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『355』感想(ネタバレ)…女性スパイが355人出てくる映画ではないです

355

5人の女性スパイが活躍!…映画『355』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The 355
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2022年2月4日
監督:サイモン・キンバーグ
性描写 恋愛描写

355

すりーふぁいぶふぁいぶ
355

『355』あらすじ

アメリカのCIA本部に緊急情報がもたらされた。あらゆるセキュリティをくぐり抜ける危険なデジタル・デバイスが南米で開発され、闇マーケットに流出しようとしていた。この非常事態に対処するため、CIAは最強の格闘スキルを誇る女性エージェントであるメイスをパリに送り込む。しかし、そのデバイスは国際テロ組織の殺し屋の手に渡り、ドイツ、コロンビア、さらには中国など、各国のエージェントが錯綜することに…。

『355』感想(ネタバレなし)

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「355」とは? 元ネタは…

2022年もスパイ映画は目立っています。

2月のスパイ映画は本作で決まり。それがスパイアクション映画『355』です。

何だこの数字…「007」みたいなもの?…と思ってしまいますが、別にスパイが355人いるわけではないです(そう思った人はいないと思うけど)。

実は「355」というアメリカの独立戦争時代に実在した女性スパイのコードネームがあるのです。まず将校のベンジャミン・トールマッジと後の初代アメリカ大統領であるジョージ・ワシントンが設立した「カルパー・リング」というスパイ・ネットワークが存在しました。本当に極秘裏に活動していたのでその存在は誰にも知られることなく、一般にその名が知られ始めたのは1930年代になってからだそうです。

この「カルパー・リング」に属していたとされるのが「355」というコードネームを持つスパイで、女性だと言われています。詳細な身元は不明ですが、エイブラハム・ウッドハルという「カルパー・リング」の主要なメンバーの手紙の中にも言及があるそうです。つまり、アメリカはその建国の時から女性のスパイが活躍していたんですね。

話題を今回紹介する映画に戻します。つまり、映画『355』は「カルパー・リング」に属していたとされる「355」というコードネームを持つ女性スパイ・エージェントを描く作品…ではなくて…

違うの!? ええ、違うのです。こんな前置きをしておいてなんですが…。

本作『355』はあくまで「カルパー・リング」に属していたとされる女性スパイ・エージェントのコードネームをタイトルとして借りているだけ。その時代の歴史を描いているわけではないので、そこを期待しないでください。

でも女性スパイはたっぷりでてきます。本作『355』の企画を出したのは、『ゼロ・ダーク・サーティ』『女神の見えざる手』で高評価を集め、フェミニストとして女性差別に毅然と声をあげ続けている“ジェシカ・チャステイン”。自身が出演した『X-MEN:ダーク・フェニックス』の制作中に「女性主体のスパイ映画を作れないか」と“サイモン・キンバーグ”監督に提案したそうです。

そして実現したのがこの『355』。ちなみに“ジェシカ・チャステイン”は『AVA エヴァ』という女性暗殺者映画も最近は主演しているので、よっぽどこういうタイプの作品が作りたかったんでしょうね。

そんな『355』、“サイモン・キンバーグ”監督のもとで一緒に企画を進めただけあって、なかなかに豪華な作品になりました。

とにかくキャスティングがゴージャスです。まず“ジェシカ・チャステイン”。そして『女は二度決断する』で話題となったドイツ人の“ダイアン・クルーガー”、『誰もがそれを知っている』など国際的に高く評価されているスペイン人の“ペネロペ・クルス”、『ブラックパンサー』『アス』でも印象に残るケニア系の“ルピタ・ニョンゴ”、さらに『封神伝奇 バトル・オブ・ゴッド』など活躍も華々しい中国人の“ファン・ビンビン”。この5人が揃った女性スパイのチームアップ・ムービーなのです。こんなグローバルな顔触れがひとつの映画で結集する機会は滅多にないですね。それぞれの俳優が1本の映画を背負えるくらいのポテンシャルがあるのに、その5人が1本の映画内に全部集中しているんですから。

ただ、“ファン・ビンビン”に関して2018年に脱税疑惑が持ち上がり、中国当局の捜査もあって活動が著しく減退。一時消息不明になる騒ぎになり、もうこの『355』もどうなるんだと心配されましたが、わりと普通に収束して公開に至りました。

女性以外の男性の出演陣もいます。ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でも大活躍だった“セバスチャン・スタン”、『WASP ネットワーク』の“エドガー・ラミレス”など。これらの男性たちが女性スパイとどう絡んで登場するのかもお楽しみに。

スパイ映画としては王道なので、気軽にエンターテインメントを満喫したいという人には『355』はぴったりです。トリガーアラートが必要な描写もほぼ無いですし…(もちろんこういうジャンルなので殺人描写はいっぱいありますよ)。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:かっこいい女性たちを見たいなら
友人 3.5:俳優ファン同士で
恋人 3.5:ロマンス要素はそれほどでも
キッズ 3.5:多少のベッドシーン描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『355』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):女スパイが集う

コロンビア。ジャングルの中にある豪勢な邸宅。そこに黒い車がやってきます。邸宅内では裏社会で私腹を肥やす犯罪者たちが、地球上のあらゆるデジタル機器にハッキングできるシステムを取引していました。実際に上空を飛んでいる飛行機を墜落させてみせ、その実用性をこともなげにアピール。

そのとき、銃声が…。同時に邸宅を包囲していた武装チームが突入。敵を的確に始末し、犯罪者を捕らえようとします。しかし、ひとりが車で逃げてしまいました。その武装チームに混じっていたコロンビアの諜報エージェントであるルイスは状況が深刻化していることを察します。あの危険なテクノロジーを表に出すわけにはいかない…。

その頃、アメリカのCIA本部に国防上のリスクとなる緊急性の高い情報がもたらされます。あらゆるセキュリティを容易くくぐり抜け、世界中のインフラや金融システムなどを攻撃可能なデジタル・デバイスが南アメリカで開発され、その途方もなくリスキーなテクノロジーが闇マーケットに流出しようとしている…。これを止めないといけないのが誰もが理解しています。CIAエージェントのニックも同席する中、このデバイスの流通を阻止できる候補として、ひとりに白羽の矢が立ちます。

それはメイソン・“メイス”・ブラウン。格闘訓練中のメイスのもとへニックが行き、事情を話します。メイイスは一流のエージェントで、そのスキルは組織内でも知れぬ者はいません。

メイスはニックとは長年のパートナーで、一緒にパリに向かいます。2人が街中に出で、お喋りしていると、ふいに接近してきた謎の女性に混乱に乗じてバックを奪われます。

必死に追うメイス。相手は通行人のバイクを奪って逃走。メイスは射撃で相手のバイクを転倒させ、相手は地下鉄へ。線路まで追いかけますが、相手の女もなかなかに格闘スキルがあり、逃げられてしまいました。

一方のニックは別の怪しい男を追います。それはルイスです。しかし、路地裏である集団に出会い…。

なんとか逃げ切って部屋に戻ったルイスのもとにコロンビアのDNIという諜報機関のエージェント仲間で心理学者でもあるグラシエラという女性がやってきます。

一方、メイスから逃げきったのは、BND(ドイツ連邦情報局)の秘密工作員であるマリーでした。しかし、お目当てのものを入手できず、ガッカリ。

そんな中、メイスはCIAの上司からニックは撃たれて死亡したと聞かされ、ショックを受けます。状況は悪化しています。CIA以外も動いているのは明らか。

そこでロンドンに飛び、元MI6でコンピュータの専門家であるハディージャに接触。画像解析と顔認識によって情報を割り出します。

海鮮市場でルイスとグラシエラは襲われ、ルイスは致命傷となる怪我を負いました。そこでメイスとマリーはまたも遭遇し、リベンジとばかりに格闘戦に。ハディージャは男を追跡し、そこにメイスとマリーが乱入し、互いに男を撃っていきます。しかし、男はモーターボートで逃げていきました。

マリーは警察になりすましてグラシエラを部屋に軟禁し、問い詰めます。そこへメイスとハディージャもやてきて、銃を突きつけ合うメイスとマリー。こんな状態では埒が明かないのでハディージャがなだめます。どうせ目的は同じなのだから一緒に仕事をする方が良い…。

4人はモロッコに向かいます。そして個人の持ち前の能力であっという間にターゲットを沈黙させ、デバイスを奪取。それを上司に届け、やっと解決。4人はこれまでのいざこざも忘れて、互いに乾杯していました。

ところがその安堵は一瞬で吹き飛びます。旅客機が墜落したニュース。そしてデバイスが別の誰かに奪われた可能性が…

戦いはこれから本格化することに…。

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5人のアンサンブルは楽しい

『355』の魅力はやはり5人の女性スパイたち。

“ジェシカ・チャステイン”は『AVA エヴァ』でも見せていたアクションをここでも披露。“ジェシカ・チャステイン”はあまりプライベートを明かさず、芸能の表にも出てこない人ですけど、本人はこういうアクション系が好きなんでしょうね。今回も人混みのある街中であろうが港であろうが何であろうがどこでも追跡して発砲しまくる。ジェームズ・ボンド以上に場をわきまえていないです。

その“ジェシカ・チャステイン”とライバル関係として配置されるのが“ダイアン・クルーガー”。こっちもこっちで負けてません。出会ったら速攻で喧嘩に投入する野良猫のようなバトルを連発していくのですが、ちゃんと互角で戦っておきながら、その後はわりとサクっと互いの矛を収めているのも良かったな、と。

そして“ペネロペ・クルス”はあまり戦闘向きではないエージェント(まあ、そもそも「スパイ=アクションできる人」というのがフィクションが作り上げたイメージなのでこれはこれで普通なんですけど)。“ジェシカ・チャステイン”演じるメイスと“ジェシカ・チャステイン”演じるマリーという極端に荒っぽいライオンみたいな存在に囲まれたら、それは委縮するのも当然です。

その荒くれライオン2匹を落ち着かせるのが、“ルピタ・ニョンゴ”演じるハディージャ。一応はハイテク担当ですが、このスパイ・チームの良心みたいになってます。個人的には“ルピタ・ニョンゴ”が一番お気に入りかな。『ブラックパンサー』でもスパイ的な職務につく役柄でしたけど、ミッションをこなす姿がかっこいいんですよね。

遅れて仲間入りするのは“ファン・ビンビン”演じるリン・ミ・シェン。出番が遅いので、作中での活躍の機会はどうしても少なくなってしまうのですが、 この“ファン・ビンビン”が絡んでくることでそれまで「私が!私が!」と縄張り合戦していた“ジェシカ・チャステイン”と“ダイアン・クルーガー”の荒くれライオン2匹がちょっと空気の変化に困惑してオロオロしてしまうあたりも微笑ましく…。

全体的にこの5人のアンサンブルはとても見ていて楽しくバランスがとれているので、このキャスティングは正解だったかなと思います。

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もっと5人が見たかった…

それでも『355』の個人的な残念ポイントもあって…。

まず話自体がかなり王道で、予定調和的ではあるので、サスペンスとしてのハラハラはありません。そもそも開始10分で「あ、今回の黒幕はセバスチャン・スタンだな…」ってわかってしまう。

“セバスチャン・スタン”のあの極悪非道っぷりは良かったのですけどね。人質を平気で見せしめに殺すという人でなし。キャプテン・アメリカが見たら、泣くぞ…。

ただ、あそこで相当に精神的にショックを受ける事態に直面するわりには、わりとひょいっと気分を持ち直してリベンジに挑んでいくあの5人。もう少し時間をかけられなかったのか…。観客の気持ちが追いつかない…。

あと、『355』はスパイものではあるのですが、あまり政治的な背景をリアルに反映しようとしていません。これはさまざまな国のエージェントが集って協力するという展開がある以上、あまり現実の情勢を考えていられないと判断したからなのかもしれません。でもスパイというのは政治あってこその存在ですから、やっぱり政治色がもう少し欲しかったなとは思います。例えば、『原潜ヴィジル 水面下の陰謀』のようにイギリスとアメリカの関係性にヒビが入っているゆえに情報共有に支障をきたしているとか、そういうバックグラウンドを用意しながらどこまでエンタメと両立できるか。

エンタメと言えば、『355』は肝心の5人のチームができるのが終盤なので、観客が一番見たかったであろう5人揃っての華麗な活躍が少ないというのは、ちょっと惜しい部分でした。『チャーリーズ・エンジェル』のときといい、観客が見たいと思っていたものを見せてくれないことがよくある…。『355』もあのエンディングの続きでまた5人が結集する展開を観客は観たいんですよね。むしろ今回のはエピソード・ゼロとしてどこかでスピンオフとかでもいいので…。

キャラクターは楽しかったのは言ったとおりなのですが、全員が何かしら恋人や家族といった存在ありきで物語の推進力が生まれているのは、これも個人的にはワンパターンかなと思う部分で…。『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の“アナ・デ・アルマス”のキャラクターみたいにそんな要素欠片もなくスパイとして生き生きと仕事している女性も見たかったかな…。

ともあれ『355』は賑やかさもあって潜在性を感じるスパイアクションでした。後はもっとテーマ性とか、アクションの持ち味とか、そういう特化ポイントを見い出せたら、ぐんぐん進化するんじゃないか、と。

ちなみに「カルパー・リング」のエージェント「355」を題材にした映像作品は他にもあって、ドラマ『Y:ザ・ラストマン』でも「355」のコードネームを持つ女性スパイが登場します。こっちも面白いのでぜひ。

『355』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 26% Audience 85%
IMDb
4.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2020 UNIVERSAL STUDIOS. (C)355 Film Rights, LLC 2021 All rights reserved.

以上、『355』の感想でした。

355 (2022) [Japanese Review] 『355』考察・評価レビュー