ザ・ランドロマット
Netflix映画『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Laundromat
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:スティーヴン・ソダーバーグ

ザ・ランドロマット パナマ文書流出

あらすじ

夫を亡くしたエレンは二人の弁護士が引き起こした、とあるトラブルに巻き込まれる。しかし、それは単なる自分だけの事件にとどまらず、実は世界中を揺るがす驚愕の大騒動の中のほんの一部に過ぎなかった。憤る未亡人がたどり着いたのは、隠され続けてきた超富裕層の決して知られたくない秘密。この世は一体どうなっているのか。

『ザ・ランドロマット』感想(ネタバレなし)

税金を払う庶民、払わない富裕層&大企業

2019年10月より消費税が8%から10%にあがった日本社会。108円が110円になった程度、大したことがないように思えますが、塵も積もればなんとやら。国民の財布事情はツラくなるのは必然。かといって、もう節約できることすらなく、手札なしの人も増えてきています。

そんな庶民が1円単位で必死にやりくりしている中、超富裕層や大企業は何億、何十億、何百億という規模で税金から逃れる手段を駆使しているのは有名な話。最近だと「Amazon」が日本で税金を納めていないのが話題になりました(日本で儲けた収益でも、アメリカに納税している)。庶民が電子マネーでチマチマとポイント還元に振り回されながら増税に対抗すべく倹約する背後では、莫大なおカネが税金逃れを“合法的”にしている…それが現実です。

超富裕層や大企業にとって便利ツール…それは「タックス・ヘイブン」です。書類上、税金の安い地域で利益があがっていることにし、普通であれば払うべき税金を大幅に下げる。一般庶民にしてみればチート級の夢のような方法ですが、世の大企業は普通に使っています。

よく「税関連の法律は最も抜け穴だらけのもののひとつ」と揶揄されたりしますが、本当にそのとおりなんですね。

そのタックス・ヘイブン絡みで起きた最近の一大事がありました。それが通称「パナマ文書」にまつわる一連の騒動です。これはパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」によって作成された、租税回避行為に関する一連の機密文書のことで、このパナマ文書が外部に流出してしまいました。つまり「こんな人や組織がこれだけのおカネを隠して税金を回避しています!」と暴露されてしまったようなものです。

実際、パナマ文書は世界を震撼させました。裏でアレコレしていた、世界中の国々の政治家、大企業、著名人、富裕層の実名が続々と判明したわけですから。日本も例外ではなく、有名企業の名が容赦なく報じられました。もちろん関与が疑われた組織や人が口にしたのはお決まりのセリフ…「脱税を目的としたものではありません」。

そのパナマ文書漏洩事件を題材にした映画が本作『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』です。これを観れば、この事件の全容がわかる…とはいかないかもしれませんが(なにせ事件の規模がデカすぎる)、事件を遠い出来事だと思っていた我々観客にとっては良い知る機会になってくれます。

監督は『オーシャンズ』シリーズや『マジック・マイク』など明るい作風なイメージもありますが、実は社会派テーマの作品も撮れてしまう器用な名人“スティーヴン・ソダーバーグ”です。映画ファンも多い名監督ですが、最近は劇場から遠ざかっており、2017年の『ローガン・ラッキー』以降の作品からその傾向は顕著。『アンセイン 狂気の真実』は日本では劇場未公開でビデオスルー、『ハイ・フライング・バード 目指せバスケの頂点』はNetflixオリジナルで配信。大きなスクリーンで見られないのは残念です。

最新作『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』もNetflix配信になってしまったわけですが、決して誰も興味を持たないような地味な映画ではありません。

俳優陣は“スティーヴン・ソダーバーグ”監督らしくゴージャスなメンバーが揃っています。主演は、でました、アメリカ映画界を代表する現“大女優”である“メリル・ストリープ”。『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』での震えるほどの名演も記憶に新しいですが、私も彼女の演技であればなんだって見たい…そんな気分。

そんな大女優と相対する役で登場する重要人物を演じるのは、これまた大物にして『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』でアカデミー主演男優賞に輝いたばかりの“ゲイリー・オールドマン”。そんな彼とコンビを組むように現れるのがスペインのイケメン・ダンディこと“アントニオ・バンデラス”。他にも“シャロン・ストーン”“ジェフリー・ライト”など、全体的に年齢層高めな役者がズラリと並んでいます。個人的には「#MeToo運動」の最中、誠実な姿勢でこっそり株を上げた男“デヴィッド・シュワイマー”が出ているのが嬉しい。

これだけの顔があって、なんで企画時点で大手映画会社は関心を持たなかったのだろうか…。よほどNetflixが熱烈アタックで独占したのかな…。

また、脚本は『コンテイジョン』や『サイド・エフェクト』といったソダーバーグ監督作でもおなじみで、最近だと『喜望峰の風に乗せて』や「007」シリーズ最新作の『ノー・タイム・トゥ・ダイ』も手がける“スコット・Z・バーンズ”です。

一見すると難しい税金や経済のお話も、この監督や俳優陣と一緒ならスルッと見れたりするものです。ちゃんと税金を払っているあなたにこそ観てほしい一作ですから。

オススメ度のチェック
ひとり◯(監督好きなら要注目)
友人◯(暇つぶしにはなる)
恋人◯(俳優ファン同士なら)
キッズ△(大人の社会が題材です)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ザ・ランドロマット』感想(ネタバレあり)

実際の“秘密”に基づく物語

『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』はなんてこともないように言葉を語る二人の男の姿で始まります。話の中身は、神話でも、科学でも、愛情でもありません。この二人の男が人生の主軸にしてきたモノについて。

文明社会黎明期から行われてきた“物々交換”には限界がある。だから“交換媒介物”が必要になる。それは紙切れだった。それを「カネ(money)」と呼ぶ…流暢に話は止まりません。「信用」は大発明だ。信用はカネの未来形で、これによってカネの呼び方も一気に増えたとベラベラ。

商品、ローン、証券、債券、ファンド、ファンズ・オブ・ファンズ、先物、株式、デリバティブ、証券化債権、空売り、マージン・コール、金融商品…。

私たちの社会に存在するあらゆるカネの姿を並べ立て、それらは“目に見えない抽象的”だと論じる二人。ここから物語はそんな“目に見えない抽象的”な概念にいつのまにか振り回された人たちの人生の物語に移ります。

ニューヨーク州ジョージ湖。結婚40周年という記念もかねて船で湖に出る老夫婦ジョー・マーティンエリン・マーティン。仲睦まじく爽やかな湖の遊覧を楽しむために、観光船に乗船。そこでも船の極上シートを「POSH」と呼ぶ理由を語り、雑学に話を咲かせていると…。何の変哲もない湖面がいきなりうねりをあげ、船はなすすべもなく急に横倒し、そのままひっくり返って水没してしまいます。当然、水中に放り込まれる観光客たち。息を止め、必死に状況を把握し、泳ごうとするエリンの目に飛び込んできたのは、プカリと力なく水中に漂う愛する夫の体…。

時間経過。ジョーの葬式は終わりました。多数の犠牲者を出す大事故を起こした「ショアライン・クルージズ」というクルージング会社は、保険があるから大丈夫だとエリンに説明。命の犠牲はおカネでどうにもできないものの、それなりの額が貰えるには越したことはありません。

しかし、会社すら知らない真実がありました。なんと事故は補償対象外だと言うのです。しかも肝心の保険会社はモナークやらユナイテッドやら管理主体をコロコロ変え、あげくの果てに判明したのは実体のない保険会社だということ。詐欺です。

そうとは知らず、娘のメラニーと孫たちを連れてラスベガスの物件に来たエリン。和解金を頭金にここで新生活でもしよう…あそこでおじいちゃんと出会ったのよ…なんて思い出の場所に昔話を弾ませていると、残念なお知らせ。不動産業者のハナから「この物件は他の人が言い値で買った」と告げられ、ショック。さらに例の事故の和解金もろくにないことに二重でショック。

このまま泣き寝入りもできない。自分の知れる情報をもとに保険会社の手がかりを探すと、唯一見つかったのは「ボンキャンパー」という名前と住所。しかし、マイアミ国際空港で、アーヴィン・ボンキャンパーは逮捕されました。彼は存在が怪しい会社46社の取締役だったのです。

一方、場所は変わってロサンゼルス。事業で富を手に入れて豪邸に暮らすチャールズは、娘シモーンのルームメイトのアストリッドとの関係が発覚したことで、家庭崩壊。その際、妻と娘がチャールズからもらっていた2000万ドルの価値があるという「ホワイトクラウド・エンタープライジズ」。ところが、いざ詳細を調べてみると、その企業価値は今はたったの37ドルだと知ります。加えて、会社を動かしているのは「ジェットストリーム信託」という、これまたよくわからない存在。

さらにところかわって中国。資金洗浄を生業とするメイウッドは、裏で臓器売買(角膜摘出の映像が生々しい!)に手を染める中国人女性とビジネスパートナーとして会合中。しかし、罠に嵌り、死亡。また、賄賂も虚しく、その女も夫ともに逮捕されます。

全てバラバラに起きているような出来事。しかし、この一件一件は全てが線でつながり、最終的にはある組織に結びつきます。それが「モサック・フォンセカ」というパナマの法律事務所。その組織を創業した人物こそ、ユルゲン・モサックラモン・フォンセカ・モーラ

この二人の男を信用したのが諸悪の根源でした。

ザ・ランドロマット パナマ文書流出

もっと怒っていいんだよ?

『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』は鑑賞前はてっきり“メリル・ストリープ”演じるエリンを軸に進行するのかなと思っていましたが、実際は群像劇に近いスタイルでした。

とは言っても現実で起きた「モサック・フォンセカ」に振り回された人たちはもっと大勢います。なにせこの組織は“この業界分野”では世界第4位の規模と言われており、世界40か国以上に支店があったそうですから。

その特大スケールの実態をいくつかの数エピソードに語らせて集約したとはいえ、約95分の映画時間であれば、かなり駆け足だった感は否めず、あまり全体像を把握できずにオロオロしているうちに映画が終わった人もいたかもしれません。確かにちょっと焦点が絞り切れていない感じはあります。ましてやパナマ文書流出事件を一切知らない人が本作を観てどこまでゼロ知識で理解できるかというと…

まあ、ある種、わけもわからずあの二人の黒幕の男たちに煙に巻かれる感じは、実際の被害者と同じ体験とも言えるのですが…。

また、観客にとって『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』をとっつきづらくしている別の一因は、見せ方にもある気がします。“スティーヴン・ソダーバーグ”監督と聞けばどうしても『オーシャンズ』シリーズのような痛快な騙し合い劇を期待してしまうところですが、『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』はそういうエンタメ要素はほぼないです。

もちろん多少のわかりやすさの配慮もあって、モサックとフォンセカの信頼できない語り部による、進行ナビゲート、それも第4の壁を突破したり、場面転換に介入したり、ロケーションを歩き回ったり、さらにはラストでは撮影スタジオ事態を飛び出したり…このフリーダムさは、最近で言うところの『マネー・ショート 華麗なる大逆転』や『バイス』で見られる演出と同類。「この映画の監督すら5社持ってる」なんていう自虐セリフも飛び出すあたりは監督と脚本家のお茶目。

ただいかんせん『バイス』で切れ味鋭く圧倒したアダム・マッケイ監督ほどのセンスのクオリティがない気がするのは、得意分野の力量の差でしょうかね。


『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』は痛快さは減退しているぶん、後半になるにつれ、“静かな怒り”ともいうべきメッセージ性が強く強調される転換があります。ラストの“メリル・ストリープ”の素に戻っていく演技は“さすが大女優”と鳥肌が立つ感じで個人的には好きです。それはさておきやっぱりこんなの間違っているでしょ?という当たり前の反発…それを示すことで、何も知らない私たちにも“もっと怒っていいんだよ”と訴える。そんな映画でした。

ジョン・ドウって誰?

ここからは『ザ・ランドロマット パナマ文書流出』の補足です。

「オフショアカンパニー」というテクニックで監査から資産を守る(つまり合法的な所得隠し)、そのためのペーパーカンパニーを無数に手がけること(オフショア金融サービス)でキャリアを築いたあの二人。モサックとフォンセカ。

この二人について作中でもサラリとその人生史が語られていましたが、もう少し説明しましょう。

まずはユルゲン・モサック。この人はその名のとおり、ドイツ系移民の弁護士で、父親はナチスの親衛隊のメンバーだったそうです。1948年に生まれ、13歳のときに家族全員でパナマに引っ越してきたモサック(つまり一家でナチ狩りから逃げてきたという背景もあったのかもしれません。父親は後にCIAへの情報提供者になったという真偽不明の情報も報じられたりしました)。1973年にパナマの大学で法学の学士を取得。1977年にフォンセカとともに例の「モサック・フォンセカ」を設立します(この当時のパナマはマヌエル・ノリエガ将軍の独裁体制下です)。

一方のラモン・フォンセカ。1952年生まれで、パナマ出身。彼は単に法律専門というわけではなく、政治にも興味があり、顧問のような仕事で政治家とも関係を持っていました。その相手とは後にパナマ大統領になる「フアン・カルロス・バレーラ」というわけですから、相当なコネです。そう考えるとCIAとすら関係が疑われるモサックと、パナマ政権にどっぷり浸かっているフォンセカ、この二人は随分別の世界の人間のような気がしますが、よく手を組めましたね。また、フォンセカは小説家でもあり、パナマでは賞もとっています。

ではこの二人が築き上げた巨大なマネーロンダリング(資金洗浄)の舞台となるいくつものコインランドリー(本作の原題「laundromat」はコインランドリーの意)。その実態を暴露して文書を流出させた張本人は誰なのでしょうか。

作中では「ジョン・ドウ(名無し)」と呼ばれ、感電死したミア・ベルトランというスタッフの代わりに入った女性が、ラストで変装を解き、エリンとなり、さらには“メリル・ストリープ”になるという演出がありましたが、この正体は実際はわかっていません。

流出した文書のデータ量は2.6TBもの膨大さで、うっかりミスとは考えづらく(そもそも「モサック・フォンセカ」はプライバシー保護で信頼されている組織だった)、誰か犯人がいたはず。作中では訴えてきた奴の報復か、他の法律事務所か、ハッカーか…なんて言ってましたし、巷ではCIAの陰謀説もお決まりのように飛び出しているのですが、謎のまま。

でも漏洩の犯人はどうでもいいのです。作中でも語られていたように、アメリカという巨大なタックスヘイブンが現在進行形であり、そして私たち日本でも同じような現実があるのですから。

税金はみんなで払いましょうね。間違っても富のあるものだけが使えるコインランドリーなんてものはないように。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 42% Audience 50%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

関連作品紹介

“スティーヴン・ソダーバーグ”監督作でこれまで感想を書いた記事の一覧です。

・『ローガン・ラッキー』


・『ハイ・フライング・バード 目指せバスケの頂点』


作品ポスター・画像 (C)Anonymous Content, Netflix