2部作を2回もできるのはこの作品だからこそ!…映画『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年4月23日
監督:大友啓史
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年6月4日
監督:大友啓史
るろうに剣心 最終章
るろうにけんしん さいしゅうしょう
『るろうに剣心 最終章』あらすじ
日本転覆を企てた志々雄真実とのかつてなく激しい死闘を終えた剣心たちは、神谷道場で平穏な日々を送っていた。そんなある日、何者かが東京中心部を相次いで攻撃。それは無差別に見えて実は狙いがあった。やがて剣心は、ある理由から剣心に強烈な恨みを持つ上海の武器商人・縁との戦いに身を投じていく。そこには剣心の頬の十字傷に深く関わる因縁があり、その2人を繋げているのはあるひとりの女性だった。
『るろうに剣心 最終章』感想(ネタバレなし)
思わぬ強敵「疫病」も斬り倒して
コロナ禍で手痛い目に遭った2020年の映画業界。その年の邦画の興行収入ランキングは以下のとおり。
1位『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』
2位『今日から俺は!! 劇場版』
3位『コンフィデンスマンJP プリンセス編』
4位『映画ドラえもん のび太の新恐竜』
5位『事故物件 怖い間取り』
6位『糸』
7位『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
8位『カイジ ファイナルゲーム』
9位『劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III. spring song』
10位『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』
総括すると1位だけが突出しているだけで、他は例年と比べると少ない興収です。2020年は洋画が壊滅的だったため、邦画で頑張るしかなかったのですが…。
それでも洋画ほどではないにせよ日本映画も延期を余儀なくされたものもありました。その延期作の中でも最も期待され、おそらく公開していれば(そしてコロナがなければ)日本の実写映画の中ではかなりの興収を叩き出してランキングにタイトルを連ねたであろう映画があります。
それが本作『るろうに剣心 最終章 The Final』と『るろうに剣心 最終章 The Beginning』です。
本作はあの大人気漫画「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-」を実写映画化したシリーズの最新作。これまで2012年に第1作『るろうに剣心』が、そのヒットを受けて2014年には第2作『るろうに剣心 京都大火編』と第3作『るろうに剣心 伝説の最期編』が前後編2部作として連続公開。何かと残念な結果も多い日本の実写化の稀有な成功例としてよく名前が挙がるほどに好評を得ました。
その『るろうに剣心』シリーズがまさかの再度2部作で新作を送り込んでくるとは…。なかなかないですよ、2部作を2回やる映画も。『るろうに剣心』シリーズにしかできない荒業です。
ところが2020年の公開を予定していたら新型コロナウイルスのパンデミック。この大作は可能な限り観客がたくさん入る理想的な状態で公開したい…そう配給のワーナーが考えるのも当然です。そこで翌年に思い切って延期となりました。
しかしここでまたも悲劇。2021年の公開日時期にもパンデミックは全然収まっていなかった…。というか余計に酷くなっていた…。これでは何のために延期したのかわからないですが、もう延期はできません。なし崩し的に公開することになり、2部作という観客を続けて集めないといけない企画なのにかなりの不利を強いられました。さすがの『るろうに剣心』シリーズも苦戦するか。
加えて今回の2部作は前回の2部作と比べてやや変則的なんですよね。その理由はタイトルを見ればわかります。4作目となるのが『るろうに剣心 最終章 The Final』で、5作目となるのが『るろうに剣心 最終章 The Beginning』。「ファイナル」が先で「ビギニング」が後なの?と思ってしまいますが、そのとおりで実は4作目は3作目『るろうに剣心 伝説の最期編』からの順当な続編ですが、5作目は丸々前日譚になっています。だから何も知らずに鑑賞するとちょっと混乱しますよね。普通は4作目のストーリーの続きが5作目で観られると期待しますから。だから極端な話、公開順としては『The Final』→『The Beginning』ですけど、『The Beginning』→『The Final』の順番で観ても問題はないです。
そんな『るろうに剣心 最終章』2部作、何にせよ、邦画屈指のアクションも拝めますし、観て損はないでしょう。“大友啓史”監督を始めとする製作陣もずっと一緒で安定感がありますしね。
ちなみにこの『るろうに剣心 最終章』2部作、海外ではNetflixでもう配信されているんですね(ワーナーは日本映画を動画配信サービスにガンガン売っていく方針のようです)。調べたらそんなにレビューはなかったのですが、こうやって世界に羽ばたくのはいいんじゃないかなと思います。
『るろうに剣心 最終章』を観る前のQ&A
A:1作目から観ていくのが素直にいいと思います。『るろうに剣心 最終章 The Final』は過去作からキャラクターがとくに説明もなくバンバン出てくるので、物語を忘れていると置いて行かれます。
オススメ度のチェック
ひとり | :アクション好きも必見 |
友人 | :ファン同士で集まって |
恋人 | :作品や俳優が好きなら |
キッズ | :カッコいいアクションに夢中 |
『るろうに剣心 最終章』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):十字傷の真実が明かされる
1879年。横浜駅。元新選組で今は藤田五郎という名で警官を従えている斎藤一は大部隊で停車している蒸気列車に乗り込みます。逮捕するべく狙う相手は、中国大陸の裏社会を牛耳る上海マフィアの武器商人の男。その名も雪代縁。
しかし、車内で包囲された雪代縁は冷静沈着で、しかも刃を向けてきて「人斬り抜刀斎はどこだ。ヤツの頬にまだ十字傷をあるのか? 姉さんはまだあの男を恨んでいるんだね」と呟くと、華麗な身のこなしで逃げます。逃走の最中、圧倒的な強さで警官たちをなぎ倒していきますが、斎藤一が刀を抜くと急に降参。
ところが日本と大清帝国間の領事裁判権のためにその雪代縁は釈放、もとい引き渡しとなってしまいます。やむを得ず明治政府は雪代縁を探るため、明治政府打倒と日本征服をもくろんでいた志々雄真実の一派「十本刀」のひとりだった沢下条張を密偵として送り込みます。斎藤は信じていませんが…。
その頃、志々雄真実を打ち倒して平和を取り戻すことに貢献した緋村剣心とその仲間たち。神谷薫、高荷恵、相楽左之助、明神弥彦を連れて、東京の浅草を散策していました。町は華やかで西洋の文化がどんどん取り入れられています。
友人の巻町操が働く食堂「あかべこ」で楽しく牛鍋を食べ、その後に夜の町を歩いていると、遠くの背後で謎の爆発音。「あかべこ」が炎上しています。それは近くの山からの砲撃によるものと考えられ、剣心たちは現場に直行。そこには「人誅」と書かれた紙が残されており、幕末に人斬りが好んで使った言葉だと剣心は語ります。そこへ斎藤一も駆け付け、捕まえ損ねた上海の男がお前の頬の傷について話題にしていたと話をします。
相楽左之助は恵に剣心の頬の傷についてこっそり聞きますが、知らないらしく、でも何かしら強い念を持ってつけられた刀傷はその恨みがなくならないかぎり消えることはないとか。
襲撃はさらに続きます。浦村署長宅、前川宮内の道場、それぞれが謎の強敵によって残酷無慈悲な殺戮の場へと変貌。剣心は戦いますが、心の奥ではある確証を感じていました。
そして剣心の前に現れる雪代縁。「姉さんの幻でも見えたのか」「あれから14年、日本を捨てて上海でマフィアの頂点に上り詰めた。復讐のために。まもなく人誅の時間だ」…そう言い残して去るだけ。
その2人を繋ぐのは、縁の姉にして、剣心の婚約者である雪代巴でした。
ファンタジーアクション時代劇の最高峰
映画『るろうに剣心』シリーズの魅力は何といってもアクション。ジャンルとしては時代劇であり、アクション重視。しかもファンタジー要素ありなので、アクションの自由度は高め。それを活かした縦横無尽の剣劇は1作目の時点から特徴であり、すでに凄かったですが、この『るろうに剣心 最終章』ではさらにパワーアップ。たっぷりと楽しめます。
『るろうに剣心 最終章 The Final』の冒頭の雪代縁逃走アクションから一気に心を掴まれます。雪代縁を演じた“新田真剣佑”も見事にハマってました。そして縁一派の個性強めの奴らとのバトルも見ごたえ抜群。日本独特の狭く仕切りの多い家構造をバッコバコと破壊していく感じがたまらないですね。
後半はひとり戦う剣心を前に仲間が続々と駆け付けるという王道展開。ここでの乱戦の見せ方も素晴らしく、“神木隆之介”演じる瀬田宗次郎とのコンビバトルも実に爽快。 彼の言葉を借りるなら「楽しかったです」。ラストの雪代縁との一騎打ちも言わずもがな。
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』では、「人斬り抜刀斎」全盛期なので打って変わって血しぶき多め。やっぱり時代劇には血は良い演出になりますね。
この『るろうに剣心』シリーズでアクション監督を務めてきた“谷垣健治”。若い時に香港で学んだ本場のアクションと、日本の由緒ある殺陣時代劇の動きを、このシリーズを通して完全に融合させて完成形へと昇格させましたね。もう言うことなしです。
“谷垣健治”監督として『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』でメガホンをとり、さらには『G.I.ジョー: 漆黒のスネークアイズ』でのアクション監督にも抜擢されてハリウッドにジャンプ。この『るろうに剣心』シリーズで最も進化したひとりですね。
2部作としてこれでいいのか
アクション面はもはや邦画の中でも最高峰で敵なしなのですが、『るろうに剣心 最終章』2部作として考えた場合の構成はかなり難があるというか、キマっていない気もします。
前述しましたが、この『るろうに剣心 最終章』2部作は『The Final』と『The Beginning』で直接的に続きません。『The Beginning』は前日譚として独立しています。
普通、2部作は前編の最後で強烈なクリフハンガーを用意して、観客を「ああ、続きが見たい!」という気持ちにさせるものです。『IT イット』2部作も『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー/エンドゲーム』もそうでしたし、こちらは最強の敵との最終決戦を上手い具合に持ち越すことで「後編鑑賞意欲」を底上げさせています。「どんな展開になるんだろう?」と考察欲を刺激するのも昨今では欠かせません。
ところが『るろうに剣心 最終章』2部作はそれがゼロ。しかも『The Final』で回想シーンがちゃっかりあって『The Beginning』のダイジェスト版みたいな映像が流れるわけで、雪代巴がどう死ぬのかという最大の見せ場も映る。観客としては観たいものは『The Final』で完了してしまいます。
こうなってくると『The Beginning』は日本のテレビドラマシリーズとかによくある追加のオマケエピソードみたいですよね。この構成はもったいないなと。せめて『バーフバリ』2部作みたいな現在パートと過去パートの構成にすれば良かったのに…と思うのですが、たぶん過去を絡めていく話は前の2部作でもやったし、繰り返しになると思ったのかな? どちらにせよ大切な最終章としては惜しいことをした感じです。
その女性幻想、人誅の時間です
個人的に『るろうに剣心 最終章』、というかシリーズ全体で気になったのは女性キャラクターの描写。
その考察というほどではないのですが、基本的にどの女性キャラクターも典型的な和美人で、清廉・純粋・献身的・幼さを兼ね備えているわけです。
とくに『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の最重要な存在である雪代巴はその極み。主体性はまるでなく、自己の意思や達成よりも男性に寄り添うことでしか立ち位置を見い出せない。それを儚さなんて綺麗な言葉で消費するのは都合が良すぎて、結局はとても空虚なキャラクターです。
演じた“有村架純”はそういうキャラクターを期待されてキャスティングされる傾向が強いですけど…。
これはもう明らかな男性による女性幻想にすぎず、私はこういうのを日本の伝統だとか美学だとかで無批判に受け入れたくはないですね。実際、現実で生きている日本人女性は「もっと女らしくしろよ」とこういうステレオタイプで苦しんでいるのですから。ましてや世界に発信する日本コンテンツの女性表象がこれでは、アジア系女性の偏見が改善しないのも当然。アジア系の差別を煽っているのは他ならぬ日本コンテンツということになりますからね。
かろうじて女性幻想から片足だけ脱却できているのは巻町操で、終盤の迫真の戦闘シーンといい、これはもう演じた“土屋太鳳”の功績。アクション映画の主役、やってくれないかな…。でもその巻町操も四乃森蒼紫に一途であり、やっぱり男性ありきの女性なんですけどね。
男性キャラクターはすごくバリエーションがあるのに女性キャラクターは男性目線で均質化されている。女性に意思は見えてこず、雪代巴は日記だけで雄弁に語った風になり、最後は剣心と縁が勝手に女性の気持ちをわかったつもりの感じでぶつかり合う。とにかく女性不在。ラストは雪代巴が地獄から蘇って魔人と化し、ラスボスとして日本を破壊するとかでも私は良かった(なんだそれ)。
映画のように「きたか、新しい時代が…」とはならないのは残念でした。
ROTTEN TOMATOES
L: Tomatometer –% Audience 83%
B: Tomatometer –% Audience –%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)和月伸宏/ 集英社 (C)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final」製作委員会 るろうに剣心 最終章 ザ・ファイナル、るろうに剣心 最終章 ザ・ビギニング
以上、『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の感想でした。
RUROUNI KENSHIN Last Chapter (2021) [Japanese Review] 『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』考察・評価レビュー