土と血
Netflix映画『土と血』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:La terre et le sang(Earth and Blood) 
製作国:フランス・ベルギー(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:ジュリアン・ルクレルク

土と血

あらすじ

寂れた山間の村で製材所を営み、静かに暮らす父と娘。その暮らしは避けられない運命のせいで、抗う手段もなく追い込まれてしまい、この場所から出ていくしかないと考えていた。だが、その敷地内に、悪人が盗んだ大量のコカインが隠されてしまったことで、2人は望んでもいない流血の争いに引きずり込まれていく。今は生き残ることだけを一心不乱に…。

『土と血』感想(ネタバレなし)

フランス語で「血」は…

「血税」という日本語表現があります。簡単に言うと、必死に働くなど血のにじむような努力をしてせっせと納めた税のことで、税金の重みを強調したいときに使う言葉です。

でもなんで「“血”税」なんてショッキングな言い回しをするのでしょうか。これはただのカネじゃない、庶民の血のようなものなんだ!という誇張ありきの言い方なんだろうなというのはなんとなく察しがつくのですが…。

実はこの言葉、もともとは税金を指すものではなかったようです。由来はフランス語「impôt du sang」の直訳なのだとか。しかも、それが示しているのは戦場に赴く徴兵のことで、要するに命を差し出して血を流すことになるから、徴兵は「血の税」だ!…ということらしいです。兵役のことだったんですね。

その言葉にもあるようにフランス語で「血」は「sang」と書きます。たまにフランス語を見かける機会があると案外と「sang」の単語が使われていることもあります。ちなみに英語に「sanguinary」という単語があって「血なまぐさく残忍な」という意味ですが、これもフランス語の「sang」から派生しているのでしょうね。

そして映画のタイトルにも「sang」は登場します。もちろんフランスの作品でとくに。今回紹介する映画も「sang」が題名に用いられており、そのとおり血がいっぱい流れる作品です。それがフランス映画である本作『土と血』です。う~ん、直球な邦題だ…。

ジャンルはノワールなクライムサスペンスです。ある森でひっそり暮らしている男が人生のどん詰まりを迎えたある日。そこに追い打ちをかけるように暴力が襲い掛かってくる。なんとも踏んだり蹴ったりな展開ですが、あまり大味な見せ場はなく、淡々とジワジワとスリルが展開していきます。

ハリウッド映画のような大迫力はありませんが、小粒な作品を堪能したいときは良いのではないでしょうか。映画時間は80分とかなりのコンパクトなので、ちょっとした空き時間に観るのに最適です。ただ、派手さはないので流し見とかすると、あっけなく映画が終わってしまうことになるので、観る時は一応は集中しておいてくださいね。

なんでもこの『土と血』、テレビ映画みたいですね。だからこんなに短く小規模なのか。

監督は“ジュリアン・ルクレルク”という人で、全然知らない人の方が多いと思いますけど、『インストーラー』(2007年)や、『フランス特殊部隊 GIGN(ジェイジェン) エールフランス8969便ハイジャック事件』(2010年)、『ザ・クルー』(2015年)、ジャン=クロード・ヴァン・ダム出演の『ザ・バウンサー』(2018年)など、結構日本でも観られる機会のあった監督作が多いんですね。なお、私は1作程度しか観ていないのでこの“ジュリアン・ルクレルク”監督について語れることはほぼない…。とりあえず悪そうな奴らが出てきて戦うのが好きなんだろうなということはわかる…。

出演陣は、“サミ・ブアジラ”、“エリック・エブアニー”、“サミ・セギール”、“ソフィア・ルサーフル”など。日本での知名度は低い人ばかりですが、主演の“サミ・ブアジラ”は『The Witnesses』(2008年)でセザール賞の助演男優賞を受賞していますし、『デイズ・オブ・グローリー』(2006年)ではカンヌ国際映画祭の男優賞を受賞している人です。他の人もフランスで活躍している方が多め。ということで演技力に関して本格的な見ごたえのある顔ぶれと思ってもらっていいです。

なんども書きますが、80分の映画ですからお気軽にどうぞ。割と残酷なゴア描写もありますが、そういうのが平気なら何も問題ありません。

『土と血』は日本では2020年4月17日からNetflixオリジナル映画として配信中です。

オススメ度のチェック
ひとり◯(小粒なサスペンスで暇つぶしに)
友人◯(小粒なサスペンスで暇つぶしに)
恋人△(暗い作風で重たい)
キッズ△(残酷描写も多数あり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『土と血』感想(ネタバレあり)

別の死期が迫る

激しい雨の中、男たちが車で何かを待っています。別に旅行ではありませんし、飲みに行こうとしているわけでもありません。この緊張感。張りつめた空気。何より手にを持っているのですから。

顔を覆面で隠し、降りて土砂降りの中を進みます。目の前にあった建物に入ると、そこは警察署。男たちは「後ろを向け」と銃を突きつけ、何かを探して物色します。銃声が聞こえる中、ついに人を撃ってしまい…。

ところかわって別の場所。MRIを受ける男性。その後、医者の説明を聞くことに。「肺に腫瘍があり気管支現原性ガンの疑いが」と医者に言われ、整理がついていない男は「余命は?」を聞きますが…。

サイードは知り合いの女性のもとを訪れました。彼女は今はいない妻の血縁関係にある人で、相談できる相手もそれくらいしかいません。「どうしたの?」と尋ねられ、「サラ?」と娘の話題をされます。「仕事に夢中で彼女をないがしろにしていた」と後悔を滲ませるサイード。「絵を勉強させたかったのに」…サイードは自分の死期が近いこと、借金があることを淡々と口にします。「手を広げ過ぎたのかもな」と呟き、父の製材所を売ることを説明。サイードはホントアー製材所をずっと支えてきたのです。「人生を捧げたのに?」と言われますが、もう選択肢自体が残っていません。そこまで裕福でもない自分にとっての唯一のできることなのでした。

また一方で別の場所。ホントアー製材所の車(車種はラーダ?)に乗ったヤニスという若い男のもとに別の男が近づいてきます。「2日間、俺の車を森に隠して、これを貸してくれ」といきなりの要求に「ボスの車だぞ」と反論しますが「交換するだけだ」と向こうも譲りません。「半分は兄弟だ、血を分けたな」と言われ、それでもヤニスが仮釈放中の身らしく「僕を巻き込むな」と突っぱねます。しかし、「母親との約束を覚えてるだろ。これはチケットだ、チャンスだ、今しかない」とお願いされ、断り切れませんでした。

そんな車のラジオからは警察署への襲撃のニュースが流れ、4人の武装した男が8キロのコカインを強奪したと報じられています。

森の中にたたずむホントアー製材所は今や活発に稼働しておらず、木材が陳列している薄暗い場所になっています。サイードはここで働くヤニスを見かけ、「手伝ってくれ」と指示。重機で木を運びます。そしてルフェーヴルに製材所を売ることを伝え、持ちかけるのでした。

家に帰ると娘のサラが出てきます。彼女は補聴器をつけ、手話で会話。製材所を売却する話と、「お前はここを出てカネがあれば絵の学校に通え」という父の唐突な提案にやや困惑します。

一方で、ある場所で男が脅されていました「ブツはどこにある?」と聞かれ、仲間も目の前でやられた男はヤニスと会話したあの人。答えるしかない状況でした。

そんなことも知らず、サイードはルフェーヴルに説明していました。条件はひとつで従業員を解雇はしないでほしいということ。その商談の途中でカバーをかけた隠された車を発見。ヤニスが乗ったと思われる車がなぜそんな場所に放置されているのか。

サイードはヤニスに問いただすことに。「説明しろ」「なぜ隠した」「誰の車だ?」…ヤニスはしどろもどろで答えませんが、強制的に窓を割り、中にあったバックを調べるとそこには大量のコカイン。

状況は理解できませんが、ヤバいことになっていることは察知できます。そしてそれは待ったなしの事態になっていました。ギャング集団がコカインを求めてこの製材所に迫ってきたのです。相手は血も涙もない暴力的な奴ら。こっちはただの寂れた製材所しか持っていない人間。

健康上の死期が迫っていたサイードですが、思わぬ形でさらなる死期が襲来してくることに…。

土と血

重機があればだいたい強い

フランス映画はこういうクライムサスペンス&アクションというジャンルも活発らしく、映画ファンなら認知度も高い『レオン』などでおなじみのリュック・ベッソン監督関連作や、それつながりだと『96時間』シリーズとか、結構フランス製アクションに触れる機会は多いはずです。

『土と血』もそうした近年の世界的進出にも成功したフランス製ジャンルムービーの土台の上に成り立つような一作でした。

アクションといってもそんなに大掛かりなものはありません。いわゆる籠城戦が前半は勃発し、後半からは逃走劇へと変化していきます。

前半の籠城戦は、製材所というフィールドを活かしており、なんとなく「こんなシーンあるかな」と期待した場面がしっかり用意されているのは嬉しいところです。身の回りの道具で敵をひとりひとりなぎ倒し、材木を切断する機材で敵の腕を切断し、コンベアに乗ってこっそりその場を離れる。よくよく考えると製材所は人を殺せそうなものでいっぱいでしたね。

後半の逃走劇は重機を爆走させてのダイナミックアタック。ここは本作で一番の派手シーン。ライフルなんて跳ね返すし、普通の車両も吹っ飛ばす! もうこの重機だけあれば向かうところ敵なしなんじゃないかと思ったけど、まあ、いいか。こういう林業で使われている重機って独特なものが多くていいですよね。『スノー・ロワイヤル』みたいに重機活用アクションがあるとそれだけで私は高得点を与えたくなる…。


以降は先に逃げたヤニスとサラを追いかけての最終決戦となっていくわけですが、ここでもびっくりな囮を用意したり、一体この主人公は何者なのか。

そもそもサイードは殺人能力が平均以上に高いのですけど、林業やっている人はそんなものなのでしょうか(絶対に違う)。極度に怯え切っている娘のサラに対しての、あのサイードの冷静沈着っぷり。これは敵のことを歩く木材程度にしか思っていないですよ…。

サイードを演じた“サミ・ブアジラ”の、真意が読み切れない表情変化の乏しい深い顔つきがまた主人公の行動をことさら読みにくくしていて良い味を出しています。

個人的には、敵対することになるギャング集団のリーダー格が魅力的だったかな。願わくばあのキャラにも派手な見せ場を用意してあげてほしかったです。実はあの男も林業には卓越していて、まさかの重機バトルが展開するとかね…(なんだそのワイルドスピード)。

フランスの反社会的ギャング集団ってあんなに武器をいっぱい持っているものなのかな。

持たざる者の生き残り

『土と血』はジャンル映画なのでとくに難しいことを考えずに楽しめるのですが、背景にはやっぱりフランスの事情というものが透けて見えてきます。

2018年に「黄色いベスト運動」という大規模デモがフランスで起こったことは知っている人もいるでしょう。このデモの理由はざっくり言えば、フランス社会で蔓延する格差への抗議です。日本人はどうもフランスと聞くといまだにオシャレなイメージしか思い浮かべない人もいますが、そんなものはフランスの一部、しかも裕福な人たちの話だけ。多くのフランス人たちの生活は格差に困窮しています。

この「黄色いベスト運動」も、その名のとおり、よく工事とかで着る黄色い反射チョッキがトレードマークになっているのも、それが労働者階級の衣装だからというのも理由にあるわけで。あのデモはまさにフランスで血を滲むような努力をしても報われない労働者階級たちの反乱なのでした。

『土と血』の主人公であるサイードもまさしく労働者階級ど真ん中の人間。冒頭で余命を宣告されるような病気が見つかるも、おそらくたいした医療保障もなく、残された娘をどうするべきか途方にくれてしまいます。本当に支援の「し」の字もなしです。

サイードの助けもなくどうすることもできない疲弊感というのはまさにフランスにおける労働者階級の心情と一致しています。

そんな彼の前に現れるギャング集団もまたやはり格差に沈んだ人間たちであり、その過程で悪事に手を染める道を選んだ者です。

作中の対決は異なる立場にある労働者階級同士の対決。そこには警察などの本来は助けに入るべき存在は介入しません。見捨てられた者たちなのですから。

ヤニスだって人生をやり直そうとする中でやはり堕ちた者たちの手が伸びてくることから逃げられない。せっかく雇ってくれた人の信頼を裏切ることをしてしまう。そうやって望むべきは労働者階級たちの連帯なのに、結果はつぶし合いをしてしまう。そして社会はますます暗くなっていく。

サラも教育を受けられるだけの能力はあるし、あの障がいだってそこをサポートするのは社会の責務のはずだけど、そんな救いは何もない。

こういうあらゆる人物が抱え込む閉塞感が本作には終始漂っています。だから暗いんですよね。

本当は重機を使って政府に突っ込むくらいしたいところなのです。

ラスト、全ての決着をつけて負傷した主人公は疲れ切り、サラは絶望に打ちひしがれる中、ヘリの音が聞こえます。それはずっと望んでいた“助け”なのか。今度こそちゃんと助けてくれる社会が待っているのか。それはわかりません。

流れた血が無駄にならなければいいのですが…。

ROTTEN TOMATOES
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IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Labyrinthe Films, Netflix アース・アンド・ブラッド