クレイジー・リッチ!
映画『クレイジー・リッチ!』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Crazy Rich Asians
製作国:アメリカ
製作年:2018年
日本公開日:2018年9月28日
監督:ジョン・M・チュウ

Plot Summary

ニューヨークで働くレイチェルは、親友の結婚式に出席する恋人のニックとともにシンガポールへと向かった。初めてのアジア旅行への期待と、初めてニックの家族会うことの緊張感を感じていたレイチェルだったが、その異国の地でニックのとんでもない正体を知る。

ネタバレなし感想

言い訳が通用しなくなった2018年

「う~ん、君の言いたいことはわかるけど、これはビジネスでもあるからね。利益を出さないと。綺麗ごとだけじゃやっていけないんだよ」

そんな言葉を言われながら喉まで出かけた思いをグッと飲み込み直して働き生きている人はきっとこの世にたくさんいると思います。

ハリウッド映画界でも同じセリフがお約束のように使われてきました。それはキャスティングのときの話です。ハリウッドでは昔から「白人を主人公にしないと売れない」という考えが固定観念として常識化していました。なので仮に原作や史実が非白人だとしても強引に白人に置き換えて映画化するのが一般的でした。しかし、最近は多様性を求める声の高まりを受け、ポリコレや雇用機会均等の観点からそれを止めようという流れも強まっています。それでもやっぱり「白人を主人公にしないと…」という思考は消えません。「ビジネスとしては白人じゃないとヒットしないから…」その言葉を繰り返すばかり。

ところが、2018年。その言い訳が通用しない事態が起きました。マーベルのアメコミ映画『ブラックパンサー』です。主人公を含むほとんどのキャストは黒人、製作チームも黒人を多数そろえて、徹底した意欲作となったこの映画は、配給のディズニーさえも驚く特大ヒットをアメリカで記録。社会現象を巻き起こしました。
『ブラックパンサー』感想(ネタバレ)…アメリカ映画に革命を起こせるか
これだけでもとてつもない大事件なのですが、「いや、あれはアメコミ映画だからでしょ?」というようにまだまだ疑り深い人もいて…。しかし、2018年は凄かった…それに続けとさらなるインパクトを起こす映画が現れました。それが本作『クレイジー・リッチ!』です。

本作は、オールアジア人キャスト&製作チームもアジア人という異色のハリウッド映画。普通では絶対に企画が通りません。実際、大手の映画会社は「主人公を白人に変えない?」と案の定要求したりしたそうですが、製作陣はそれを頑として拒否。Netflixからの好条件も「劇場公開で成功させてみせる」というアツい想いでお断り。並々ならぬ覚悟で臨んだ映画でした。

結果はまさかまさかの大ヒット。週末興行収入ランキング初登場1位を記録し、文句なしの商業的成功をおさめました。この製作にまつわるエピソードだけでも映画化できそうです。

この『ブラックパンサー』と『クレイジー・リッチ!』の一件からわかることはつまり、ホワイトウォッシングをビジネスを理由に正当化はできないと証明されたことになります。むしろ、安易に白人に変えてしまうような判断はビジネスセンスの無さをさらすようなものです。これからはホワイトウォッシングはポリコレや雇用機会均等だけでなく、ビジネスの観点からも悪手だと言われるようになるでしょう。

本作には批判もあって、例えばキャスティングについて、メインの男性キャラが中国系シンガポール人なのにそれを演じた“ヘンリー・ゴールディング”はマレーシア系イギリス人なのはオカシイ…というアジアでも人種の不一致があることを指摘する声もあります。日本からは“ソノヤ・ミズノ”が出演しており、同じような非難のまとにもなりました。ただ、こういう批判がでるだけ、ひとつの大きな進歩だと私は思うのでポジティブに考えれば良いと思うのです。今まで「マッド・デイモン、万里の長城にフラッと出現!」「スカーレット・ヨハンソンの姿である理由付けを考えておきました!」みたいな時代よりははるかに改善ですよ。また、この批判は行き過ぎると純血主義になりかねないので、ほどほどに抑えるべきだと思いますが…(本作の舞台となったシンガポールは色々な人種の人で構成されていますし)。

「いや、アジア人がメインキャストのハリウッド映画は他にも以前にあったのでは?」という声もありますが、確かに『SAYURI』などいくつかありました。でも、たいていは非アジア人である欧米の客層が彼らの考えるエキゾチックでワンダーなアジアを楽しむだけのモノなんですよね。私たちアジア人は、白人中心の欧米が作る「アジアってこれだろ!?」というドヤ顔の勘違いを、死んだ魚の目をしながら「うん、そうですね」と愛想笑いを浮かべるしかなかったわけです。当人であるアジア層がガッツリ楽しめる、もっといえば「よくぞやってくれた!」と手を叩けるアジアを題材にしたエンタメ作品は『クレイジー・リッチ!』が初ではないでしょうか。

ということで、そんな時代の転換点に名を刻んだ『クレイジー・リッチ!』。観ないわけにはいきませんし、同じアジア人である日本人としても必見なのは言うまでもなく…。

幸いなことに中身は「ラブコメ」という王道のジャンルなので入りやすいです。お話も、ある女性のヒロインが付き合うことになった男性が実は超大金持ちで、どんどんその未知の世界に引っ張られていきつつ、さあ、どうしよう!?…という典型的な「ハーレクイン」と呼ばれるタイプ。少女漫画好きはすんなりOKなノリでしょう。

だからといって軽い作品なのかと言われると、実はそうでもない事情がバックグラウンドにはあったりして…。そんな話は“ネタバレあり感想”で書きたいと思います。

とにかく久々に(いや、初めてか?)、自分がアジア人であることを誇りたくなるような映画に出会えました。

予告動画







↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

スーパーじゃなくてクレイジー

中国系アメリカ人であり移民2世としてニューヨークで暮らすレイチェル・チューは、ミドルクラスの貧しくもなく裕福でもない「ザ・平凡」な人生を送る女性。そんな彼女にはニック・ヤングというシンガポール出身のイケメンなボーイフレンドがいて、順調な交際が続いていました。ここで重要なのはレイチェルがニューヨーク大学で経済学科の教授をしているという、かなり学のある設定だということ。なのにニックの経済事情に全然気づいていないのが皮肉になってくるのですが…。

そのニックの友人でシンガポールにいるコリンの結婚式に招待されたレイチェルは、ニックの家族にも会えるのでドキドキ。アジア系ではあるものの、アメリカしか知らないレイチェルにとって、シンガポールなんて未知の土地。この感覚は移民2世じゃないとわからないのでしょうね…。

そしていざシンガポールへ向かうために飛行機へ。手慣れたニックに付いていくと、その飛行機ではファーストクラス待遇。しかも、あれです。ちょっと座席が広いですとか、そういうレベルじゃないやつ。ガチの超VIP待遇。もうこの時点で若干どう反応すればいいのかもわからず浮いているレイチェルでしたが、ニックは“スーパーリッチ”なのかもと感じつつも、まだ本当の真実を知らないのでした。

シンガポールに到着すると、ホーカーセンターで食べ歩きしたりと、いかにも普通の観光客っぽい時間を満喫。さっきの飛行機ショックなんて忘れて、まあ、海外だし、少しくらい贅沢もいいか!みたいなノリです。続いて、レイチェルの大学時代の友人でシンガポールにいるペク・リンの一家のもとを訪れると、そこは豪邸。豪華絢爛な生活に驚きますが、これでもまだ前振りに過ぎません。ここから真打登場。ニックの一家の“クレイジー・リッチ”っぷりが溢れんばかりに展開されます。

ここからずっと続く“クレイジー・リッチ”映像が映画映えして非常に楽しい。これに尽きますね。バチェロレッテ・パーティーやバチェラー・パーティーですら規格外で、なんかバズーカロケット花火撃ったり、よくわからんがとにかく愉快だからいいや!…そういうノリ。この行き過ぎた金持ちの道楽は、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などしばしば映画のネタになりますが、基本、老若男女人種問わず理解できる題材なので、だからこそ本作がヒットしやすい要因にもなったのでしょう。監督の“ジョン・M・チュウ”は、『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』などリアリティを度外視した絵的な派手さを見せる映画が得意な人ですから、本作にぴったりだったと思います。

この後は凡人レイチェルがニックのこの真の姿とどう折り合いをつけるかの話であり、最後にはハッピーエンドになるとわかりきっていますし、最低限、この“クレイジー・リッチ”っぷりを楽しめたら、本作の満足度は一定ラインを超えるのではないでしょうか。

クレイジー・リッチ!

アジア系俳優が普通にいる幸せ

本作を彩るキャストにも注目してほしいところ。

オール・アジアキャストで話題騒然なのですが、少なくとも一般の日本人が知っている有名な俳優はいないので、日本側の宣伝では俳優押しを一切していません(普段はあんなに俳優アピールしまくるくせに…)。ポスターにも公式サイトにすらも、キャストの名前がないですからね。ここでもいかにハリウッド映画の世界でアジア系俳優が冷遇されてきたかを如実に示していますが、本作を機に覚えてほしいものです。といって、私も詳しい方ではないので、勉強します…。

まずヒロインのレイチェルを演じた“コンスタンス・ウー”。台湾系アメリカ人です。「Fresh Off the Boat」というシットコムで主役を演じ、本作で一気に映画俳優としてもブレイクした感じですね。ウサギを飼っているらしく、彼女のインスタグラムはウサギの写真でいっぱいだという、わりとどうでもいい情報も書いときますね(ウサギ好きはぜひフォローを!)。

ニックを演じた“ヘンリー・ゴールディング”は、マレーシア系イギリス人ですが、マレーシアとシンガポールを拠点に活動しているようです。本作では細マッチョイケメンという絵に描いたような理想の恋人で、人によってはキャラ設定が露骨すぎないかと思うかもしれませんが、ハリウッドではこういう風にアジア人を描写することが逆に稀だということは気に留めておくといいでしょう(詳しくは『好きだった君へのラブレター』の感想でも書きましたが)。
『好きだった君へのラブレター』感想(ネタバレ)…アジア系だって恋をする!
ニックの母であるエレノアを演じたのは“ミシェル・ヨー”。中国系マレーシア人であり、おそらく今もっともハリウッドで成功したアジア系俳優のひとりですね。ミス・マレーシアからアクション俳優、ボンドガールと、ものすごいキャリアアップを経験しながら、今に至る“ミシェル・ヨー”。本作でも登場時は絶対にぶちのめしてきそうな気迫がありました。

愉快な友人ペク・リンを演じたのは“オークワフィナ”。中国系アメリカ人の彼女は、ラッパーでもあり、多才なスキルを保有。『オーシャンズ8』で一足早く名前を知った人もいるでしょうけど、個人的にはその映画の数十倍は本作で輝いていました。

そのペク・リンの父親を演じた“ケン・チョン”は、『ハングオーバー!』シリーズでも強烈なインパクトを残すギャグキャラでしたが、今作でも登場しただけで画面が5割増し面白くなるズルい存在感を発揮。そんな韓国系アメリカ人の“ケン・チョン”は、コメディアンになる前は医者だったというから驚きですよ。

他にもまだまだたくさんアジア系俳優が勢揃いしているのですが、長くなりすぎるので割愛。

とにかくひとつだけ言いたいのは、ポリコレとか中国市場受けとかを気にせずに、ただ純粋にアジア系俳優がスクリーンに出ていることの満足感はなんて幸せなんだということ。みんなが大人の事情を背負わずに映画でひとりの役者として輝ける。ある意味、この状態も“クレイジー・リッチ”なんですよね。

アジア人としての自覚を抱かせる

本作は表面上は限りなく純粋なラブコメであり、日本の宣伝でもいかにも女性向けの恋愛マッチング番組風なプロモーションがされています。

ただ、その裏にはやはり人種という社会問題を風刺する要素が存在しており、それをコメディというオブラートで上手く包んでいるのが本作の魅力。その要素とはずばりアジア系移民が直面してきた問題です。映画の冒頭、1995年のロンドンにて、子どもの頃のニックと家族がホテルを訪れ、スタッフに差別的な対応をされるシーン。この場面に象徴されるように、本作はただのラブコメではありません。本作を理解するには、ラブコメからさらにもう一段踏み込んで深いところにあるこの問題について気にする必要があるでしょう。じゃないと「パリピがはしゃいでいるだけ」とか「クレイジーだったね~」という安直な感想の映画になっちゃいますから。

ここで知るべき用語に「プラナカン」というものがあります。東南アジアの各地域に、15世紀後半から移住して地域に根付いた中華系移民の末裔のことで、主に財を持った家系が多いのですが、かなり独自の文化を持ってきました。このへんの歴史はそれこそ何冊も専門書を読み解けるほどテーマとして語りがいのあるものなので、興味ある人は調べてほしいのですが、本作もまさにそういう人の物語でもあります。本作の原題は「Crazy Rich Asians」ですが、決して全ての“アジアン”に言及する話ではないというのは押さえておきたい部分。だから「これはアジアといいながら中国系しか描いていない!」という批判があったとしても、そもそもプラナカンを描くものなので当然です。「シンガポールには貧しい人たちもいる!」という意見ももちろんですが、でも本作の主題はそこにはないわけで。どうしても日本人ですら、東南アジアと聞くと「貧しい」というイメージが先立ちがちで、映画でもそういう層を描く作品を重視する傾向にあります。でも、この地にはそれだけじゃない、いろんな人がいていろんな苦労があるんですよね。

そして、本作の後半でクローズアップされるとおり、アジア系移民の1世と2世のジェネレーション・ギャップにも踏み込んでいきます。ここで紹介したい映画が1993年の『ジョイ・ラック・クラブ』という作品。この作品はそのギャップ問題と歴史についてをメインに据えて重厚な物語とともに描くもので、アメリカ映画としては珍しいアジアキャストメインになっている先駆者でした。『クレイジー・リッチ!』は『ジョイ・ラック・クラブ』の精神的続編というか、裏表の関係にあると言っても過言ではないと思うので、ぜひ本作を気に入った人はこちらも鑑賞してほしいですね。『ジョイ・ラック・クラブ』を観ないと本作は深く語れないほど、大事な関係性にある一本です。『クレイジー・リッチ!』の終盤にあるレイチェルとエレノアが麻雀をするシーンは、『ジョイ・ラック・クラブ』のオマージュなのかな? 作中で対となるニック側の母子とレイチェル側の母子。経済力に圧倒的な差があれど、最後はわかりあえるのはやはり人種という共通項ゆえ。この展開は『ブラックパンサー』の主人公と悪役の関係を思い出しますね。

本作はラスト付近、レイチェルがひとりで飛行機に乗ってシンガポールを発とうとする場面が、序盤の豪華なファーストクラスと対比になっています。そこへニックがやってきて、乗客の色々な人と間接的に接触しながら、求婚する。この一連の流れは、移民の歴史のダイジェストのようでした。

物語の未来を示すように最後に流れる曲は、Coldplayの「Yellow」のカバーバージョンと、Miguelの「Vote」。これはまさに差別を乗り越えて再解釈し、自分たちの手で国を作ろう…という、地球に生きる全てのアジア人へのメッセージを示すものだと思います。本作の主題はあくまでアジア系移民。でも母国から出たことがないアジア人はそんな人たちの気持ちを考えたことはあるでしょうか。日系人だって世界にたくさんいて、苦労の歴史があります。しかし、無関心だったなと…。だから本作を通して、私も同じアジア人として少し共有できたような、そう考えると泣けてきて…。


原作が3部作になっているので、映画の続編も濃厚とのことで、ますます楽しみです。こういう映画を楽しめるようになった幸せが本当にありがたいですね。嫌なこともたくさんある現代だけど、頑張ろうかなと思わせてくれる希望をくれた作品でした。

個人的には、ペク・リン家族のスピンオフを熱望しているのですけど…。

ROTTEN TOMATOES ※
Tomatometer 93% Audience Score 82%
IMDb ※
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 9/10 ★★★★★★★★★
※2018年9月28日時点

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