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『Saltburn』感想(ネタバレ)…ソルトバーンはクィアぼっち映画?

Saltburn

クィアぼっち?…映画『Saltburn』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Saltburn
製作国:イギリス・アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にAmazonで配信
監督:エメラルド・フェネル
自死・自傷描写 性描写 恋愛描写

Saltburn

そるとばーん
Saltburn

『Saltburn』物語 簡単紹介

オックスフォード大学に奨学生で入学したオリヴァー・クイックは人間関係がすでに出来上がってしまっている上流の大学生活になじめないでいた。そんなオリヴァーが、貴族階級の魅力的な学生であるフィリックス・キャットンの世界に惹かれていく。そしてフィリックスに招かれ、彼の風変わりな家族が住む大邸宅ソルトバーンで生涯忘れることのできない夏が始まる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『Saltburn』の感想です。

『Saltburn』感想(ネタバレなし)

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独りは寂しい? むしろ歓迎?

12月って師走というわりには、忘年会とか、クリスマスとか、年末から正月とか、やたらと複数で集まることが多いイベントが並んでいます。何も最後の月にこんなイベントを偏らせなくていいのに…。ひとりでゆっくりすることを好む人間にはちょっとツラい時期だなと毎回思ってるんですが…。

中には「孤独は嫌だ! 自分はあの大勢に囲まれて過ごしたい!」と感情を煮えたぎらせる人もいるかもしれません。いわゆる「モノフォビア(Monophobia)」ってやつですね。独りになることに極端な恐怖や不安を感じ、孤立を避けるためにあらゆる手段を講じようとしてしまったり…。

今回紹介する映画はそんな心境に陥りやすい人にはツラい作品…になるかな?

それが本作『Saltburn』です。

この原題そのままが邦題らしいです。「ソルトバーン」じゃないんですね。日本では劇場未公開で「Amazonプライムビデオ」独占配信なので、なんか邦題が未設定なだけなのではと疑ってしまう…。

「Saltburn」というタイトルの意味は、おそらく「傷口に塩を塗る」という慣用句を連想させるカッコよさげな合成単語…なのか?

何にせよこの映画『Saltburn』、原作もないオリジナル作品なので、どういう内容なのかを観客に創造させて刺激させる題名にしているのだと思います。今のこのハリウッドでここまでオリジナル作品で攻めてくれるのは貴重ですからね。

そんな挑戦でもある本作を企画し、監督&脚本したのは“エメラルド・フェネル”。もともと俳優でしたが、2020年に長編映画デビュー作『プロミシング・ヤング・ウーマン』でいきなりの賞レースにのし上がる監督へと到達する鮮烈なスタートを切りました。今振り返っても2020年は女性監督の躍進が凄かったな…(逆に以降の年があんまりって感じになったけど…)。

“エメラルド・フェネル”監督は『プロミシング・ヤング・ウーマン』ではアカデミー賞の監督賞ノミネートでしたが(デビューでいきなりノミネートもじゅうぶん偉業ですが)、監督2作目となる『Saltburn』はどうかな。2作目って評価が下がりがちだったりしますけども。

その映画『Saltburn』の中身、どこまで言及していいのだろうか…。展開に捻りがあるタイプのサスペンスで、そういう意味では『プロミシング・ヤング・ウーマン』とアプローチは似ているのです。もちろん題材は違いますけどね。

『プロミシング・ヤング・ウーマン』のときは、性暴力の根源であるレイプ・カルチャーを暴き出す仕掛けがありましたが、今回の『Saltburn』は…。

事前に言えるとしたら、前回は女男の緊張関係を軸にしていましたが、今回は男男の緊張関係が軸になっています。人によっては「クィア・スリラー」と呼ぶかもしれないし、別の人は「BL」と呼ぶかもしれないし…。

ネタバレすると物語の面白さは半減するので、もうこれ以上は説明できないな…。

映画『Saltburn』の主人公を演じるのは、『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』『エターナルズ』『イニシェリン島の精霊』など多彩な作品に出演しながらも常に独特の雰囲気を放ってくれる“バリー・コーガン”(バリー・キオガン)。『Saltburn』では主役として貫禄たっぷりの熱演を披露。“バリー・コーガン”尽くしの一本です。

なお、本作ではフルヌードをみせています(日本ではモザイクあり)。だから本作のレーティングは「R18+」です。

共演は、『キスから始まるものがたり』シリーズの“ジェイコブ・エロルディ”『パーフェクト・ケア』“ロザムンド・パイク”『ある女流作家の罪と罰』“リチャード・E・グラント”、ドラマ『Conversations with Friends』“アリソン・オリバー”『グランツーリスモ』“アーチー・マデクウィ”『マエストロ: その音楽と愛と』“キャリー・マリガン”など。

ちなみに“マーゴット・ロビー”設立の「LuckyChap Entertainment」が制作に参加していますが、“マーゴット・ロビー”は出演しておらず、製作クレジットのみです。

監督や俳優のファンは2023年を終える前に『Saltburn』を忘れずにぜひどうぞ。

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『Saltburn』を観る前のQ&A

Q:『Saltburn』はいつどこで配信されていますか?
A:Amazonプライムビデオでオリジナル映画として2023年12月22日から配信中です。
✔『Saltburn』の見どころ
★捻りが仕込まれるクィア・スリラーな物語。
★俳優の怪演。
✔『Saltburn』の欠点
☆かなり性描写が誇張的なので好みが分かれる。
日本語吹き替え あり
町屋圭祐(オリヴァー)/ 武内駿輔(フィリックス)/ 嶋村侑(ヴェニシア)/ バトリ勝悟(ファーリー)/ 藤本喜久子(エルスペス)/ 多田野曜平(ジェームズ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:雰囲気が好きなら
友人 3.5:俳優好き同士で
恋人 3.5:デート気分では…
キッズ 1.5:R18+です
↓ここからネタバレが含まれます↓

『Saltburn』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):手に入れたかったのは…

「あれが恋愛感情だとみんなは思っていたようだ。でも違う。確かに僕は彼を愛した。フィリックス。愛すべき男、そこが問題でもある。誰もが彼を愛し、傍にいたいと願うことが彼を疲れさせた。誰も彼を放っておかない。とくに女たちは彼に媚びる。だから彼は僕を気に入ったんだろう。僕は彼を守り、本気で理解した。そして愛した。でもそれは恋なのか?

オリヴァー・クイックは2006年の新入生&特待生としてこのオックスフォード大学に入学してきました。初日からブレザーにマフラーの姿を在校生に小馬鹿にされ、浮きます。

部屋から窓を覗くと、ある男子学生に目がいきます。多くの学生の輪の中にいる、背の高いハンサムな学生です。

大勢が席につく中、開いている席に座ると、前にいたのはマイケル・ゲイヴィー。「君も友達がいないんだね」と話しかけられ、数学にこだわりがあるそのマイケルの気迫に圧倒されます。

ここでは教員と学生の関係を決めるのもコネと出自でした。オリヴァーは完全に輪に入れず、あのマイケルにばかりしつこく話しかけられる日々です。

ある日、自転車で走っていると、パンクしているあの男子学生に遭遇。オリヴァーは「自転車を貸してあげるよ」と持ちかけます。その学生、フィリックス・キャットンは「ありがとう、愛してるよ」と大袈裟に額にキスしてきました。

その後、パブでフィリックスに「オリー、こっちにこいよ」と机に招待され、仲間に入れてもらいます。オリヴァーの傍にはいとこのファーリーがいて、態度は冷たいです。飲み騒ぎ、おごるハメになったオリヴァーですが、高額をこっそり負担してくれるなどフィリックスは優しさをみせます。

そんなフィリックスと話が弾んでいき、互いを語り合う仲になりました。フィリックスは相当に裕福な家柄のようです。オリヴァーは親と不仲で、薬物中毒と精神的な問題を抱えている親で、きょうだいはいないと自分の人生を説明します。

別の日、フィリックスの傍にいる女子が「オリヴァーは招待したくない。みんな隣に座るのを嫌がる」と語っているのを耳にしてしまいます。フィリックスはそれは酷いと相づちをうっていますが、オリヴァーには気まずいです。フィリックスが女子学生と性関係を持つ光景を眺めつつ、オリヴァーの孤立感は深まります。

そんな中、一本の電話がありました。フィリックスにその内容を話します。父親の突然の訃報でした。母は支離滅裂で、帰りたいとも思いません。

意気消沈するオリヴァーをみかねて、フィリックスは彼を慰め、舞踏会の日に、家族が所有する屋敷のソルトバーンで夏を過ごすよう誘ってくれます。「僕の家族が嫌なら帰っていい」

そこは宮殿のような別世界でしたが…。

この『Saltburn』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/02/05に更新されています。
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真意は彼にしかわからない

ここから『Saltburn』のネタバレありの感想本文です。

『Saltburn』はかなり挑発的なモノローグから映画が始まります。

この語り…迂闊にそのまま受け取ると、この後にしばらく描かれる主人公のオリヴァーとフィリックスの関係を同性愛とみなすことを否定しているように感じ取ってしまいかねないのですが、そんな単純で露骨な同性愛抹消の宣言ではないのは、推察できると思います。映画がオチを冒頭の開口一番で解説してたらそれはもうマヌケですし…。

ざっくりと展開をネタバレしちゃいますけど、最初はオリヴァーは大学でフィリックスに惹かれ、好意だけを原動力に動いているようにみえます。この序盤はベタに「王子様に出会った」系のロマンチックに演出していましたね。

その最中、ソルトバーン邸での夏の滞在において、オリヴァーは親などの自分のプロフィールを偽っていたことが発覚。フィリックスに拒絶されます。

これで捻りは終わりません。フィリックスはオリヴァーの誕生日パーティーの日に迷路の中で遺体で発見され、妹のヴェニシアも浴槽で自殺しているのが見つかります。ソルトバーンを根城にする家族はあっけなく無惨に崩壊しました。

これだけだと愛欲しさにやりすぎて天罰が下った青年ですが、実はあの自転車のパンクから一連のスキャンダルのほぼ全てがオリヴァーの策略だと回想で判明。夫ジェームズを失って独りとなったエルスペスにも心につけ入り、彼女の人工呼吸器を外して、まんまと財産と屋敷を自分のものにしてしまいます。

この終盤で明らかになるのは、オリヴァーは資産目当てだったということです。

要するに、本作は、ぼっちになりたくない青年の話に見せかけつつ、真相はぼっちで全然OKだと思っている青年の話でした…ということかな。同じクィア・スリラーでも『お嬢さん』のような 「愛が勝つ」みたいな物語じゃない、むしろ真逆と言っていい「ぼっちが勝つ」というぼっち全肯定な作品だったのではないでしょうか。

しかし、本当にオリヴァーはフィリックスを駒として利用しただけなのか、本音では何よりも彼の愛を欲していたのではないか…そこはわかりません…というような曖昧なトーンで幕は閉じていますけどね。どこの時期まで愛が欲しくて、どこの時期から特権への飢えに変わったのか…はたまた最初から特権欲しさのみだったのか…その真意は彼の心の中だけに隠されています。

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その需要には応えない

『Saltburn』は物語のサスペンスの仕掛けゆえに、どういう需要に応えてくれる作品なのかわかりにくい外面を携えているので、観客の混乱や反発を生みやすい一面はあるのは確かだと思います(そこを作り手は狙ったうえでのプロットや演出なのは重々わかるけども)。「え~そういう内容だったの!がっかり!」か、「そういう感じか、面白いじゃん!」の二択…。

全編にわたってクィアの緊張感を用いているのは言うまでもないです。オリヴァーを軸にフィリックス、さらにファーリーやヴェニシアを交えて、三角関係や四角関係へと拡大する兆しをみせるので、予測はつきません。

それでもあの世界に露骨なホモフォビアがあるわけではないです。母のエルスペスは口が軽いし、あの家母長制な富豪貴族はだいぶ変だけど…。

この仕掛けで物語を展開するなら、そういうホモフォビアがないほうが視聴者にあらぬ誤解させずに済むので欠かせないでしょうね。ホモフォビア込みで世界観を描いてしまったら、まるで同性愛自体を異端視しているように見えちゃうので…(このポイントは本当に重要で、日本の作品はこのバランスのとり方にかなり難があることが多い気がする)。

ここらへんは『キリング・イヴ』のシーズン2でヘッドライターを務めた“エメラルド・フェネル”らしい手触りです。あのドラマもアプローチはほぼそっくりですから。

『Saltburn』はオリヴァーは最終的にはフィリックスではなく特権に愛を捧げたという点で、作品自体に特権性に対する問題意識があるとも言えます。そう考えると、上流学校のBLやお嬢様学園の百合みたいな単に関係性を消費するジャンルにありがちな舞台装置ありきでは片付いていません。

一方で『お嬢さん』のような社会正義を土台にしているほどには踏み込んでもいません。結末の構図は「Eat the rich」ですけど、オリヴァーは左翼じゃないし、私利私欲での乗っ取りしているのが見え見えですから。

ラストの「Murder on the Dancefloor」に合わせてのダンスとか、ビジュアルとしては『ジョーカー』からインスピレーションを得ているんじゃないのかな。クィアなジョーカーですよ。フィリックスの死亡の決定的シーンでも、ミノタウロス像が見下ろすように鎮座して、オリヴァーは鹿角で仮装しているように、彼は怪物的な存在なのでしょう。

クィアぼっちであっても、社交に消極的なよわよわ系のぼっちじゃなくて、狡猾に貪るプレデター系のぼっちなので、ぼっち作品好きでも「このぼっちは求めてないな…」という好みの不一致はあるでしょうね。

今作は性描写も、湯船の残り水を飲み干すとか、墓の前で股間をこするとか、わざと変態的なビジュアルに過剰に依存しているので、そこも好みは分かれると思います。そこしか話題にしたがらない観客を惹きつけたいだけの浅い引き込みに見えかねないし…。

それでもこういう『Saltburn』みたいなクィア・スリラーの派生型をばんばん作れる時代になるのは良いのではないかな。もっといろいろ手を変え品を変え、作ってほしいくらいです。

『Saltburn』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 72% Audience 79%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0

作品ポスター・画像 (C)Amazon MGM Studios Distribution ソルトバン

以上、『Saltburn』の感想でした。

Saltburn (2023) [Japanese Review] 『Saltburn』考察・評価レビュー