少年少女よ、オタクでも大志を抱け!…映画『レディ・プレイヤー1』(レディプレイヤーワン)の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年4月20日
監督:スティーブン・スピルバーグ
恋愛描写
レディ・プレイヤー1
れでぃぷれいやーわん
『レディ・プレイヤー1』あらすじ
2045年。世界中の人々がアクセスするVRの世界「OASIS(オアシス)」に入り、理想の人生を楽しんでいた。そんなある日、オアシスの開発者である大富豪のジェームズ・ハリデーが死去し、オアシスの隠された3つの謎を解明した者に、莫大な遺産とオアシスの運営権を明け渡すというメッセージが発信される。それ以降、世界中の人々が謎解きに躍起になっていたが…。
『レディ・プレイヤー1』感想(ネタバレなし)
スピルバーグの過剰摂取
2018年の日本の洋画界はスピルバーグ旋風が吹き荒れています。
『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』と『レディ・プレイヤー1』という“スティーブン・スピルバーグ”監督作が2本同時に公開されるという事態に加え、映画上映前の予告では日本では7月公開の『ジュラシック・ワールド 炎の王国』のトレイラーが流され、「製作 スピルバーグ」とデカデカ表示されるわけですからもう…。この3作の予告が立て続けに流れていた時期の映画館はなんかスピルバーグに占拠されていたみたいでした。
そんなスピルバーグ作品の中でも間違いなく最大瞬間風速を叩き出し、そしてこれまでのスピルバーグ作品の結晶ともいえる映画、それが本作『レディ・プレイヤー1』です。
2011年のアーネスト・クラインの小説「ゲームウォーズ」を原作に、スピルバーグ色に染め上げた一作で、早い話が「VR」を題材にした作品です。VRはここ最近で一般販売され、ついに時代が始まった感がありますが、まだまだ庶民的ではなく、マニアのアイテムです。そんな「VR」を題材にした作品はすでに山ほどあって、『VR ミッション:25』とか、『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』の中でもVRっぽい要素が出て来たり、『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』も実質VRみたいなものです。
ただ、本作はその数多のVRを題材にした作品と違う部分があります。それは実在の映画・アニメ・ゲーム・音楽、あらゆるサブカルが隙間なく詰まっていること。“おもちゃ箱をひっくり返したような”という慣用句がありますが、今作はそんなレベルではなく“倒産したトイザらスの全店舗のおもちゃを全てかき集めても足りないくらい”の物量です。当然、日本人の誰もが知っている作品もバンバン登場します。具体的に書くとツマラナイのでネタバレは控えますが、劇中常に絶え間なく何か他作品の要素が登場しまくります。
オマージュとかパロディという次元ではない、超豪華に金を注ぎ込んだ2次創作ですよ。完全にオタクの夢です。スピルバーグは71歳でここまでの現代的なオタク映画を作れるのですから…ほんと凄い。
こんなことを書いても凄さは全く伝わらないのでPVを観てください。それでテンションが上がるのなら、観るのに迷う必要はありません。
年齢も性別も人種も関係ありません。問われるのはひとつ。あなたにオタク愛はあるか。まさにオタクのオタクによるオタクのための映画。現役でオタクの人も、隠れオタクの人も、かつてオタクだった人も、みんなウェルカム。もちろん、これからオタクになる人も大歓迎です。
『レディ・プレイヤー1』感想(ネタバレあり)
俺は〇〇〇〇で行く!
よく映像の情報量が多くて疲れる映画ってありますが、『レディ・プレイヤー1』のボリュームは久々に最高値を更新しましたね。頭がガンガンします。大きなスクリーンですら情報が入りきっていないのですから…。
劇中に登場した映画・アニメ・ゲーム・音楽の元ネタについては解説してまとめているところがネットを探せば見つかるのでそちらを参照してください(他力本願)。
ひとつ言えるのは、よくこれだけ出したなと。だって使用許可をとって、デザインしたり素材を持って来たりして、映画に当てはめていくだけでも気の遠くなるような膨大な作業量ですよ。本当にご苦労様です。
ただ、その素材の過剰投入に対して、メインのストーリーは驚くほどシンプルなのはさすがスピルバーグ。要するに3つの試練をクリアする(厳密には4つある)。それだけです。
1つ目の試練はレースゲーム。といっても、ティラノサウルスやらキングコングやらの盛大な妨害があるので、もはやレースゲームとしての体裁を保っていない気もしましたが…。このパートで頭がクラクラしますよね。自分だったらスタートから10秒以内にやられるだろうな…。
2つ目の試練はまさかのスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』。本当にそのままで登場するものだから、びっくりです。壮大なネタバラシのオンパレードだったのですが、これ、元ネタ映画を観たことがない人が見たら、どう思うのだろうか…。
3つ目の試練はアタリの「Adventure」なのですが、おそらく大半の人はそっちよりも、その手前で繰り広げられる空前の大乱闘に目がいきますよね。「メカゴジラvsガンダム」がハリウッドで見られる日がくるなんて夢にも思わなかったな…。ちなみに原作ではここでウルトラマンが出るらしいのですが、権利的な問題で映画では出せなかったみたいで…惜しいなぁ…。
とまあ、凄まじかったわけですが、個人的にはあまりに“オタク接待”すぎて申し訳ない気持ちにもなったのも正直な本音。でも、今作の一番のオタク接待は大量のサブカル要素ではなく、サマンサというヒロインですね。ビッチではない、でも可愛い(ここが重要)。社会からは爪弾きにされており、居場所を失っている(つまり保護欲が駆り立てられる)。そして、何よりもオタクである(理解者!)。もう完全にオタクの理想とする“究極のカノジョ”じゃないですか。
そりゃあ、これだけのご褒美尽くし、オタクは泣いて笑って喜びますよ。
まあ、あくまで異性愛男性オタクの理想が濃いんですけど…。
オタクだって色々いる
でも、真面目な話、この映画の本質は「オタク接待」にあると思うので、これで良しなのでしょう。一般的には社会から「キモイ」だ「変人」だと蔑まれるオタクたち。それを本作では徹底的に寄り添ってくれます。
その最たるエピソードとなるのが、OASISの創設者であるハリデーのドラマです。どんなに素晴らしいサービスを作っても、莫大な富を手に入れても、好きな女の子にキスすることはできなかった。そして、友人との関係に悩んで終わった人生。実にオタクらしい苦悩と葛藤。
これは完全に、デヴィッド・フィンチャー監督によるFacebookを創設したマーク・ザッカーバーグを描いた『ソーシャル・ネットワーク』と同じですね。
しかし、本作は『ソーシャル・ネットワーク』と違って、その古きオタクを若いオタクが救う話なわけです。つまり、フィクションの力でハッピーエンドに持っていきます。私は本作はスピルバーグ作品でも珍しいくらい、“ハッピーにしたい、させたい”という意志を感じました。そういう意味では主人公のウェイドとその仲間たちは、理想の正しいオタク像なのでしょうね。
対するオタクを全く理解しておらず、オタク・コンテンツを金儲けの道具としか思っていない本作の悪役ソレントの描写は象徴的でした。まあ、そういう組織や人は日本にもいるじゃないですか、誰とは言わないけど…。
個人的には、ウェイドとその仲間たちも良いのですが、IOI社でハリデーの分析を担当している専門家たちが気に入ってます。彼らも根はオタクであろう素朴さが、結局は大企業で働いていようと、スラム街で暮らしていようと、オタクはオタクという本作の主義が透けていいですね。とくにアタリの「Adventure」が鍵だと発見する女性専門家のあの本当はアツい心を持っているのだけど周りを気にして言えない感じは、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』にも通じる要素があって、オタクの中でもさらに消極的で意見を言えない人もいることが描かれていました。
本作のオタクはとにかく多様です。一口にオタクと言っても、いろんな奴らがいます。オタクにしてみればそんなの当然なのですが、その世界を知らない世間はわからないんですよね。邦画ではステレオタイプなオタクをいまだに描いたりしますが、本作のオタクに対する描き方ひとつとってもどれだけ愛があるかがわかります。
「オタクの友人を大切に」「リアルのカノジョもいいものです」「仮想世界でも現実世界でも充実した生活を送りましょう」そんなお利口さんなメッセージで終わるのは無難な着地でしたが。まあ、でもきっとオタクはOASISが休日の日でも別のコンテンツに没頭していると思いますけど…。
みんなのレディ・プレイヤー1
あえて苦言を言うなら、これはスピルバーグ作品ではよくある話ですが、SF的な世界観構築は甘々です。
まず、貧富の差が拡大している社会というディストピア感ある世界のはずですが、言うほど悪くは見えないし、OASISというシステムがこの世界でどれだけ重要なのかという、社会的な立ち位置も最後までさっぱり理解できませんでした。
現実パートのドラマはなかなか雑で、ソレントの指示でウェイドの暮らす建造物はまるごと爆破されてしまうわけですが、こんなスラムの事件は誰も見向きもしないと言ってましたが、さすがにあのクラスの爆発なら報道くらいされて騒ぎになるでしょうし。OASISパートも、設定が何でもありすぎてイマイチ何が可能で何が不可能かわからずじまいでした。第1の試練の逆走くらいは、名だたるゲーマーたちのデバック能力があればすぐに見つかりそう…。
それでもそのエンタメになると急に雑になるあたりもスピルバーグらしさなのでOKかな。スピルバーグらしい悪趣味ギャグも心地よく、終盤のOASISリセットボタンがいかにも「押すなよ、絶対に押すなよ」みたいな大きいボタンなのにはニヤリと。
あと、これも相変わらずではあるのですが、恋愛描写はかなり雑で、そこもスピルバーグ・クオリティだった…。
今作は『スピルバーグのレディ・プレイヤー1』だったなとつくづく思います。絶対に他の監督であれば、それぞれのオタク心を投入した『レディ・プレイヤー1』ができると思うのですよね。色々な監督による『私の、俺のレディ・プレイヤー1』が観てみたいです。
だから、あと10作くらい作ってください(無理なお願い)。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 72% Audience 77%
IMDb
7.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED レディプレイヤー1
以上、『レディ・プレイヤー1』の感想でした。
Ready Player One (2018) [Japanese Review] 『レディ・プレイヤー1』考察・評価レビュー