ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者
ドキュメンタリーシリーズ『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Jeffrey Epstein: Filthy Rich
製作国:アメリカ(2020年)
配信日:2020年にNetflixで配信
監督:リサ・ブライアント

ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者

あらすじ

億万長者として絶大な力を持ち、政治家から大企業まであらゆる人脈とつながりのあったジェフリー・エプスタイン。彼は富と権力を振りかざし、10代の少女へ虐待を繰り返していた性犯罪者という裏の顔があった。しかも、その犠牲者はひとりではなく、大勢の少女を狙ったネットワークを持っていた。その恐るべき実態を、被害者たちの勇気ある証言とともに検証する。

『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』感想(ネタバレなし)

権力的性犯罪者の汚らわしい実態

俳優、アイドル、芸人、監督、ジャーナリスト、出版編集者…。

ここ最近の日本では、性犯罪もしくはセクシャルハラスメントの加害行為が発覚したこれらの職業の人がいました。そしていずれも加害者には共通点があります。それは“一定の権力を持っている”ということ。権力といってもさまざまです。知名度がある、支持者が多い、仕事を与える側である…そういった諸々の権力があり、それを悪用したうえで性的な加害行為を実行しています。

もちろん念のために書いておきますが、性的な問題行動を起こすのは権力者だけではありません。サラリーマンであろうと、貧困層であろうと、高校生であろうと、加害者は普通にいます。

ただこの権力者が引き起こす性犯罪というのは、悪質性が一層に厄介で、解決が非常に難しくなる傾向が強いという話です。日本での実例でもそれを示しています。性的な被害の告発をされても、全くお咎めなしで何食わぬ顔で仕事している人もいますし、仮に業界から消えてもちょっとすれば戻ってこられて仲間から歓迎されたりしています。そして往々にして加害者当人もしくは支持者たちが被害者を上から目線でバッシングするのです。

私たちは弱い生き物なので気づかぬうちに権力者の手のひらの上にいることがあります。なので権力者に都合のいい情報ばかりに囲まれてしまったりもします。

だからこそ権力者の手口というものを知っておくべきだと思うのです。もしかしたら自分が被害者になるかもしれない。いや、加害者として共犯になってしまうかもしれない。

そういう自意識を持つことは権力者による性犯罪に対抗する大事な手段でしょう。

そこで観てほしいドキュメンタリーが本作『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』です。この作品は全4話(各55分程度なので計4時間)のドキュメンタリー・シリーズで、大富豪にして未成年少女への性犯罪を告発された「ジェフリー・エプスタイン」を題材にしたものです。

2006年の最初の告発から2019年に至るまで波乱の渦中にいた人物であり、アメリカでは誰もが知る有名人。ただ、日本ではそこまで知名度はないですし、誰?と思っている人も多いでしょう。全然興味もないかもしれません。

でもこのジェフリー・エプスタイン、実はすでにインターネット・ミームになっているくらいの存在であり、おそらく今後ずっとあらゆるところで言及され、ネタにされ続ける人になると思います。要するにアドルフ・ヒトラーみたいなものなのです。2000年代に登場した新たなネタ悪人。それがジェフリー・エプスタイン。これから公開される映画でも名前が飛び出すことも普通にあるでしょう。もしかしたらモチーフにした人物が登場するかもしれません。なのでまずは教養としてこのジェフリー・エプスタインという人名と、彼が何をしたのか…ということは理解しておいて損はないはず。

なにせ話題の人ですから、ジェフリー・エプスタインをテーマにしたドキュメンタリー系番組は各社でいくつも作られているのですが、この『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』はNetflixで配信されているので日本人でもアクセスしやすいでしょう。正直、新情報みたいなものはないので、このニュースをよく関心を持って収集していた人には特段の新鮮さはないと思いますが、ジェフリー・エプスタインを知らなかった人には大きな衝撃を与えること間違いなしです。

そしてもちろんこの事件は他人事ではなく、冒頭で書いたように日本でも権力を隠れ蓑に性犯罪を平然とする輩が徘徊しているわけで、それらに投影することは容易いでしょう。表では余裕ぶって自己弁護しているあんな奴も、実際はこんな薄汚い存在なだけなんだ、と。

本作は性暴力の詳細が被害者の生々しい証言とともに語られるので、観ていれば不快な気持ちになります。私もこういうタイプの作品を観終わった後はいつも気持ちがムシャクシャして、感想を書く際のキーボードのタイピングがいつもより強めになってたりするのですけど…。性被害相談センターとかの人は常にこんな話を聞く仕事をしていて、どうやって精神状態を保っているのだろうか…。

「性犯罪は悪いことだ」と上っ面だけ振る舞うのではなく、本作のような作品を観て、知って、学ぶ。それが次のステップです。学ばれると困るのは、性犯罪者だけですから。

オススメ度のチェック
ひとり◎(知らない人は必見)
友人◎(議論が盛り上がる)
恋人◎(性犯罪への問題意識はある?)
キッズ◯(ティーンなら教育として)

『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』感想(ネタバレあり)

カネは性犯罪者に何をもたらすか

2012年1月25日。

「真実のみを語ることを誓いますか?」「はい」
 
「私はジェフリー・エドワード・エプスタインです」

「前科がありますね?」「売春教唆と児童買春の2件です」「事実ですか?」「答弁を拒否します」「その回数は?」「拒否します」

宣誓供述(といってもたいした内容は喋ってないのですが)をするジェフリー・エプスタイン。彼が性犯罪の容疑で起訴されたのは2006年です。しかし、その前から良くない噂が流れていました。

ニューヨークのジャーナリストであるビッキー・ウォードは2003年にエプスタインに関する記事を書きましたが、上層部からの圧力で性被害の話については書くことができませんでした

本作ドキュメンタリーではその性被害の実態が克明にサバイバー(性犯罪の被害者)の口から語られていきます。ひたすらに不快感をもたらす中身にこっちの精神もどうにかなりそうですが、ここでふと気づかされることがいくつかありました。

そもそも相手は大富豪。カネは腐るほど持っているわけで、なぜ正規の性風俗を使わないのだろう?と思うわけです。しかし、彼は未成年、それも12歳から16歳の若い少女を性的ターゲットにしており、明らかに思春期の子どもに向けられる性欲を持っていたことが推察できます。で、もしそうした性欲を持つ人間が凡人だとしたらどうするか。それは痴漢、盗撮、もっと大ごとになると誘拐などに発展します。要するに単独型犯罪です。ところが、このエプスタインは大金持ちゆえに自分独自の大規模な未成年少女を性的に搾取するシステムを公然と作れてしまった。ここがまず恐ろしい話です。

そして意外なのはその手口。それだけ大金を投入できる存在ですから、さぞかしその手段も手を変え品を変え…なのかと思ったら、全然そうではない。ましてや“巧妙な手口”なんて言いたくもない。

初めにターゲット選定。これは貧困層や片親家庭、大学を卒業したばかりで生活が安定していないなど、いわゆる「立場の弱い若い女」を狙います。そして自分の縄張り(街中の住居でも、豪邸でも、島の別荘でも)に連れ込み、マッサージと称して接近して行為に及ぶ。で、お駄賃を渡す。このワンパターンなんですね。

つまりこういう言い方するのも正しいのかわかりませんけど、すごく安っぽいやり方を平然と乱用しているだけ。監視カメラとかで録画したり、部屋にヌード写真を飾ったり、証拠だらけで隠蔽しようとすらしていないのです。私はてっきり富豪による性犯罪は、贅沢な資金を活用して、完全犯罪が成立する寸分の隙もないシチュエーションで行われるものだと勝手に思ってました。こんなに雑だとは…。

でも実行できてしまっている。だから図に乗ってどんどん悪行を重ねる。それが実現できる理由はやはり富豪だからなのでしょう。結局、カネというのは人が邪悪で脆弱なままでも生きられるようにする効果を与える特権なんだな、とそう本作を観て痛感しました。

お仲間もどす黒く汚れています

もちろんジェフリー・エプスタインでこの性犯罪を実行できたわけではありません。協力者がいました。これも忘れてはいけないこの事件の特筆点。

未成年少女をエプスタインの縄張りに誘い込む人たち。その勧誘役の多くは女性でした。どうしてもこの手の性犯罪ネットワークは男性だけで構築されているものなのかと思ってしまいますが、そうではありませんでした。これはそういう私たち側の先入観を逆手にとるための手口なのでしょう。そしてこれも権力者の性犯罪ならではですね。権力者の男なら自分の手駒として動く女性も抱え持つことができる。女性が紹介してくれる男性なら安心してしまう。心理を悪用したトラップです。

その勧誘役女性の代表格だったのが、ギレーヌ・マクスウェル。彼女の存在もエプスタインに負けず劣らず不気味です。まずその出自からして語りがいが多く、父親はあのロバート・マクスウェルなんですね。作中ではあまり詳細を説明していませんでしたが、ロバート・マクスウェルといえば、あのFOXでおなじみのルパート・マードックの長年のライバルであったメディア王です(ルパート・マードックについては映画『スキャンダル』の感想に詳細があります)。


ロバート・マクスウェルは1991年に謎の死を遂げ、その後に彼の莫大な富は不正によって築き上げられたものであることが発覚。家名は地に落ちます。

その父親が死去してからアメリカに移り住み、エプスタインと懇意になったギレーヌ。心の拠り所で亡き父の代わりだったのではないかと指摘されるくらい、ギレーヌのエプスタインへの献身は異常です。この二人の関係性にセクシャルなものはなくとも、ジェンダー的支配構造が窺えなくもないですね。

当然、直接的な性犯罪への関与は定かではないにせよ、エプスタインのお仲間だった男性たちも大勢います。「ジェフリーとは15年来の友人だ。彼は美しい女性、とくに若い娘が好き」と相変わらず余計なコメントを残すことに定評のあるドナルド・トランプビル・クリントンとも親交があり、党に関係なく政界ともズブズブな関係。MeToo運動の始まりの原因となった映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインともお友達。英国王室のアンドリュー王子もしっかり交友がありました。

また作中では語られませんが、ルパート・マードック、マイケル・ブルームバーグといった他の富豪、ウディ・アレンといった映画人など、そのお友達の輪はとてつもなく広いです。そしてこの中の何人かは似たような性的被害を告発されているわけで…。類は友を呼ぶってやっぱり本当なのでしょうかね…。

FBIや検事だって抑え込めてしまうのも、これだけの相当な面々をお友達にしていたらいとも簡単にできてしまうだろうなと納得です。逆に何もしない方がおかしいくらいのパワーを持っていますし…。

一方でエプスタイン本人の人柄も影響はしているのも無視できません。金持ちというだけでない。チャーミングで、優しく、顔もよく、親身。でも実際の中身はそもそもどうして財を手にできたのかも謎な、よくわからないことだらけの男。

権力者の性犯罪者男性を強化するのはやっぱりホモ・ソーシャルなんですね。「華麗なるギャツビー」なんて実際のところは悪い奴の巣窟なのです…。

ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者

死んでも悪行は消させはしません

定番のやり方で自分の疑いから逃げきっていたエプスタインの人生も2019年、ついに終わりを迎えます。本格的捜査になり、66歳で逮捕されました。そして保釈申請は却下。

そんな渦中の2019年8月10日、ニューヨーク州の拘置所内で首を吊って自殺したと発表され、世の中をまたも震撼。彼の口から真実が語られることはありませんでした。被害者たちの「彼は全ての責任を逃れたのです」「不公平です」「もっと明らかにするべきことがあったのに」という無念の言葉が残ります。

この死については不可解な点も多く、さまざまな陰謀論が巻き起こりました。おそらく今の世間はこの部分が一番気になっているはずです。ただ、本作はこの死の真相に迫る独自の切り口みたいなものはなく、そこはちょっと物足りないところ。一応、本作はエプスタインが死亡する前の時期から製作されていたそうなので、主題にする気も企画時点でなかったのでしょうけど…。

ただし、最初に前述してしまいましたが、このエプスタインは死後に早々インターネット・ミームと化してしまいました。インターネットに限らないミームですかね、もう。

例えば、「サタデー・ナイト・ライブ」ではアダム・ドライバーが地獄に落ちたエプスタインを嬉々として熱演して笑いをとっていました。「What are you doing here?」「just hangin」のやりとりがおかしすぎる。


こういう悪いことをして死んだ者を地獄にいる前提で死後もこきおろすというのをアメリカはジョークでよくやるのですけど、すごくいいなと思います。つまるところ、死んでそれで忘れ去られるなんて思うなよ!ってことですから。セカンドチャンスは確かにあるけど、世の中には絶対に消えない悪行というのはあるもので、一生、いや死んでもずっと語り継いでやるからなという姿勢。これぞ性犯罪など罪を犯す権力者への社会からの最大の罰なんじゃないでしょうか。金持ちは罰金なんて痛くも痒くもないですし、刑期もカネでどうにかなったりするし、死刑制度がない以上、後は徹底的に名声を地に落としますよ…そんな社会の向き合い方はとても必要で、実は一番の犯罪抑止力でもあるのではないか。ネット私刑なんかよりも全然健全ですしね。

そんなこんなで日本の権力的性犯罪者の皆さん。ジェフリー・エプスタイン同様、あなたの悪い行いは永遠に語り継ぐので覚悟してください。

『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 79% Audience 53%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

関連作品紹介

実際に起きた性犯罪の告発を題材にしたドキュメンタリー作品の感想記事の一覧です。

・『ネバーランドにさよならを』


・『ハンティング・グラウンド』


・『日本の秘められた恥 Japan’s Secret Shame』


作品ポスター・画像 (C)Netflix ジェフリーエプスタイン フィルシーリッチ

以上、『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万長者』の感想でした。