Dont Think Twice 僕たちの成功
映画『Don't Think Twice 僕たちの成功』(ドント・シンク・トワイス)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Don't Think Twice
製作国:アメリカ(2016年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:マイク・バービグリア

Don't Think Twice 僕たちの成功

あらすじ

熱意と才能はあっても売れない即興劇(インプロ)の劇団員達は、苦楽を共にする戦友同士。どんなにツラいことがあっても、それさえもネタにして笑いに変える。ところが、メンバーの1人が人気テレビ番組のオーディションに合格し、いつも一緒だった仲間たちの関係が揺らぎ始める。

ネタバレなし感想

笑わせる人の笑えない苦労

吉本興業所属の芸人が反社会的な組織の忘年会に参加していた、いわゆる「闇営業」が報道され、問題となっていますが、無論、反社会的勢力と関わるのは自分のためにも周囲のためにもならないので厳禁です。ただ、同時にこの一件はあらためて「芸人」という職業の“不安定さ”を浮き彫りにもしているなとも思います。

私は芸人じゃないので体感はしていませんが、でもそのキャリアアップは常にいばらの道なのだろうとは想像がつきます。ライバルとの激しい競争、仲間との信頼関係と軋轢、厳しい上下関係…さまざまな問題が毎度のように壁として立ちはだかっているはず。芸人の人たちはいつも表舞台では私たちに楽しい“笑い”を提供してくれていますが、その人生の裏側では笑えないこともいっぱい起こっているでしょう。笑えない世界に生きる自分がどんな“笑い”をパフォーマンスすればいいのか…それを考え続ける職業が「芸人」なのかもしれません。そう考えるとやっぱり凄い想像力を使う仕事です。

今回、紹介する『Don't Think Twice 僕たちの成功』は、そういうコメディアンの人たちの人生の苦悩がストレートに表れている映画です。舞台はアメリカですが、これは全世界のコメディアンが共感できることでしょうし、さらにはコメディアンではない人でも心に染みる物語になっていると思います。

ネタバレにならない範囲で物語に簡単に触れると、主人公は即興劇をやっているグループのメンバーたち。この即興劇というのは英語で「Improvisational theatre」と言い、それを縮めて日本語でも「インプロ」と呼んだりします。要するに、台本も何もなくアドリブで会話をしながら笑いをとっていくパフォーマンスです。前座のように思われがちですが、インプロはひとつのれっきとしたスタイルとして確立しており、作中でも少し説明があるのですが、1950年代にシカゴでその形式が定着したそうです。

最近ではインプロを教育やビジネスの人材育成に応用したりもしているみたいですが、本来はアーティストによるパフォーマンスです。そしてこのインプロは多くのコメディアンにとっての出発点。インプロで腕を磨き、そこからアメリカだったらコメディアンの登竜門とされる番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演するというような、キャリアアップの流れがあります。歴史の長い「サタデー・ナイト・ライブ」ももともとはインプロの人たちを集めてスタートさせたのが原点です。

『Don't Think Twice 僕たちの成功』はそんなインプロに身を投じる30代以上の男女を描き、いわば“あまり成功しなかった者たち”のもどかしさをリアルに映し出しています。

なのでゲラゲラ笑えるコメディ映画では全くありません(当人はお笑いをしているのですけど)。むしろ人によっては胃がキリキリするような苦しさすら感じる、生々しいドラマです。

監督は“マイク・バービグリア”という人で、もともとスタンドアップ・コメディアンであり、俳優としても活動しており、『浮き草たち』や『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』などに出演していました。
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2012年には『Sleepwalk with Me』という作品を監督しています。これは「レム睡眠行動障害」という、寝ている時に夢でやっている行動を実際にやってしまうという睡眠障害を題材にしており、“マイク・バービグリア”監督自身がその障害を抱えているそうです。

その“マイク・バービグリア”監督が今度は自分のコメディアンとしての人生経験を材料にした映画が『Don't Think Twice 僕たちの成功』ということになります。作中でも出演しています。

『Don't Think Twice 僕たちの成功』はインディーズ映画で「The Film Arcade」という独立系会社の制作した作品なのですが、これがまた批評家から絶賛。映画レビューサイト「ROTTEN TOMATOES」でも「98%」の超高評価を受けています。

ですがやはりマイナー作品ということもあり、世間的な注目度は低め。とくに賞にも輝いていませんし、特筆できる宣伝材料が少ないのですよね。でも、何度も言いますが素晴らしい映画ですよ。

日本では長らく劇場公開されずに2019年になってNetflixで配信されました。ただ、Netflixオリジナル作品ではないので、いつ配信終了するかもわかりません。なので観れるうちに視聴しておくのがベストかと思います。

オススメ度のチェック
ひとり◎(悩んでいるときに)
友人△(盛り上がる系ではない)
恋人△(盛り上がる系ではない)
キッズ△(大人向けのドラマ)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

“ツラいこと”を即興で“笑い”に変えます

冒頭、インプロの簡単な歴史の紹介がありながら、大事な基本ルールが説明されます。それは3つの原則
ルール1:肯定せよ(Say yes)
ルール2:チームが第一(It's all about the group)
ルール3:考えるな(Don't think)
『Don't Think Twice 僕たちの成功』の主人公であるインプロ集団「ザ・コミューン」はそんな原則をしっかり守りながら長年活動してきた息ぴったりのグループ。ジャック、サム、マイルス、リンジー、アリソン、ビルの6人は、抜群の信頼関係を構築しています。

ステージパフォーマンスのお約束のテーマはこれ。「今日、何かツラいことがあった人は?」…観客からの個人的な体験談をもとに、そこから即興を開始します。

「キッチンにトイレがある部屋を紹介されて部屋探しが上手くいかない」「タクシーに乗ったら偶然父親で10年ぶりの再会だった」…などなど。

ツラさの大小はさまざまでも当人にとってはツラいこと。そんな悩みを「ザ・コミューン」は軽快に笑いに変えていってくれます

一方で、「ザ・コミューン」の彼ら彼女らにも“ツラいこと”が舞い込んできます。劇場が閉鎖されてパフォーマンスする場所がなくなるとか、父親が事故で入院するとか。そもそも個々のメンバーたちもインプロだけで生活費を稼げるわけもなく、バイトやらなんやらで日々地味な仕事に身を投じ、夢に向かってがむしゃらに努力するも結果は出ていません。

それでも「ザ・コミューン」の面々はそんな自分たちに降りかかる“ツラいこと”にさえも即興で笑いに変えて対処。打ち上げの席でも、移動中でも、どこでも即興が始まります。

そんな中、メンバーのひとりであるジャックに「ウィークエンド・ライブ」(完全に元ネタは「サタデー・ナイト・ライブ」)のオーディションに呼ばれるというチャンスが巡ってきます。実は以前のステージで番組関係者が見に来ており、それを事前に知ったジャックは少しスタンドプレイで悪目立ちしてしまうという、例のインプロ3原則に抵触することをしてしまったのですが、そのせいなのかどうかは不明ですが、機会が到来。

しかし、この出来事がこれまで“ツラいことも笑いに”の「ザ・コミューン」の平穏な世界を揺るがしていくことになります。オーディションに見事合格したというジャックの吉報を聞いた面々は、最初は素直に祝福していましたが、だんだんと亀裂が目立ち始め、ついに…。

キャリアへの考え方は人それぞれ

『Don't Think Twice 僕たちの成功』の興味深いところは「キャリア」というものに対する個々の考え方の違いがハッキリ出ることだと私は思います。

日本映画で2016年の三浦大輔監督作の『何者』という作品がありましたが、あれに近いテーマを感じました。『何者』の方は、就活に励む日本の若者を描く作品でしたが、そのドラマを通して単に“企業に就職すればいい”というゴールではない、各々が抱える複雑な人生の進路の悩みが見えてきます。
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『Don't Think Twice 僕たちの成功』も、グループ内でひとりだけで成功者が出てしまったことでヒビの入る人間関係というだけなら単純に嫉妬などで語れるでしょうけど、実際はもっと入り組んでいます。

確かにジャックの成功は、例えばずっと「ウィークエンド・ライブ」を夢見てきた古株のマイルスにとっては非常に羨ましくもあり、同時に悔しいことです。昔からここにいるマイルスはずっと自分を置いて同僚がコメディ界で出世していく姿を見ていましたし、おそらく最も苦汁を飲んでいます。だからこそ、終盤にジャックを殴るという暴挙にまで出てしまいますし、最終的には「あなたは向いていない」というキツイ言葉を仲間にかけられてしまいます。そういう向き不向きという形で差が出るキャリアという名のパン食い競争の側面も描かれます。

一方で、ジャックと仲睦まじく暮らすサムが対極的です。彼女はジャックとともにオーディションへの切符を手に入れますが、結局、わざとオーディションには出ませんでした。そして、サムの口から「ザ・コミューン」が好きだという本音が聞けます。それは終盤のサムとジャックの心理対話のようなステージパフォーマンスでも吐露されます。「私は落っこちた井戸が気に入っている」「井戸が私の場所だ」…これは負け惜しみなどではない、サムの明確な本心です。

つまり、キャリアを勝ち上がることだけが人生ではない…パン食い競争でパンを食べれなくても一緒にただ走っている瞬間が楽しい。そういうサムの考えもよく理解できます。サム自身はインプロを学ぶ養成所の若者たちと過ごすスタイルに新しい居場所を見いだしているようでした。それもまたそれであり。

そして、それ以外のリンジー、アリソン、ビルもまた、それぞれの独自の道を歩んでいきます。

このようなキャリアに多様性を認め合うという本作の姿勢は、まさにインプロそのものです。相手を否定せず、協調性を重視し、深く悩み過ぎない。それぞれの生き方を即興で励まし合っていく。そうしたどこまでもポジティブな本作のメッセージに救われる人は多いのではないでしょうか。

新しい劇場で、ジャックは抜けてはいますが、また即興が始まる。人生ってこういうものかもしれませんね。

Dont Think Twice 僕たちの成功

リアルとシンクロする物語

『Don't Think Twice 僕たちの成功』はキャスト陣が、とくに日本人感覚的には知名度の低い人ばかりで地味めですが、作品にとって欠かせない魅力にもなっています。

ひとり抜け駆けするように成功するジャックを演じるのは、“キーガン=マイケル・キー”。彼はおそらくこのメイン出演陣の中では一番コメディ界で成功しているので、まさに映画とシンクロしています。そこがまたリアリティになっていて面白いのですが。でも“キーガン=マイケル・キー”も「キー&ピール」でコンビを組んでいる相方の“ジョーダン・ピール”が『ゲット・アウト』で鮮烈の映画監督デビューを果たし、アカデミー賞すらも駆け上がるというとんでもないキャリアアップをしているのを横目で見ています。そう考えると、番組に出られてもそこでも厳しい競争があるというジャックの状況とまたもや重なるんですね。たぶん本作のストーリーは“キーガン=マイケル・キー”の実体験も素材になっているのでしょう。
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その点を踏まえてみると、作中のジャックは単純な勝ち組ではない、やはり上には上がいる立場だということが強調されると思います。

他のキャストは、マイルスを演じた“マイク・バービグリア”監督本人は置いておいても、みんながまるでずっと即興劇をしていたかのようなチームワークを見せるのは本当に凄いです。何人かは即興のコメディの経験がなく、練習を事前にしたみたいですが。

また、“ベン・スティラー”がゲスト出演していますが、彼は日本でも名の知られているコメディ俳優で、『ズーランダー』とか『トロピック・サンダー 史上最低の作戦』とか自分で監督もしながら、いろいろな笑いを届けてきたベテラン。彼も「サタデー・ナイト・ライブ」出身であり、『Don't Think Twice 僕たちの成功』のあの登場は完全に自虐パロディ。そして、表向きはふざけている姿をみせる“ベン・スティラー”の素の姿がポンっと映るのもユニーク。「ザ・コミューン」の面々から昔の作品ばかり言及されることに複雑そうな顔をする“ベン・スティラー”が切ない…(彼は最近は監督作の『LIFE!』とか出演作の『マイヤーウィッツ家の人々 (改訂版)』とか、明らかにコメディではない路線にも挑戦しているから余計に)。
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『Don't Think Twice 僕たちの成功』はこんな風にリアルなコメディ業界事情も意識した構成になっているようですが、私は詳しくはないのでたぶん気づけていない部分が多いだろうな、と。

例えば、IMDbによれば、終盤にビルが父を引き継いでポルノ劇場をもとに「ザ・コミューン」の再出発地点としますが、あれは実在の「Upright Citizens Brigade」というグループが同じようなポルノ劇場スタートの経緯をたどっていたらしいですね。

ともかくド派手な事件は起こらずとも、誰しもの人生に起こるイベントにともなう葛藤に寄り添って、誰かを傷つけることなく、安らがせてくれる…そんな映画でした。一度、考え込んでしまうのは、まあ、どうしてもある。でも二度目はやめよう。

では、今日、何かツラいことがあった人はいますか?

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 98% Audience 69%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)The Film Arcade