ドクター・スリープ
映画『ドクター・スリープ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Doctor Sleep
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年11月29日
監督:マイク・フラナガン

ドクター・スリープ

あらすじ

40年前、狂った父親に殺されかけるという壮絶な体験を生き延びたダニーは、トラウマを抱え、大人になったいまも人を避けるように孤独に生きていた。そんな彼の周囲で児童ばかりを狙った不可解な連続殺人事件が発生し、あわせて不思議な力をもった謎の少女アブラが現れる。その力で事件を目撃してしまったというアブラとともに、ダニーは事件を追うが…。

『ドクター・スリープ』感想(ネタバレなし)

面倒な事情を抱える名作の続編

過去の有名映画の続編やリメイクが相次いで公開される昨今、こうした映画界の状況に対して「ネームバリューに頼ってばかりで面白くない」と不愉快な感情を表明する映画ファンも一部ではいます。

でも、過去の著名な映画の続編やリメイクを作るという企画はオリジナル作品よりも簡単というわけではなく、決して作り手もラクがしたいわけではありません。むしろ有名作であるがゆえにプレッシャーも制約も大きくなり、悪戦苦闘することだって珍しくないので、別の難易度の高さがあると考えるべきでしょう。

その苦労話はいろいろな映画で聞いたりしますが、この『ドクター・スリープ』は他にはないかなり込み入った複雑な事情を抱えていました。

本作『ドクター・スリープ』はスティーヴン・キング原作小説の映画化。この伝説級のホラー作家の映画化作品は2019年だけでも『ドクター・スリープ』以外にも、『ペット・セメタリー』(リメイク、日本では2020年公開)、『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり』(2作目)、『イン・ザ・トール・グラス 狂気の迷路』(Netflixオリジナルで配信)と、計4作も公開済み。MCUかよ!っていうくらいの大量投入であり、最近は特に勢いがまた増し始めましたね。やはりアメリカのホラーは“この人が全ての土台”という感じです。

その中でも『ドクター・スリープ』は、スティーヴン・キングの生み出した物語群において最も名の知れた古典的名作である、「シャイニング」の続編です。続編があったのか!と驚く人もいるかもしれませんが、原作は2013年と比較的最近になって発表されていました。なので似ても似つかないタイトルですけど、実質「シャイニング2」です。

しかし、ここで例の“他にはないかなり込み入った複雑な事情”が持ち上がるわけで…。

映画ファンでなくとも知っている人は多いと思いますが、この「シャイニング」という小説は1980年にあの巨匠スタンリー・キューブリック監督の手によって『シャイニング』として映画化されています。あのドアを斧でこじ開けて入ってくる男に怯えて絶叫する女性とか、廊下からなだれ込んでくる大量の赤い液体とか、不気味に立つ双子の姉妹とか、シーンだけでも超有名ですよね。『レディ・プレイヤー1』にて丸ごと再現というかたちで直球でオマージュされまくっていたのも記憶に新しいです。あまりにも有名すぎて「みんな当然知っているよね?」という扱いになっている感があります。


ところがこの映画『シャイニング』。これまた知る人ぞ知る有名エピソードですけど、映画版は原作小説と全然ストーリー展開が違うんですね。スタンリー・キューブリックが好き勝手に改変してしまい、それに対して原作者のスティーヴン・キングはたいそうご立腹だったと言われています。

じゃあ、その続編である本作『ドクター・スリープ』はどうするんだという難問が生じます。スティーヴン・キングの原作小説を準拠するのか、それともキューブリックの映画を意識するのか。下手をするとどちらのファン層にもそっぽを向かれる危険もあります。

けれども『ドクター・スリープ』はそのハードルを上手いこと飛び越え、この対立していた2者をほどよく融合させていたと思います。40年越しの和解です。その証明に、スティーヴン・キング本人も今回の映画の監督と並んで、本作を褒めまくっていますからね。なんだったんだ、あのかつての亀裂は…。

そんな歴史的融和を達成した『ドクター・スリープ』の功労者となった監督は“マイク・フラナガン”です。これまで『オキュラス 怨霊鏡』『サイレンス』『ソムニア 悪夢の少年』『ウィジャ ビギニング 呪い襲い殺す』と立て続けにホラー映画を手がけまくっている人で、『ジェラルドのゲーム』でスティーヴン・キングの原作の映画化も経験済み。だから白羽の矢が立ったのでしょうけど、普通に手腕が冴えわたる監督ですね。さりげなく凄いです。

俳優陣は、まず主人公。『シャイニング』のあの子が大人になった姿を演じることになる“ユアン・マクレガー”。『トレインスポッティング』といい『プーと大人になった僕』といいダメに成長した大人ばかり演じている気がする…。なお、“ユアン・マクレガー”はホラーが苦手らしく『シャイニング』も観たことがなかったらしいです。

またもうひとりの主人公ポジションとして“カイリー・カラン”という子役も抜擢。まだキャリアは全然ですが、本作での活躍が今後の礎になるといいですね。

さらに詳細は語れないですが、本作に欠かせない強烈な役どころで“レベッカ・ファーガソン”が登場。これまでにない姿を見せています。他にも話題の子役“ジェイコブ・トレンブレイ”も出ていますが、出番は少なめ。

前作を観ておくべきかという質問ですが、まあ、観ないよりは観た方がいいとは思います。今作はかなりミステリアスな展開が序盤から続くので、前作情報が頭にないと余計に謎が増えますからね。知っていれば後半はテンションあがります。

あの恐怖のホテルにまた宿泊する時が来ました。宿泊キャンセルは不可です。

おすすめ PiCKUP!
↑『シャイニング』…今見てもゾクゾクする堂々たる名作の威厳があります。
オススメ度のチェック
ひとり◯(前作の支持者もぜひ)
友人◯(ホラーファン同士で)
恋人◯(怖い体験を共有して)
キッズ◯(残酷な描写も多少)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ドクター・スリープ』感想(ネタバレあり)

またまたハロー、ダニー

静かな湖の畔。少女が湖畔まで歩いていくと、そこでシルクハットの帽子をかぶった女性に出会います。親切そうに帽子から花を出す手品を見せてくれるその女性。しかし、少女はそれほど離れていない場所に謎の人影を見えることが気になります。そして気が付けば周囲に大勢の人が立っており、一気に近づいてきて…。

ダニー少年はベッドから目覚めました。見ていた夢。それはかつてあのいわくつきのホテルで経験した恐怖。狂気に溺れた父ジャックが妻と子の命を奪うべく、ホテルの闇から迫ってきたあの時の記憶は生々しく残っており、母ウェンディと一緒になんとか脱出して平穏を取り戻した今でも忘れることはできません。家のバスルームでも影に怯える日々。

ダニーは「シャイニング」という特殊な能力を持ち、それゆえに普通の人以上に異変を感じ取ることができました。かつてホテルで出会った自分と同じく「シャイニング」の能力を持つディック・ハロランは、自身も亡き後も、ダニーの唯一の話し相手。箱をくれて恐怖を閉じ込める方法を語ってくれます。

自分にしか見えないディック・ハロランとの対話。それも知らずに心配してかけよる母。そのそばにある掲示板にはバイオレットという少女が行方不明になったことを知らせるチラシが…。すでに新たな恐怖が起きつつあり…。

そして、月日は流れ、大人となったダニー。今はダンと名乗っていますが、昔の父と同じく重度のアルコール依存症に苦しみ、人生を失墜させていました。バーで暴れ、行きずりの性の衝動に身を任せ、ただ自堕落に存在しているだけの毎日。

このままではいけないと唯一のリアルな友達であるビリーとともに、セラピーの集会に通い、なんとか人生を回復させようとしている真っ最中でした。

そんなとき、ダニーはアブラという少女と精神的なコンタクトをとることになります。どうやらこのアブラも「シャイニング」の能力の持ち主らしく、壁に文字を書くことでその意思疎通ができているようです。久しぶりの同類の存在との体験の共有に心がほんの少し軽くなるダニー。

ところが世界では闇の暗躍が広がっていました。ローズ・ザ・ハットという例の帽子の女性が率いる謎のカルト集団が各地で起きている児童失踪事件の黒幕でした。この集団は「シャイニング」の能力にも関与しているらしく、スネークバイト・アンディという新しい仲間を加えながら、どんどん自分たちのエネルギーとなる「steam」を摂取して膨れ上がっていきます。今日もまたブラッドリー・トレヴァーという野球少年が誘拐され、残忍な儀式とともに殺されて餌食になりました。

しかし、そのブラッドリーの身に起きた悲劇を感じ取ったのがアブラでした。またアブラに感じとられていることをローズ・ザ・ハットも感じます。アブラは精神をローズ・ザ・ハットのいるスーパーマーケットに飛ばし、探りを入れますが、見破られて離脱。自分ではどうすることもできず、協力者としてダニーに助けを求めることに。

ダニーは「BASEBALL BOY」と書かれた壁を見て事態を知り、さらにアブラ本人が直接ダニーのもとに来て事情を説明。けれども、最初は断ってしまいます。しかし、久しぶりに再会したディック・ハロランに促され、アブラを助けることにしたダニー。

ダニーとビリーは一緒にアブラの掴んだ情報をもとに、例の少年の居場所を探します。目的地に到着し、穴を掘っていくと、足、手、顔と埋没した少年が出てきて…。相手の残忍さを知り、吐き気を催す邪悪さに困惑しながらも、事態の緊急性を痛感。

アブラの家へ向かったダニーは、アブラの能力でカルト集団の現在地を特定。アブラのマインド攪乱の術でカルト集団を翻弄しつつ、銃で強襲を仕掛けるダンとビリー。次々と倒れるカルトメンバーでしたが、ビリーがやられてしまい、アブラもまた家に侵入されてしまい、拉致されます。

追い詰められたダニーは、動揺を隠せます。アルコールに口をつけかけますが、思い直して投げ捨てるダニー。

ここから彼の「シャイニング」の能力の真価を見せる時が来ました。全てはあのホテルで始まり、そしてあのホテルで終わるために…。

小説と映画の融合が冴えわたる

映画版『シャイニング』しか知らない人は、冒頭のダニーの悪夢(&リアル恐怖現象)がまさに映画版『シャイニング』の延長になっており、ワクワクドキドキしたと思います。しかし、その恐怖をダニー少年が箱に封じ込めて鍵をかけて以降、『ドクター・スリープ』の物語はしばらくほぼ原作小説に寄った作りになります。

映画版『シャイニング』勢が一番びっくりしそうなのは「シャイニング」の能力ですよね。あんなに万能で、何でもありなのか、と。アブラのフォーク&スプーン浮遊は序の口。精神だけを別の場所に移動させて同じ能力者同士で会話するなど、普通に便利すぎるスキルが役立っていきます。

『シャイニング』の映画版では小説版にあった「シャイニング」の能力の描写がかなり薄味になっていたので、今回の『ドクター・スリープ』の能力者バトル的な展開にはかなり面食らったのではないでしょうか。

そもそも前作の映画&小説はシチュエーション・スリラーで、あのホテル内だけで基本はサスペンスが展開していっていましたが、今作の『ドクター・スリープ』は場所を変えまくる(能力のおかげで文字どおり縦横無尽)ので、ジャンルとしても大幅に別物という認識でいるべきかもしれません。

しかし、物語後半のラストパート。ついに舞台はあの映画『シャイニング』のメインステージ、山上にあるオーバールック・ホテルへ。ここでのカメラワークとBGMの煽りによって、映画を知っている人は無条件に興奮が高まってきます。キューブリック・ワールドにやってきましたよ~!…と。

ここでは前作と立場が逆転して、ホテルのオールスターな面々に襲われるローズ・ザ・ハットといい、“毒を食らわば皿まで”ななりふり構わない大盤振る舞いが実にサービス精神満点です。

「REDRUM」の出し方はかなり苦肉の策な感じもするけれど…。

こんな風にキューブリック映画ファンも満足させるお品書きもありながら、しっかり原作小説ファンのお腹も満たすデザートもあります。前作映画ではたいして活躍もせずに終わっていたディック・ハロランのナビゲート・ポジションの復帰とか。

でも一番はやっぱりエンディングですよね。『ドクター・スリープ』ではボイラーの爆発でホテルが炎上して燃え上がるというラストですが、これは実は原作小説「シャイニング」でのラストと同じ。つまり、「シャイニング」原作小説のオチを40年越しに続編の映画『ドクター・スリープ』でやってしまうという、とんでもない荒業です。だから、スティーヴン・キングも満足そうだったのか…。

ドクター・スリープ

なぜこの作品が? 意外なコラボ

『ドクター・スリープ』では、他のスティーヴン・キング作品との繋がりを感じさせる要素もあちこちに散りばめられています。ただこれはイースターエッグというよりは、スティーヴン・キング作品は全てが世界観を実は共有しているという設定になっているので、単なるオマケでもないのですが…。

『ドリームキャッチャー』を思わせるキャビネット、『ダークタワー』を思いだすキーワードの数々、『ペット・セメタリー』を連想する猫、『ミスト』と重なる白い靄…。あらためてスティーヴン・キング作品の世界観はこれ以上なく特色が際立っているなと思います。

また映画では今回も結構暴力表現には容赦ないスタイルなのがいいですよね。『IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり』に続いてファミリー映画なんて知ったことかと言わんばかりに子どもを殺しまくるし…。今作と『IT』だけで子ども殺害率が凄いことになっている…。

スティーヴン・キング世界観を濃密に構築している一方で、『ドクター・スリープ』は意外な作品とも作中でコラボレーションしていたのをお気づきでしょうか。一部でマニアックなファンが気づいて話題になっていましたが、『RWBY』という作品の要素が登場しています。

『RWBY』は「Rooster Teeth」が制作するWebアニメシリーズで、特殊なスキルを持った若者たちが迫りくる敵を倒して活躍する少年漫画にありそうな世界観設定のファンタジーアクションです。絵のタッチが日本のアニメを意識して作られており、日本国内にも根強いファンがいます。

スティーヴン・キング作品と微塵も関係なさそうなこの『RWBY』。でもなぜかアブラの部屋にそのポスターが貼ってあり、それだけでなく『RWBY』に登場する「エメラルド」というキャラクターのフィギュアまでベッドの横に置いてあり(しかもハッキリ映る)、加えてアブラがそのキャラクターに似た見た目になるシーンまであるんですね。

なぜこんな『RWBY』推しなのか。ファンの一説によれば、エメラルドというキャラは有色人種で、精神攻撃を駆使します。つまり、『ドクター・スリープ』のアブラと同じ。黒人の女性でポップなヒーローキャラはあまりいないので、この『RWBY』になぞらえることでアブラの立ち位置を現代のヒーロー的解釈にも当てはまるようにしたかったのか。ちなみに『RWBY』の制作元の「Rooster Teeth」は『ドクター・スリープ』の制作・配給であるワーナーブラザースの動画配信サービス「HBO Max」でも取り扱い予定なので、たぶん関連させてもとくに問題が起こりにくい間柄だったのかも。

それにしても予想外な現代的リンクでした。

過ちを乗り越える能力

『ドクター・スリープ』の物語の主軸は、ダニーの再生と次世代へのバトンタッチです。

蛙の子は蛙なのか、父と同じくアルコール依存症に陥るダニーの過去への回答を出す物語。ホテルのバーカウンターでの父の顔によく似たバーテンダーとの会話における、ダニーのとった行動。あそこで彼の物語は答えを手に入れることができたのか。

日本ではアルコール依存症に対する社会的認識が低いせいか、映画でも全然取り上げられませんが、こういうアメリカ映画ではアメリカ社会のアルコール依存症に対する問題意識が高いこともあって、しっかり更生を描こうとする意志があります。

『ドクター・スリープ』も御多分に漏れず、そのアルコール依存症と向き合う人生の決着の物語です。もちろんそれは薬物依存や差別的言動などに置き換えてもいい。自分の過去の過ちを直視して対面できるかは誰でも生きていれば問われることですからね。

アブラへと受け継がれるその精神は年齢や人種といった枠を超えて、人類が永遠に追い求める「能力」でもあるのでしょう。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 77% Audience 89%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ドクタースリープ