ジェミニマン
映画『ジェミニマン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Gemini Man
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年10月25日
監督:アン・リー

ジェミニマン

あらすじ

暗殺のスペシャリストとして裏で従事してきたヘンリーは政府に依頼されたミッションを遂行した後、何者かに襲撃される。自分の動きをすべて把握し、神出鬼没な謎の襲撃者の正体は、なぜか自分とそっくりだった。その謎めいた敵に困惑しながら、ヘンリーはアメリカ国防情報局の捜査官ダニーの協力を得て、政府を巻き込む巨大な陰謀の渦中へと身を投じていく。

『ジェミニマン』感想(ネタバレなし)

みんなから愛されるこの人

青いランプの魔人を演じるだけの器があるんですね。いきなり誰のことを言っているのか?

“ウィル・スミス”です。彼は凄いという話。

彼のキャリアはアフリカ系アメリカ人らしく「ラッパー」からスタートします。そのパフォーマンスは高く評価され、音楽界でもじゅうぶん名を上げたのですが、これだけにはとどまりませんでした。コメディドラマで俳優活動を始め、そのまま俳優としては低空飛行なのかと思ったら、1995年の『バッドボーイズ』で一躍大ヒット作のスターへ。さらに1996年の『インデペンデンス・デイ』、1997年の『メン・イン・ブラック』と立て続けにブロックバスター映画の成功に乗れたことで、俳優としてのキャリアは瞬く間に大好調。しかも、エンタメ作品ばかりでなく、『ALI アリ』『幸せのちから』『コンカッション』とシリアスなドラマ映画でも繊細な演技を見せ、批評家ウケも上々で、どんな場でこなせる器用さを発揮。

みんな知っている俳優じゃないでしょうか。私も映画にそんなにドハマりしていなかった頃、それでも“ウィル・スミス”の名前は知っていましたし、日本ですら一般層への知名度がここまで浸透しているなんて凄いです。

ハリウッドでは黒人俳優は人種差別上のさまざまなハードルがあるもので、実際、順調にキャリアアップしているように見えても失速してしまう黒人俳優も少なくない中、なぜか“ウィル・スミス”だけは特例なのか、あまりにもストレートに階段を二段飛ばしで駆け上がりました。

“ウィル・スミス”の映画業界からの信頼性を示すものはたくさんあります。例えば、彼は主演作が全部大成功をおさめているわけではなく、中には某アレとかコレとか、大コケした作品もチラホラ定期的にあるわけです。でも“ウィル・スミス”のキャリアには微塵の影響も与えないんですね。

また、『幸せのちから』『アフター・アース』では息子のジェイデンと、『アイ・アム・レジェンド』では娘のウィローと、それぞれ親子共演するという、なんとも親バカな自己満足キャスティングをやってみせることも許されているという…。

なんでしょうか、ジーニーにでも願いを叶えてもらったのでしょうか。これも“ウィル・スミス”の人格のなせる技なのかな。致命的なスキャンダルがなかったのも後押しになったのかも。

そんな“ウィル・スミス”の次なる主演作も実に彼らしい、俳優力のある人物にしかできない映画でした。それが本作『ジェミニマン』

物語は超シンプルで、暗殺諜報員の主人公の前に“自分と同じ人間”が現れて、バトルが展開していくという、“ウィル・スミス”一人二役の「ウィルvsウィル」が売りのアクション映画です。片方の若い姿の“ウィル・スミス”はモーション&フェイスキャプチャーをした“ウィル・スミス”本人をVFXで若返らせています。親子共演にはやり飽きたから、次は自分共演と来たか…セルフにもほどがある…。

宣伝もまさにその「ウィルvsウィル」を押し出しており、日本の場合は吹替声優がこれまで“ウィル・スミス”に声をあててきた“江原正士”“山寺宏一”にそれぞれを担当してもらい、一種の吹替バトルにもなっている粋な計らいも。ちなみに“ウィル・スミス”の吹替声優は他にも“大塚明夫”、“東地宏樹”、“小山力也”、“平田広明”などがやられていて定まってはいないのですけど(つまりまだ何人か増やせますね!)。

製作に“ジェリー・ブラッカイマー”の名がデカデカとあることから映画好きはお察しのように、『ジェミニマン』は大味大作です。基本、ド派手な展開をひたすらに楽しむものであり、それ以上はありません、ええ。

意外なのは監督が“アン・リー”だということ。かつてから最もハリウッドで活躍しているアジア系監督のひとりであり、『ブロークバック・マウンテン』などマイルストーンになる映画も生み出してきた彼ですが、ここまで(言っちゃ悪いですが)知能指数の低そうな映画にも手を出すとは…。まあ、『ハルク』とか『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』とかでもわかるように、VFX大好きな監督ですし、その欲求を満足できる場としてこの『ジェミニマン』にも惹かれたのかな…。

共演は、『10 クローバーフィールド・レーン』でも印象的な主演を見せた“メアリー・エリザベス・ウィンステッド”。そして、『ドクター・ストレンジ』の愉快な相棒ポジションでみんな大好き“ベネディクト・ウォン”もいます。


重たい映画ばかり見て疲れてきたな…という人は、ぜひ気軽に観れる『ジェミニマン』をどうぞ。え、映画を観るのを休憩するという選択肢はないのかって? ないですよ、何言っているんですか。

オススメ度のチェック
ひとり◯(アクション映画好きに)
友人◯(友達との喧嘩は控えて)
恋人◯(軽い気持ちで観れる)
キッズ◯(普通に見やすい)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ジェミニマン』感想(ネタバレあり)

自分を消しにくる自分

政府御用達の暗殺者であるヘンリー・ブローガンは今日も任務の真っ最中。ターゲットは高速列車に乗る男。猛スピードで走行する列車の座席に座るターゲットを、遠く離れた地点から狙撃して射殺するという、もうちょっと他に確実な手段は思いつかなかったのかというシチュエーションに挑むヘンリー。

絶対に列車以外の場所で狙撃すべきだったと思うのですけど、いや、それは私のような素人考えに過ぎないのかもしれない。きっと何か明確な意図があるに違いない。うん、そうだ(謎の納得)。

当のヘンリーはトラブルも何のその、冷静にスナイパーショットを決めます。さすが『スーサイド・スクワッド』で同じような役をしていただけはある!

そんな凄腕ヘンリーももう列車に照準を合わせるのは飽きたのか、政府の汚れ仕事から引退を決めます。今回の“ウィル・スミス”は引き際をわかっていますね。

人里離れた場所で静かに残りの人生を送るべく、新生活を開始するヘンリー。そうです、じゅうぶん儲かったでしょうし、もういいですよね(あれ、俳優の話をしている…)。

ボートレンタルマネージャーの女性「ダニー」と会話を交わしつつ、自分でボートを操縦してのんびり海でプカプカ。ちなみになんでアメリカ人は引退するとボートに乗りたがるんでしょうか…。

その悠々自適な暮らしを謳歌しようとしているヘンリーを上空から監視している存在。それはアメリカ国防情報局(DIA)の重要人物ジャネット・ラシター。そして彼女の一緒にいるのは謎の男クレイ。どうやらDIAとしてはヘンリーは邪魔なようで、独自の暗殺部隊を持っているらしいクレイとは協力関係にあるのか。しかし、何やらそれ以上の因縁もある感じも…。

なお、アメリカ国防情報局(DIA)ですが、同じアメリカ国防総省の組織として「アメリカ国家安全保障局(NSA)」というものもあり、違いが曖昧ですが、国家機密なので誰も詳細は話していないのでわかりませんけど、多少は業務内容は重なっていると思われます。どちらにせよ“人を殺す”のは公的に実行はできないことであり、だから作中ではヘンリーのような人間にやらせているんですね。

話を『ジェミニマン』に戻しますが、ヘンリーはある日、自分のボートに追跡器があるのを発見。ダニーに詰め寄り、エージェントなのかと問いただします。しかし、事件は起こりました。その夜、ヘンリーは何者かの集団に襲われ、またダニーも襲撃を受けます。こうなってはこの場にいられないと、ヘンリーとダニーはボートで脱出。

なんとか当面の危機を脱し、とりあえず砂浜でお食事中のヘンリーとダニーの二人の前に、軽飛行機が迎えに来て、現れたのは陽気そうなバロンという男。ヘンリーの旧友であるこのバロンの手を借りて、とりあえずの隠れ家に身を潜めます。

しかし、休ませてはくれません。コロンビアにて突然、敵の気配を察知するヘンリー。すると市街のど真ん中にも関わらず、どこからか撃たれます。建物を遮蔽物にして隠れ、銃のスコープで敵をサーチすると、一瞬、見かけたのは…自分によく似た男。不審に思ったのも束の間、一進一退の攻防が激化。警察が駆け付けたことでその場は収まり、敵は消え、ヘンリーは逮捕。

コネでなんとか留置場から出れたものの、ダニーが戦闘現場に残っていた血痕を分析して判明した事実が風雲急を告げることに。その血の持ち主である強襲者は、ヘンリーのDNAと完全に一致。近いのではなく、完璧に一緒ということは、クローン

動揺したヘンリーは知るのでした。自分の知らないところで進められていたプロジェクトのことを…。

そうです、あの『スーサイド・スクワッド』を黒歴史にするべく、あの手この手の作戦が進行中なのです。そして大コケした過去の主演作の“ウィル・スミス”が、成功した“ウィル・スミス”に復讐を企てており…。あ、はい、嘘です。

ジェミニマン

ウィルvsウィルvsウィル

『ジェミニマン』はあらためて言うのもアホらしいですが、アクション映画ですので、魅力は当然そこになります。最初はスナイパーシーンを見せてくるので、てっきり狙撃対決でも待っているのかと思ったのですが、いたってそんなことはなく、普通に狙撃皆無でした。

最初の見せ場はバイクチェイスです。狭い街の道路を駆け抜け、疾走していく過程を長回しで見せるあたりは、観客の興奮を一気にフル充電させてくれます。ただでさえ、ここまでもう一人の自分が現れるまで30分以上かかってますから、観客としても待ちくたびれていますしね。相手もバイクで追走し、スピード感が非常に高いのが気持ちいいです。

また、単なるスピード対決ではなく、バイクの前輪を上げてウィリーさせて銃弾を弾く盾にしたり、バイクを使って地面に伏せた相手をフルボッコにしたり、文字どおりバイク乗り捨てアタックを決めてきたり、乗り物を攻撃と防御両方でも駆使していく感じは、『ジョン・ウィック』なテイストを感じます。

続いて、暗い地下空間で二人が相対した時の戦闘。ここでは肉弾戦が展開。同じ顔の者同士が殴る殴るの近接バトルで、水中でのマウントの取り合いもありと、忙しいです。冷静に何も考えずに見ていると普通のシーンですが、これ、片方はVFXで顔を生成しているわけで、こんな激しい映像に合わせて顔を作るのは大変だったでしょうね(水中もあるし)。だから暗さで多少誤魔化しているのかもしれませんが。

ラストは謎のボディアーマーを着込んだ暗殺者と、二人の共闘。ここはもう『ターミネーター』でした。炎もものともせず迫ってくるあたりとか、露骨に…。

そして謎の暗殺者の正体がわかり…やっぱり“ウィル・スミス”は家族がテーマになるんじゃないか!っていう、いつものお決まりのオチ。

エンディングでは普通にクローンであるジュニアが普通に大学に行ってましたけど、あれだけ人を殺しておいて何事もなく日常生活に溶け込めるあたり、とんでもない精神性だ…。さすが“ウィル・スミス”、なんでもできる!(全部、それで流す気です)

ちなみにタイトルの「Gemini」は「ふたご座」のことです(“ウィル・スミス”はインタビューでは「ジェミナイ」って発音していますね)。

もう少し早く作られていれば…

個人的には『ジェミニマン』を観たとき、なんか1990年代後半くらいに作られていそうな映画だなぁと思ったものです。クローンの男が襲ってくるんですよ。今さらクローンなんて技術に驚かないですし、今のトレンドはAIですからね。なんでこの2019年にこの題材なんだと思いました。

でも「1990年代後半くらいに作られていそうな映画」という評価は半分当たっています。というのも、本作の企画はディズニーが1997年に手を付けていたものだそうで、監督も決まったりしていたそうです。その時の主演は、ハリソン・フォード、メル・ギブソン、ニコラス・ケイジ、ブラッド・ピット、トム・クルーズ、クリント・イーストウッド、アーノルド・シュワルツェネッガー、シルベスター・スタローンなど、そうそうたる顔を据えるアイディアもあったらしく…。誰が主演していても絶対に面白そうですよね。しかし、当時の技術的な問題もあって、企画は頓挫。

それがなぜか今になってパラマウントが映画化権を取得し、本作として完成した…という流れ。

けれどもどうでしょうか。さすがに今の時代はもう目新しさはないのではないか、と。すでにMCUが『キャプテン・マーベル』などで俳優の若返りを長尺でやってみせたり、ジェームズ・キャメロンなんて『アリータ バトル・エンジェル』で俳優の2.5次元的なキャラクターへの落とし込みまで挑戦したり、ガンガン攻めています。その点でもアクションに特化しているとはいえ、『ジェミニマン』のインパクトは弱いような…。

また、ストーリー面でも既視感は否めず、自分とそっくりの相手が襲ってくるというのは類似作が無数にあり、最近も『アス』という映画があったばかり。しかも、こちらはそのアイディアに頼りきらず、他のユニークさもありましたが、『ジェミニマン』は…。


なにより物語の設定が『メタルギアソリッド』というTVゲームにそっくりすぎないかという指摘も各所であり、まあ、確かにほぼほぼ同じなんですよね。世代間の違うクローンが戦いを余儀なくされていくあたりなんかとくに。ちなみに『ジェミニマン』のヘンリーは50歳、ジュニアは23歳だそうです。

実は『ジェミニマン』、「ウィルvsウィル」以外の売りがある映画でした。それは「4K、3D、120fps」という非常に豪華な映像を提供できる撮影で作られていること。しかし、なんとアメリカの劇場にはこの「4K、3D、120fps」に対応した上映ができるスクリーンが1つもないという、本末転倒。なお、“アン・リー”監督の前作『ビリー・リンの永遠の一日』も「4K、3D、120fps」だったとか。

日本は幸いなことに3か所で120fps上映があるらしいですが、大半の劇場は非対応なので「3Dプラス イン ハイ・フレーム・レート」という60fps映像をいかにもゴージャスに見えるネーミングで表現し、没入感をアピールしています。いいのか、これで…。

そういう意味では完全に志と現実がミスマッチを起こしている映画でもありますよね。生まれるのが遅すぎたのか、早すぎたのか、さっぱり不明ですが、ひとつだけ言えるのは「今」ではなかった…そういうことにしておきましょう。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 25% Audience 84%
IMDb
5.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.