廷劇好き同士で |
恋人 | :少し重い展開だけど |
キッズ | :大人のドラマです |
『推定無罪』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
検察官のラスティ・サビッチは陪審員に堂々と語ります。
「被告人に対して彼は現時点では無罪と言えます。憲法でそう定められています。被告人が有罪だという証拠をお見せします。疑わしいという程度なら無罪に投じてください。おそらく犯人だと思っても彼を自由にしてください。私の仕事は間違いなく犯人だと示すこと。立証責任を果たします」
首席検事補として順調なキャリアを歩んでいるラスティは、シカゴの邸宅で15歳の息子のカイルと野球をしていました。妻のバーバラと娘のジェイデンも庭でのんびりしています。
すると上司であるレイモンド・ホーガンから電話。でた瞬間に耳を疑う知らせに表情が凍ります。同僚のキャロリン・ポルヒーマスが殺害されたとのことでした。
車で現場に向かう途中も動揺を隠せません。すでに警察は殺害現場の捜査にあたっていました。家にあったのは両手足を縛られた無惨な遺体。
葬儀が行われ、元夫ダルトン・コールドウェルと息子マイケルが参列しているのを目にします。ラスティは息子がいるとは知りませんでした。ニコ・デラ・ガーディアと地方検事選挙でライバル関係にあるレイモンドは焦っていました。ニコもさりげなく選挙キャンペーンでこの事件を取り上げてレイモンドを非難します。
この事件はラスティが担当することになり、リゴ(ロドリゲス)刑事に過去の担当事件を調べさせます。ラスティはキャロリンが過去に担当した事件の関係者の犯行を疑っていました。
とくにバニー・デイヴィスという女性が殺された事件と関連が疑わしいです。何よりも遺体の縛り方が全く同じです。もともと仲の悪い監察医のクマガイのもとへ行くと、鈍的外傷があり、性暴力の痕跡や防御創はないということはわかりました。バニー事件で逮捕されて有罪となったのがリアム・レイノルズ。キャロリンがレイノルズを有罪として立証しました。
現在、刑務所で終身刑で服役しているレイノルズに独断で会いに行きます。レイノルズもキャロリンを憎んでいるようですが、しかし、刑務所から殺人はできません。別の真犯人が今回の事件を起こしたのか…。手がかりは一向に見つかりません。
そんな中、ラスティとキャリア争いで負けていた検察官のトミー・モルトは公然とラスティを批判し、ラスティの仕事に不満をぶちまけます。トミーはニコと組んでおり、何か考えがあるようです。
ニコは予備選で当選し、首席検事補はトミーになりました。こうしてキャロリンの事件もトミーの担当になります。
そしてトミーはあることを訊ねてきます。実はラスティは過去にキャロリンと不倫関係にありました。これはラスティの妻であるバーバラも知っています。しかし、寝室でラスティの指紋がでたとトミーは語り、あの事件の日まで恋愛関係にあったのか?と質問します。
はぐらかすラスティにトミーはさらに告げます。キャロリンは妊娠していたことがわかった、と…。
シーズン1:男らしい筋書き
ここから『推定無罪』のネタバレありの感想本文です。
全話でヒリつくような緊張感が充満し続けるApple版ドラマ『推定無罪』。ダレることなく、毎話でクリフハンガーを用意しており、一気に見てしまう面白さでした。
そんなApple版ドラマ『推定無罪』は原作や映画版とは大きく異なっている部分がいくつかあります。そのひとつが、殺害されるキャロリンの職場での言動です。
原作では、キャロリンはラスティだけでなく、かなり手広くいろいろな業界関係の”上”の男たちと性的関係を持っていたことが判明し、その動機も「キャリアを手にするため」という狙いでした。これは非常に女性差別的なキャラクター設定であり、「女は仕事欲しさに男とすぐ寝る」というステレオタイプそのものです。
一方、Apple版ドラマはキャロリンがラスティと性的関係にあったのは事実ですが、ラスティのほうから関係を求め続けられていて、どちらかというと不適切な関係を要求する上司のせいでストーカー被害者になっているという立ち位置になっています。さらにトミー・モルトからもしつこく迫られていたようで、2人の男に振り回されながらの苦痛な職場だったことがしだいに浮かび上がってきます。
キャロリンもバニー殺害事件で証拠を隠滅してレイノルズを強引に有罪にさせた疑惑が浮上するので、完全な善人ではありませんが、男性関係においては被害者です。職場内の男の醜い争いに巻き込まれ、かといって仕事も投げ出せずにヘトヘトになる女性は、まあ、いますよね。
本作は「ラスティvsトミー」もしくは「レイモンド・ホーガンvsニコ・デラ・ガーディア」といった具合に(あとクマガイとかも参戦する)、職場における男たちの意地の張り合いがいかに有害なのかを徹底的に突きつけます。司法という正義のベールの下に繰り広げられる男らしさの衝突が、真実の立証という本来の司法の役目を損害させる…。
トミーはキャリアも女性も手にできなかったことを劣等感としており、その屈辱を晴らすべく、今回のラスティ容疑を有罪へと突き進めようとします。ニコ(それにしてもあのねっとり口調はなんなんだ)さえもそのトミーの承認欲求の執着性にちょっとドン引きしてましたからね…。
ラスティはキャリアは順調なのにそれ以上のものを求めようとし過ぎる欲深さがあり、それがどんどん破滅を招きます。終盤では自分が被告人で弁護人で証人にもなるというめちゃくちゃな戦法にでるのですが、「妻も子どもも裏切った」と己の愚かさを認めつつ、一見すると良い人間であるかに思えますが、ラストの真相判明で実はこれは自己保身のイメージ・クリーンアップの禁じ手だとわかり…。
作中でマイア・ウィンズローが「裁判ではより良い筋書きを提示したほうが勝つ」と言っていましたが、ラスティもトミーも彼らが提示する筋書きは「自分をより男らしくみせる」ということに力点があるんですね。虚しい、虚しすぎる男たちです…。
シーズン1:結局何もわかっていない
Apple版ドラマ『推定無罪』の、もうひとつの原作や映画版とは異なっているデカい部分。それが事件の犯人。
原作では、ラスティの妻であるバーバラがキャロリン殺害の犯人でした。本作では、ラスティはバーバラが犯人だと当初から確信しており、遺体発見後に遺体を縛って事件を偽装し、芝居をうったことがわかります。「推定無罪」という原則を利用し、「殺人を犯していないラスティが疑われる」ことで、バーバラを疑いから守り、ラスティ自身の献身性もアピールできる…。これが「単なる浮気を複雑な問題に見せかけている」からくりです。
ところがラスティの目論見は外れました。今作の犯人はなんと娘のジェイデンでした。
と言っても原作読者なら予想ついたかもしれません。ジェイデンは本作オリジナルのキャラであり、意味もなく新キャラを登場させるわけはありません。伏線もあり、息子のカイルが浮気を知っていたと判明した際、「じゃあ、ジェイデンは?」と疑問が呈されるのですけど、うやむやになっていました。
この真犯人については視聴者を驚かせる意外性ありきの設定とも言えます。夫は妻を疑っても、親は子を疑わないという、皮肉な視点かもしれません。
ただ、物語の効果としては、とてもラスティを突き放した後味になっていますね。要するに、自分は優秀だと自負するラスティは結局は何もわかっていなかったのですから。
キャロリンの心の苦しみも、あえてバーテンダーのクリフトンと浮気をしてみせたバーバラの空虚な抵抗も、ジェイデンの辛さも…。家長は全く見抜けていない。自分は自分をコントロールできる、あのときはちょっとやりすぎてしまっただけ、家族のことは誰よりもわかっている…そういう自信過剰をラスティは抱えたまま。
でもどうでしょうか。全てが終わった後のラスティは自分の知らない世界が身近にあることにどこか困惑している…そんな雰囲気にもみえました。
法廷劇というのは、観客を陪審員側と一体にさせることが多いですが、今作は共犯者にしてしまいます。少なくとも「知ってしまった者」として私たちを放置します。
いかなる犯罪で告発された人も有罪が証明されるまでは無罪とみなされる…真実を知っていても無罪のまま…。原作以上に嫌な空気で幕を閉じました。
Apple版ドラマ『推定無罪』はシーズン2もあるらしいので(原作の続編である『Innocent』を基にするのかな)、この改変がどう次に繋がっていくのかも楽しみです。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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法廷劇を描いた作品の感想記事です。
・『眠りの地』
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作品ポスター・画像 (C)Apple
以上、『推定無罪』の感想でした。
Presumed Innocent (2024) [Japanese Review] 『推定無罪』考察・評価レビュー
#ジェイクギレンホール #法廷劇 #夫婦