フラクチャード
Netflix映画『フラクチャード』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Fractured
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ブラッド・アンダーソン

フラクチャード

あらすじ

ドライビングの途中、怪我をした娘を連れて、妻とともに救急外来を訪れた男。しかし、その院内で妻と娘が忽然と姿を消してしまう。自分を置いて消えるなどあり得ない。けれども、病院側は2人は知らないと主張し、両者の意見は食い違う。焦りと怒りを募らせながら必死で2人を捜すうち、不審な箇所が目に付くようになり、病院が何か隠しているのではと疑い始めるが…。

『フラクチャード』感想(ネタバレなし)

病院は怖いところ?

子どもの頃に怖かった場所と言えば、何を思い浮かべるでしょうか。

私が真っ先に連想するのは「病院」です。そこまで病院にお世話になる経験は子ども時代は少なかったのですが、そのせいなのかどうなのか、病院に対して底知れぬ言葉にできない不安を抱えていました。一体、何が行われるんだろう…みたいな、“医療行為”という概念への無知ゆえの恐怖なのでしょうか。それにみんな白い服を着ていて、独特の匂いがあったりと、とにかく自分の普段住んでいる世界とかけ離れた異質性を感じとっていたのかも。

よく考えれば変な話ですよ。私を含め、多くの人は病院で生まれたから、この世に生を受けた瞬間に初めて知った場所が病院のはずなのに。ごめんなさい、病院さん…。

そんな病院への不安感は世界共通なのか、病院を舞台にしたホスピタル・スリラーというのがジャンルとして存在します。もっぱら精神病院が多いのですけど、普通の病院に見えて実は裏では…という展開もあったり、定番化しています。閉鎖的な空間で、屋敷っぽい広さもあって、ベタながらやっぱりフィールドとしては最高にハマりますよね。

作品もあげるとキリがないです。ゴア・ヴァービンスキー監督の『キュア 禁断の隔離病棟』は病院&屋敷&ウナギの異色スリラーでしたし、韓国映画『コンジアム』は病院肝試し体験型ホラーでしたし…。


有名どころだとマーティン・スコセッシ監督の『シャッター アイランド』(2010年)とかね。基本的には主人公がその病院に諸々の事情で来て、恐怖を体験し、脱出を図ったり、謎を解いたりするのがデフォルトです。

結構、形式化しているので話の展開が読みやすい部分も多分にありますが、「こんなのすぐに予測できるよ~」なんてしてやったり顔でこのジャンルに勝ち誇るのは、幼稚園児相手に腕相撲で勝って喜んでいるようなもの(その例え、適切だろうか…)。このジャンルはそういうストーリー予測はひとまず置いておき、お化け屋敷感覚でエンタメ感満載に楽しむのが、個人的にはオススメです。

そんな病院スリラーの新顔がNetflixから届きました。それが本作『フラクチャード』

詳しい内容は言いません(少しでも言うとネタバレになる気がする)。まあ、病院で、アレがアレしてアレなスリラーです。

監督は『ワンダーランド駅で』のような恋愛映画から『ベイルート』のような社会派サスペンスまで何でもできる器用さが売りの“ブラッド・アンダーソン”。多才な彼ですが、よく手がけるジャンルがスリラーです。今回の『フラクチャード』は“ブラッド・アンダーソン”監督のこれまでのフィルモグラフィーを総まとめにして合体させたような一作といえるかもしれません。『マシニスト』的なトリッキーな仕掛けあり、『ザ・コール 緊急通報指令室』のような警察事件モノあり、『アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち』のような病院舞台モノであり…。


脚本は“アラン・B・マッケルロイ”で、この人は『クライモリ』というホラー作品の脚本家で有名です。一部でカルト的人気があるのか、シリーズ化されて6作も続編が続きました。また、日本の人気格闘ゲーム「鉄拳」をハリウッド映画化した『TEKKEN -鉄拳-』(2010年)の脚本も手がけました。まあ、そちらのクオリティは、うん、話はもういいでしょう(逃げた)。

主演は『アバター』でおなじみの“サム・ワーシントン”。『フラクチャード』ではピッタリの役柄を演じています(詳しく言及するとネタバレになるので、感想後半で)。

時間がある時にちょっと観る程度の付き合いで、どうぞ適度にお楽しみください。こういう映画を病院の待合室で流していたら、面白いだろうな~(酷い発想)。

オススメ度のチェック
ひとり◯(じっくり鑑賞も良し)
友人◯(家での暇つぶしに)
恋人◯(家での暇つぶしに)
キッズ△(多少残酷描写あり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『フラクチャード』感想(ネタバレあり)

あなたはどこでオチに気づくか

『フラクチャード』はいきなり不吉なBGMから始まるので、“あ、これはもう胸糞悪い展開が準備運動してストレッチしてるよ”と思いながらの鑑賞タイムの幕開けです。実際、本当に後味の悪いオチが待っているのですが、まあ、こうやって冒頭に宣言しているわけだし、“私、ちゃんと言いましたからね”っていう映画の目配せみたいなものです。

真っ直ぐな田舎の一本道。車を運転している男、レイ・モンローは助手席の妻であるジョアンと激しく口論しています。後部座席には幼い娘のペリがいるのですが、そんなのお構いなしで舌戦の真っ最中。どうやら家族3人で感謝祭の旅行に来たようですが、何かのすれ違いで夫婦喧嘩に発展した様子。「もう夫婦関係は前から終わっていた」「6年前の結婚したときのあなたに戻って」とキツイ妻の言葉にすっかりレイは動揺。俺も頑張っていると虚勢を張ってみるものの、車の運転さえも危なっかしいです。

そんな最悪ムードの中、ペリがトイレに行きたいと言い出したので、近くのガソリンスタンドに停車。ペリのおもちゃのコンパクトが動かないと駄々をこねるので、妻が娘をトイレに連れていっている間、レイは妻が飲みたいと言ったコーラとおもちゃの電池を買いに店内へ。愛想の悪そうな女のいるカウンターにコーラと電池を置き、横にあったアルコールの小さな瓶2つも手に取ります。しかし、カードは使えないと言われ、「それじゃあコーヒーとコーラと…」と言葉の途中で映像は終わり

次の場面では、車に戻り、妻に「電池は無かった」と言います。すると今度はコンパクトがないとぐずりだす娘。トイレに置いてきたのかも言うので、妻が探しに行く間、レイは座席の下を探すことに。「散々な1日だ」と先ほどとは打って変わって悪態をつきなが車内を探していると、ペリはとことことどこかへ。

「Get Well Soon」と書かれた枝にひっかかった風船に気をとられるペリ。するとそばに野良犬がいるのを発見。接近してくるので怖くて後ずさり。そのペリの背後は下方向に高さのある工事現場でこのままだと落下してしまいます。事態に気づいたレイは犬を追い払うために石を投げつけますが、その拍子にペリは落下。レイもつかもうと飛び込みますが…。

レイが目覚めます。その際「残念ですがお亡くなり、お二人ともです」という謎の声が聞こえます。とりあえず起きると、ペリに駆け寄るジョアンの姿が。レイは茫然と立ち尽くし、無反応。そのまま後ろを向きます。一瞬の間、ペリが目覚めたようです。体を痛そうにしているので、すぐさま病院に車を飛ばすレイ。車を追い越そうと無理な運転をするも見事に対向車両を回避。病院に到着です。

院内は人でごった返していました。焦りながらレイが受付に行くも「順番待ちしてください」と言われ、渋々従うことに。リストに自分の名前をサインし、席に戻ると、「ここにすぐに連れてきてくれてありがとう」とジョアンに感謝され、久しぶりに笑いあったことにホッとします。ペリも母の腕の中で寝ており、ジョアンからペリの黄色いマフラーを渡されます。

窓を見ると、何か白いボックスを救急車の隊員とやりとりするスタッフが見え、そんなこんなで時間潰し。

やっと自分の番が来て、質問を受けることに。その過程で昔、レイはアルコールの依存症だったらしいことがわかります。「お子さんの血液型は?」「ご家庭内は安全ですか?」…事務的に繰り出される質問にうんざりしていると、最後に「臓器移植に興味はありますか?」との質問。それどころではないと断ると、やっと先生のもとへ案内されます。

ベルスラム先生は優しそうで、ペリを診察しているとき、「こんな綺麗な目は見たことがない」と安心させながら対応。骨折の症状を調べるためにレントゲン検査と、加えて脳の損傷を調べるためにCT検査すべきと提案され、承諾。レイは待合室で待ち、ジョアンが検査に立ち会うことになり、「モーテルの予約をしておこう」「来年は飛行機だな」などと軽口を飛ばしながら、エレベーターで降りていく妻と娘を見送るレイ。エレベーターは地下へ降りていきました

それがレイの知っている二人の最後の姿に…。

実はタイトルがネタバレ

『フラクチャード』は話自体が非常に予測しやすいです。最小の登場人物構成で、あの展開となれば、答えはひとつみたいなものですからね。下手をすれば事故が起こる前から、ビンビンにフラグをたてているので予感するのは簡単です。

一応、一番最初にハッキリと映像で明示されるのは、立ち寄ったスタンドで電池ではなくアルコール瓶を買ったのに妻には言わないというシーンですかね。ここでレイがアルコール依存症だということが観客にわかります。

オチを書いてしまうと、娘のペリの落下の原因となったのは野良犬ではなく、酒に酔って暴走したレイ自身であり、落下によってペリはその場で頭を強く打ち付けて死亡。ジョアンがその後に駆け寄るも、レイに詰め寄った際に突き倒され、すぐそばの工事現場の地面から飛び出ているボルトが頭に刺さり、こちらも死亡。一瞬で二人の家族を失ったレイは遺体を車の後ろに乗せ、病院へ。自分の治療だけをするのでした。

また、レイは過去に結婚していた前の妻アビーとその間に生まれた子も、交通事故で亡くしていました。その原因はおそらく序盤の病院へ行く際のようなレイの無理な運転だったのでしょう。

落下事故以降、レイは自分にとって都合のいい幻影を見るだけ(妻と娘に愛される良き夫・父)。

それでも矛盾だらけの証言を誤魔化せるわけもなく、監視カメラの映像にも受信記録にも自分の存在しか証明できません。やがてテレサ・ジェイコブスという精神科のカウンセラーに見透かされてしまい、パニックとなったレイは暴走。病院の地下で自分がジョアンとペリだと思い込んでいる存在(実際は無関係の人)を運び出し、そのままエンディング。

個人的にはちょっと幻覚がかなり都合よすぎるくらいのピンポイントなのが気になりましたけど、まあ、アルコール依存症の人がアルコールを飲んで、かつアドレナリンをあれだけ注射したら、確かにそれくらいにはなるのかも。

誰かが自分を陥れようとしていると思い込んで精神不安定の沼にハマるというサスペンスは、“ブラッド・アンダーソン”監督は『マシニスト』ですでにやっていますから、今回の『フラクチャード』はその変化球ですね。

ちなみに原題の「fractured」は「骨折した」という意味ですが、スラングで「酔っぱらった」という意味もあります。タイトルでネタバレしているんですね。映画の題名だけを見て、すぐにオチに気づいたら、あなたは…なんだ、その、いや、それだと映画を楽しみづらい人なのかもしれない…。やっぱりスラングなんて知識はあんまりない方がいいのかも…。

フラクチャード

思いだした、あのゲーム

『フラクチャード』はオチはシンプルですけど、私はアメリカ映画らしいなと思った点がいくつかありました。

ひとつは「アルコール依存症」の扱い。日本ではどうもアルコール依存症は社会問題視されていない傾向にあります。酒との付き合いは個人の問題…で片づけてしまいがちです。

でもアメリカではドラッグもアルコールもセックスも「依存症」は「依存症」として明確に区別され、“治療すべきもの”として見なされます。治療しなければ、社会人としては認められないし、治療するためならそれに専念するべきでサポートも得られる。そういう常識のある世論や社会が成り立っています(それでもケアが行き届いていないケースも多いですが)。

『フラクチャード』も端的に言えばアルコール依存症の恐ろしさを描く作品なわけですが、こういうある種の教訓というか、反面教師になる、“怖い話”が作られるのも、そういうアルコール依存症に対するリテラシーがあるからこそですよね。

そしてもうひとつは「病院」の扱い。私は書き出しで病院への子ども時代の恐怖を書きましたけど、大人になった今はそんな怖さは持っていません。むしろ信頼すべき場所だとさえ思っています。日本では医療機関は基本的に信頼性の高い公的サービスという感じです。

でもアメリカでは病院は民間経営だったりして、サービスもまちまちで、イマイチ信頼感はないことも多いです。それは作中の病院利用者の態度とかを見ていても如実に示されます。こればかりはアメリカではそういうものなんですよね。事故の時だって救急車を呼ばずに、自分の車で病院に向かうというのが、また日本では考えにくいことですし…(アメリカの救急車は質が低いこともある)。だから余計にレイが病院への陰謀論的な不信感を増幅させるという密かな原因にもなっています。

あと本筋とは違いますが、レイの役に“サム・ワーシントン”を起用するというのも、大胆というか、アメリカらしいと言えばらしいです。なぜなら彼は、過去に酔って暴力事件を起こしているのです。そんな“サム・ワーシントン”にこんな役…リアルだけど…いいのかな。でもアメリカ映画界ではよくあるキャスティングなんですよね。不謹慎とか考えないあたりはお国柄なのかな。

さらに余談ですが、この『フラクチャード』の結末的なオチで“サム・ワーシントン”とくれば、思いだしてしまう作品がひとつ。TVゲームなのですけど、「コール オブ デューティ ブラックオプス」。これで“サム・ワーシントン”はメイソンという主人公を演じているのですが、ネタバレを控えますが、これも幻覚つながりのネタがあって…。もはや持ちギャグみたいになってきた…。

皆さん、アルコールには注意してください。本当に冗談ではなく、この映画みたいに人生を破滅させている人が世界に無数にいるのですから。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 69% Audience --%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

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作品ポスター・画像 (C)Koji Productions, Netflix