ジョンベネ殺害事件の謎
Netflix映画『ジョンベネ殺害事件の謎』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Casting JonBenet 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年 
日本では劇場未公開:2017年にNetflixで配信 
監督:キティー・グリーン 

【個人的評価】
 星 7/10 ★★★★★★★

あらすじ

1996年12月26日、アメリカのコロラド州、ボルダーで当時6歳の少女が誘拐されて殺害される事件が起きたが、世間の強い関心にも関わらず、未解決のまま時が過ぎていった。そんな事件をドラマ化する企画で、オーディションに参加した地元出身の人々の推測を織り交ぜつつ、謎に迫っていく。

奇妙な事件はドキュメンタリーも奇妙

この感想記事のサブタイトルを見て何事かと思って閲覧している人がいるかもしれないので、まず最初に言っておかねば…。

サブタイトルのあれは、Netflix製作ドキュメンタリー『ジョンベネ殺害事件の謎』に登場するセリフなんです。間違っても私の意見ではありませんから、ね。

本作『ジョンベネ殺害事件の謎』はその名のとおり、「ジョンベネ殺害事件」と呼ばれる少女殺害事件を扱ったドキュメンタリーです。この事件、アメリカはもちろん日本のワイドショーなどでも幾度となく取り上げられているので知っている人も一定数いるかもしれません。

簡単に事件の概要をおさらいしておくと、事件は1996年のアメリカのコロラド州・ボルダーに暮らすラムジー家で起こりました。家族でクリスマスパーティーを楽しんだ翌日の12月26日の朝、母・パトリシア(パッツィー)から「私の娘のジョンベネが誘拐された」との電話が警察に入ります。父・ジョンは自宅で犯人からの物と思われる手書きで合計3枚の脅迫状を発見、そこには「警察に連絡したら娘を殺す。金を用意しろ」などと書かれていました。家の中を捜索した結果、地下室でジョンベネの遺体が発見されます。ジョンベネの遺体は、口がガムテープで塞がれ、首に紐で縛った痕、頭部に打撲傷があり、手のひらにはハートマークが記されていたという、謎めいた状態でした。

被害者のジョンベネが美少女コンテストの常連なほど可愛らしい少女だったことや、家族が裕福な家庭だったこともあり、マスコミは大きく報道。さらに家族の犯行説が挙がりだし、世間は大騒ぎとなります。

しかし、警察が現場保存をしっかりしていなかった等もろもろの理由で、確かな証拠は何も見つからず、紆余曲折あって2017年現在も未解決のままです。それでも、今なお世間の関心は非常に強く、2016年のアメリカの検証番組では「兄が犯人である」と結論付けられていました。

そんなほじくり返されまくった事件について今さらドキュメンタリー映画を作って意味があるのか? 確かに本作『ジョンベネ殺害事件の謎』には、新事実が明らかになるなんていうサプライズは全くないです。それどころか、情報の整理や検証さえもしていません。

では、何をしているのかというと、ここが本作の肝でありユニークな点ですが、事件の再現ドラマを“しようとしている”役者陣にスポットをあてているのです。この役者は地元出身の人から選ばれており、事件についても関心が強く、犯人はああだこうだと自論を語ります。当然、誰も真実は知らないんですが。映画では、事件について役者が自分の推察を語るシーンと、事件の再現演技をしているシーンが交互に流れていくだけ。でも、これが非常に上手くドキュメンタリーとして機能しているから面白い。

詳しい感想は後半に書くとして、私は本作のこのアプローチを見て「この手があったか!」と関心してしまいました。

全く普通ではない犯罪事件ドキュメンタリー、ぜひ一度ご鑑賞あれ。






↓ここからネタバレが含まれます↓





あえて客観的じゃないことに意味がある

普通、犯罪事件を扱ったドキュメンタリーというのは、事件の経緯や捜査の過程、人間関係などあらゆる情報をわかりやすく整理して、犯行の動機や世間の影響を語っていくもの。客観性が大事です。

ところが、観てのとおり、本作には客観性なんて皆無です。

事件の再現ドラマとして、事件に関係ある父・母・兄・警察署長・ほか多数の登場人物を演じるために集った地元出身の人間たちが、本当に思い思いに事件の自論をしゃべるだけ。父犯行説、母犯行説、兄犯行説、変質者犯行説、サンタ犯行説…と、推察する犯人はてんでばらばら。殺害動機も、嫉妬、しつけの暴走、兄妹喧嘩の末の悲劇、親による性的虐待、児童ポルノ、偶発的事故…と、これまた甲論乙駁。あまりにも好き勝手言っているもんだから、滑稽にも見えてきます。このへんはポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』という韓国映画みたいだなと思ったりしました。

↑こちらも実際の未解決事件を基にした、犯罪ドラマ。

でも、実際に凶悪事件が起きたとき、私たちもTVや新聞の報道もしくはネットを見て、本作の役者として集められた人たちと同じように好き勝手に自論を語っていると思いますから、同類です。そう、彼ら彼女らの姿は犯罪事件に騒ぐ世間を代表したものといえます。

つまり、本作がドキュメントしているのは「事件」ではなく、反応や世相など「事件をとりまく世界」なんですね。

ロール・プレイング

この“役者陣”の自論の根拠は人それぞれ。共通していることは確かな物証は何もなく、あくまで推理にすぎないという点。しかし、皆、決してふざけているわけでなく、自分なりの確固たる理由を元に犯人を推察していました。それはときに自分の人生経験を踏まえているのが印象的です。しつけのストレスで殺してしまったというのはわかるとか、兄をかばった親の気持ちは理解できなくもないとか。

ここで本作のさらなる面白さとなるのが、そんな彼ら彼女らが演技をすることです。その演技の中でも自論が補強されたり、逆に揺らいだりします。母が犯人に決まっているという女性が母親役を演じ、やっぱりこんな白々しいセリフを言うなんて正気の沙汰じゃないと憤ったり。はたまた、会見する夫婦を演じてみて、男女間の考え方の違いが浮き彫りになったり。こういう事件を演技で再現させるといえば、インドネシアでの歴史的虐殺事件の加害者に再現演技をしてもらうという衝撃のドキュメンタリー『アクト・オブ・キリング』に近いものがあります。本作の場合は第3者が加害者かもしれない人間を演じているのですが。いや、でも、もしかしたら…もしかしたらですけど、あの役者として集った地元の人たちの中に真犯人がいる可能性もゼロじゃない…かな?

↑加害者が残忍な虐殺を喜々として演じる衝撃作。

ラストの各々の役者が演じるいろいろなラムジー家の姿が一堂に会するシーンは、この迷宮入りした事件が完全にフィクションに落ちてしまったという一種の切なささえ感じる、深みを映像ひとつで表現していて良かったです。ああ、もうこの事件の真実は誰にもわからないんだ…そんな気分になって映画は終わりました。

ジョンベネ殺害事件の謎

本作はとてもユニークで挑戦的なドキュメンタリーなんですが、苦言もなくはないです。意図的とはいえ、やっぱり登場人物が多すぎてわかりにくいし、リアルとフィクションの境界が非常に曖昧なタイプの構成なので、どこまで真に受ければいいか戸惑いますよね。

そして、一番の問題は、あいつですよ、「セックスの講師」。あの男は、仕込み…じゃないの? SMプレイの道具の説明をし出すあたりは、もうカオスです。一応、彼も彼なりに推理してましたが…。

まあ、ともあれ、本作は今なお論争される未解決事件という扱いの難しい題材に対して、これ以上ないトリッキーな手段で攻めた画期的な作品でしょう。犯罪事件を題材にしたNetflixドキュメンタリー『テキサスタワー』は、50年以上も前の銃乱射事件をロトスコープで再現するというトリッキーさが魅力でしたが、今はこういう変化球が流行っているのでしょうか。

今後もNetflixドキュメンタリーが楽しみです。