アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲
映画『アイアンスカイ2 第三帝国の逆襲』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Iron Sky: The Coming Race
製作国:フィンランド・ドイツ・ベルギー(2019年)
日本公開日:2019年7月12日
監督:ティモ・ブオレンソラ

アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲

あらすじ

月面に隠れ潜んでいたナチスの侵略を突如受けた人類はその脅威をなんとか退けた。しかし、自ら引き起こした核戦争によって地球は荒廃。それから30年後、人々はナチスが建設した月面基地で生き延びていたが、月面基地のエネルギーが枯渇し、人類は絶滅の危機にあった。そんなとき、地球の地下世界に未知のエネルギーがあるという情報を得る。

ネタバレなし感想

北欧映画界の問題児国家

「北欧映画」はグローバルな映画界隈では無視できない存在です。

『THE GUILTY ギルティ』や『ザ・スクエア 思いやりの聖域』など国際的に高く評価される作品もあります。




『蜘蛛の巣を払う女』や『スノー・ロワイヤル』などハリウッドでリメイクされる作品もあります。意識していなくても意外に触れていることが多いのが北欧映画です。




でも、あれ…。ちょっと待った。今、挙げた映画はデンマーク、スウェーデン、ノルウェーといった確かに北欧諸国の作品ですけど、うん? そういえば、まだ北欧には国があったような…

はい、そうです、忘れていませんか? 「フィンランド」です。

しかし、忘れるのも無理はない。なぜならあまりフィンランド映画って話題になりませんから。実際、フィンランド映画で真っ先に思いつくのはありますか? もちろん国際的に著名な映画人がいないわけではないです。『パラダイスの夕暮れ』『過去のない男』『希望のかなた』などでおなじみのアキ・カウリスマキ監督といった名の知れた人もいます。エンタメ系だと2016年に公開された『アングリーバード』というアニメ映画がありましたが、あれも実はフィンランド映画です(元ネタのモバイルゲームの開発企業がそもそもフィンランドの会社)。

そんな記憶に薄めの印象しか残していないフィンランド映画ですが、侮るなかれ。この国はとんでもない隠し玉となる一撃を得意としていたのです。

それは…「パロディ」

そして、フィンランドから送り込まれたパロディの度を越えたトンデモすぎる奇作が『アイアン・スカイ』でした。その公開は2012年のこと。この作品の内容はとにかくアホとしか言いようがないもの。

簡単に説明すると、こんな感じ。

「第2次世界大戦中、ナチスは敗戦が決定的になる前に実は宇宙ロケットで月へと脱出し、月の裏側で地球侵攻の準備をしていた…そして現代、ナチスの地球侵攻が始まる…!」

どうですか、この小学生でもボツにしそうなバカなあらすじは。

一部カルト映画ファンの間で話題になった『アイアン・スカイ』でしたが、観た人でもこの作品がフィンランド映画だとはあまり認知していないかもしれません。ちなみに『アイアン・スカイ』を生み出した“ティモ・ヴオレンソラ”監督(もちろんフィンランド人)、過去には「スタートレック」のパロディである、これまたフィンランド製の「スターレック(Star Wreck)」シリーズに関わっていた、生粋のパロディ野郎。

なんでしょうね、フィンランドはなぜこんなアホ映画を生産するのでしょうかね。サウナに入りすぎて頭がおかしくなったのかな…。

そんな“北欧の中の変人担当”フィンランドは性懲りもなく『アイアン・スカイ』の続編を用意してきました。それが本作『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』。前作もクラウドファンディングで作った作品でしたけど、続編となる今作もクラウドファンディングで1.5億円を集めたとか。なんか…人間ってバカだなって思いました。

当然、みんながブレーキをかけることもなく、「もっとやれ」の声で励ましちゃったので、続編はさらに好き放題やってます。もうそれは宣伝とか見ればわかりますけど。ここまでくるとツッコむのも負けな気がする。これはお金を出した人が悪いので、責任とってくださいね。

フィンランド産の暴走映画を真正面から受け止める覚悟のある人は鑑賞してみてください。

でもいいんですか。同じ公開日は『トイ・ストーリー4』とか名作が上映されているんですよ。どうせお金を使うならそっちを観た方が良いに決まっていますからね。一応、念押ししときますよ。

おすすめ PiCKUP!
↑『アイアン・スカイ』…記念すべき第1作。これを観ておけば…とくに何の人生の役に立つことはないです。
オススメ度のチェック
ひとり◯(もはや受けて立つ精神で)
友人◯(盛り上がりやすい…はず)
恋人◯(ノリがわかるなら)
キッズ◯(責任はとりません)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

これだからApple信者は…

前作『アイアン・スカイ』の結末では、地球が核戦争によって大変なことになってしまい、これはもう続編とか作れる状況ではないだろうと思っていたら、『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』ではまさかの30年後という設定で、人類はかつてのナチスの月面基地で生存していました。

いや、いくら核戦争で地球が荒廃したとしても、月の方がさらに荒廃しているだろう…とか思ってしまいますが、スルーですね、はい、わかります。

月のダークサイドにある基地でなんとか生活を続ける人間たちですが、そこにはナチス体制が消えたにもかかわらず、さながら管理社会のように徹底したコントロール下に人々を置く異様なコミュニティが出来上がっていました。

その名も「ジョブス教」。かつて人間社会に革新をもたらし、ただの起業家以上の伝説を残した「スティーブ・ジョブス」はこの世界ではもはやイエス・キリストを上回る神。WALKMAN? ゴミクズだ! Windows? ダサい! Android? スパイアプリだ!…そんなことを言っているかどうかは知りませんが、このジョブス教の規約を守らない“脱獄者(ジェイルブレイカー) ”には命はない。Apple信者さん…本当に信仰者になってしまって…。完全にカルトです。

『アイアン・スカイ』の時点から全方位に喧嘩を売るスタイルでしたが、今作も遠慮ないですね。

そしてiPhoneユーザーを最大限にバカにしつつの、唐突な「ノキア」推し。うん、そりゃあ、フィンランドが誇る大事な発明かもしれないけど、なんだそのライバル意識。まさかiPhoneファンもノキアから挑発されるとは思ってもみなかっただろうに…。あ、というか、今の日本の若者たちはノキアを知らないですよね。ノキアはフィンランドに1865年からある古株企業ですが、携帯電話初期の時代はシェアナンバーワンの会社でした。その後、ノキア製携帯電話はアップルやサムスンにシェアを抜かれていき、今はシーラカンス状態(日本では2008年に日本市場から撤退)。ちなみに作中で登場するのはたぶん「Nokia 3310」で、最近になって復刻したやつですね。

『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』は最終的に「iPhoneをディスって、Nokiaを褒める」というこれがしたいだけの映画なんじゃないかと思えてくる。たぶんそうです。

アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲

スーサイド・スクワッドかな?

そんなカルト化したジョブス教が蔓延する月面の人間社会ですが、資源が不足しており、いろいろとピンチな状況に。このままでは全員が野たれ死んでしまいます。

しかし、ここで朗報。なんと地球の地下には人間が知らない未知のエネルギー源があるらしく、この摩訶不思議な力は老いた者さえ若返らせるほどの凄さだとか。突然の新設定に観客も含めてビックリするばかりですが、こうなったら行くしかない。そこでチームを作って地球の地下にあるという“ロスト・ワールド”へ向かうのでした。

地球の未知の世界へと向かったのは、前作の主人公組の娘であるオビ、ロシアからやってきたサーシャ、どこかで見たようなスキンヘッド肉弾戦野郎のマルコム、そしてジョブス教の指導者ドナルドとその仲間たち。

いざその世界に到着すると、そこは恐竜が闊歩するジュラシックなワールドでした。しかし、そこにいたのは恐竜だけでなく…。

その地を支配していたのはレプタリアンを率いる「ヴリル協会」

ちなみにヴリル協会というのは、エドワード・ブルワー=リットンの小説「来るべき種族(The Coming Race)」に触発されて結成された20世紀前半のドイツのオカルト結社のことです。本作の原題「Iron Sky: The Coming Race」もそこから由来していますね。実際にこの組織が存在していたのか、ナチスと関係があるのかは不明で、要するに都市伝説です。ヴリルというのはその小説に出てくる、夢の万能なフリーエネルギーのことで、『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』はまんまこのネタを引っ張ってきた作品になっています。

で、話を本作に戻すと、この地下世界を支配するヴリル協会のメンツには、どこかで見たことのある人間たちの姿が。

“鉄の女”の異名でおなじみのイギリス初の女性首相「マーガレット・サッチャー」、泣く子も黙るソ連の頂点に君臨する指導者「ヨシフ・スターリン」、トラも手なづけるロシアの大統領「ウラジーミル・プーチン」、“天安門”という言葉は抹消した中国の「毛沢東」、ミサイルを飛ばすのが趣味な北朝鮮の「金正恩」、モンゴル初代皇帝で名前の表記がいろいろあって困る「チンギス・カン」、とりあえず911テロの首謀者ということにしておこう「ウサマ・ビン・ラディン」、“黒いヒトラー”と恐れられたウガンダ大統領「イディ・アミン」、進化論なんて知ったことか(でも進化している)「ローマ教皇」、どこまで狂っていたのかローマ帝国皇帝「カリギュラ」、そして待ってましたと言わんばかりの「アドルフ・ヒトラー」…とまあ、実に多様性に富んでいるメンバーです。

こんな顔ぶれである以上、本作はロシアや中国では公開不可能な作品なのかな…。でも、ほら、アメリカにも喧嘩売っているし…。

基本全員はろくなやつではないのですが、Facebook創設者の「マーク・ザッカーバーグ」もいるのは、あれですかね、現代情報社会の独裁者ってことですかね。あ、もちろん「スティーブ・ジョブス」もいつものファッションセンスで存在してました。

その中にはちゃっかりフィンランド大統領の「ウルホ・ケッコネン」も混じっているのも注目ポイント。

ちなみに前作にも登場したあのアメリカ大統領の女性もいますが、彼女は「サラ・ペイリン」という過激な言動で注目を集めた政治家がモデルです。

なお、ドナルド・トランプは登場しませんが、以下の特別映像に出演しています。

次は日本人も出してください

そんなこんなで登場人物が濃すぎるのですが、このメンバーがまるでその場限りの爆弾のようにあっけなく命を散らしていくわけで、なんて贅沢、いや、これは贅沢と呼ぶべきものではないかもしれない(あやうく洗脳されるところだった)。

そもそも『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』、製作費の大半を絶対にVFXに費やしましたよね。スケールは間違いなく前作以上で、もうディザスター映画級の事態の連発。ヒトラーがティラノサウルスに乗っているのは割とたいしたことないです(他がインパクト強すぎて)。たいしたことないのか? あれ、わからなくなってきた…。

個人的には前作の方がまだ物語の起承転結をつけようという抑制があったので良かったのですが、今作はとにかく遊ぶことに徹していて収拾がつかない…。やっぱりフィンランドに金を与えても、こうなるんだなぁ…。

でもこういう映画が作れるのは羨ましいです。日本は実名を出さなくても政治ネタを映画で扱うとそれだけで「プロパガンダだ」と非難されてしまいますからね。この手のパロディが実現できるだけで、ある種の表現の自由の余裕さが覗えるじゃないですか。この『アイアン・スカイ』シリーズは、ふざけているだけの映画ですが、こんな“お遊び”ができるのも実は凄いことなのです

ラストには、火星にソ連のコロニーがあることが示唆されて終わってましたし、続編もまだ作る気があるのでしょう。もう全部の太陽系の惑星が何かしらの秘密基地になっている勢い…。

ここまでくると日本人がいないのが寂しいですね。なんかこう、誰でもいいので出してほしかった…。次回作はソ連絡みだとしたら、ほら、領土を返して欲しさに対等なつもりで交渉しにいく首相とか、「戦争がしたい!」と失言だらけで暴れる政治家とか、いろいろアイディアはあると思うので、お願いします、監督!(土下座)

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
5.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 Iron Sky Universe, 27 Fiims Production, Potemkino. All rights reserved.